第345話 飛行船を待ちながら
「何から何まで済まないね。あんたのおかげで、捕まる前より装備が充実した位だよ」
「いえいえ。危険な旅になると思いますが、手紙と荷物のほう、よろしくお願いしますね」
「ああ、任せなよ。必ず届けるからさ」
グロースさん達四人は、そう言って東に向かって旅立って行った。
東の街道を進んだ先に居るはずのアース狂信兵団へ、この村の事を伝えるための手紙とアイテムを届けてもらうのだ。
クランはパーティーを分散して幾つかの村や町に残しているようなので、おそらくどこかで接触できるだろう。
まぁ、無理でもシャクーまで飛べばコリンさん達に話が出来る。つまり保険だ。
彼らとは別に、バノッサさんに頼んで飛行魔術でホクレン、シャクーにメッセージを送ってもらっている。
昨晩、戻って来ると同時に飛び立ってもらった。『人使いが荒い』とぼやいていたが、たかが30キロくらいの距離ならどうにでもなる。
繭から合流した亡者たちは16人。出発の時にうっかり着いて来られなかったアル・シャインさん――ダンジョンで3次職である守護騎士に到達――や、元ハオランの部下のスコットさん、それに女性に弱いベンさんや血の気の多いボーマンさんも合流だ。
これで亡者の約半分が試練を突破したことになる。
ちなみに、進人類は死んでいても成れるかもしれないとのことで、エルダーの皆さんが熱心に勧誘している。なれるかは不明だけど何事もチャレンジらしい。何人かはそっちに進むかもしれないな。
捕虜だった二人、シャンさんとムーさんはアル・シャインさん達の手を借りて引き続き周辺を調査中だ。二人の仲間がホクレンに戻っていないかは、バノッサさんが確認してくれる手はずに成っている。
これで臨時拠点の戦力は60人ほど。西に居るアース狂信兵団との合流がうまくいけば一中隊くらいの人数になる予定だ。
繭からの合流者のおかげで村の守りは余裕が出ると、村に居てもやれることは多くない。俺とコゴロウは走って周辺を探索しながら、魔物狩りを行っていた。
「それで、名前は付けたんですか?」
「うむ。某が付けて良いか迷ったが、これも何かの縁。どうやら気に入ってくれたようなのである」
サーチで見つけた魔物の群れを切り刻みながら、話の主軸はやはり付喪神について。
付喪神の真名は余り教えないほうが良いとの話なので、詳しくは聞いていないがうまくいったようなら何よりだ。
「まだ言葉に成らない音であるが、確かに意志を強く感じるようになったのである」
「うらやましいですね。うちの子たちはまだそこまで行きません」
鎧の弥生は声をかけるとたまに反応してくれるが、二振りの太刀はまだまだだ。
ただ力のコントロールの仕方はちょっと理解した。防具を装備している魔物について、石斬りで防具だけを綺麗に斬る、みたいな力加減は、話しかけながらやるとやりやすい。
霞斬りの方でも魔術効果の『一部だけ』を斬れないか試行錯誤中。意味があるかは分からないが、とりあえず試してみている。成長につながってくれるなら儲けものだ。
「オノレ!キサマダケデモっ!」
剣を振り回しながら襲い掛かって来ているのはオーガの剣士。
能力は5000Gくらいか、この集団のリーダーだったようだ。
『睦月、スキル無しであの剣を切りたい。行ける?』
魔物武器の破壊はスキルを使ったほうが早い。けれど一定の威力があれば、武器破壊を使わなくても可能。もちろん、この場合は鉄を斬れねばならないが。
今は一刀だけ。帰ってきた反応はYES。
最大火力を狙うなら、石斬りか霞斬りのどちらか一方のみを使う方が良いという事にようやく気付いた。
太刀に魔力を通したら、後は扉を開けておくだけ。それで睦月は勝手に魔力を調整して循環させてくれる。
ガキンッ!
剣と太刀がぶつかって火花が散る。
一撃では無理か。しかし相手の振るう大剣に、こちらの刃がわずかに食い込んでいた。
フェイントを入れながら追撃。さすがに身体能力が高いだけあって、スキル無しの俺じゃ手玉に取るのは難しいが……ステータスはこちらが上だからな。
フェイントから見え見えの大上段。当然、相手はそれを剣で受ける。
力を籠めて振り落とした瞬間、大きく魔力が動いた。
「フガッ!?」
太刀は音も無く足元まで突き抜ける。オーガの剣は真っ二つに切り裂かれていた。そして防御したはずの身体も……。
『……よくできました』
俺が気合を入れて魔力を籠めるより、睦月に気合を入れてもらったほうが明らかに強い。少なく見積もっても、切れ味強化系のスキル一つ二つ乗せる程度の効果がありそうだ。
MPの節約にもなってありがたい。
「この周囲の魔物はこんなものであるか?」
「みたいですね。逃げられたので取りこぼしはありますが、100G程度の魔物なので放っておいてもよいでしょう」
今の魔剣士の状態では探索範囲は出来ても、逃げる敵を追いかけるスキルが足りていない。
AGIとDEX参照のスキルである縮地や縮天では、影渡りほど広範囲をカバーできないからだ。
死霊術師の方がこういった作業は向いているのだが、睦月・如月に太刀としての経験を積ませるなら魔剣士の方が都合が良い。
悩ましい所である。
「しかし、コレだけ時間かけてもダンジョンでワイトキング殴ってた方が経験値は稼げるってのは、報われないですね」
「あそこは特別であろう。 代わりにドロップは稼げているのである」
「そうなんですけどね。……経験値は、受送陣つかってダンジョンに行ったほうが早いかなぁ」
現在38レベル。昨日、今日の戦いで1レベルだけ上がったがあまり大きな変化はない。
コゴロウ・バノッサさんは大物を倒したから稼げてるけど、俺は繭を出発してから1レベル上がっただけだからな。成長が足りない。
「問題はレベルを上げる程度で勝てるのか、というところであろう?」
「……その通りなんですよね」
「ワタル殿のステータスはかなり高そうであるからな。多少のレベルアップでは効果が無い。そう思って、腰の物など準備しているのでは」
そう言ってコゴロウは鎧の上にまいたウェストポーチを指さす。
「ああ、これですか」
「昨日、繭から戻ってからであるな。向うで何か助力をもらえたであるか?」
「ん~……まぁ、秘密兵器と言えばそうですね。使わなくて済むならそれに越した事は無い装備です」
収納空間にしまわずにいるのも意味はあるのだが……いろいろな事態を想定して作ったものの、やはり気は進まない。長やムネヨシさんからも、使わなくて済むならこした事は無いとお言葉をいただいた。
「これ以外にも奥の手は仕込みましたよ。でも、魔物相手はやっぱり地力だと思うんですよね」
「それこそ、地道に行くしかないであるな。……まだ時間は大丈夫であるか?」
「そうですね。またひとっ走りしますか」
行軍を発動して、また山野を走る。
タリア達が到着する夕方までの間に、広範囲に散っていた複数の魔物の群れを壊滅させた。
1万Gを超える大物は居ないもののそれなりの収穫。これでホクレン以外にこの拠点も攻略対象に成ってくれると、魔物を探さなくていいからありがたいのだけど。
いつもは勝手に起こるマッチポンプ作戦、うまく動くかは向こうしだいだ。
街の関係や人の移動を判り易くするため、挿絵として簡易地図を導入してみました。
『第337話 岩山の集落跡にて』にもウォール~ホクレン周辺地図を追加掲載しています。
貴方のブクマ、評価、感想が励みになります。
下の☆☆☆☆☆をポチポチっと★★★★★に色変えて貰えるともれなく歓喜します。
応援よろしくお願いいたします。
カクヨム限定でスピンオフの投稿を始めました!
アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
https://kakuyomu.jp/works/16817139559087802212
外部サイトになりますが、こちらもよろしくお願いいたします。




