三種の神器を手に入れました
修理屋と言っても、私ができるのはチェーンの修理や外れた石の石止めくらい。
それでもマダムの言っていたとおり、アクセサリーを壊してしまう人ってそれなりにいて、無事に道具代をマダムに返すことはできたし、服や生活に必要なものも最低限用意することができた。
お店の張り紙も、大工さんから木っ端を分けてもらって、可愛いものに作り変えることができたしね。
そんなこんなで修理屋を開いて一か月くらいした頃。
「ホタルさん、いるっすか?」
リシア君がお店にやってきた。
他にお客さんがいないことを確認するとリシア君は手に持った包みをカウンターにガチャリと置く。
「いらっしゃいませ。これは?」
どう見てもアクセサリーが入っているようには見えない包みを見てたずねると、リシア君はどや顔で包みを開く。
「見てください。ちびヤットコ一号、二号とニッパーっす」
そこには以前にお願いした平ヤットコ、丸ヤットコ、ニッパーが並んでいた。
「すごい! 本当に作れちゃったんだね」
そう言う私にリシア君はチッチッと指を振る。
「これは試作品っす。ホタルさんのイメージしていたものとずれがないか一度見てもらおうと思って」
「えっ、これで試作品? イメージどおり! っていうかこれで十分だよ」
リシア君に了解をもらって試作品を手に取ってみる。
平ヤットコはちゃんと先が平面になっていて、これならチェーンや丸カンにギザギザがつくこともないし、丸ヤットコは片方ずつ丸の細さがちゃんと違っている。
ニッパーも薄くて切れ味良さそう。
私の適当なメモ書きから作られたとは思えないクオリティーに思わず感嘆の声がもれる。
「よかったっす。じゃあ、これで作ってみていいっすか? 値段はこのくらいっす」
そう言って、リシア君の示した金額にびっくりする。
この前買ったペンチとかとほとんど変わらない。
「これ、全部手作りなんでしょ? ダメだよ。こんな値段。マダムのお陰で修理屋もやらせてもらえることになったし、ちゃんと言って」
慌てる私にリシア君が笑う。
「大丈夫っす。言ったでしょ。小さくするだけだから、そこまで大変じゃないんす。三つあったから、ちょっと時間かかっちゃいましたけどね」
「本当に? きっとリシア君にはこれからも他の道具の相談をすると思うの。だから変におまけとかしなくていいよ」
念押しのように聞く私にリシア君が一瞬びっくりした顔をした後ですごく嬉しそうな顔をする。
「わかってるっす! 嬉しいっす! 俺、ホタルさんのお願いなら何でも作ってみせるんで、何でも言ってくださいね」
その笑顔に私もなんだか嬉しくなる。
「うん。よろしくお願いします」
数日後、リシア君が完成品を持ってきてくれた。
試作品の時より強度も切れ味も良くて申し分のない一品だったのだけれど……
「……素敵ね」
グリップがピンクの花柄だった。
いやね、別にいいのよ。グリップなんて。人に見せるものでもないしさ。
でも、私、三十歳だよ。
「本当っすか? よかったぁ。女性の好みって俺、わかんなくて。気に入ってもらえて、よかったっす!」
言えない。
こんな純真無垢な笑顔を向けられてしまったら、ダサいなんて、とても。
うん。可愛いよ。これはこれで。
道具としてのクオリティーは申し分ないどころか、素晴らしいしね。
何よりそんな細かいところまで考えてくれたリシア君の気持ちは嬉しい。
「うん。ありがとう。大切にする」
こうして、私は最高の平ヤットコ、丸ヤットコ、ニッパーを手に入れたのだった。
次から新しい章が始まります。ホタルが修理屋として本格的に働き始めます。
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<モルガナイト>
透き通ったバラ色の可愛らしい石です。石としてはアクアマリンやエメラルドと同じベリルの一種です。
モルガさんの名前はこの石からとっていますが、ゴシェさんの名前の由来のゴシェナイトもベリルの仲間だったりします。