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新しい道具をお願いしよう

「……」

翌日、店番をマダムに代わってもらってリシア君の店にきたはいいものの。

私はお店の前で立ち尽くしていた。


 お店に来るまではすっかり忘れていたけれど、そう言えば最後にリシア君に会ったのって、この前の、相棒だと思っているから、発言のときだよね。

(あっ、わからない方は第三章のゴシェの木の実クッキー②をご覧いただけると……)

三十歳にもなって、あんなこっぱずかしい発言をしてしまった後、どんな顔して会えばいいのだろう。

しかも、勝手に勘違いしてドキドキしちゃったし。


 リシア君の中で私って、かなりイタイおばさんになってはいないだろうか?

いや、ここは何事もなかった様に行くのが正解だよね。

今までどおり、気軽に普通に……できる気がしない。

うわ~、どうしよう。過去の私、なぜあんなこと言った? もう少し自分の年齢を考えろよ!


 なんて、お店の前で右往左往していたら。

「ホタルさん、店の前でどうしたんすか?」

リシア君に見つかりました。


 そりゃそうだよね。お店の前だもんね。見えますよね。

「えっ、あっ、あのね、相談したい道具があってね。でも、忙しいかなぁ、なんて……」

「全然大丈夫っすよ! 今日はどんな道具っすか? マダムから王都に行ってきたって聞いたっすけど、何か面白い道具とかありましたか?」

しどろもどろな私とは真逆にリシア君はいつもどおりのマシンガントークで私をお店の中に招き入れる。


 気にすることもなかったか、とホッとした反面、ちょっとがっかりした自分もいて……って何考えているんだか。

軽く頭を振って私は気持ちを切り替える。

「あのね、タガネって言うんだけど……」


「釘っすか?」

定番となりつつある私の拙いメモ書きを見て、リシア君が首を捻る。


「釘ならいくつかあるっすよ。このメモどおりだと結構太い奴っすよね」

そう言って立ち上がるリシア君を慌てて止める。

ごめんよ。リシア君、私の絵が下手で。

確かにこれじゃ、大きな釘だよね。


「待って。釘じゃないの」

そう言って私はマダムの創ったプレナイトのバングルを取り出す。


「あれ? マダムのアクセサリーっすか? へ~、こんなシンプルなのもあるんすね」

バングルを見て、リシア君が物珍しそうな顔をする。


「いや、これね、レナにってマダムが創ってくれたんだけど……」

「えっ? それって、領主様のところのレナ様っすか? マダム、それはちょっと……」

私の言葉にリシア君が思わず言葉に詰まる。


「シンプル過ぎるよね? だから、ここに模様を彫りたいの」

「えっ? これに?」

セレスタたちと同じようにリシア君も私の言葉に一瞬目を丸くする。


「あぁ、なるほど。う~ん、でも、難しくないっすか?」

リシア君の微妙な反応に私は首を傾げる。

道具さえあればそこまで難しくはないと思っていたんだけれど。


「だって、このバングル、金っすよ。これ全体に模様を彫るんすよね? ワンポイントとかじゃなくて」

「うん。難しいかな? 金なら比較的柔らかいからいけるかと思ったんだけど」

「いや、確かに柔らかいっすけど、これをこの釘みたいな道具でカリカリ削って、全部に模様をつけるって、まあまあ途方もない作業っすよ」

リシア君の言葉に私は、あぁ、と声を上げる。


「違うの。削るというより彫るの。タガネって釘というよりは刃物で、これを金槌で叩いて金を彫るの」

私の言葉にリシア君は考え込むような顔をした後で、あぁそういうことか、と声をあげる。

「大工が使うのみの小さいバージョンってことっすね!」

「そうそう! そんな感じ」

伝わったのが嬉しくて、私も思わず声を上げると、リシア君が少し嬉しそうに笑う。


「なるほどね。そうなると先はどんな感じっすか? 平たい刃みたいになればいい感じっすか?」

「う~ん、できればいくつか種類が欲しいんだけど、何種類くらいなら大丈夫そう?」

リシア君も普段のお仕事はあるわけだし、迷惑になるのは嫌なのでまずはリシア君の都合をたずねる。


「何種類でも……じゃなくて」

そう言うとリシア君は少し考え込む。

「いくら柔らかいっていっても金属っすからね。結構硬度が必要っす。細工に手間はかかりそうだし……とりあえず一か月もらえるなら、五種類ってところっすかね」

「リシア君……」

その言葉に少し驚く。

てっきり、最初に言いかけたとおり、何種類でも、って言われてしまうかと思っていたから。

もちろん、そう言われたら、普段のお仕事の邪魔にならないようにきちんと言って欲しいとお願いするつもりだったけれど。


「相棒っすからね。俺もホタルさんにはちゃんと言うっすよ」

その言葉に一気に顔が赤くなる。


「うわ~、本当にごめん。急にあんなこと言われて、嫌だったよね? 本当に忘れてくれて構わないから」

穴があったら入りたい、を実感する機会があるとは。

私はリシア君の顔を見ることができず、慌てて頭を下げる。


「……っすよ」

そんな私にリシア君が何か呟く。


「へっ?」

上手く聞き取れなくて、私は思わず顔を上げてリシア君を見る。


「そんなこと言わないでくださいっすよ。俺、嬉しかったんす」

「えっ?」

予想外に真剣なリシア君の目とかち合って、私は言葉に詰まる。


「俺、ホタルさんの相棒でいたいっす」

「……いいの? 変な道具ばっかりお願いするよ。メモ書き下手だから苦労かけるよ。なのに、きっと私しか買わないよ」

恐る恐る聞く私にリシア君が大きな笑顔で答える。

「全然構わないっす。ホタルさんのメモ書きを読み解けるのは俺だけっす。ど~んと頼ってくださいっす」


「ありがとう。じゃあ、この四種類をお願いできるかな?」

そう言って、メモ書きの脇にタガネの先の絵を描き足す。

「はい! よろしくお願いされるっす」

リシア君の答えに、何その言い方、と笑いながら私は頭を下げた。


「そう言えば、デザインは決まってるんすか」

リシア君の言葉に私は首を振る。


「領主様のお庭の葡萄から創られたアクセサリーだから、とりあえず今度のお休みにもう一度行って葡萄の蔓と葉を見せてもらうかな、とは思っているんだけどね」

「なるほど、しっくりはきそうっすね」

「でも、ベタ過ぎる気がするんだよね。だから、いくつか植物を見てくるつもり」

「……あの!」

「へっ?」

急に大きな声を上げるリシア君にびっくりして、顔を見ると。


「あ、いや、いいのが見つかるといいっすね」

明らかに違う話をされました。

なんだ? どうしたんだろう。


「あっ、もしかして四種類は多すぎたりする? だったら減らすよ。えっと……」

どれを減らそうかメモ書きに目を落とすと、リシア君が慌ててメモ書きを取り上げる。

「大丈夫っす! 四種類でいけます」


「えっ? 本当? 駄目そうなら言ってね」

「了解っす」


 こうして私はリシア君の店を後にした。

これで道具は大丈夫だし、あとはデザインよね。う~ん、どんなのがいいかなぁ。

リシア君がでてくるとなんとなく話が甘くなる傾向にあるようです。

活躍させたいとは思いましたが、そっち方面ではなかったのですが……

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