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旅は道連れ?

「あなたがホタルさんですね。レナのために、わざわざきていただいてありがとう」

レナ様のお部屋から場所は変わって、ここは謁見の間? 的な場所。

ゲームにありそうな赤い絨毯が真っすぐ敷かれていて、その先の一段高くなった場所に豪華な椅子が二つ。

片方に領主様が、もう片方に、今、私に声を掛けてくださった領主様の奥様が座っている。


 はぁ、さすがレナ様のご両親。どちらも美形だわ。

透き通った白い肌と輝く金髪は奥様譲り、勝気そうな翠色の目は領主様譲りなのね。


 そうそう、私は床に片膝ついてってやつかと思いきや、ちゃんと椅子が用意されていた。

セレスタとジェードも後ろに控えていてくれるし、多少心強い。

……さっき、見捨てたことは忘れていないけれど!


「お父様、お母様、彼女がこの町で唯一の修理を専門とする宝飾師です」

レナ様に紹介されて、慌てて椅子から立ち上がって頭を下げる。


「彼女は優秀な方ですが、彼女の技術を持ってしても、こちらのバングルは直せないとのことです。……ねっ、ホタルさん」

レナ様の言葉に合わせて、セレスタが歪んだバングルを領主様と奥様の前に差し出す。


 えっ? ホタルさん?

さっきまでの生意気な態度はどこへやら、別人かと思うくらい落ち着いた態度で話すレナ様に唖然として言葉がでない。


 ガツッ

言葉のでない私にレナ様の肘鉄がさく裂する。

横目でこちらを睨むその顔は、さっきまでのレナ様だ。

ちょっと、態度変わりすぎでしょ。


「ホタルさん、どうなさいました?」

「ホタルさんはこのような場が初めてとのことですので、緊張されているんですわ。……ねぇ、ホタルさん」

心配そうにこちらを見る奥様にレナ様が笑顔で答える。

けれど、最後の、ホタルさん、の圧がすごい。全く、この猫被り娘が~。


「はい、失礼いたしました。レナ様のおっしゃるとおりです。残念ながら、そちらのバングルは、とても精緻な模様も施されており、これ以上の修理には耐えきれないかと存じます」

「まぁ、それは残念」

気を取り直して答えると奥様が軽く眉を顰める。


「仕方があるまい。レナ、他にもアクセサリーはたくさんあるだろう。今回は残念だが諦めなさい。ホタルさんもご足労いただいて悪かったね」

あれ? 駄目じゃん。これじゃ、アンダさんに会えない。

慌てた私が横目でレナ様を見ると、レナ様は慌てた様子もなく領主様に向かって答えた。


「お父様、このバングルは私のために創ってくださったもの。例えそれが旅の行商人といえども、その想いを粗雑に扱うことはできません」

「もちろんだ。領主の娘たるもの、ひと時の滞在だったとしても、この地を踏んだ者の想いを蔑ろにすることは許されん。しかし、どうするのだ?」

領主様はレナ様の言葉に大きくうなずいた後、そうたずねた。


「ホタルさんにお聞きしたところ、このままでは修理は難しいけれど、創った宝飾師と協力すれば修理できるかもしれないとおっしゃるんです」

はい? 誰がそんなこと言った?

「あのっ、うっ……!」

思わず抗議の声を上げかけた私は、足に走った激痛に言葉を失う。

レナ様が私の足を踏みつけたのだ。凶器かっていうくらい高いヒールで。


「本当なの。ホタルさん」

そんな私に気付かず、奥様が私にたずねる。

「えぇ、そうですわよね。ホタルさん?」

……だから、圧が強いんだって。

ったく、もう、知らないからね。


「はい、お話してみないとわかりませんが、可能性はあるかと」

無いけれどね! ほぼ百パーセント無いけれどね!

後ろめたさで奥様の顔を見ることができない……


「では、ホタルさん、ご無理を言って申し訳ないのだけれど、その宝飾師の方をたずねてみてはいただけないかしら? 確か、王都にお住いのアンダさんという方だったはずよ」

「えっ? 一人で?」

にっこりとほほ笑む奥様の言葉に私はギョッとする。

いや、普通はそうなりますよね。でも、今回は私だけが行っても意味ないんだって。


「はははっ、いくら王都が近いとはいえ、お嬢さん一人で行かせることはしないよ。セレスタ、ジェード、お前たちはホタルさんとも知り合いだろう。ついていきなさい」

「はい」

セレスタ、はい、じゃないの。あんた達じゃないんだって。

慌ててレナ様を見ると、レナ様も焦った顔で私を見つめ返す。

おい、ノープランかよ!


「おっ、恐れ入りますが」

声が裏返ったのは許して欲しい。

今にも、いってらっしゃい、と送り出されてしまいそうな雰囲気の中、勇気をふり絞って声をあげる。


「どうされました?」

「領主様、奥様、先ほど申し上げましたとおり、このバングルの修理は非常に困難な状況です。最大限の努力はいたしますが、万が一、ということもあり得ます。その際、私からお詫びを申し上げたところで、アンダさんはどう思われますか……」

そう言って、私はレナ様にチラチラと下手くそな目配せをする。

ほら、気付け! 我儘娘!


「えっ? あっ、あぁ。そっ、そういう事ね」

「……レナ? どうしたの?」

おい! 被っていた猫がはがれてるぞ!


「あっ、いえ。……お父様、お母様、もし、直らなかった時には私から直接お詫びを申し上げたいの。それが、このバングルを創ってくれた方への最低限の礼儀だと思うのです」

「確かに。直らない可能性があるのであれば、その時はその方がいいわね」

「とはいえ、レナ、お前はこの町を出たことがないだろう? 一介の行商人にそこまでする必要はなかろう」

うなずく奥様と比べて、領主様は否定的だ。

そりゃそうだよね、一人娘だもんね。


 でも、ここで引き下がるわけにはいかない!

「さすがです。レナ様。まだお若いのに下々の者に寄り添うそのお姿。きっと王都でも評判となることでしょう」

うぅ、自分の言葉で鳥肌が立つって初めての経験だ。


「領主様、我々がついております。レナ様に危険が及ぶことは万に一つもございません」

「僭越ながら、私とセレスタは警備隊の中でも随一の腕と自負しております。ご心配は不要かと」

「……うむ。確かにお前たちもおるし、レナもそろそろ町の外を見ておくべきかもしれん」

思わぬところでセレスタとジェードの援護射撃を受け、領主様の態度が軟化する。


「あなた、レナもいつまでも子供ではないのよ。レナの想いを尊重してあげましょう」

「そうだな」

奥様の言葉が最後の一押しとなり、レナ様と私たちの王都行きがなんとか決定した。


 ……って、ちょっと待って。

私、いつになったらマダムの店に帰れるの?

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