第275話 一の部屋・守護巨兵
守護兵が待ち構える広間の大きさは奥行き30メートルほど、幅は25メートルくらいと思われる楕円型。天井は30を超えて優にあり、地下のどこにこんなデカい物が埋まっているのだろうか、という疑問が頭をよぎる。
天井高国は煌々と光の玉が輝いでおり、室内を明るく照らしている、
守護兵は身長5メートル越え。持っている武器は剣だが、刃渡りは2メートルから2.5メートルと言った所か。肉厚直刀両刃の剣で、切れ味より叩き潰すのに使いそうなタイプだ。
守護兵大きさと武器の長さからするに、片手剣としても扱える感じかな?
今は見えないが、背中に大楯くらい背負っているかもしれない。数は二体で装備は変わらずのように見える。
「やっぱり、入り口の所で魔術の影響は打ち消されるみたいだ」
性質的にはカマソッツが使った魔力の乱れと同質だろうか。自分の外へ術の放出が出来なくなる感じで、人形操作や屍体操作は打ち消される。
「投石は呼び出して、投げ入れても消えないな。地面に落ちるとしばらくで消えるから、完全に魔術を遮断しているわけでも、打ち消してるわけでもないと思うぜ」
「あとは外から中に入った時に打ち消されるのか、中ではずっと打ち消されるのか、だな」
投石スキルに掛けられている、『取り寄せた石を元の場所に戻す効果』が打ち消されないので、対魔効果は限定的だと考えられる。
守護兵はすぐに動き出さなかったから、入った瞬間襲い掛かって来る事は無いのだろうけど、どこまでゆっくり検証できるかは分からないか。
「中でも魔術は発動するぜ」
そんな事を思っていたら、アーニャが手だけ突っ込んで魔弾を試していた。
「奥から手前に向かって発動した場合に打ち消される?」
「ええっと……うん、この境界を超えると消えるみたいだな」
ふむ。それなら試す手は一つだな。
「入り口から石弾を打ち込んでみよう」
石弾も物理攻撃だ。
「……良いのでしょうか?」
「出来る以上は問題ないでしょう。この通路、明らかに守護兵より細いし、多分かなわなかった時の安全地帯として設計してある。迷宮の意図を考えたら、目的は挑戦者を殺す事じゃない。なら、やれることをやってみよう」
一旦亡者の皆さんには収納空間に戻ってもらい、アルタイルさんは背後に待機してもらってフォローをお願いする。タリアとアーニャは高速移動スキルを使えないが、二人同時に俺がフォローするのは難しいからだ。
「それじゃ、全員構えて……発射!」
全員が一斉に石弾を発動する。
高INTのおかげで初速が上がった石礫は、瞬きする間に巨大な守護兵に襲い掛かる。
一撃目は直撃。ダメージは不明。
「再装填!発射!」
オーバーキルで構わないからさらに追撃。
しかし続く次弾は剣と盾に阻まれた。ちっ、動き出したか。
「いったん撤収!」
縦にデカいだけあって動きが早い!
入ってこれない位置まで下がると、守護兵たちは入り口の前で立ち止まり、その後しばらくウロウロした後、ゆっくりと定位置に戻っていった。
初撃の破損は数分で修復されてしまったようだ。ダメージの入った量から言っても、高々5発では足りそうになり。
「タリア、大地の精霊の魔術強化で俺の石弾をブーストできる?」
「可能よ」
「んじゃ、次はそれで行こう。多重詠唱で同時発動するから、それをさらに増幅して」
今度は完全に中に入って発動する必要がある。注意は必要だが、先ほどの移動する速度なら対応は可能だろう。
「それじゃ行くよ」
スキルを発動、詠唱をほぼ終えた状態で広場に飛び込む。
「大地の精霊さん、私たちの石礫を増やして!」
「「石弾」」
その瞬間、増幅された石礫の雨が視界を覆う。
石弾の礫は、ベースは拳より小さい程度。しかしINTによってサイズは大きくなり、さらにMP400を消費して起動した80連の石礫が、さらに精霊の力で増幅される。
守護兵に襲い掛かる石弾の総質量は100キロを楽に超え、防御するまもなく1体を押しつぶした。
「よし!一回撤収!」
もう一匹がこちらに向かって駆けだした。
相手の攻撃範囲に入る前に、さっさと後ろの通路に逃れる。もう一体、同じことをすれば倒せるかな?
「ワタル、打ちすぎ。ごっそりMP持っていかれたわ」
「消費どれくらい?」
「200以上減ってる」
「増やした数にしては安い方じゃないかな」
動いているエネルギーは上級魔術と比べても遜色ないはず。さすが効率の良い精霊の加護だ。
「そうだけど、ここは大地の力が弱いから、一気に力を消費すると再度力を借りるまでに時間がかかるのよ」
「なるほど。……次は多重詠唱だけにして、後は全員で叩けば何とかなるかな。先がどうなってるか分からないし、精霊は温存しよう」
「そうね。ゆっくり魔力を上げれば数時間で回復すると思うから、そうしましょう」
「あ~……ワタル、姉さん、ちょっといいか?」
「ん、どうした?」
「……守護兵、復活した」
「……え?」
慌ててホールに視界を送ると、吹き飛ばしたはずの守護兵が定位置で盾を構えて立っていた。
「……何があった?」
「もう一体が戻った後、砂の山に手を突っ込んで、核っぽい物に何かしてた。そしたら、砂が集まってきて、また守護兵になった」
……くっ、仲間の復活能力持ちかよ。
縦を構えているのは、まだ身体にひびが入っているからか。どの程度ダメージが残っているか分からないけど、これは厄介だな。
「どうしましょう?」
「作戦練り直し。一旦叡智の間まで戻りましょう。MP回復も必要です」
転送陣で叡智の間に戻り、MP回復を兼ねて休憩と作戦会議を行う。
タリアの大地の精霊に頼んだ魔術のブートで1体は出来は出来るだろう。だけど2体同時は難しい。石弾は拡散しないので、片方づつしか攻撃が出来ないのだ。
「石弾じゃ盾は抜けないから、片方を吹き飛ばした後は直接対決かな」
強度が高いのは剣と盾だけだから、側面や背後からなら《ストーン・バレット》でダメージは入るだろう。ただ防御される前提だと同じ手を2回は消費がキツイかな。
さっきの感じ、おそらく俺の詠唱50発前後をブーストにすれば片方は試せる。ただし倒し切るまでには時間差があるから、防御態勢を取った後は、押し切る前に盾で防がれると思われる。
質量は相手の方が大きいだろうから、押し切るのはちょっと辛い。
「正面から戦うのは厳しいであろうか?」
「相手のステータスが分からないから厳しいですね。あのサイズと正面から打ち合いたくはないでしょう?」
防御したと思ったら潰されていた、では洒落に成らない。
守護兵の攻撃は盾などの防御魔術の効果が薄い。ステータス参照防具の効果はあるはずだが、それで大丈夫という保証はない。
「……1体だけにした後、蛸の足を装着したフェイスレスを当てて、実力を測ってみるのはいかがでしょう。力比べで勝てれば、通常の守護兵と同じように拘束して破壊が可能ですよね」
「それか礫旋風を多重詠唱と精霊の強化で重ねるのはどう?」
「……どっちもやる価値はあるかな」
礫旋風は飛び交う礫の威力はバレットより低いが、全方面からの攻撃になる。問題は多重詠唱で発動できる回数が10連に届かない事。多重詠唱の最大回数は、自分のINTを各魔術の基底INT値で割った値らしい。
バレット系は魔術師初期に覚えるので規定INTが低いが、旋風系は規定値100以上ある。INT4桁の俺でも10回重ねられない。
「MPが回復したら、まずバーバラさんの案でフェイスレスをぶつける。勝てそうになかったら礫旋風を試す。それで倒せない様なら、いったん帰還して再準備にしよう」
もともと今回は守護兵の対策に力を入れていないから、様子見に成っても仕方ないと考えていた。迷宮は逃げやしないし、困難なら引くのも大事。
上手くいかない様なら物理攻撃手段を増やして、さらにレベルを上げて挑もう。
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