コント「ゾンビ」
場所 どこかの施設
山田→ツッコミ 藤→ボケ
荒く息を切らしながら走る二人。
入った施設の重い扉を閉め、座り込む。
山田「こ、ここならもう大丈夫だ」
藤「ちくしょう、どうなってんだ! そこら中ゾンビだらけだ!」
山田「ああ、噛まれた奴はみんなゾンビになってたな。まるで映画みたいだ」
藤「そ、そうだ警察!……つ、繋がらない……、クソッ、ネットも駄目だ」
山田「とにかく、ここで休もう。しばらくはゾンビも入ってこれないだろう……」
(バンッ!という音)
藤「お、おい。今にも入ってきそうじゃねぇか! 本当に大丈夫だろうな(窓から外の様子を伺う)」
山田「落ち着け、慌てても」
藤「お、おい!たいへんだ!」
山田「どうした?」
藤「ユキちゃんがいるっ!」
山田「何だって?」
(藤はもう一度窓を見る)
藤「ま、間違いない、ユキちゃんだ」
山田「まさか生存者か!それなら直ぐに助けないと!」
(山田も窓に駆け寄る)
(しばらく二人とも沈黙。山田は眉間にシワを寄せてる。藤は穏やかな表情)
山田「……どれがユキちゃん?」
藤「あのゆっくり歩いている女の子」
山田「……ゾンビじゃん? おいしっかしろ、あれはゾンビだ」
藤「ユキちゃんは俺の幼馴染で、初恋の人。十年間、好きって気持ちを伝えられなかったんだ」
山田「それは知らねぇけど。え、もう一回聞くけど、どれがユキちゃん?」
藤「ほら、赤のワンピースを着てる子だよ。昔もよく着てたっけ。可愛いなぁ」
山田「……あれ血液だよね? 地面にポタポタ滴ってますけど!?」
藤「食べることが好きでさ、笑いながらよくご飯食べてたなぁ」
山田「うん、いまユキちゃんは動物の死骸をくってるけどね」
藤「元気そうで良かったよ」
山田「死んでも元気なのは絶対に良くないだろ。ゾンビだぜ」
藤「本当に、あの頃のままだ。相変わらず、綺麗だなぁ」
山田「ユキちゃん生前もこんな感じだったの!? あんな内蔵飛び出たパンクな女の子だったの!?」
(藤はポケットに手を入れてゆっくりと歩き、天井を仰ぐ)
藤「……なぁ、山田。俺……今ならユキちゃんに好きって気持ちを伝えられる気がするんだ」
山田「この状況で何で!?」
藤「……ああ、そうだよな。ユキちゃんには許嫁がいてさ。それがイケメンで金持ちで優しくて……俺なんかより全然良い男でよ。こんな状況で俺が告白しても、迷惑だよな」
山田「違う違うそっちじゃなくて」
藤「俺なんか、ユキちゃんの人生の邪魔にしかならねぇことは、わかってんだ」
山田「多分ユキちゃんの人生終わっちゃってるけど」
藤「……くそ!やっぱり勇気が出ねぇ。返事が怖いんだよな。今すぐにでも飛び出して、この思いを伝えたいってのに……。こんなに怖ぇのは、人生で初めてだ」
山田「お前さっきゾンビに追われてたろうが!それより怖いわけねえだろ!」
藤「や、山田……! ……そう、……そう、だよな!怖いわけねぇよな! ありがとう、俺勇気が湧いてきたよ!(輝くような藤の笑顔)」
山田「バカの背中を押しちまった!?」
(窓の方からゾンビが唸る声が聞こえる)
藤「ユキちゃん!? 俺を……呼んでいるのか?」
山田「違うよ!?」
藤「山田、俺言ってくるよ。俺、人生を賭けてユキちゃんを幸せにしたい。そう伝えるんだ」
山田「素敵な告白だけど間違いなくお前は賭けに負ける!喰われて人生が終わる!」
藤「お前さっき言ったよな。『まるで映画みたいだ』って。このラブストーリーのエンディングを、山田、お前が見届けてくれ!」
山田「ホラー映画なんだよ! お前のイカれた思考回路含めてな!」
(山田は藤の胸ぐらを掴み、激しく揺さぶる)
山田「おい! いい加減現実を見ろ! ユキちゃんはゾンビなんだよ! もう死んだんだ! 初恋の相手があんな姿になって悲しいのはわかるけど、お前の知ってるユキちゃんじゃねぇんだよ!」
藤「………………」(藤は顔をふせる)
山田「…………わかってくれたか」(胸ぐらを掴んでいた手を離す)
(ガラスが割れる音。複数のゾンビの呻き声が聞こえる)
山田「ま、まずい、ここはもうダメだ! 藤、早く逃げるぞ!」
藤「……いや、俺はユキちゃんに告白する。……だから山田、お前は邪魔だからどっかに行ってくれ」
山田「おい、だから!」
藤「早く行け! ……お前は生きろよ。」
山田「……お、お前まさか、俺を逃がすために、最初から……?」
藤「……じゃあな、山田」
藤は「うおぉぉぉぉぉ!」と叫びながら走り出す。
山田「ふ、藤、藤ぃぃぃぃぃ!!」
(山田はしばらく項垂れるが、やがて藤が戻ってくる)
藤「私も好きって言われた!」
山田「何でだよ」