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第319話 渇望者たちの夕餉

「あ~……バノッサ・ホーキンスだ。今は時の賢者をやっているよろしく頼む」


「元は炎の賢者。俺にアインスで魔術を教えてくれた先生で、竜殺しだとか紅蓮だとかって二つ名がある人です」


いつものように食卓を囲んで、みんなにバノッサさんの紹介をした。


「ワタルさんの師匠の……紅蓮のバノッサさん……ですか?……えっと、人間族にしては若すぎませんか?」


「どこまで聞いているか知らんが、こいつの言われた通りにしたら若返った」


「……さもありなん」


それでいいのかは知らんが、進人類(ネクスト)達の事を考えれば若返る位は許容範囲か?


「あの竜殺しとご一緒できるとは、死んでみるものですね」


「せっかくだから中央の話を聞きてぇな。フラウ連山なんて、何百年もほとんど調査がされてないエリアだし」


亡者組は相変わらず。適応能力が高いのは死者の特性か、それとも冒険者の特性なのか……。


「ん~……知ってるような気もするんだけど、思い出せないわね」


「あたしは名前は聞いたことあるぜ!前に吟遊詩人が謳ってた!剣聖様ほどじゃないけど、凄い英雄なんだよな」


タリアは自分が戦った時の記憶を思い出しているのかな。

クロノスだと、アインスのある凪の平原のベヒモスを倒した剣聖の方がメジャーだから、アーニャの記憶が薄いのは仕方ない。


「バノッサさんの目的は中央大陸、氷竜の洞窟で氷像にされて居る仲間の救出です。ついでに魔王討伐も手伝ってくれるという話なので、仲良くやっていきましょう」


とりあえず顔合わせは順当に。

バノッサさんの感想は『よくもまぁ、これだけ抱えた奴ら集めたな』だった。うちのパーティーは訳アリしかいないしね。比較的うすいのはバーバラさんくらいか?


「ちなみに、ここではナイショの話が色々ありますから驚かないでくださいね」


「いや、もうそうそう驚かねぇよ」


とばりの杖を見ても同じことが言えるだろうか?

とりあえずバノッサさんには、魔術師の極めし者(マスター)に成ってもらわないといけないのだ。

まぁ、それを話すのは今でなくてもいいけど。


一通りの紹介が終われば、後は食卓を囲んで歓談へと流れ込む。

飯の味が分からない亡者の二人は、飛行船の護衛を変わると言って夜の街に繰り出していったので、残ったのはいつものメンバーのみだ。

気になるのはやはりタリアが用意してくれた食事だろう。


「ずいぶん変わった料理だな。うまいけど始めて食べるのものが多い」


「ワタル殿の故郷の味だそうである」


「ん……ワタルの生まれはアインス領だろ?」


「違いますよ?」


「え、いや……だってお前俺と会った時……いや、まて出身の話はしてないな」


あ、想起(リメンバー)でも使ったかな?

バノッサさんは初心者(ノービス)だった俺を知ってるから、アインス領の出身だと思ったのだろう。初心者(ノービス)が長旅をしてきたとか普通考えない。


「じゃあどこ出身だよ?」


「遠い遠い異邦の地ですよ。文化的には東群島やクーロンはちょっと近いですけどね。どこと言っても知らないですよ」


適当に地名を上げて存在しても困るし、地球の話はあまりするつもりはない。長くなる。


「ワタルって昔からこんな感じだったんです?」


そんな俺の考えを読み取ったのだろう。タリアが話を変えてくれた。


「昔って、バノッサさんがアインスを出てからタリアと会うまでそんなに差は無いよ」


詳しく数えてないけど、長くても2~3週のはずだ。


「……俺と会った時から傍若無人な奴だったよ。訪ねて来るなり、授業料を値切ったからな」


「いやぁ」


「褒めてねぇぞ」


「冗談ですよ。復唱法を知ってるとは思いませんでしたから、それを交渉材料とするつもりでした」


「俺もまさか復唱法の名前を聞くとは思ってなかった。俺がアインスを出る前にこいつは付与魔術師(エンチャンター)だったけど、当時は金に困ってたな。回復屋やってたし」


「そうなの?私がワタルに助けられた時は、お金を湯水のように使ってたけど」


付与魔術師(エンチャンター)に成ってすぐ封魔弾を作り始めたからね」


よくわからない異能の所為かINTの成長がやばかったおかげで、高威力の封魔弾を売りに出せた。

レベル相応のステータスだったら、ああは行かなかっただろう。

……その前にエリュマントス戦で詰んでるか。


「ワタルが金に困ってるのは想像できないな」


「そうですね。むしろありすぎて困ってるのは見ましたけど」


「資金があるのは良い事である。金の心配をせず鍛錬に励めるのは贅沢であるからな」


違いない。そのために早めの金策をしたしな。

エンチャントアイテムの売れ行きが今一だったら、今も治療術の方で稼いでいたことだろう。


「俺はお前のその多彩な発想がどこから来たのかが知りたいよ。普通は知らねえことも知ってるしな」


「む。……賢者殿が教えたわけでは?」


「俺が教えたのは初級魔術だけだぜ?」


「あはは。まぁ、俺のアイデアの出所は俺の国ですが……それはまぁ良いじゃないですか。とりあえず便利で困ることも無いでしょう」


「そりゃそうだ。……まぁ、飯の上手い不思議な国って事だな」


「そう言う事ですね」


詳しく知らないコゴロウも、そこについては聞いて来ない。

コゴロウはこちらに付いてあまり踏み込んでこないからな。自分の任務を果たした後の事はその時に考えるというスタンスだ。それまでは気にしないつもりらしい。


「なあ、中央で戦ったドラゴンってどんな奴だったんだ?」


「む、その話は某も興味があるのである」


「お、聞きたいか?すげぇぞ」


バノッサさんは中央大陸での冒険を語り始める。

……仲間を助ける方法に目途が立って、当時の事を語るのに抵抗が無くなったようだ。

思い詰め過ぎて良い事は無い。肩の力が抜けているのは良い事だな。


その後はバノッサさんの武勇伝を聞いたり、コゴロウがそれに対抗したり、バーバラさんが親父さんから聞いたというベヒモス討伐の話を聞いたりと、普段は話題に上らない会話を楽しんだ。

俺も久々にエリュマントスとの戦いを振り返った。スキルの乗った魔物の所持品をぶんどれるのに皆驚いていて、そう言えば話してなかったなと思い返した。


タリアにいい感じで酒が回ったのでそろそろお開き、となった後、食卓を片付けて部屋に引っ込もうかというころ、少しだけと、再度バノッサさんが声をかけてきた。


「何、別に他の人に聞かれてまずいって話でもないんだが……俺も又聞きくらいの眉唾な話なんだが」


「ニンサルで何か聞きました?」


改まって話をするとしたらそれだろう。

ここニ、三年の事を除けば、大抵は集合知で把握できる。あの辺で思い当たる情報は無い。なんだろう。ロクな話では無い気だするけど。

そう思っていると……。


「……勇者って、聞いたことあるか?」


ずいぶんと懐かしい単語を聞いたのだった。

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