第464話 邪教徒を勧誘した
「ウェイン少年をネプトゥーヌスで探すのに必要なのは、人手と時間です。我々が力を貸せないとなると、捕らえている邪教徒を使うのが一つ効果的でしょう。物質移植を使って引き込むのが最善と思います」
アルタイルさんの提案は、捕らえている邪教徒に改造を施し、使役のクリスタルで操って時間稼ぎをする方法。
「出来なくは無いですけど、思い通りの動かせるわけじゃないですよ?」
生体使役は対象を思いのままに操れるかというと、そう言うわけではない。ブラックリスト方式なので、俺達の事を話さない、他者に伝えないといった制約は掛けられるが、違和感は出ることになる。
「方法は2つかあります。相手の見極めは重要ですが、手っ取り早いのは脅迫でしょう。意識的に制約に反する事をした場合に自爆するよう、魔道具でも仕掛ける。今のワタル殿なら可能でしょう?」
アルタイルさんからの提案に思わず眉をひそめた。思いつく手があったからだ。
一般的に、時限式の魔術や錬金道具の作成は極めて困難である。これは魔術であれ魔術回路であれ、魔力を通した時に発動するという特性があるためである。スキルの中には魔術の発動を貯めておく遅延術式と呼ばれる物もあるが、今の俺のINTでも貯めておけるのは精々1時間ちょっと。正攻法では難しい。
だけど使役のクリスタルが有れば、条件を満たした場合に意図せず起動するように仕向ければいいだけになる。
「特定の条件に合致する行動を取ろうとした場合に、当人の意思に関係なく自爆のキーワードを発動する。その行動の意味を知らなければ抑止効果も働かない。自爆の核となるマジックアイテムを皮下に移植すれば、魔術無効化を始めとした対魔魔術の影響下でも関係ない」
発動する術は選び必要がある。対象だけを殺すだけなら火炎球で十分。だが死体が残れば敵側に情報が渡るかも知れない。爆裂業火辺りを仕込めば、周囲と合わせで跡形も無く消し飛んでくれるだろう。
「……だけど、そう言うのは俺の好みじゃないですね」
「でしょうね」
分かっていて一応候補に挙げるのはひでぇ。
「それであれば腹を割って話し、説得するしかありませんね。いつも通りでしょう」
「簡単に言いますね」
「そうでしょうか。ウォールでも、フォレス、ホクレンでもそうして来た。むしろワタル殿が邪教徒と向き合っていないのが、私としては意外ですよ。足が欠けたままでも文句を言いに行っても驚きもしません」
「アルタイルさんの中で俺のイメージがどうなっているかは問いただしたいところですが……そうですね」
罪人に対しての人体実験はしたし、罪の軽い、あるいは改宗の意思のある邪教徒は繭のメンバー任せ。ネクロスとドワン・グローリィに関しては完全放置に成っている。あまり良くないのは確かだ。
そしてドワン・グローリィはともかく、ネクロスを協力させられれば時間稼ぎは大幅に楽になるだろう。
「……行き当たりばったりになりますが、少し話してみましょうか」
邪教徒達が何を考えているのかなんでわかりゃしない。なら、話をしてみるしかない。
コゴロウを呼んで少し方針を相談し、真偽官を交えて午後一に面会を行う算段を付けた。場所はいつも通り繭の地底湖に浮かぶ隔離棟である。
建屋内でもひときわ厳重な――といっても鉄格子と定期的に発生する生命吸収、魔素吸収のトラップがあるだけだが――8畳ほどの部屋に、二人を軟禁している。
「いまさら話など……どういう風の吹き回しだ?」
ここ数日は尋問も無く、ほったらかしにされていたグローリィが目を細めて訝しげにこちらを見る。ネクロスはの伸びたひげを摩りながら、あまり興味がなさそうに目を落とした。
「ほったらかしにしているのは『らしくない』と言われましてね……ちゃんと名乗るのは初めてですよね。ワタル・リターナー、ここの首領の様な者です」
自分の立場を何と説明するかは迷ったが、それっぽい立場と言えばこれだろう。自分で言うのはちょっと不服だが致し方ない。
「わっちはローナよ。今日のわっちは真偽官。ここでの話に嘘が無い事を保証するためだけに呼ばれた部外者だから、気にしなくていいわ」
一緒に来たのは彼女だけ。コゴロウやアルタイルさんは、この会話を隣の部屋から魔法使いの耳で聞いているはずだ。
「……なにをバカな」
「あら?真偽官の制約は知っていて?今日、この場での話に置いて全てのウソ偽りを示すと、ここに宣言するわよ。この言葉の重みが分からないなら、赤子からやり直すと良いわ」
「………………」
「さて、自己紹介も終わった所で……鉄格子を向かい合ってじゃあ、話しづらいですね。影渡り」
ぬるっと牢屋の中に移動すると、二人は思いのほか驚いたのか表情を崩した。
「……HPやMPが無くなる結界がある中に気にせず?」
「ああ、自分で作ったトラップの影響を受けるほど馬鹿じゃないんで」
死霊術師の生命吸収や魔素吸収はINTの差分値だけダメージだ。INT値が同等以上なら影響は受けない。
収納空間から一人掛け用のソファを取り出して腰を下ろすと、二人は呆気に取られたようで、戸惑いの表情を浮かべた後、一瞬目をさまよわせてから顔を引き締めた。
「さて……こちらの要件は1つだけ。ネプトゥーヌスに捕まっているとある少年を取り返す予定なのですが、力を貸しませんか?」
そう伝えると、『二人そろって何を言っているんだこいつは?』といった顔押された。
「なにを言っているんだお前は?」
口に出して言われた。
「ジョークでは無いですよ。意味もそのままです。クロノスから連れ去られた少年……孤児なのですが、その子の姉から弟を助けるのに手を力を貸してほしいと言われて、協力しているのです。で、経緯からおそらくネプトゥーヌスに居るのではないかと思っているのですが、攻め込むのはちょっと面倒なので、ご協力いただけたら宅だなぁという事で話を持ってきました」
「……話にならん」
「意味が分からねぇんだよ」
「そのまんまの意味ですけど……ここで明日もわかぬ身のまま監禁されているのもストレスでしょう?」
「……ぬぅ」
「……わけの分からいまま働かされるのはごめんだね。死んだ方がマシだ」
「お主……」
「本気で行ってるんだねぇ」
ローナさんからウソ宣言が出ない。
「……キサマらの目的は、モーリスの王子奪還では無かったのか」
「それは成行ですね」
「……どういうことだ?」
「そもそも、貴方たち自分の身の上というか、捕まった時の詳細の情報交換しました?」
なんとなくなけど、ドワンの反応が普通なので、ネクロスがモーリス王子とホクサンの領主を護送していたのを知らないんじゃないか?
疑問に思って問いかけてみると案の定、ろくに話もしていなかった。半日に一度は騒ぎを起こしていた割には会話が足らねぇな。どうやら先導して居たのはドワン・グローリィの方らしいし、狂乱戦士は普段から狂乱してるってか?笑えねぇ。
「バカな……いや、馬鹿じゃろ?」
「なんで言い直した?」
「たかだか孤児一人探すのに王子と領主を人質に差し出して、こんな奥地の適地を襲撃する!?意味が分からん!常軌を逸しとる!」
「そう言うのはお呼びでないんだよ。お前だって、自分の妻、子が攫われたら取り戻しに行くだろう?」
偶然ではあるが、ドワンは尋問で妻子持ちであることが分かって居る。そして、それを大切にしている事もだ。
「ぐっ」
「力があったからここまで来れた、それだけの話でしか無い。真偽官が口を挟まないのだから、俺の言っている事が真実だと理解しているだろう?」
真偽官の宣誓は重い。
真偽官を語れば神の罰が判り易く下る。繰り返すようならステータスが消失し、力を持たない人類に成り下がる。それは子供であっても同じだ。
そして真偽官は嘘を点けない。ローナさんはココでの話にウソ偽りをすべて示すと宣言した。彼女の立場は公平だ。俺のウソも、こいつらのウソも必ず平等に示す。
「ネプトゥーヌスは広い。調べるには時間が居る。だけど、魔物が管理している都市で自由に動けるものは限られる。城壁が無くても侵入して調べまわるなんて難しい。そこで高次職の二人、特にネクロス・ホワイト、キミには協力してもらいたいと考えているわけだ」
「もちろん。ネプトゥーヌスに居ることが確定したわけじゃないので、テラ・マテル内で調査に協力してくれるならこちらとしても有難いのだけれど?」
そう言ってドワンの方にも視線を送ると、二人は顔を見合わせた。
さて、どんな反応が返って来るかな。
行き当たりばったりで書いているので、今回も難産でした。
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