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だから人間は嫌いなんだ……!  作者: 京衛武百十
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それでいいんだ

そんな風に人間達の勝手な<想い>に悩まされ、僕は、人間達が<霊峰>と呼ぶ山に閉じこもって、なるべく関わらないようにした。


お願いしても脅してもやめてくれないのなら、無視するのが一番だと思ったんだ。


それでも人間達は<生贄>を寄越した。


僕は、それも無視したかったんだけど、生贄がこっそり逃げ出したりしたらそれこそ追いかけたりせずに見送ったものの、逃げずにいた生贄についてはどうしても無視しきれずに、面倒を見ることになった。


中には、


「私を食べないんですか?」


そんな風に訊いてくるのもいて、


「何で僕が人間なんか食べなきゃいけないんだ! バカにするな!」


ってつい言い返してしまったりした。そしたら人間は、地面に頭をこすり付けるようにして蹲って、


「申し訳ございませんでした…!」


とか謝るんだ。謝るくらいならそんなこと言わなきゃいいのに……


本当は、村に帰って僕の気持ちを伝えてほしいと思うんだけど、人間は、生贄に出したのが帰ってくるのを許さなかった。


一度なんか、僕の言ったことを伝えるために村に戻った娘を見付けるなり、何人もが棒や農具で殴りつけて、その場で殺してしまったりもしたんだ。


だから僕はもう、生贄を追い返すこともしなくなった。僕のところで勝手に生きて、勝手に死んでいくのに任せるようにしたんだよ。


そうしたらいつの間にか、僕が住む洞の中に小さな集落(むら)ができた。生贄の娘達が生きるための集落(むら)だ。


それができたことで、新しく生贄として寄越された娘の面倒も彼女達が見てくれるようになったのは助かったな。


彼女達はそこで暮らしながら、僕に祈りを捧げる毎日を過ごし、そして年老いて死んでいった。


僕はそれを見ないようにした。洞の奥深くでじっとして。


そんなのが数千年続いたけど、ある時期から、突然、生贄が来なくなった。本当は<突然>ってワケじゃなくて、十二年毎だったものが十五年になり、二十年になりして、とうとうこなくなったんだ。その間は百年ちょっとだったかな。そんなの、僕にとっては一瞬だったけどさ。だから『突然』ってこと。


そしたら、当然、僕の洞の中にできた生贄達の集落(むら)からも、誰もいなくなった。みんな年老いて亡くなっていったからね。


僕もさすがに少し気になって久しぶりに人間の里に行ったら、なんだかすごく数が増えてて、<村>だったものがいつの間にか<街>になってた。


そして、僕を祀っていた祠には、人形の姿が。生きた人間の娘を生贄に差し出す代わりに、人形を納めるようにしたらしい。


しかも、僕に頼らなくても作物の収穫を増やす方法を見付けてどんどん豊かになっていって。




なんだ、人間もそういうことができるんじゃないか。


そうだよ。それでいいんだ。



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