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だから人間は嫌いなんだ……!  作者: 京衛武百十
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猪団子鍋

『お前達がどうなろうと僕の知ったことじゃない』


僕は、あらん限りの侮蔑と拒絶を込めてそう言ったつもりだった。


なのに、ヒャクは、すぐさま祠の前に膝を着いて、また祈り始めたんだ。


しかも今度は、喉が渇けば水場で潤し、糞や小便がしたくなれば洞から出て木陰で用を足しと、やり方を変えてきた。


僕が洞の外に出して体を洗ったりしたことで、先のやり方では駄目だと思ったらしい。


それでも、<蚯蚓(みみず)団子>しか食べていない彼女の体は、長くは耐えられなかった。


次の日にはもう、また人事不省に至り、その場に倒れ伏す。


祠の中で不貞寝していた僕は、不承不承(ふしょうぶしょう)体を起こして、再び彼女の前に立つ。そして抱き上げて、祠を通り抜け、生贄達が作った集落で唯一残った家に入り、積もっていた埃を外に追い出して、朽ちかけていた布団を直し、そこにヒャクを寝かせた。まあ、布団と言っても、獣の毛皮を縫い合わせてその中に干した草を詰め込んだものだけど。


それから洞の外に出て(しし)を捕らえ、木の実を拾い、家に戻る。


土間に転がっていた、錆びて穴の開いた鍋を直し、水を張り、囲炉裏に火を熾し、湯が沸くまでの間に猪を捌いて木の実を磨り潰して一緒に団子にして、鍋に放り込んだ。そこに塩の岩を砕いたものも入れて煮る。


まあ、蚯蚓団子よりは少しはまともなものにはなっただろう。


そして頃合を見て、僕はヒャクを起こした。


「……竜神様…っ!?」


僕の姿を見て彼女は慌てて体を起こそうとするけど、力が入らなくて起こせない。


そんなヒャクに、僕は、椀に掬った猪団子を匙で小さくして差し出した。


「食え。ゆっくりとな。これは命令だ。口答えは許さん」


たっぷりと汁を吸った猪団子は、恭しくそれを含んだ彼女の口の中でほどけて、肉の旨みが広がっていくのが分かった。


「……」


途端に、ヒャクの目から涙が溢れる。自分が生きられることを悟ったんだろう。


それからも、僕は、少しずつ彼女に猪団子を与え、やがて彼女は、ほとんどまどろんだ中で何個目かの猪団子を飲み下して、すうすうと寝息を立て始めた。


腹が満たされて眠ってしまったんだ。


今度こそ、気を失ったんじゃなく、普通に寝たんだ。


それを確かめた僕は、残った猪の肉に塩の岩を細かく砕いたものをまぶしてすりこみ、並べた。こうしておけばしばらくはもつ。


本当は別にこんな手間を掛けなくてもいいんだけど、ヒャクが目を覚ますまで暇だったからね。


そうしていると、また小便の臭いが。ヒャクが寝小便をしたんだ。


ふん。気丈そうに見えてもまだ子供だってことだな。


僕は、洞の外に出て木の枝に干しっぱなしになっていた、ヒャクが元々着ていた着物を手に取り、集落に戻って崩れた家の中からやはり獣の毛皮と干した草で作った布団を引きずり出して直し、ヒャクが寝ている家に帰ったのだった。



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