第290話 亡者たちの休息
亡者たちの力を借りてダンジョンの攻略を始めてさらに数日。
結構な速度で5階層の探索が進むものの、問題も出始めていた。
「1階層から3階層までのダンジョンも縮んでいるようである。冒険者たちの密度が上がって、安全に放ったがトラブルが増えたと。それを避けて2階層より先に遠征する者も増えたようなのである」
冒険者ギルドに状況確認に行ったコゴロウから報告を受ける。
「やっぱり、3階層に冒険者が増えたのは気のせいじゃないんですね」
ダンジョンの力を削ぐため、俺達が入ってきた3階層の攻略もしてみたところ、索敵に他の冒険者が複数回引っかかった。
その時は接触せずに済ませたのだが、浅い層は攻略が難しくなっている。
4階層はだいぶシュリンクさせたし、攻略を5階層だけに絞るべきか。……難しいな。
魔物側もこちら側の目的に気づいたのか、通路を封鎖しての遅滞戦術と飽和攻撃を取るようになってきた。細い通路で防御型の1万G級と打ち合うと、先に進むのが困難になる。
しかし弱体化を狙って他の階層を攻めるのは難しいか。
「やはりここは一撃玉砕の精神のもとに一気呵成に攻めるべきでは?」
「貴方たちは死に過ぎです」
繭の広場に正座させた総勢14人の亡者。ダンジョン攻略の死亡回数トップランカーの皆さんだ。
「亡者の身体は死なないからって、無茶な戦い方をすると元の肉体が無くなりますよ」
首が飛んだり、腹に穴が空いたりと、なかなかに酷い死に様をしてくださっている一部の亡者の皆さん。
原因は幾つかあるが、それにしたって既にトップは致命傷5回だ。もう少し命大事に戦ってほしい。
「まず、皆さん生前より能力は上がってますが、連携はまだまだです。特に魔術師組は慣れてないのでサポートが不足しているのに、前衛がそれを考慮せず突出されてはフォローが回りません」
2次職になったばかりだった亡者は、このダンジョン攻略で結構景気よくレベルが上がっている。
元々ほとんどが前衛で血気盛んな男たちが多いので、突っ込んで大ダメージを受ける、なんてことがちょいちょいある。
幸いにして蘇生?出来ないほどやられた物はいないが、数人は屍体操作が切れてしまったものもいる。気を付けてほしい。
「死を恐れぬ不死身の兵団の力を見せつけてやろうかと」
「それは実際に突っ込む兵が言うセリフじゃないんよ?」
この脳筋ズめ……生前、よくまともに冒険者が出来ていたものだ。
「あまりダメージを受けられると、装備の損耗が大きくなるので気を付けてもらいたいです」
と、クレームをつけたのは彼らに新しい装備を提供したバーバラさん。
亡者のダンジョン攻略を始めた翌日から、1日で作った武器や防具の1割くらいが破損して戻って来るのはさすがに口を出さずにいられなかったらしい。
彼女の要望もあって、こうして反省会を実施している。
「ご厚意で装備は労力だけで作れますが、労力はかかっています。いくら駆け出しの鍛冶師でも、2次職用に調整した装備を使い捨てされては溜まりません」
「それについてはもうわけなく……」
「わかっているならむやみな突撃は止めてください」
亡者に対しては術者である俺より、なぜかタリアやバーバラさんの方が主っぽい。
人格再填は生前の人格を肉体に宿すだけで、術者の命令を聞くようになるわけじゃないからなあ。
「はい、そんなわけで攻略の手立てはこちらでも考えます。皆さんは無理な突撃は止めて、安全第一の生前の戦い方をちゃんと実践してください」
なんで死体に安全を説かなきゃならんのだろうね。
ため息をつきながら、魔石からMPを吸収する。
「今日の休憩はブラボーとエコー、時間は3時間です。それ以外はまた明日お願いしますね」
仕事を終えた亡者の一部には息抜きを兼ねた休憩を、それ以外はまた収納空間に戻ってもらって明日の攻略に備えるのだ。
亡者たちも繭では好きに動いで良い事になったので、皆思い思いに休暇を楽しんでいる。
飲食は不要で味覚も弱いので、休暇中の娯楽としてはリバーシやジェンガなどのゲームが人気。後は新しく覚えたスキルを試すとか、地底湖に釣りに行っている者もいる。
「バーバラさん、今日の分は大丈夫ですか?」
「……明日の朝までに、足りない分は仕上げます」
「すいません。お願いします」
武器が無ければ人だけいても意味がない。
ため息をつきつつも楽しそうなバーバラさんを見送る。後で夕食の差し入れを届けよう。
「そろそろ某の太刀に命が宿ると言われているのである。終わったら某も攻略に参加するのである」
「あ~……最初っからで大丈夫ですか?3階層でザコ狩りで試しても良いと思いますよ」
「これまで通り使って問題ないと聞いているのである」
「了解です。ならお願いします」
5階層の攻略は中々に過酷。この数日で倒した1万G級は10体を軽く超えている。
その内3体ほどは俺も直接戦って撃破し、おかげでレベルは47まで上がった。もう1万G級を倒してもその場でレベルが上がったりはしない。やはり普通の2次職より上がりづらいかな。
数日に1回ダンジョン攻略にしているアーニャやタリアは、それぞれ高速移動スキルを習得するところまでレベルが上がった。
斬り倒した魔物はかなりの数になっており、武器の魔力蓄積は良い感じとのことだ。コアを倒せば付喪神化の条件を満たせるかもしれない。
「この後はどうするであるか?」
「タリアの様子を見に行きます」
タリアは突貫で精霊同化という技術を学んでいる……はずなのだが、ここで訓練を初めて数日後、街で巫女系2次職の神凪に成って戻ってきた。何かあったらしいが、詳しくは教えてくれないのだ。
神凪は集合知にも伝聞系でしか情報が無い。今の時代には居ないのかも知れないな。
メジャーなスキルは把握しているが、能力の全容は把握しきれていない。落ち着いたら情報共有をする必要がある。
「……では某はまだしばらく身体を動かしているのである」
コゴロウと別れて神殿に向かう。
街の中に視線を向けると、時々リバーシや将棋に興じている進人類たちを目にするようになった。俺が提供した者だが、思いのほか受けが良かったのだ。
亡者に交じってジェンガをしているエルダーもいる。指が太いのでだいぶ手こずっているようだ。
中にはゲーム作成を始めたエルダーたちもいるし、来た時よりずいぶん町が活気づいている気がする。
……彼らの修行の邪魔になってなければいいのだけれど。
神殿に近づくと、その奥の森から轟音が聞こえてくる。模擬戦でもしているのか。
この処、おためしで妙なスキルを使っているようだけど、今日はさらに激しいな。
そう思っていると、目の前で巨大な光の柱が上がる。
……ほんとに激しいな。
うっかり巻き込まれない様に注意しながら、森の奥へと足を勧めるのだった。
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