リシアの大発明
「ちわ~っす」
マダムの店で店番をしていると道具屋のリシア君がお店にやってきた。
最近は道具も頼んでいないし、それ以外の用事でリシア君がお店にくるなんて、私が知る限りは初めてだ。
「いらっしゃいませ。珍しいね。何か贈り物?」
マダムのアクセサリーはどちらかというと女性向きのものが多い。
お店に来る男性客は誰かへの贈り物を探しに来る人が大半だ。
「違うっす。マダムいますか?」
私の言葉をあっさり否定して、マダムを探してキョロキョロする。
なんだ、マダムに用事だったのか。
「マダムなら二階の作業場だよ。呼んでくるからちょっと待ってね」
リシア君にそう断って二階に向かう。
「マダム、リシア君が来てますよ」
マダムの宝飾合成が一段落するのを待って声を掛ける。
「リシアが? はて、何の用だろう?」
怪訝な顔をするマダムに私も首を傾げる。
てっきりマダムが了承している話かと思って、何の用事かまでは聞いてなかった。
「リシア、久し振りだね。今日はどうしたんだい? 贈り物でも探しにきたのかい?」
マダムも私と同じ質問をリシア君にする。
「違うっす。ホタルさん、次の休みって暇っすか?」
「えっ? 私? うん。暇だけど」
用事があるのはマダムじゃないの?
「用事がないなら私は作業場に戻るよ」
そう言ってマダムは階段に向かおうとする。
「あっ、待ってください。次の休みに作業場を使わせて欲しいんす」
「作業場? うちのかい?」
「はい!」
リシア君の言葉にマダムも私も首を捻る。
「作業場なら、リシアの店にもあるだろう。それにうちは宝飾師だ。作業場といっても道具屋のあんたのとは勝手が違うだろう」
マダムの言うとおりだ。
自分でも道具を作るリシア君は自分の店に作業場を持っている。
なのにマダムの店の作業場を借りる意味がわからない。
「宝飾師の作業場じゃないと駄目なんすよ」
「どういうことだい?」
意味が分からないという顔で聞き返すマダムにリシア君が、目の前でパシンと手を合わせる。
でた! やっぱり流行っているのかしら? このポーズ。
「何も聞かずに貸してください」
「まぁ、壊したり、汚したりするんじゃなけれりゃ、構わないよ」
「ありがとうございます!」
マダムの言葉にリシア君の顔がパッと明るくなる。
「リシア君、本当に何をするの?」
マダムが作業場に戻った後、リシア君に改めてたずねたのだけれど、リシア君は首を振るばかり。
「それは当日のお楽しみっす。じゃあ、約束忘れないでくださいね!」
そう言って、リシア君はお店を後にした。
数日後、約束したお店の休日。
「ピクニックにでも行くのかい?」
マダムの店にやってきたリシア君は大きなリュックサックを背負っていた。
若干童顔のリシア君にリュックサック。
どう見てもピクニックに行く子どもにしか見えない。
「なんでピクニックなんすか! 仕事道具っす!」
ぷんぷん怒るリシア君が可愛い。
なんて、ほっこりしていたら、リシア君に睨まれてしまった。ごめん。
「じゃあ、作業場をお借りするっす。あっ、ホタルさん、いつも使っている白い石板とシロツメクサ、持ってきてください」
そう言われて、石板と保存瓶を持って、リシア君を作業場に案内する。
「おぉ~。これが宝飾師の作業場っすか。確かに俺のと全然違う」
ひとしきり物珍しそうに作業場を歩き回った後で、リシア君は作業台に向かう。
「マダム、この緑の石板、どけてもいいっすか?」
その言葉に、マダムは、構わないよ、と答える。
「じゃあ、ホタルさん、白い石板を貸してください。後はこっちで作業するんで、ちょっと待ってくださいね」
そう言って、私から白い石板を受け取ったリシア君は、リュックサックから何やらいろいろと取り出して、石板に何か取り付け始めた。
「これでよし! と。さぁ、ホタルさん、作業台に座って、シロツメクサを置いてください」
「はい」
リシア君の指示どおり、作業台に腰かけて、保存瓶から取り出したシロツメクサを石板に置く。
っていうか、石板にいろんなものがついているけれど、これって一体、何?
「あとは、この魔鉱石をここにセットします」
そう言って、リシア君は魔鉱石を取り出し、石板にくっついた窪みにセットする。
よく見ると魔鉱石の色も白。
魔鉱石は普通は込められた魔力の属性の色に染まるはずなのに、これは普段見る魔鉱石とは少し違うみたい。
「さぁ、ホタルさん。宝飾合成をしてみるっす」
「えっ? 何言っているの?」
リシア君の言葉に私は思わず振り返る。
「リシア、悪いんだけど、ホタルはまだ宝飾合成はできないんだよ」
マダムも困惑した顔でリシア君に告げる。
「大丈夫っす。俺が思うにホタルさんの宝飾合成が上手くいかない一番の理由は魔力不足だと思うんす」
不足というか、ゼロだけどね。
「この装置はその魔力不足を魔鉱石で補う機能を石板につけるものなんす。なんで、これで魔力不足はクリアできるはず。さぁ、ホタルさん、宝飾合成をしてみるっす!」
なるほど。
リシア君の言葉にうなずき、私は作業台の上のシロツメクサに両手をかざす。
シロツメクサがアクセサリーに変化する様子をイメージして、意識をシロツメクサに集める。
すると、シロツメクサが白い光に包まれ……
大爆音とともに石板が木っ端微塵に砕け散った。
私が覚えているのはここまで。
その時の衝撃で私は意識を失った。
とうとうホタルが宝飾合成に挑戦です。
のんびりまったりの物語ですが、いよいよ佳境です。
引き続きお付き合いいただけたら嬉しいです。