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俺は地球に帰りたい~努力はチートに入りますか?~  作者: hearo
真夜中に踊る冒険者
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第465話 神の名の下に誓いを交わした

「バカな首領に忠告がてら真実を教えてやる。俺達に協力を求めるのは無意味な話だ」


 ネクロスはそう言ってこちらをあざ笑う。

 ふむ。ネクロスは俺の知らない情報でも持っているのだろうか?


「その心は?」


「……理由を聞いてるんだよな?」


「そうでした。失礼、ちょっと冗談が乗りました。真面目に話しましょう。 メリットはあると思いますが、なぜ無駄と言い切れるんですか?」


 ネクロスが乗ってきたので、頭と口調を交渉モードに切り替える。


「ああ、そうだな。いつ処刑されるか分からん状態で監禁されているよりはメリットがあるだろう。だがな、そこの真偽官が本物である以上、口先だけで協力すると言っても意味は無い。そして真剣に協力すれば、すぐバレてあっちで裏切者扱いされるだけさ」


「バレますかね?貴方は記録上は襲撃の前に出発していて、俺達との繋がりを推測されるリスクは低いと思いますが?」


「お前らがテラ・マテルを襲撃してからすでに1週間。テラ・マテルからネプトゥーヌスにも伝令は走って、とっくに襲撃は伝わってる。そしてその道中に俺達が居なかったこともだ。予定のルートから外れているなら、それは真偽官の調査対象だろうさ」


 ……ネプトゥーヌスにも無理矢理協力させられている真偽官は居るはずだ。確かに、怪しまれている状態なら真偽官の尋問を受ける可能性は高いだろう。


「それに協力した所で、そっちに俺の居場所は無ぇ。クーロンの戦争でどれだけ街が焼けて、どれだけ人が死んだか知ってるか?それで俺は聖騎士になった。そこに救いがあるわきゃねぇだろ」


「それでやったことが親殺しですか?」


「あれを親だと思うのはとうに止めたっ!」


「……そういうものですか」


 聞いていた通り、ネクロスに対してこいつが殺した養父たちの話は地雷らしい。

 口を滑らせた男は何があったかまでは知らなかったし、ネクロスも口を割らないから交渉の鍵にもなりゃしない。


「……お前らに協力した所で、縛り首になるか、どこかで裏切り者として処刑されるかの違いでしかない。どっちか選ぶなら、ここで死んだ方がマシだね」


「……道理じゃな」


「そっちもか」


「妻にも子にも裏切り者のレッテルを張らせるわけにはいかぬ。どうせ死んだ身よ。殺すなら早くすることだな。いずれ寝首をかくやもしれぬぞ?」


「ぎるてぃ。少なくとも、寝首を書く気は無いわね」


「逃げ出そうと画策をしているみたいですけどね。……飯は旨いですか?」


「っ!……敵地に侵入し、これほどの堅牢な拠点を築き、捕虜にまともな食事を提供できるなど、一人で相手取るものではない。……それで目的が子供一人の奪還だと?」


 後半は自問になっていたな。真偽官の裁定が入らないから、聞いた話と規模がかみ合わないらしい。まぁ、そうだろうさ。

 そしてここがクトニオスとは全然別の場所だってのは、やはり想像もされていないか。情報を与えずにそれが確認できたのは一つ収穫だな。


「……まさか、クーロンの核?」


 ネクロスがそう呟いたのを、俺達は聞き逃さなかった。


「おっと、もしかしなくても聞いた事の無い話が出ましたかね?なんです?何を知っているんですか?」


 ネクロスたちにクーロンの情報は与えていない。

 過去の尋問で分かって居るのは、王子たちを護送して居たのがついでで、ネプトゥーヌスに向かっていたという話だけだ。

 口を滑らせた事をまずいと理解したのだろう。余裕の合ったネクロスの顔が苦虫を噛み潰したように歪む。


「……話す事は何もねえよ」


「……………………」


「……………………」


「……………………」


「……………………」


「……………………」


「……………………」


「……………………」


「いや、何か言えよっ!」


「沈黙に耐えられなくなってゲロるかと」


「そんなわきゃねぇだろ!」


「でも沈黙を破ったのはそっちですし」


 俺はただニコニコしながら見つめてただけよ。


「まあ、気づいたことがあるなら話した方が身のためですよ」


「はっ!いまさら脅しか?」


「そうですね。一体どんな目に……あいたいですか?」


「なぜ俺に聞くっ?!」


「希望があれば一応聞いておこうかと」


「あるわきゃねぇだろっ!」


「地団駄を踏むでない。……ちなみにどんな辱めをするつもじゃ?」


「聞くなっ!そして辱めなのはなんでだっ!普通は痛めつけるだろっ!」


「別に痛めつけも辱めもしませんよ。……そうですね。飯がうす味のスープだけになります」


「それは辛いのう」


「それから、ケツ拭く紙が葉っぱになります」


「なんと非道な」


「代わりに有益な情報を提供し、協力を誓うならいつもの食事にこれを点けましょう」


 そう言っておもむろにカバン(収納空間)から陶器の瓶を取り出す。


「それはまさか……酒か!」


「大麦とライムギの蒸留酒、火酒とかウィスキーなどと呼ばれる物ですね」


 開拓村に来ていた行商人から購入した物だ。ビールやワインは不自然だし、米酒(日本酒モドキ)は馴染みがないだろう。


「ようし、ホワイト、さっさと吐くのだ。洗いざらい吐けばすっきりしようぞ」


「酒に釣られて寝返るんじゃねえクソドワーフっ!てめぇもふざけんなっ!」


「何か不満でも?」


「ぬるいんだよっ!なにが飯だ!ケツ拭く紙だぁ?!馬鹿にするのもいい加減にしやがれ!俺は敵だぞ!お前らのな!騙し、裏切り、殺してこの地位まで上って来た!のうのうと生きてていい人間じゃねえ!それをっ!」


「……後悔でもしてるんですか?」


「してるわきゃねぇだろっ!自分で選んだ選択に、そんなものはあっちゃいけねぇ!だからっ……負けたなら、無残に殺されて、豚の餌かさらし首か、それが……スジってものだろ」


 最後は絞り出すように。

 思った以上にこのネクロス・ホワイトって男は困った奴らしい。


「……はぁ。貴方がどう思っているのか知りませんが、貴方はまだ人類の敵には認定されていませんよ?貴方と一緒に居たガリレイやウラジミルは人類の敵認定されていましたけどね」


 前の尋問で、ネクロスの罪状は保留だった。後で天啓(オラクル)に確認したが、ネクロスは集合知に記載されるような人類の敵には認定されていない。

 さんざん悪行を働いた二人は集合知に居て、今は片方は虫の息で放置されている。使い道が思いつかないが、放流するわけにはいかないのが悩ましい。


「こっちに改宗する気が無いなら、俺達が撤収するときに適当に放り出す予定でした。3次職なら山の中に放り出されても、人里までくらい何とかなるでしょう?」


「……意味が分からねぇ」


「わざわざ捕虜を無償で開放する……だと?」


「人殺しなんて気持ちいいモノじゃないでしょう。別に邪教徒に強い恨みがあるわけでも無いですし、殺さなくていい相手を殺して、自分が嫌な気分になるなんて馬鹿な話じゃないですか」


 これは俺の我がまま。なんで異世界に放り込まれて、わけも分からぬまま人殺しまでしなきゃならんのだ、という最後の抵抗。

 まぁ、戦ってるときは殺すつもりでやらないと危ないし、人体実験(殺す以外の非道)をしていて何を、と思わなくもないけど、|集合知に名前があるクソ《人類の敵》は見ていると殺意が侵食してくるからな。仕方ない。


「それに、殺したところで得も無いどころか、無駄に敵を作るだけじゃないですか。もし貴方達に、貴方達を大切に思う人が居たら、無駄に恨まれることになる。その人たちが復讐者にならないなんて、なんでいえます?」


 知らないどこかの誰かに恨まれて、寝首を掻かれるなんて馬鹿な話だ。


「……俺達を生かしていて、恨まれないと思っているのか?」


ウェイン(子供)の回収が成功すればこんな所おさらばですし。同じ相手と相対する事なんて、そうそう無いでしょう?魔物からしたら、一度負けた貴方達をわざわざ俺達へ差し向けるメリットも薄い。生きて取り返しがつく状況なら、何かが奥歯に挟まった違和感を解消できなくても、切り替えて生きていくことを選ぶでしょう」


邪教徒(あんたら)は俺の大切な仲間の、大切な人を攫った。だから恨まれて、ボコされて捕まってるわけです。だけどまぁ、それだけなら互いにまだ取り返しが着く。ウェインを連れて脱出すれば万々歳だ」


「……街を無差別に襲撃した奴がなにを言う」


「人死にが出ないように気は使いましたよ。実際、人類の死人は出ていないようです。人類域(こっち)じゃ魔物の襲撃なんてしょっちゅうですし、捕らえてきた人類を奴隷として働かせてるのはあなた方だ。文句を言われる筋合いはないんですよ」


「っ!………………そうか」


「さっさとゲロって、ついでに協力して、俺達を次に進ませてもらえると嬉しいんですけどね。なに、魔物には脅されたとでも言っておけばいいんですよ。それが真実になるくらいには脅してあげますから」


 ガリレイでも見せれば脅しとしては十分だろう。


「……外で、俺達は憎まれていた。好きでここに生まれたわけじゃない。ここが楽園で無い事も知っている。だが他に選択肢はなかった。復讐を果たすなら、のし上がるしか無かった。……お前は、俺達が憎くないのか?」


「魔物に管理された国に生まれたってだけで憎む理由は有りませんね。3次職に成れるほどの悪行を積んだ話の方であれば、戦犯以外の余罪がなさそうなので、直接やり合ってない俺としては憎む理由は無いですね。被害者が居れば復讐されるかもしれませんが、それは俺の知った事ではないです」


 ネクロスは取り調べで拉致や殺人の罪があるのは判明しているが、強盗、強姦、拷問などの罪状は無かった。自らの欲望で価値を目減りさせない、敬虔な邪教徒である。

 それはドワンも同様なようで、だからこそ扱いに困る。


「……俺が聞いたのは、クーロンを攻めるのに使える、強力な核が手に入ったって話だ」


「おい、お主っ!」


「おっさんは黙ってろ。敗者は勝者に従うのが道理だ。……その核は巫女の目を避けるため、ネプトゥーヌスに居ると言っていた。海路で輸送する準備を進めているらしい。俺がネプトゥーヌスに向かっていたのは、その護衛をする為だ」


 ビンゴ!

 ほぼ確定でウェインだろう。そして魔物側で調べがついたという事は、クーロンの帝の血族なのも確定か。面倒だなぁ。


「ふむ……巫女と言えば、攫われた時、東方群島のとある国の巫女があなた方に協力していたようなのですが、そちらについては何か話は知りませんか? 」


 後はコゴロウが探しているサラサ嬢が一緒に居れば、話は早いのだけどな。


「……さあな。こっちに就いたならもう巫女じゃないだろう?」


 邪教徒は神に近い巫女や神主(巫女の男性職)、真偽官などには成ることが出来ない。これらの職は素質が絶対条件で、魔物側につくと素質が神罰によって消失するからだ。

 しかし……どうだろう。コゴロウの話だとサラサ嬢はフォレスの帝の孫だが、スサト内親王にはほかに息子も居るし、大きな家では無いので人質としての価値はそれほどでもない。むしろ巫女としての素養の方が貴重な可能性がある。そんな人間を、わざわざ《《価値が無くなる様に》》勧誘するだろうか?

 タリアやアーニャの話からすると、操られているというよりは自分から動いているようだって事だし……ウェインと一緒に居たらしいけど、今も一緒に居るのだろうか。


「……役に立てるかは知らないが、条件を呑むなら協力しても良い」


 探し人(もう一人)に思いを馳せていたら、ネクロスは何を思ったのかそう続けた。


「おっと?どういう風の吹き回しです?」


「俺は魔人に成る事に興味は無い。やりたかったクソ共をぶち殺すのも、もう終えた。ちょうどいいタイミングで負けたとも思ったが、俺をぶちのめしてくれた馬鹿野郎は、どうやら俺とも、外の奴らとも違うらしい。ここでの誓いにウソ偽りが無いってなら、協力するのもありだと思っただけだ」


 いったい何が琴線に触れたのだろうね。


「条件とは?」


「……殺すな」


「誰を?」


「ネプトゥーヌスに居る全ての民をだ。あそこにも外のことなんか知らず、ただそこで生まれて生きているだけの民がいる。子供を取り返したいなら、取り返すだけにしろ。それを誓え」


「……………………ああ、すまん。ちょっと驚いた」


 まさかそんな常識的なセリフが出て来るとは思わなかった。


「……お主……」


「おっさんも文句ねぇだろ。上がなんていうか知らんが、今の俺に出来る最大の成果だ。何もせず、ネプトゥーヌスが火の海にされるくらいなら、裏切り者の汚名を被ってでも、神の名の下に縛ってやる。……言わなくても、そんなことはしなさそうだがな……」


 こちらを睨みつける瞳に、強い力を感じる。

 いいね。コゴロウが扱いに困ると言っていたが、なかなかどうして、いいじゃないか。


「いい!貴方いいじゃない。流石は聖騎士(パラディン)の素質を持つだけのことはあるのだわさ!魔物どもの飼い犬なんて事なかれ主義か人格破綻者しかいないと思っていたけれど、なかなかどうして見上げた物じゃない!」


 ネクロスの条件に言葉を返そうと思ったら、黙って話を聞いていたローナさんが先に反応した。半分は貶してない?


「そこの真偽官、ぶっ殺すぞ」


「牢の中から凄んでも可愛いものだわさ。それより、邪教徒(アヴァランチ)に愛想が尽きたら、わっち、ローナ・アマデウスが面倒見てあげるだわさ。ワタル君もそれでいいわよね?」


「あ~……好きにしてください」


 どうするつもりか知らんが、どうせ聞きやしないだろう。


「とりあえず、神の名において誓おう。ウェインの奪還にあたって、戦う力無き民を殺さない。攻撃の巻き添えを食って死人が出るような作戦も決行しない。街の破壊もできるだけ避け、戦闘で街や農地が破壊されて飢餓が発生しない様に注意する。向かってくる兵も可能な限り殺さずに無力化するし、原形無くなるような伝説級スキルや魔術を打ち込んだりもしない。俺の仲間にもそうさせる。ただし、魔物は除く。……こんなもんで良いか?」


 真偽官の前で嘘は付けない。神の名を用いた誓に嘘があってはならない。《《それは未来においてもだ》》。


「……十分だ」


「んじゃ、契約成立だ」


 敵の本拠地で、相手を殺さないように何とかしようなんてナメプもいい所だけど……それくらいできないで、魔王が倒せるわけもない。

 厄介な条件を背負い込んだが、とりあえず一歩前進、かな。

ネクロスには使役のクリスタルが埋め込まれていますが、ドワンは未改造です。

二人以上の前で使役のクリスタルの効果を使うと、対話に違和感が出て気づかれる可能性があるので、人造獣使い(キメラマイスター)の力は使っていません。が、それを記載するタイミングが本編中に無かったorz


貴方のブクマ、評価、感想が励みになります。

下の☆☆☆☆☆をポチポチっと★★★★★に色変えて貰えるともれなく歓喜します。

応援よろしくお願いいたします。


カクヨム限定でスピンオフの投稿を始めました!


アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~

https://kakuyomu.jp/works/16817139559087802212


外部サイトになりますが、こちらもよろしくお願いいたします。

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