第５６話 残りを蹴散らし合流した
『ワタル！？マジか！！無事か！？ってか倒した！？』
念話からグローブさんの叫びが聞こえる。ああ、まだ終わってなかったな。
ぼやける意識の中、治癒を回復アイテムで発動させる。さらに、解毒と治療を追加で起動。
多少マシになった所で、ダメージの酷い個所を優先して治療してくれる応急手当を発動。応急手当は付与魔術師が１１レベルで覚えるが今まで使う機会が無かった。
『生きてます。エリュマントスは倒せたっぽいです。周りはまだ魔物が居て、小結界の中です』
エリュマントスから受けたダメージはおおむね２発だが、その２発でおそらく骨と内臓がやられていたな。
応急手当と治癒、解毒それに交互に使うと、何とか体調が戻って来る。ステータスを見るとＨＰが全回復し、状態も軽傷まで戻っていた。
『だいぶ散ったみたいだが、まだ周りに魔物が溜まってる。しばらくそのまま結界の中にいろ。こっちは何とかなりそうだ』
『了解です』
周囲を見回すと、魔物のグループ三つくらいが小結界を取り囲んでいて、離れていく奴らも見える。
大地裂斬が作った大地の裂け目周りでうろついているのは、ドロップ品の回収部隊か。くそ……回収したいがここで出たらアホだな。
周りはまだ捕獲部隊が取り囲んでいる。
エリュマントスが消えたからアインスからの救援を期待できるし、グローブさん達もいる。幸いブタ野郎のドロップは結界内に落ちているから、回収される心配はない。
「しかし、馬鹿みたいに強かったな。なんだあれ」
集合知だと２次職のパーティーが良い勝負をして、撤退まで追い込んだという情報がある。
その能力から言って１万Ｇ級の後半くらいかと思っていたが、どう考えても能力が合わない。１０万Ｇ級に届いてるんじゃないか？
冒険者ギルドの推奨討伐対象は、１０回戦ったら１０回ほぼ無傷で勝てる相手を適正として定めているが、どう考えても３次職パーティーが完勝出来る相手じゃない。
「さて……それでドロップ品はっと……？」
エリュマントスの大剣を回収し消えた場所を見ると、大きな白い布包みが横たわっている。
……あ～……これ。
「……ベースは人かよ」
純白の布で簀巻きにされたまま横たわるのは、１０代前半から半ばくらいの少女だった。
エリュマントスの核は、１０代くらいの少女の奴隷だったらしい。近づいてみると分かるが、かなり整った顔をしている。ぶっちゃけ美少女だ。
動物も、人間も条件さえ揃えられれば魔物の核に成りえるが……。
「まいったな。……どうしたもんか」
呼吸はしているが、どうやら気を失っているようだ。
他には……これは召喚の時に使っていた杖か。それに革袋に金貨が数枚。どちらもドロップ品じゃなさそうだ。
ほかにそれらしいものが無いとすると、この少女だけで１０万Ｇ、日本円だと一千万円以上くらいの価値になるのか？ １００年か２００年か前の人物だろうけど……集合知の情報からだと価格が合わないな。レア適性の持ち主かな？
とりあえず、ほかのアイテムは収納空間に押し込むとして、彼女はギルドか領主に相談案件だな。
他にも確認しなきゃいけないことがあるし、ギルド長と領主からの呼び出しは確定だろう。
『ワタル・リターナーが初めて付与魔術師レベル９９、レベル上限に達しました。付与魔術師のすべてのスキルとステータスボーナスが定着しました』
先ほどのアナウンス、ステータスを確認すると確かにレベルが９９でＭＡＸ表示が出ている。……上限、５０じゃなかったのかよ。
覚えたスキルを確認すると、どうやら５０レベル以上はスキルを覚えていないらしい。こちらは集合知の情報通り。５０になった時点で、該当職のすべてのスキルを習得したとアナウンスが流れるというのは間違いないらしい。
いつから５０レベル以上が作られたか知らないが、今の今まで転職せずに５０以上経験値を稼いだ人が居なかったと言うことか。
「天啓案件だなぁ」
このアナウンスが全世界に流れたなら、今頃他の地域では教会に問い合わせが殺到し始めていることだろう。
「ステータスもおかしな事になってるが……精査は後だな。グローブさんたちは……」
鷹の目を発動させ辺りを見回すと、もうすぐそこまで来ている。近づく魔物を封魔弾とエトさんの魔術で吹き飛ばしながら向かっているようだ。俺が最大威力で魔術を籠めた物でなくても、１００Ｇ級前半ならランス系で一撃らしい。
街の方は……こっちの門から偵察隊が出始めたな。流石、動きが早い。これで余剰兵力を遊撃に回せる。防戦だったアインスの状況も変わるだろう。
周りを取り囲んでいる魔物のグループはどうすべきか迷っているらしい。高くても数百Ｇクラスの魔物だ。難しい状況判断は出来ないのだろう。たまにこちらに向かって狙いの定まらぬ石を投げてくるが、小結界の広さから言えば無駄なことよ。
そんな事やってると、ほら、攻撃魔法が飛んでくるぜ。
エトさんが放ったであろう火炎球が結界そばにいた１グループに炸裂して吹き飛ばす。
中心にいたゴブリン２体ほどが一瞬でアイテムに還った。
「無事っぽいなっ！」
グローブさんの叫びが聞こえる。
二人はもう目の前だ。取り囲んでいるこいつらを片付ければ合流して一息つける。そう思っている間に、死猟犬が吹き飛ぶ。
おっと、今のは長射魔弾か？エトさん３０レベル超えてる。相当無理したな。
「残りは死猟犬が３、何かのゴブリン５、何かのオーク３……ゴブリンが減った」
どれだけ魔力を盛っているんだろう。二人とも一次職の中盤だが、殲滅力はそれ以上だ。かなり無理をしているんだろうな。短期決戦のつもりで頑張って来てくれたか。
それじゃあ、こっちも手助けしないと。
魔物たちはみんなグローブさん達に向かって動き出している。
結界に背を向けるとかマヌケのすることだぞ。一時付与、雷剣。
エンチャント切れの長剣に、覚えたばかりの魔術を発動。
さて、行くか。
「魔弾！」
こちらに背を向けていたゴブリンが吹き飛んで消える。
同時に切り付けたオークは、雷剣のスタン効果で振り向くこともできず、次の魔弾で消える。
その間に１体の死猟犬が魔術によって光に変わる。あれはジャベリン系の何かだな。
「待たせたな！封印解除！」
グローブさんの封魔弾でゴブリンがドロップに変わり、俺の雑に振るった剣がもう一匹の首を跳ね飛ばす。
ああ、ステータスを上げる魔術を使ってないのにこの威力。全力で振るったらおそらく剣の方がもたない。
それから一分ほどで、周囲にいたすべての魔物がアイテムへと姿を変えた。
これで一息つける。
コンスタントに書けているので１日１話か２話を投稿できるように頑張ります。
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2025/06/05 誤字脱字など修正しました．
