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教えてノームさん

「こんにちは」

誰もいない領主様のお庭で私は声を掛け、芝生に腰をおろす。


「いらっしゃい」

ほどなくして、ノームさんの返事が返ってくるので、声の聞こえた方を向いて、私は手に持った紙の箱を軽く持ち上げる。

「今日は新作だそうです。いちじくのタルトなんですけど、後で感想を教えて欲しいって」

「ほう。それは楽しみじゃな」


 ランのイヤーカフの一件以降、お休みの日の午後はノームさんのところでお茶をいただくのが習慣になりつつあった。

ゴシェさんのお店でお茶菓子を買っていくのもおきまりで、最近はゴシェさんがお菓子を取っておいてくれたり、たまには今回みたいに新作の試食を頼まれたりなんかもしている。


「最近はどうじゃ?」

木陰の切り株に座ると、そう言いながらノームさんがお茶を淹れてくれる。

今日はいちじくのタルトに合わせてくれたようで、甘さ控えめ、爽やかな香りのお茶だ。


「そうですねぇ」

別に特別なことを話すわけではなくて、こうやって最近あったことを話したり、ノームさんからお庭の植物の話を聞いたり、そんな風にして過ごす。

やっぱりノームさんには何を話しても大丈夫な気がして、甘えかな、と思いつつも、つい色々話してしまいがちだ。


「そう言えばノームさんに聞きたいことがあったんです」

「なんじゃね?」

深緑のつぶらな目でノームさんが私を見る。

見た目おじいちゃんだけれど、目はまん丸で可愛いんだよね。

……間違っても本人には言えないけれど。


「マダムって何歳……ひえっ!」

突然目の前にボウガンの矢が刺さり、思わずのけぞる。

嘘でしょ? もうちょっとで当たっていたかも!


「ちょっと、ジェード、何すんのよ!」

私は大声で矢の飛んできた方向に怒鳴りつける。

全く、冗談でもしていいことと悪いことがあるでしょ!


……


…………


………………


「あれ?」

一向にジェードが出てくる気配がない、どころか声もしないし、なんなら人の気配が……しない?

「ジェードじゃないの?」

私の質問に返事はない。嘘でしょ?


「ふぉっふぉっ」

そんな私を見てノームさんが笑い声をあげる。

「えっ? どうしたんですか?」

怪訝そうな顔でたずねる私を見ながら、ノームさんは無言でお茶をすする。


「ちょっと、今の誰か知っているんですか?」

噛みつく私にノームさんがのんびりと答える。

「世の中にはな、触れてはいけないものがあるんじゃよ」


「えっ? どういう……」

言いかけた私の口をノームさんの小さな手がそっとふさぐ。

「じゃから、触れてはいけないのさ。……ホタルはこれからも、ゴシェ殿のおいしいお菓子を食べたりしたいじゃろ?」

そう言うとノームさんは手をどかし、いちじくのタルトを一口食べ、幸せそうな顔をする。


「うん、なかなかじゃ。さすがゴシェ殿。ホタルも早くいただきなさい」

「はい……」

釈然としないものの、私も目の前のタルトに手を伸ばす。

うん。おいしい。

これから先もこの時間を大切にしたいし、そもそもこの世界での暮らしを大切にしたい。


「さっきの質問は忘れてください」

「うん。ホタルは良い子じゃな」

私の言葉にノームさんがうなずき、またタルトを口に運ぶ。


 ……マダムの年齢については気にしないことにしよう。

読んでくださる皆さまのお陰で、いつも頑張って書くことができています。

本当にありがとうございます。

本編は今日の夜に更新予定ですので、よろしくお願いします!

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