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第349話 奇跡の現実的な方

『さて、一人の復活に半時も掛けていたらいつまでたっても終わらないのでマキで行きましょう』


『情緒もくそもあった物じゃありませんな』


『まぁ、お下品』


実際情緒は無いよ。レベルアップで覚えるスキルを行使しているだけだからね。

細かい説明は省略して、後は多重詠唱(マルチキャスト)を使って一斉に修復と再填を行った。


『肉体の損傷を直してるからまだいいけど、これそのまま起こしたらホラーよね』


『うん。さすがにそれは愛せないと思ってね』


幸いにしてMPは依頼者でもあるご家族御友人から吸収できるし、ウォールから運んだ食料はそれなりに確保できている。

説明は簡略化して、まず一時は団欒を楽しんでもらおう。そのためにわざわざのぞき見できるようにしてもらい、さらに拡声魔術を使って声も届くようにしたのだ。


『実際の所、多数の亡者を俺のMPで目覚めさせたままにするのは現実的ではありません。今日は20人ほど。残りは何日かに分けて施術していきます』


仮初の命を使うにしても当人のMPは必須だ。

最低でも600、これはレベル50で転職するのであれば、魔術師系2次職の後半に当たる。そのレベルで何とか()()()()()()()生活が可能になる。


街の中で生活する事を考えれば、900以上、可能であれば1080ほどのMPが欲しい。これで365日毎日欠かさず魔物を狩る生活が何とか維持できる。これは術師系3次職中盤に当たるMP量だ。

丸一日以上魔物を狩らなくて済むようになるのは1440以上、これは普通であれば4次職に成らないと難しい。実質的に、亡者が普通に生きるのは困難である。


俺と行動を共にしている亡者たちは、ダンジョンでのレベル上げと魔術系1次職の極めし者(マスター)に成っていることもあって、何とか外でも活動できているが、当然今回ホクレンで起こした者たちにそんなステータスは無い。

とばりの杖を使うにしろ、軍の目があるこの周辺では難しい。起こした亡者たちの今後を考えるなら、責任をもって生活できるところまでレベル上げを行わなくてはならない。さすがに一気には無理だ。


『それから、ちょっと確認したい人が何人かいます。かまいませんか?』


『確認ですか?ええ、問題ありませんよ』


最初の9人が家族や友人との再会にむせぶ間に、地下墓所でリストの死者を確認させてもらう。

……ステータスの名前、身体的な特徴は一致。おそらく当人だろうと思われる。


『……こいつは商会付きの窃盗・襲撃実行犯、こっちは平民を殺して放逐された元貴族の次男、この男は誘拐犯としていくつかの都市国家で指名手配されてますね』


個人情報が少ない集合知でも、犯罪者の情報は記録されている。


『まさか……奴隷ではありませんよね?』


『ええ、記録上は』


『街に入るときに捕まるはずでは?』


『免責、つまり罪を償ったことに成って居れば監査に引っかかりません。金を積んだんでしょう。罪の免責は各領地の統治者が可能です』


窃盗犯は商会の指示で、敵対する商会で盗みを働いたり、商隊を魔物に襲わせたりした記録がある。これは癒着した貴族が口利きをして商会が罰金刑で済ませている。

元貴族も複数人の平民を間接的に殺害して入り、直接手を下した事件で家を追われているものの、自らの邦に戻らない事を条件に免責。

誘拐犯の男は国外犯だ。クーロンの法には引っかからない。


『私が持っている情報は少し古いモノなので、余罪がある可能性もあります。蘇生を申請した人物も含めて調査した方が良いと思います』


彼らの名前を見ても心当たりがない。おそらく偽名だろう。

そんなに人望の在る人物とも思えないが、何かしら隠し財産を有しているとかそんな感じかな。


『……冒険者ギルドと連携すればよろしいか』


『ええ、ギルド長が戻っている今ならそれで動いてくれるでしょう』


『……しかし、その様な情報何処から?』


『人の口にとは立てられないという事ですね。後は……便利ですよ』


想起(リメンバー)の魔道具の存在を伝えると、それで納得してくれたようだ。


『他の亡骸も調べます。身元が分からない人から順に確認させていただきます』


死者分析(デッドマン・リサーチ)を使って死因を確認し、屍体操作コープス・マニュピレイトでステータスを確かめる。割と地道な作業だ。


小一時間ほど調査を行った後、別のグループに人格再填(リ・ロード)を施しつつ、先ほどの一団に今後についての説明。

流石に20人も起こしていると、MPの消費が半端ない。

親族から魔素吸収(マナ・ドレイン)でMPをもらっても、一般職では焼け石に水。


それでもあまり急かすことはしたくない。意識を取り戻したら自分が死人となっていたのは、それなりにショックだったようだ。

まぁ、『死にたくなったらいつでも殺すんで、とりあえず亡者やってみたらどうです?』と笑顔で問いかけたら、最後にはみんな頷いてくれた。何だろう、前より微妙に怖がられている気がする。


亡者としての活動に賛同してくれたので、その後は全員魔術師系の職にいったん転職してもらう。

神聖魔術師、暗黒魔術師、方士などの魔術師系だが極めし者(マスター)まで至っていない職も転職。こればかりはどうすることも出来ない。


それから手配してもらった重力の魔術師に頼んで質量軽減を施してもらう。アルタイルさんを残して来られたのは、この当てが付いたから。

遺族の方々には狂信兵団を紹介。商業ギルドは現在機能停止中なので、冒険者ギルドに話をまとめてもらう。


一連の手続きを終えたのは夕方だ。

ホクレンに滞在している際に借りているギルドの一室に戻ったら、受送陣を設置。


「それじゃあ、俺は(コクーン)に行ってくる」


「忙しいわね」


「あんまり時間がない。混沌の獣(カオス)・プリニウスが大攻勢をかけるとしたら、おそらく次の満月の日。もう一週間切った」


集合知で調べた限り、プリニウスは力量が安定しないタイプの魔物だ。

そしてこれまでに大きな事件となった攻勢は、満月の夜か新月の夜に起こしている。おそらく周期的に能力が変わるタイプなのだろう。


「一度3時間くらいで戻るよ」


「晩御飯は?」


「戻ったら一緒に食べよう。酒は抜きだけど」


「……解毒という手もあるけど」


「そこまでして呑むんじゃありません」


アルコールフリーのカクテルとかも研究するかな。俺にはそう言うの記憶ないから、市から生み出さないといけない。

お茶もあるのだが、クーロンだと漢方の意味合いが強い者が多い。

どこも白湯か酒だったら酒を飲むという文化だからなぁ。

……あとにしよう。


石板の見張りでタリアを部屋に残し、(コクーン)からダンジョンへ。ワープを駆使して6階層へ。

目的は新人の中でも特に実戦経験のない数人のレベルを上げること。質量継電の効果時間があるから、全員は出せない。村に戻った時に彼らのお守りがたくさん必要だと手が足りないので、開いている時間にレベル上げだ。


とりあえずエンチャント装備を渡してコボルト地獄に突入させる。数は多いが100Gちょっとの魔物である。

慣れない職で、とつぜん何処か分からないダンジョンに放り出された新人たちは阿鼻叫喚ではあったものの、一度は死んだ身(二度も死にたくない)と自らを律し、頑張ってくれたおかげでそれなりにレベルを上げることが出来た。

この分なら、数日で極めし者(マスター)まで持って行けるだろう。


一安心した俺は終始笑顔だったが、参加した亡者さん達の顔色は悪かった。

死んでるから仕方ないね。

感動的な奇跡だけじゃすまない、あれやこれや。


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