第419話 完全体
あけましておめでとうございます。
年末30日からのどの痛みと発熱でまた寝込みましたorz
2023年後半は感染症に苦しめられた歳となってしまいましたが、2024年は良い年になるよう、応援よろしくお願いいたします。
縮地を発動した次の瞬間、ボガードとの距離はほぼゼロに縮まった。
まさか捻りなく突っ込んで来るとは思っていなかったのだろう。驚いた表情を浮かべる1体に、交差する×字の斬撃を放つ。
「っ!?」
捕らえたのは分体。回避しようとボガードが発動させた縮地は、如月の雲散霧消によって打ち消され、その分体はあえなく身体を4つに分割された。
「「「まっすぐ突っ込んで来るとは思わなかったよ!しかも縮地を打ち消した!? なにそれ、どうなってんの!」」」
ボガードが若干楽しそうな声をハモらせながら、一斉にこちらに躍りかかって来る。
「答えてやる義理は無いね!」
相手の装備は……六角棍、短剣、素手に……ショートボウの分体が生み出された。手にしているのは魔物武器だろうが、使うレパートリーは集合知に在る通り若干珍しいものが多い。
矢は身体を捻って直撃を避ける。リーチの短い素でと短剣のやつは横薙ぎを避けて距離を取った。必然的に相対するのは六角棍持ちの一体。突きを躱して、一歩踏み込む。
『うちに斬れない物はないで!』
僅かに斜めに振るった文月は、相手の持つ六角崑ごとボガードの分体を二つに切り裂いた。
「オイラの装備を切った!?ほんとどうなってるんだい?」
文月の出力は80%ほど。それでもボガードの魔物武器を切り裂いて、分体を一撃で屠る能力を発揮している。
分体の消滅が早いのは、ボガード自体のHPが減っているからだろう。ゴールドスタイン卿の闘いは無駄では無かった。
「でもね、それじゃあ遅いよ?」
更に2体、ボガードが増える。杖と手甲。すでに防御は難しいと判断したか。
アーチャーに向けて魔弾を乱射、短剣使いをけん制しているところに、格闘家が潜り込んできた。これは……躱せない。
繰り出された拳を膝で受ける。ゴインッと金属音がして、衝撃が駆け抜けた。
「ハッ!」
驚いた表情を浮かべたまま、格闘家の首が宙に舞う。何が起き得たか分からなかったのだろう。
「うそでしょ?」
ボガードの一撃が比較的軽いと言っても、こちらを吹き飛ばすのに十分な威力がある。
物理限界を突破出来ていない状態では、防御でダメージを防ぐことは出来ても、姿勢を崩したり吹き飛ばされたりするのは防げない。
こいつはそれを前提に、こちらの耐性を崩すのを狙って来ている。防ぎきって意表を付ければ仕留めることは可能。
本体に向けて縮地を発動。ボガードは生み出した分体を置いて逃げると、近くにいた魔物を使って分体を生み出す。
倒すより産み落とす方が速い。そう思っているのだろう。
そして俺を取り囲むように分体を配置し、一斉に襲い掛かる。
……それが狙われたことも知らないで。
「戦い方が雑だねぇ!」
飛び掛かってきた分体は全部で10体。一人でさばける量じゃない。
……だけど、一人じゃないんだよな。
『行きます!』
弥生の音にならない声が響いた。
次の瞬間、背中から伸びた4本のアームが、それぞれ分体の身体を貫き、引き裂き、すりつぶし、叩き潰し、灰塵へと還す。
更に閃いた蜘蛛の足が3体の分体を切り裂き、文月、如月を握る両手が、ありえない軌道で2体の分体を貫いた。
そして一体は蹴りを叩き込まれて、今は左手の中にいる。
付喪神・弥生の完全体。
エルダー・ムネヨシ氏が描いたあるべき姿。
鎧だった時の追加武装である蛸の足、蜘蛛の足を自らの収納空間に収納した彼女は、人形だった時の記憶を持って、12本の手足を自在に操る生ける甲冑となった。
その動きは俺に縛られる事無く、自らの身体の一部だけを収納することにより、外装のみとなった手足すら自在に操る。今、俺たちは16本の手足を有し、各所にちりばめられた魔結晶から魔術を放つ殺戮兵器となった。
「な、なんだよ、それ!っ!!壁になれ!」
一瞬で分体のほとんどを失い、不利と悟ったボガードが魔物たちに指示を出す。
背後に回ろうとしていた奴らは3人が相手をしてくれている。気にすべきは防御魔術を展開する、目の前の魔物たち。縮地の失敗を狙って密集している。無駄な事を。
「ビットッ!」
32機のビットが一斉に舞い上がり、魔投槍、石投槍の雨を降らす。一斉射によって陣形が崩れた魔物の群れに突撃しながら、さらにウィングビット16機を展開。12機が空戦戦闘機タイプ、そして残り4機が……解放済み封魔弾を搭載した爆撃機である。
空にいる魔物をウィングビットが蹴散らし、続く爆撃機が封魔弾をバラまく。発動するのは火炎球や氷結弾。ブート込みINT2千を超えた状態で付与したその術は、直撃すれば1000G級程度なら一撃で屠る威力がある。
うちのパーティーの大物ハンター・最大火力がタリアなら、俺のコンセプトは一人で統率された大多数を殲滅すること。
圧倒的な燃費の割悪さで足らなくなる魔力も、こうして俺は素手で相手を掴むなんてことも出来るわけで。
「魔素吸収」
ボガードの分体から俺へと魔力が流れ込む。干からびるまで吸わせてもらうぜ。
「コノバケモノガッ!」
オークが、コボルトがさらに虫や鳥を模倣した魔物たちが、雄たけびを上げながら突っ込んでくる。
「そっくりそのまま返すぜ!」
そして魔物の集団に突っ込んだ。
蛸の足、蜘蛛の足展開時の弥生の速度は、高速移動を発動させたアーニャの再拘束に匹敵する。きりもみ回転しながら超速超加速で戦場を駆け抜けたそのあとには、ミンチとなって消えていく魔物の抜け殻しか残らない。
……ちなみにこのモード、俺のメインの役割はMPタンクなので、ビット出していないとできることが極端に少ない。何せ蜘蛛タコのほうが射程が長いうえ、両手両足も外装だけで勝手に動くため、睦月、如月もそっちに持っていかれる。たまにたこ足から供給される魔物からMPを吸収するのがメインのお仕事である。
まぁ、術師の完成形は砲台だから良いんだけど。
「炎裂砲」
側方から迫ってくる一団を中級魔術で吹き飛ばす。
前方にボガードの本体をとらえた。
「今更逃げるなよ、ボガードッ!」
「想像の100倍厄介だねッ!キミはッ!!あの時全員で殺すべきだった」
「いつの話かなっ!」
「こっちの話しさ!ぐ!?」
複数の砲撃がボガードを取られえる。
ボガードの分裂は、あいつの二つ名通り影をベースにしないと速度が著しく落ちるのだろう。ゴールドスタイン卿は闇払いでやつの能力を抑えたのに、そのメリットを決闘空間で相殺してしまった。
今この状況なら、あいつは全能力の半分も出せていないだろう。このまま技の関与する余地なく力で押しつぶす!
「……このままじゃ……厳しいねっ!」
ボガードから放たれる魔術を盾で防ぎきる。おそらくアロー系だろうがこちらの防御を抜くには火力が足らない。
最高速はこっちのほうが早くて、縮地による回避・追撃の差は生まれない。周囲の取り巻きの数も一気に減った。これでっ!
ビットが爆撃によって視界を多い、きしむ駆動音を響かせながら回転する蛸の足がボガードに迫る。
三又の爪先に理力の剣を発動。音速斬りを乗せた一撃なら、たとえ10万G級の防御だって抜ける!
「……オイラも……奥の手を使うよ」
そのつぶやきは、いやにはっきりと聞こえた。
甲高い金属音が響いて、蛸の足の先端が宙を舞う。
切られた!?弥生の防御を易々と!?
『弥生!』
『っ!大丈夫、ですっ!』
こっちの防御を易々抜けるだけの攻撃手段を、この段階まで隠してたってのかよ。
「キミたちは後ろの3人を防いでよね。倒さなくていい。じゃまさえ入らなければね」
砂塵舞う中、ボガードの声が響き、その姿が現れる。
その手には不釣り合いな一本の大剣が握られていた。
「……ゴブリンの王剣。これを抜くのは100年以上ぶりかな?」
ボガードが静かに語る。
……こけおどしじゃない。放たれている魔力の量が異常だ。普通、魔物を探知したときの魔力量は変化しないはずなのに……これは……エリュマントスやプリニウスを軽く超える。
「……数で押すお前の奥の手が、古式ゆかしい大剣とはな」
「オイラは数でら戦うんじゃないよ。可能性で戦うのさ」
そう言ってボガードが剣を掲げると、上空から忍び寄って居たビットが爆散した。
「さて、この剣を出したからには、少し話に付き合ってもらうよ」
「こっちはその気は無いんだけどな」
「……死合ながらでいいさ」
ボガードが大剣を構えた。……ヤバいね。蛸の足を切れたってことは、気を抜くと即行で三枚おろしにされる。
「すぐに決着、なんてつまらない事には成らないでくれよ」
ボガードの言葉と共に、奴の姿が掻き消えた。
書いてなんだけど、完全体触手モードとか魔物の取るべき姿なんよ。
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