第276話 知覚の試練
十分な休息とポーションを使ってMPを回復した後、再度巨大な守護兵へ挑むために俺たちは深部のホールへと足を運んでいた。
一度大破した守護兵はしっかり復元したようだ。最初と変わらぬ姿で、奥の通路の前に鎮座している。
「それじゃあサクサク進めよう。詠唱を9割終えた状態で飛び込んで、俺とタリアは石弾。狙うのは前回と別の方。3人はフェイスレスを中へ運び込むのをヨロシク」
フェイスレスは人形操作で運ぶと、ホールの境界面でぶっ倒れてしまう。
結構な重量収納空間を使わず、3人でホール内へと運んでもらうことにした。
すでに作戦はすり合わせてある。後はサクサク進めていくだけだ。
「そんじゃ、始めよう。多重詠唱」
「大地の精霊さん」
詠唱を行っている間に、タリアが精霊に呼びかける。
それと並行して足を勧めホールの中へ。1度やられたにも関わらず、守護兵は動き出さない。学習能力は無いのだろうか。
「石礫を増やして!「石弾!」」
二人で放った系50発を超える石礫が、強化増幅されて守護兵一体を吹き飛ばす。
それと同時にもう一体が動き始めた。
「よし、人形操作!」
幸いにして片方は倒し切れたらしい。胴体を完全に吹き飛ばされた守護兵が砂に変わったのを確認して、人形操作を起動。
蛸足を操ってフェイスレスを起き上がらせると、向かってくる守護兵に攻撃を仕掛ける。
「発射!」
その守護兵に石礫が飛ぶ。
「っ!」
しかし蛸足の一本と礫弾は薙ぎ払うような斬撃によって打ち払われた。早い。あの一撃は受けたくない。
オクトパスは斬撃に耐えられず、足一本が吹き飛んだ。残りの2本が足に絡みつくが……重い!
「「「発射」」である!」
再度の砲撃。ダメージになることが分かっているのか、やはり武器や盾でガードしてくる。
やっぱり盾は普段背中に背負っているのか。
『散開して防御されない位置から!』
フェイスレスから魔投槍を放つが、動きを止めることが出来ない。念動力、変成も効果なし。やはり魔術は効果が無い。
「多重詠唱……石弾!」
回り込んで石弾を放つが、速度の遅い詠唱だと気づかれるのか盾に阻まれる。
タリアの精霊強化も似たようなもの。数発は当たるが、防御されるので大きなダメージに成らない。3人が放つ単発は受けても致命傷に遠いと判断したのか、防御も回避も緩いが……ダメコンされてるな。
ひびが入った所に連続でダメージを受けない様に動かれてる。
蛸足が短いからフェイスレスと敵の位置が近くて、攻撃を避けるのがギリギリだ。
力押しは難しい。通常の守護兵より明らかに強い。
動きを注視していれば躱せないほどでは無いのが幸い。
『やはりリスクを取らねば勝利は無いのである!接近する!』
『真っ二つにされないで下さいね!』
『五人で囲んで遅れを取るほど未熟ではごさらん!縮地!音速斬!』
コゴロウがあっという間に肉迫すると、脚に向かって鋭い斬撃を放つ。
次の瞬間には離れて石弾。なるほど、MPの消費は大きくなるが、アレならダメージを増やせる。
『音速突き!』
バーバラさんもそれに習って接近攻撃を仕掛けた。
脚を破壊出来ればかなり有利になるはず。ただ接近する人数が多いとバレットが撃ちづらい。最も潰したい腕が高い位置にあって攻撃しづらいのも問題だ。
『ぬぅ、縮地に合わせて蹴りを放ってくるか!』
2度、3度とくりかえすと相手も対応してくる。
バリエーション付けないと、同じ動きだけではどうにもならんな。
『ワタル!魔石の回収できたぜ!』
その時、倒した守護兵のドロップを漁っていたアーニャが魔石を掲げで叫ぶ。
良し、これですぐに再生することは無くなるはずだ。
『アーニャ!生きてる方の核の位置は判るか!?』
『……まだ見えない!頭、右前胸、左腕、それに背中も無傷だから、多分そのどっか!足先とかだったらわかんない!』
『まんべんなくダメージを与える!』
範囲を絞って、時間も絞って、とにかく威力だけ高めて……。
「礫旋風!」
土石流と称すべきほど高密度になった旋風が守護兵を飲み込む。
しかし守護兵の動きを止めることはできない。一呼吸の間に、効果範囲から逃れてしまう。それは想定内。これで体表面には細かい傷がついたはずだ。
『……核は頭っぽい!でも右胸にも変な魔力の動きがある!』
『二つとも潰すが吉だな!』
フェイスレスのダメージが酷いが、道具は使いつぶしてなんぼ。
振るわれた剣を受け止め、残った蛸の足を絡みつかせる。
変成。絡みついた鋼鉄の四肢を接合することで、守護兵の腕を拘束した。蛸の足はこれで大破だが致し方ない。
「発射!」
多方向からの石礫を交わし切れず、守護兵がダメージを追っていく。
あと一押し!
『タリア!十字に交差するような位置で石弾!みんな巻き込まれないで!』
影渡りで背後に飛ぶと、多重詠唱と同時に石弾を詠唱。やはり詠唱魔術だと遅い。
「「石弾!」」
数を増やした石礫が、防御出来ない2つの方向から同時に降り注ぐと、守護兵の頭を吹き飛ばした。
「やった!?」
それはフラグだ!
守護兵の動きは止まらない。破壊された頭部に左手を突っ込むと、魔石を自分の胴体に突っ込んだ。こいつ、動力と術式が別か!?
「音速斬!」「音速突き!」
しかしその瞬間には、二人の攻撃が守護兵の片足を完全に粉砕した。
バランスを崩した守護兵が傾いていく。
『もう一度!』
二人が離れたのを見計らって、石弾を打ち込む。
倒れて防御が出来ない巨兵は、石礫の直撃を受けてその身をバラバラに砕かれたのだった。
………………
…………
……
「……ふぅ、お疲れ様」
気を抜くと差精しようとする守護兵をさらに砕き、魔石をゲットして魔力反応が完全になくなるのを待って一息ついた。
全員、かなりのMPを消費してしまった。勝つことは出来たけど、力押しもいいとこだ。
「だいぶきつかったわね」
「攻撃手段が速度上昇系の攻撃スキルと石弾しかないのは問題ですね」
「ちょっとちゃんとした攻略手段が知りたいね」
ゲンジュウロウさんがかつて出会った、この迷宮に挑んだパーティーはどんなメンバーだったんだろう。
2次職後半が集まってもこいつら2体を同時に相手にするのはかなりしんどいと思うのだが。
「休憩にしたいところだけど、いつ何があって復活してくるか分からないから、さっさと部屋の中を調べて先に進もう」
奥に扉があるのは分かってるけど、それ以外に何かあったりしないかな?
「ああ、ワタル、それなんだけど……ここ、何か書いてない?」
「ん?」
アーニャが指さしていたのは、ちょうど入ってきたところの壁。
黒板のように縁取りの有るパネルに、叡智の間で見た文字が並んでいる。飛び込んで守護兵に気を取られると気づかない位置だ。
古代文字の解読、集合知で出来るだろうか。構文と単語は情報があるけど……。
「えっと……知覚の試練。よく見よ。魔力を見極めて順に攻撃を当てれば、守護者は動き出すことなく道を開けるだろう。部屋の半分より前には進まぬこと」
「……どういうこと?」
「……レベルを上げて物理で殴るのは正攻法じゃないって事かな」
雰囲気からするに、魔力感知か何かでよく観察すると弱点が分かって、そこを遠距離攻撃で的確に攻撃していけば、守護兵は動き出さずに倒せるって事だろうか。
もしかして、ここそういうギミックダンジョンなの?……知るかんなもん。
「次に行こう、次!」
突破できればヨシ!
奥の扉以外に怪しげなところも無かったので、釈然としない気分になりながらも、俺達は奥に向かって足を勧めるのだった。
蛸の足は大破、フェイスレスも中破しました。なんだかんだでしょっちゅう壊れてます。
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