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≪1-13≫ はじめて(?)のダンジョン②

 アニスの警告に他四名は、全く予想外という様子で面食らっていた。


「危ないって、なんでだ」

「今の罠、威力が高すぎるんです。推定脅威度1のダンジョンで出るレベルじゃない」

「『レベルじゃない』って……見た事あるのかよ」

「それは……」


 飽きるほど見た事がある。

 ヴォルフラムら『魔王討伐パーティー』は、決して魔王を一直線に倒しにいったのではなく、そういう名目で結成されただけで、各地の戦線を維持するために転戦していた。

 そしてそこでやっていたことは、半分以上はダンジョンの始末だった。要するにそれは魔物の発生を絶つことに繋がるのだから。

 ヴォルフラムは主に、育ちすぎて他の者には手に負えなくなったダンジョンの破壊を請け負っていたが、成り行きや効率のため低レベルのダンジョンを流れ作業で潰していくこともあった。


 冒険者ギルドの指標には詳しくないが、ダンジョンがどの程度の脅威かなんて罠一つで分かるほどの経験を積んでいる。

 しかし、それを信じてもらえるかは別の話だ。

 正体は明かせないし、明かしたところで頭がいかれている思われて逆に信用をなくすだけだろうから。


「……こういう駆動のために魔力が必要なダンジョンの罠は、ダンジョンから発生した魔物をボスが潰して、その魔石を燃料に作るんです。

 魔力を投射するマジックミサイルの罠は、魔石の質がダイレクトにダメージに反映される。

 それがあの威力ってことは、このダンジョンは既に強力な魔物が生まれる段階に来てるって事です」

「んなこと言われても……」

「とにかく、ギルドの評価がおかしいのは確実です。戻って報告しましょう」


 踵を返そうとする者は、居ない。


「待てよ、ここまで来て帰るのか」

「ですから、ギルドの判定が間違っていると……」

「じゃあなんでここまで弱い魔物ばっかりだったんだ? 罠の威力とか、見間違えじゃないのか?」

「ダンジョンで生まれた魔物は、何かの目的があって既に出て行ったんじゃないでしょうか。

 侵入者が来た場合、ボスは新たに魔物を生成するより戦闘に備えて力を蓄えますし」


 ザックは説明を聞いても腑に落ちないようだ。

 何か、アニスが道理の通らないことを言っているかのような目で見ている。引き返す気配を見せない。


「とにかく帰るわけにはいかない。一攫千金のチャンスだぞ」

「命あっての物種って言うでしょう!?」

「このダンジョンアタックのために装備買って、生活費もカツカツなんだよ俺!

 攻略失敗したらどのみちアウトだ!」


 ザックの口調は責めるようだった。


 五人で金を出し合い、少々お高い『隠れ火』を買った。

 それ以外にもダンジョンアタックに備えて何か準備をしていたのかも知れない。


 アニスはヴィオレットの店に住み込んで働くことで、当座の衣食住と多少の収入を確保している。

 だが冒険者全員がそんな生活をしているわけではないのだから、後先の保証が無いまま一度の冒険に全てを賭けることもあるのだろう。

 それは理解できる。理解できるが死んだらお終いだ。生きてさえいれば損を取り返す目もある。


「仮に何かの間違いなら、その分の減収はわたしが補填します。だから……」

「お前さ」


 積もり積もったものが限度を超えて溢れたかのように、ザックはアニスの言葉を冷たく遮った。


「何様なの?」


 アニスは絶句した。

 要するにこの言葉が意味するところは、アニスの論を脇に置いて『お前の態度が気に食わない』。

 事実と理論を積み重ねて推論を導くことを旨とする、学究の徒たるアニスを否定する言葉だった。


「なんでそう『自分は正しい判断をしてる』って思い込めるわけ?」

「おっ……思い込むとかそういう話じゃねえだろ!? いい加減にしろてめえら欲で死ぬ気か!?」

「見えるんだよ! テメーが俺を馬鹿だと思ってんの!

 『頭のいい奴なら自分に従うはずだ』って考えてるよなお前!?

 そんな暴走馬車馬みたいな危ねえ奴に自分の判断預けられるかってんだよ! しかも素人のガキの!」


 アニスは、しかし言い返せなかった。


 自分の方が賢く、経験を積んでいて、正しい判断が下せるというのは、アニスにとって不動の大前提だった。なにせ今は力を失っていても一度は魔王を倒した身だ。

 それはただの事実なのだが、見透かされれば驕りと映るだろう。


 断崖絶壁に突き当たったような気分だった。

 これ以上掛けるべき言葉が、アニスの中には存在しない。


「……言い過ぎだ、ザック」


 イワンがザックを諫めるが、彼もアニスに向かって首を振る。


「だが……俺もここで帰る気にはなれない。

 冒険者である以上、いくらかの危険は承知しなければ。報酬はそのリスクと引き換えだ。

 アニスの言う事は……一匹のネズミを見て千匹のネズミが居ることを恐れるような……

 うむ……考慮はするが、判断は次のネズミを見てからでいい」

「ネズミはよく分かんないけど、そんな危ないの?

 ちょっとビビりすぎだと思うわよ、実際」

「だとよ。多数決ならこれで決まりだぜ」


 ジェシカも賛同し、ザックは我が意を得たりと居丈高だ。


 進退窮まったアニスは、なるべくなら言いたくなかった事を言う。


「……パーティーリーダーとして許可できません」

「なら、俺らは今ここでお前のパーティーを抜ける」

「なっ……」

「良いよな? ジェシカ、イワン」


 アニスは再度、絶句した。

 リーダーの座を振りかざして強権的に振る舞うことは避けてきたが、ここでついに叩き付けた切り札は無情にも無視された。


 パーティーリーダーが退却の判断を下せば、足並みを揃えてそれに従うのが冒険者たちの不文律だと聞いていた。これはパーティー全体を守るため。数多の冒険者が数多の依頼クエストをこなす中で培われてきた知恵なのだと。

 その重さを知らないザックは、掟を容易く蹴飛ばした。


「こっちはこっちで奥に進ませてもらう。帰りたきゃ一人で帰れ、臆病者。

 ……言ってなかったっけ? 俺も≪治癒促進リジェネ≫くらいは使えるからな。

 自分が居なきゃ困るとでも思ってたか? 別に要らねえんだよ、お前」


 アニスに背を向け、肩越しにザックは吐き捨てた。

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