第270話 守護兵との闘い3
守護兵はダメージ量から、こちらを狙うことに決めたらしい。
フェイスレスの剣に掛けられている切れ味強化は意味をなしていない。刃の付いた鉄の棒で殴っているだけの状態である。装甲を削ることは出来るものの、大きなダメージには成らないと判断されたようだ。
フェイスレスのSTRは俺より高い。それでもダメージがこちらの方が多いとすると、装備の差は多少は出ているのだろう。
フェイスレスで縦斬りを放つと、インパクトの瞬間に人形の身体が浮く。重量より力の方が大きくて、てこの原理で反動が来ているのだろう。どうしたものか。
「地道に削ってみるか」
霞斬りを抜いて、二刀の構えを取る。
守護兵が片手で放った斬撃を踏み込んで止めると、もう一刀で切り付ける。
想定通り、守護兵の攻撃は片腕なら受けられる。重いが切っ先を受けなければ問題ない。
しかし飛んでくる拳は受けたくない、俺の体重じゃ吹き飛ばされるのが関の山だ。
フェイスレスで敵の攻撃を妨害しながら、まずは部位破壊を狙って切っ先を当てていく。
しかし上手いことダメコンされるな。同じ個所に連続で切り付けるのが難しい。浅い傷は徐々にではあるが修復されてしまう。
陰刀・霞斬りなら魔術無効化を無効化出来ないかと思ったが、これは無理だな。手ごたえが石斬りと変わらない。
武器を破壊できれば攻めやすそうだが、鎧より圧倒的に硬い……と言うか鎧がもろいのか。
きっとこの硬度を維持しようとしたら可動部が作れないとか、そんな感じの問題だろうな。
楽に勝つ方法、楽に勝つ方ほほう……素直に力比べか。
「蛸の足!」
素材流用の関係で最盛期より短くなった蛸足を装着・起動する。
敵の斬撃を避けると、三つ爪アームで四肢を狙う。はっはっはっ!その動きで避けるのは無理だぞ。
アーム強度に問題が出る可能性はあるが、力比べなら……っとあかん、重量軽すぎてこっちが持ち上げられちまう。
慌てて力を抜いて拘束を弱めた。
天井が低ければそこに押さえつけてて固定できるのに……床は迷宮壁で蛸の足のアームをひっかけるのは難しい。このままこまめに力加減をするしかないか。
敵の動きに合わせて強弱をつけながら四肢を封じ、そのまま連続で切り付ける。
あ、これは楽だわ。
蛸の足と守護兵の力比べは、蛸の足が優勢のようだ。
押す力は他のアームを視点にすれば完全に抑え込むことが可能で、引く動作は緩めることで影響を無効化できる。
「見よう見まねで、二刀流・散文渇!」
踏み込みと共に平行に振り下ろした刃が、守護兵の身体に二本の分割線を刻む。
見えた!左の腰元に魔力の流れ!
疾風斬りを発動し刃を突き立てると、守護兵はそれで動きを止めた。
その肉体はボロボロと崩れ落ち、やがて砂山の中に大きく切り込みの入ったコアだけが残る。
……ふぅ、何とか倒せた。
他の皆は?
左右に視線を振ると、バーバラさんがちょうど守護兵を蹴り飛ばしたところだった。
タリアとコゴロウのペアは俺より先に倒し終えていたらしい。
とりあえず、この大部屋の守護兵は片付いたか。
面倒くさい相手ではあったが、スキルも魔術も使ってこない相手。今の俺達なら何とかなるな。
と、そう思っていた矢先、さらに奥から今度は弓兵タイプを交えた5体の守護兵が現れた。
『……全員、一時撤収』
こりゃ相手にしてられん。
………………。
…………。
……。
『1対1でも易々負けることは無いですが、相手の回復量を考えると倒し切れるかは微妙だと思いました。少なくとも、MPにやさしい相手ではありませんね』
守護兵の視界から逃れ、主線から外れた通路の小部屋で、俺達は休憩がてらの反省会を行っていた。
『威力が足らないのである。細い所に音速斬りを当てて何とか部位破壊が可能、という体だと、削って倒すのは難しいのである。核の場所が分かればまだやり様はあるのであろうが』
『あたしは表面的に見ても核の場所は判らなかったぜ。優先的に防御するみたいだから、戦っていけば守りが厚い所で分かると思うけどな』
『同じく。ある程度装甲にダメージを与えれば魔力の流れで分かるけど、表面的に判断するのは今のメンツじゃ無理かな』
近接戦闘をしていた組は大体同じような感想だ。
蛸の足で拘束して切り刻めば対処できるけど、残念ながら1台しか持ち込んでいない。
最初から使っても1体倒すのに1分やそこらはかかるだろう。敵の数がそろえば対処が難しい。
『私のINTでも石弾は効果があったし、アパーム・ナパートの水投槍も一応動きを止めるくらいは出来てたから、もう一斉に詠唱で石弾で良いんじゃないかしら?』
『倒すまでに何発必要かによるけど、結構厳しい気がする』
石弾が使えるのは俺とタリアだけだ。アーニャは素質に土魔術が無かったので覚えていない。バーバラさんも同じく。
『封魔弾は?』
『バレット系は殆ど作ってないよ』
『再利用可能なものを作るのはどうでしょう?』
『ああ、それなら俺のINTで全員石弾が打てるか』
持ち込んでいる素材は少ないが、幸いなことに魔結晶や魔鉄は少しだけある。魔力注入で作ってもいいし……ああ、そう言えば魔石もあるな。
『ガーディアンの魔石、回収できた?』
『私たちは出来たわ』
『すいません、こちらは出来てません』
守護兵は核内部に魔石と呼ばれる結晶体を有している。魔獣の体内で精製されたり、ダンジョンのドロップとして産出されるものと同質のものだ。
ソフトボール大の核は人が触れると砂に変わってしまうけれど、中に入っている魔石が無事ならそれは再利用することが出来る。
『魔鉄をベースに、魔石と魔結晶を使ってエンチャントしよう』
今回手に入った魔石は親指の爪ほどのサイズ。このサイズでも時間経過で空間から魔力収集を行うし、効率は魔結晶より良い。
魔力強化と全強化Ⅰを使った状態で、さらにエンチャント用装備で付与を行う。作ったのは指輪もどき。面倒なので輪にはしていない。比較的細く柔らかいから、自分の指に会うように調整するクリップ形式だ。
『発動は発射。再装填は再装填。MP消費軽減と、MP回復向上を同時に練り込んである。1発のMP消費は4.5。魔結晶版は10分くらいで、魔石版は5分くらいで自動装填されるはず』
INT割り振りは速度が上がるように調整。これで回避される可能性を少しでも減らせればいい。
『発射の単語が長いの、何とかならないの?』
『暴発怖いじゃん』
2、3音にすると楽だけど、うっかり発動して自分や仲間を吹き飛ばしかねない。
封魔弾は『魔物に振れた時』と条件を付けてるから良いが、こちらはそう言うわけにもいかない。
『まぁ、そこは我慢して。本当なら石投槍を覚えていればそっちの方が良かったんだけど、それも無い物ねだりだし、出来成りで何とかするしかない』
こういうアイテムは銃のようなトリガーアクションで発動するようにしたい。
石投槍はそこまで気が回らなかった。迷宮を出たら覚えよう。
穿通石弾?MP消費が見合わないし、中級のエンチャントコストが高いので見送りだ。
『なあ、ワタル。魔術は効かないのに、なんで石弾は効果があるんだ?』
『ん、種類の違いとしか言えないんだけど……石弾は投石と同じように、どこかから取り寄せた石を、高速な初速で打ち出して、止まったら元の場所へ帰す魔術、だからかな。当たって止まるまでの間は魔術的要素が無い』
だから石弾は至近距離が一番威力が高い。そして射程が魔弾より長い。
土魔術はこういう面でちょっと特殊だ。そもそも遠方から物質を取り寄せるのは空間魔術の範疇だと思われるが、人が決めた区分けでは土という事になっている。
石壁とかは錬金術師の変成をすごく限定して行う感じだし、やはり魔術の区分けはフィーリング面が大きいと感じる。
『それなら投石で取り寄せれば、MPは殆どかからないんじゃないか?』
『あー……なるほど。確かにそうだね』
初心者スキルはMPの消費が無いに等しい。
投石で取り寄せた石を高速で射出する方法があれば、簡易石弾が出来るな。ちょっとそちらも後で考えてみよう。
『投石の話は時間があるときに考えてみるよ。とりあえず、ちょっと試してみようか』
全員が試し打ちを終えて使い方を把握した後、孤立した守護兵を釣って威力を試してみた所、全員が二巡、つまり10発程度を打ち込めば倒せることが確認できた。
このMP消費なら実用に足る。とりあえず、入り口周辺の守護兵は対策のめどが立ったな。
ワタルが使っている剣術・散文渇は集合知の知識を基に真似た技です。二刀を平行に振り下ろす技で、弧を描かない様にまっすぐ振り下ろすのがポイントです。踏み込みを伴うので、失敗すると自分の足をぶっぎる事になります。
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