第269話 守護兵との闘い2
『バーバラ姉さん、役割を変えよう』
数度の攻防の後、アーニャは今の戦い方ではダメだと判断した。
現在の立ち回りはバーバラが敵の攻撃をひきつけ、アーニャがヒット&アウェイ方式でダメージを与えて要路しているが、これがなかなか形に成らない。
原因は分かっていた。明確な火力不足だ。
通常攻撃を行った場合、守護兵へのダメージはバーバラよりアーニャの方が高い。
これは魔術師系の極めし者と斥候系の極めし者のステータス差と、武器の補正によるものだが、しかし守護兵に蓄積しているダメージは微々たるものだ。
本来バーバラが敵の攻撃をひきつけている間に、アーニャが強力な攻撃でダメージを与えられれば良い。
しかしアーニャが有するスキルで、守護兵へのダメージが増やせるのは、斬撃の速度を上げる疾風斬りのみであった。
それ以外のスキルは相手との接触によって効果を発動するタイプのであり、魔術やスキルの影響を無効化する守護兵には薄い。
それにせっかく新調した2本の剣も、攻撃力を高める効果は抑制されてしまっていて、現状ではちょっと丈夫な剣で切り付けているくらいの効果しかない。
一方のバーバラは、同じ速度上昇系の疾風突きのほかに、さらに速度を高める音速突きや音速蹴り、相手の力を使ってダメージに変える投げや、身体強化効果と共に放てる関節技、さらには錬金術師のスキルなど、アーニャよりは多彩な選択肢があった。
しかしこれらのスキルは、相手の攻撃を引きつけながら放つにはリスクが高い。相手は武器を持っており、彼女よりも圧倒的に大きく重いからである。
『しかし危険じゃ』
『大丈夫!これ位なら何とかなる!』
確かに……守護兵の動きは洗練されている物の、速度は程々、技は素直で読みやすい。
2次職のレベル差はあるが、ステータス、特にDEXやAGIはアーニャの方が若干高く、いざとなったらフォローすれば問題ない。
彼女はそう判断して、手早くアーニャと立ち位置を変わる。
「へへっ!そんな大振りじゃ当たらないぜ!」
守護兵の縦斬りをステップで躱すと、その腕を踏みつけると同時に斬撃でダメージを与える。
向かってくる拳に剣を当て、その反動で身体をそらすと、間合いの内側に入って斬撃の範囲から逃れた。
「音速突き!」
緊急回避で近づいたバーバラの突きによって、守護兵の身体が砕けた。
速度上昇系の攻撃スキルは発動後に力を分散するために動きが止まる瞬間が存在する。手数系スキルも似たようなもので、バーバラがターゲットを引き付けていた時には出来なかった攻撃だ。
「そっちじゃないぜ!」
ダメージによってターゲットを変えようとする守護兵の肩関節に、アーニャは短剣を突き立てた。
刃渡り60センチほどの両刃のショートソード、銘をリボール。切れ味に重きを置いた片手・両手兼用の剣は、その力を発揮しきれずとも守護兵の装甲ごと容易く切り裂く。
バーバラは関節の一部を破壊され動きの鈍った守護兵の攻撃を避け、次の一撃を叩き込む。役割を変えたタイミングから、明確に守護兵へのダメージは増えていく。
しかし倒し切るには少し足らない。
守護兵はダメージを受けるのは諦めたようで、防御に重きを置いた状態で、ダメージの受けていない箇所で的確にガードしてくる。時間が経てば回復するのだ。それは当然の戦術であった。
『決め手が無いのにMPを使いすぎかな』
『アーニャ、コアの場所は判りませんか?』
ワタルが集合知で調べた知識が確かなら、守護兵の体内にはコレを動かすための核が存在する。そこを破壊すれば、動きを止めることが出来るはずだった。
『魔力は……右胸側面の辺りが怪しい気がするけど、走行が万全で確証が持てない』
守護兵も魔力で動いている。
アーニャにはその魔力の流れが見て取れたが、動きが激しすぎて確証が持てなかった。
『無傷という事は守っているという事でしょう。ではそこを狙ってみましょう』
バーバラはそう返すと、自分の収納空間から長さ2メートルばかりの鉄棍を取り出した。棒術の知識はあるが、スキルにシナジーが薄い。強化もされてないこれは、武器と言うより素材である。
振り下ろされた腕に向かって、波打つ鉄紐が絡みつく。
錬金術師のスキル、変成と念動力を使った拘束術である。集中力が必要であり、速度の遅い技ではあるが、アーニャが攻撃を受けている今なら使うことが出来た。
『あたり!』
絡みついた鉄棍で動きを阻害された守護兵に、アーニャの斬撃が入る。
切り裂かれた装甲の奥に見える魔力の流れは、そこにコアがある事を示していた。
『では、仕留めましょう!』
変成で絡みつけた鉄棍の拘束は長くは持たない。破断したりすれば、その分突起物がまとわりつくことに成り危険の方が大きい。
「二段、疾風斬り!」
アーニャの高速斬撃が守護兵の足を砕く。
脆くなった足を守るため、守護兵が膝をつく。その瞬間には、緊急回避でバーバラが真横に回り込んでいた。狙いの右胸部は目の前だ。
「疾風!音速蹴り!」
3連撃の疾風脚に、それをキャンセルせず音速蹴りの速度を乗せる。
スキルキャンセルとスキルコンボから派生したスキルの多重発動は、今や渇望者たちなら誰でも使う基本技。
連続で繰り出される蹴りが、守護兵の装甲を破壊し、コアを砕く。
「流星脚!」
そしておまけで放った流星脚が、その巨体を吹き飛ばした!
「……ふぅ」
コアを破壊された守護兵は、転がりながら壁に激突すると、砂のようにぼろぼろと崩れ落ちてその活動を停止したのだった。
………………。
…………。
……。
「フェイスレス、GO!」
各コンビが先頭に突入すると同時に、俺も守護兵の一体へと機械傀儡をけしかけた。
こいつらは遺跡の深部で自動生成されるゴーレムの一種。倒すにはバラバラに砕いて動けなくするか、心臓部であるコアを砕くかの二択しかない。
集合知の情報によると、触れた状態で効果を発動する魔術やスキルはほぼすべてが無効化されるらしい。魔投槍でのダメージが全く見られない事から、それは事実であろう。
効果があるのは手数系、速度を上げて疑似的に攻撃力を高める速度系のスキルくらいか。
魔術で生み出した炎や冷気も効果がなさそうだ。
ガンッ、ゴンッ!
フェイスレスが守護兵と切り結ぶ。どうやらこいつの堅さなら、剣士タイプと斬り合っても平気なようだ。壁としては十分だな。さっさと倒してしまおう。
「影渡り!」
フェイスレスのライトによって守護兵背後に伸びた影。
そこにワープすると、後ろから石斬りで相手の太もも部分を切り裂いて……三分の一くらい食い込んで止まった。
「うっそ硬って!」
剣から火花が飛び散っている。練り込まれた効果が、衝撃が刀身にダメージを与えるのを防いでくれたようだが……思った以上に硬い。
振り向きざまの斬撃をバックステップで躱して距離を取る。
太刀に込められた切れ味強化の効果が、守護兵の持つ魔術無効化の効果で打ち消さたのだろう。
MPの消費も抑えたいし、新装備だから行けるだろうと思ったが……これは結構めんどくさい。
……石弾の連打で力押しするか?
一瞬楽をする方法が頭をよぎるが、この先のMP消費量を考えたらさすがにそれはまずかろう。
出来れば通常攻撃のみ。そうじゃなくても、フェイスレスの操作コストにプラスして40~50くらいで倒したい。威力的には足りるだろうが、防御されたら10発に収まるかどうかは微妙だと思う。
しかしあまり時間をかけると人形操作のコストがかさむ。
……これは中々骨の折れる相手だな。ちょっと気合を入れて行こう。
スキルにスキルを重ねるのは、比較的容易で知っている人は知っている技術、効果です。
これまでだと、ウォール防衛線で領主が使った『放たれた魔術の射程を伸ばす魔法陣』増幅魔法陣などが同じ原理ですね。
魔術は起動=発動なのでディレイが無さ過ぎて使う機会がありませんでした。
起動からしばらく時間の掛かる連続攻撃系スキル+威力上昇スキルを組み合わせて使うのが一般的です。
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アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
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