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カイヤナイトのイヤリング①

「これは……」

その日、マダムの店をたずねてきた少女が持ってきたアクセサリーを見て、マダムと私は言葉を失った。


 カウンターに置かれたのは大粒のカイヤナイトをメインにシズク型のアクアマリンが揺れるシャンデリア型のイヤリング。

カイヤナイトの深い青に朝露のようなアクアマリンが美しい。

材料となったのは露草とかかな。


 ただ、片方が見るも無残な状態になってしまっている。

カイヤナイトはよく見ると竹のように縦に筋が入っていて、そこに光が反射することで銀色がかった深い青に見えるのだけれど、その分、縦方向の衝撃に弱い。

これも落とすか、何か鋭利なものがぶつかるかしたのだろう、カイヤナイトが縦に真っ二つに割れている。

それにアクアマリンも一つ千切れてなくなっている。


「ラン、これはあんたのパーティー用に両親が私に頼んだものじゃないか。なんでこんなことに?」

少女の名前はラン。

腰に届くほどの黒髪は艶やかなストレート。

透けるように白い肌に紺色の切れ長の目が涼やかだ。

小柄でまだ幼さの残る顔立ちはしているもの、やっぱり美形。まるでお人形みたい。


 十五歳になるランさんは、今年、日本で言う中学校を卒業するそうなんだけれど、シラーデン王国では中学校までが義務教育。

義務教育が終わると晴れて大人の仲間入りということで、領主様のお城でお祝いのパーティーが開かれるそうだ。

成人式みたいなものみたいね。

そのパーティーのためにご両親が用意したのが、このイヤリングというわけだ。


「……落とした……直して……お願い」

マダムをじっと見つめた後、ポツリとそう言うとランさんは黙って俯いてしまった。

って、えっ? それだけ? 状況が全然わからないんですが。

でも、それ以上、ランさんの口からは何も語られず、三人の間に気まずい沈黙が流れる。


「直すっていったって、メインの石は割れちまってるし、他の石も足りないしねぇ。ホタル、これでも直せるものかい?」

マダムに言われて私は首を振る。

さすがに割れてしまった石はどうしようもないし、アクアマリンに至ってはそもそもなくなってしまっているので修理以前の問題だ。


「……ドレス探し……落ちた……踏んだ……困る……悲しむ……お願い」

私たちのやり取りを見ていたランさんが再び口を開く。

おっ、今度は単語の数が多い。

「パーティーのドレス選びのためにこのイヤリングを持っていったら、落ちてしまって、さらに踏んじゃったってことですか?」

ランさんはうなずいて、言葉を続ける。

「……慌てた……パパ、ママ、知らない」

「イヤリングが落ちて慌ててしまった、と。そして、このことをご両親はまだ知らない、と」

その通りと言いたげに私を見て、大きくうなずいた。


「参ったね」

「パーティーっていつなんです?」

ため息をつくマダムに聞いてみると、パーティーまではまだ時間があるとのこと。

ランさん曰く、ドレスも無事に選び終わっているので、イヤリングが必要なのは後はパーティー当日だけとのことだった。


「直すのは難しいです」

私の言葉にランさんが項垂れる。

「でも、何かできないか考えてみます。少しお預かりしてもいいですか?」

「……もちろん!」

ハッと顔を上げたランさんはそう言うとブンブンと頭を縦に振った。


「大丈夫なのかい?」

「なんとも言えません。ランさん、それでもいいですか?」

「……ランでいい……お願い」

そう言ってランさんはまた大きく頭を縦に振った。

それを見て、私もうなずく。


 ご両親からの成人祝いの大切なイヤリングだ。なんとかしたい。

カイヤナイトは好きな石の一つなのですが、本当に竹のような筋があります。

サファイアやタンザナイトのような透き通った石とはまた違った輝きで、キラキラしすぎない深い青が綺麗な石です。

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