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だから人間は嫌いなんだ……!  作者: 京衛武百十
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なんだ、いまさら

ヒャクリ亭での一夜の後、僕は、洞の奥でゆったりとまどろんでいた。


なんだかとても心地いい。


「……!」


でも、何かを気配を察して、僕は、スッと自分が浮き上がるような感覚を覚えた。


洞の外から流れ込んでくる匂い。


『人間……?』


間違いない。人間の匂いだ。


『なんだ、いまさら。何の用だ……!?』


せっかくいい気持ちでまどろんでたのに邪魔をされて、僕は少し気分が悪くなった。無視しようかとも思ったんけど、


「……」


流れ込んでくる人間のそれの中に、知ってる匂いがある気がして、目が冴えてしまう。


しかも、何人かの人間の気配があったのが、しばらくすると一人だけになった。


すると<知ってるような気がする匂い>が強くなる。洞に入ってきたんだ。


だけど僕は、改めて無視することに決めた。もう人間に煩わされるのは嫌だ。




日が暮れる気配があって、また日が昇る気配があって、なのに、洞に入ってきた人間は、たぶん、昔に作られた祠の辺りで座り込んでるらしくて、動く気配がない。


だから僕は確信してしまった。


『生贄だ……』


以前にも聞いたことがある。生贄の娘から。


「一度、祠に入ると出ることは許されないんです。飯を食べるためでも、糞や小便のためでも、とにかく……」


って。


どうして、また……! もう、僕に頼らなくても人間の力だけで生きられるようになったんじゃないの……!?


何のつもりだよ……!


とにかく関わり合いになりたくなくて、僕は体を丸めて動かなかった。


なのに、生贄も、動かない。ずっと僕に対して祈りを捧げているのが伝わってくる。


やめろ…! やめてくれ……! 煩い……!


生贄の<祈り>が、僕にまとわりつくのを感じて、それを感じたくなくて、心を閉ざす。


それでも防ぎきれない<強い祈り>。


ここまでの強い祈りは、久しぶりだった。もう決して引き下がることができないという<覚悟>を基にした祈りだった。


やがて、人間の匂いに、糞や小便の臭いも混じり始める。祈りを捧げながらその場で垂れ流しにしてるんだろうな。動くことが許されてないから。


『どうしてそこまでするんだよ……!』


僕には分からなかった。分かりたくもなかった。


非力なクセに強情で、目的のためなら死んでも構わないとか考える。


人間以外の動物は、生きるために自身の力を使うのに。結果として命を落とすことがあってもあくまで生きるためにするんだ。なのに人間は、死ぬことで何かが適うとか思ってる。


本当に頭がおかしい生き物だ。


だから関わりたくない。関わらないでほしい。僕をそっとしておいてくれ!


だけど、僕がどんなに願っても、その生贄は祈り続けるのをやめなかったんだ。


気を失ってその場に倒れるまで……



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