2.転移
2.転移
「つかささん!わたしと…わたしと一緒に行きましょう!!」
怜ちゃんは19歳だが、ほんわかした雰囲気とぷっくりほっぺは少女のようだ。
彼女が口を開くたび、どう反応していいかわからずにいたが、彼女はいたって真面目なようだ。
「行くって言ったって…外国行くみたいに飛行機で行くわけじゃなさそうだし、わたしそのほら、創作?サークル?みたいなのちょっと苦手でさ。」
怜ちゃんの目がじわっと潤む。
「あ、その悪く言ったわけじゃないし、えと、トレーナーの仕事もあるからさ!」
「……わかってました。これで信じてもらえるなら苦労はしません。」
わかってたんかーい。。
「今晩、0時にウチに来てください。」
「えっ…あ、はい。」
思わず返事をしてしまった。
自宅でシャワーを浴び、頭を整理する。
何せ色々あったのだ。一息つきたかった。
チンピラを追い出し、怜ちゃんに呼び出され、おじいちゃんが勇者だったことを聞かされて…ブッ。 若い頃だよな?? ヨボヨボの剣士を想像したら笑いがこみ上げて来てしまった。
いつのまにか眠ってしまっていたらしい。
壁掛け時計を見ると23時50分を指していた。
飛び起きてジーンズとパーカーに着替え、自転車の鍵を掴み取り、怜ちゃんの家へ急ぐ。10分あれば着く距離だった。風はなく、虫の鳴き声もしない、妙に静かな夜だった。
怜ちゃんのマンション前で携帯を鳴らす。
深夜にインターフォンを押すわけにもいくまい。
「いま、下まで降りますね。」
自転車のワイヤー錠をガードレールにくくりつけていると、オートロックの扉が開く音がした。
「つかささん」
「怜ちゃ…げっ!」
振り向くと、妖精のようなヒラヒラした格好をしたれいちゃんがいた。
深夜ということもあり、まずはれいちゃんの部屋へ。
「な、なんのコスプレ?今期魔法少女系のアニメやってたっけ?」
「コスプレではないんです…。」
「そ、そうなんだ。ごめん驚いちゃって。似合っててかわいいよ!」
可愛らしいティアラの羽根を指でつつく。
不思議と安っぽい衣装には見えない。手作りなのだろうか。
「わ、わたしだって恥ずかしいんです。あまり見ないでくださいね。」
コスプレには興味がなったが、何かが目覚めそうになるなこれは。
「それで…わたしはどうすればいい?」
「この箱を額に当ててください。リラックスして。驚かないでくださいね。」
夕方見せてもらった箱だ。
「こうかな?」
素直に従い額につけると、なにやら呪文を詠唱し始める怜ちゃん。もちろん意味はわからない。
そのとき頭の奥に大きな声が響く。
「我は扉なり。彼の人、彼の時、彼の場所に誘わん。」
なんだこれは…と思ったのも束の間、高いところから落ちる悪夢のような、急激な不快感が全身を襲う。
「…さん」
「つかささん」
なんだ、誰だ?
気持ち悪い。。吐く。。
おえええぇ。
「だ、大丈夫ですか?」
強烈な二日酔いのような吐き気に耐えきれず、吐いてしまった。
「…怜ちゃんか。何が…起きたんだ。ここは?」
公園かどこかだろうか…。
木々から漏れる木漏れ日、鳥の声、柔らかい芝生。
とても気持ちがよく、吐き気も止まっていた。
「ここはエルヴェリア公国です。怜とつかささんは転移しました。」
「…」
もう一度あたりを見回す。
草原に池…巨大樹にエルフとホビット族か。
何ら変わったところはない…。
エルフ?ホビット…!?
怜ちゃんがクスクスと笑っている。
「これって…」
「異世界なの!?」
怜ちゃんがコクリと頷く。
ええええええええええ。
叫び声がこだました。