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第352話 銀牙のウォルガルフ 4

十文字切り(クロス・スラッシュ)!」


縮天を使ってウォルガルフの目の前に飛び出すと同時にスキルを乗せた斬撃を放つ。

2本の太刀を用いて振るわれた斬撃を、ウォルガルフは咄嗟に両腕で受ける。その衝突の衝撃は人の身体など容易く吹き飛ばす反作用を生み出し、互いに吹き飛ばされながらも地面に着地した。


「痛ってぇ!ずいぶんな登場だな!極めし者(マスター)!」


「脳筋指揮官が攻め上がってきたからなっ!」


村の西門正面。堀が埋められた幅数メートルほどの道を挟んで互いに向かい合う。


「てめぇら!手出すんじゃねぇぞ!」


「たくさん連れてきたザコ共の手を借りなくていいのか? まぁ、借りた所で無駄だがな」


「ぬかせっ!てめぇこそ、仲間の影に隠れて震えてた方がマシだったって、すぐに思い直すだろうさっ!」


次の瞬間、ウォルガルフの足元が爆発するると同時に、その拳がが眼前に迫る。

っ!早い!

ギリギリ、わずかに身を反らして、鎧で拳をそらす。インファイト過ぎるとちょっと不利なんだよな。

ステップで距離を調整しながら斬撃を放つ。


「こないだより早いじゃねぇか!」


「そりゃどう、もっ!」


この数日、新たな亡者のレベル上げに合わせてダンジョンで経験値を稼がせてもらった。

石斬り・睦月の経験値稼ぎとしてゴーレムを、霞斬り・如月の経験値稼ぎとしてワイトキングをしばき、自身のトレーニングとして竜戦士(ロンリー)と戦った。

結果、魔剣士のレベルは41まで上がり、物理限界を突破するパッシブスキル、方力集中、空力突破を獲得している。


方力集中は力の分散を抑制するスキル。

人は地面を蹴った時、地面との摩擦と反作用によって身体を進める。しかしステータスで強力になった力は、容易く静止摩擦係数を振り切って足は地面すべり、また同時に表層を砕く。結果、地面を蹴った力は速度に変わらず、一定以上速度は上がらない。

方力集中はその分散する力を一方に集め、反作用を正確に身体に伝えることによって物理限界を突破する。


空力突破は物体が動いた時に必ず発生する空気抵抗を抑制するスキル。

身体を包み込むように滑らかな魔力の薄い膜を張り、さらに進行方向に伸びて抵抗の少ない流線型となることで身体に当たる抵抗を減らす。

全力で動くと感じる、まるで水の中にいるかのような空気の抵抗が、このスキルを覚えたことによって格段に軽減されている。


「いいねぇ!満月まで待った甲斐があるってもんだ!」


ウォルガルフの連打を太刀も使って受け流しながら何とかさばく。

こっちもこの間より早い! 何か条件によって能力が増すスキルを持ってるな。


攻防の頻度は五分五分、だがこちらの攻撃は手足で確実にガードされている。

ウォルガルフの攻撃は鎧も使って受け流して何とかだ。

スキルも混ぜるが、劇的な効果はない。ウォルガルフに当たる瞬間、魔力が乱れて効果ごと打ち消されているように見える。威力を上げるスキルはやはり効果が無いな。


唯一ダメージに成りそうなのは突きだが、ぶっちゃけ受けてくれるほど甘くはない。


「今日は仲間が多いからな、手数を増やさせてもらう!ビット!」


4機のビット周囲を飛び、ウォルガルフに向かって魔弾を放つ。


「なんだこいつらっ!」


「こっちも行くぜ!」


魔術を織り交ぜながら、スキルを乗せた斬撃を連続で放つ。


「うぜぇ!」


ウォルガルフはビットの砲撃を的確に避け、弾いてくる。

こいつ、背中に目でもあんのか!

魔操法技(クラフト)も混ぜて攻撃してるのに、大きなダメージに成りそうな攻撃は防御してくる。

攻撃頻度はこっちが圧倒的に増えたが、この戦い方はMPの消費も激しい。持久戦はしたくない。


「へへっ、だいぶ分かってきたぜ!そこっ!」


ステップと同時に背後に回ったビットが叩き落とされた。


「っ!人形爆破(スーサイド・ボム)!」


「うぉっ!?」


撃墜されたビットが爆発して爆炎をまき散らすが、大したダメージには成っていないだろう。

ウィルガルフのHPを削り切る前にビットとMPが尽きるわ。


「こんなスキルも有んのか。しかし、うっとおしいだけだな」


黒煙の中からウォルガルフが姿を現す。

……やはり、この方法じゃだめだな。倒せたとしても消費が大きく、時間もかかりすぎる。


「仕方ない。本気を出すか」


霞斬りを鞘に戻す。対魔魔術がメインの霞斬りは、おそらくほとんど効果を上げていない。

ウォルガルフは素が固い魔物。なら、睦月に全力で魔力を注ぐ。


『睦月、いけるかい?』


『……………………ぁぃ』


僅かに同意の意識が感じられる。


「……けっ、今まで本気じゃなかったってか?」


「本気だったさ。ただ、お前に合わせた戦い方に替えてやるよ」


石斬りはもともと斬るための太刀だ。俺の意志に呼応して、斬りたいものだけを斬る。

その切れ味は、岩石を容易く斬る。割るでも、砕くで、削るでもない。斬る。

硬いだけのウォルガルフの防御、斬れない道理は無い。


「参るっ!」


踏み込みから魔操法技(クラフト)魔弾(マナ・バレット)。タイミングをずらして疾風斬りを発動。すくい上げるように喉を狙う一撃を、ウォルガルフは実を捻って避けた。


けれどこの一撃はブラフ。

呪法によって発動した念動力が、物理限界を突破するパッシブスキルを合わさって無理な動きを実現させる。


音速斬り(マッハ・スラッシュ)


斜めに斬り降ろす斬撃を、ウィルガルフは腕て受け……。


「がっ!?」


防御のために力を込めたその太い腕を半分切り裂いた。


「ちっ!」


斬り落とせるかと思ったけどダメか!

まだ魔力が足らないか、それとも睦月の練度が足らないか。


「いてぇ!くっそ!なんだそれ!」


「答える義理は無いね!」


技という点において、今の俺ではウォルガルフを上回れない。体勢を立て直されれば分が悪くなる。

このまま一気に攻め切る!


スキルを混ぜた斬撃と、残ったビットがウォルガルフに襲い掛かり、確実にダメージを与えていく。

睦月の相手の防御の上から確実にダメージを与えていく。魔物であっても、目に見える損傷が増えれば動きはそこに引きずられて悪くなる。


このまま一気に!


『ワタル殿、上である!』


一気に勝負を決めようと踏み込んだその時、コゴロウからの念話(チャット)が飛んだ。

咄嗟に縮地を発動して交代したその目の前で、閃光が降り注ぎ地面が爆ぜた。


「っ!?」


「てめぇ!」


「ずいぶん手こずっているようなので、水を差させていただきますよ」


頭上十数メートルに、フクロウ頭のバードマンが音もなく浮いていた。

他にもいた数万G以上と思しき魔物の一体か!サーチで警戒はしていたのにどっから!?


「私の名は静かなるヘドウィグ。天鳥人(ウィングマン)・イーヴォ様の配下が一人。短い間ですが、お見知りおきを」


「不意打ちとは卑怯であるな」


「コゴロウ!」


『アレは実力者が少数で当たるべき相手である』


『その様で』


戦場にひしめく魔物の数は半分以下に減っている。あいつらを抑えて置けば、他は今出ているメンバーでも対処しきれるだろう。


「……ちなみに、まだまだいますよ?」


そいつがそう言った瞬間、複数の魔力反応が敵陣で膨れ上がる。

ウォルガルフ級の反応が……3つ!?


「秘匿が専門かっ!」


「そう思われるのは不服ですが、得意ではありますね」


これは中々……タフな戦いだな。

アルタイルさん達に頑張ってもらわないと成らない。


「ずいぶんと戦力を集めてくれたようだな」


「けっ……ボスがホクレンを潰すってんじゃ、俺達はやることがねぇからな」


「っ!……混沌の獣(カオス)自ら出撃か」


可能性は考えていたが、潰すつもりで攻めて来るのはちょっと想定外。

持久戦をするつもりかと思ったが、人を集めて一網打尽とか珍しい戦略だねぇ。くそが。


「プリニウス様が自ら出撃してくださったので、こちらにほとんどの戦力を差し向けてみました。ホクレンが無くなるのが先か、それともここが消えるのが先か。どちらだと思います?」


「どっちもねぇな」


「強がりを。あなた方、特に竜殺しはイレギュラーでしたが、分散してくれて助かりましたよ。ホクレンが想定兵力どうりなら、街を潰すだけならプリニウス様だけで十分ですからね。こちらに兵力を向けるのは当然……そう言えば……」


「……バノッサ・ホーキンスはどうした?」


「さぁてね?」


ここの防衛指揮は最初から俺、コゴロウ、アルタイルさんの3人で取っている。


「……出し惜しみして死にますか?」


「別に全員居るって言った覚えはないんだけどね」


敵の狙いはあくまでホクレンであることが分かっていた。

こいつらを蹴散らして、敵軍の後ろから攻撃出来れば最良の形だったが……時間稼ぎを()()()()()の対策も当然している。


「馬鹿の一つ覚えで力押しを始めた脳筋のケツに、焼けた鉄棍でも突っ込んでる頃じゃないかね」


………………。


…………。


……。

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