第233話 ソウエン鍛冶工房
冒険者ギルドで商会に対して私事を行い、ボラケの商人ギルドにアース商会の登録を行う。
製品リストなど必要な書類は後から提出。商売をしなくてもいいから、しばらくは様子見だ。
昼過ぎには首都入りしたのに、結局夕方まで時間がかかってしまった。
俺たちがギルドでバタバタしている間に、3人は神殿に行ってアーニャの転職に立ち会ったらしい。
今日から騎士だ。ありがたみが無いとぼやいていた。
元々経験値を稼げばレベルが上がる。努力は必ず報われるシステムなのだ。ありがたみが無いのは致し方ない。
バーバラさんが宿を確保してくれたので到着日はそれで休み、翌日。
職人ギルドで紹介状を提示し、詳しい場所を聞く。どうやらユキミツさんが紹介状を書いてくれた職人さんは、この街に昔から店を構える後継ぎらしい。親方はまだ親父さんだとか。
なんにせよ、せっかくの伝手だ。一回行ってみよう。
場所を教えてもらった工房は、工場区画の奥の方にあった。
この地区にあるのはそれなりに老舗の工房が多いと、集合知が教えてくれている。
店の前には小綺麗な看板が掛けられており、どうやらやっているようだ。今のところこの手の工房でトラブルに見舞われたことは無いのだが、定番なので毎回ちょっと身構える。
……お使いクエストは少ないほうが良い。
「ごめんください、アラタ・ソウエンさんはいらっしゃいますか?」
商店部分の扉をくぐり、店番をしていた女性に声をかける。
店内にはいくつか武器や農具が展示されている。量産品だろう。刀、長刀、槍……斧はともかく、鋤や鍬なんかも展示しているのは、武器を扱う鍛冶屋にしてはちょっと珍しい。
ただ、人気が無いのではとちょっと不安になる。
「いらっしゃい。ずいぶん大所帯だね。工房にいるけど、うちのに何の用だい?」
おっと、奥さんかな?三十代前半くらいのドワーフの女性。
バーバラさんと違って、ドワーフの血が濃く出ていてガタイが良い。
「ユキミツ・キンジョウさんの紹介で。それと、手紙を預かってきました」
「あたやだ、ユキミツちゃん元気かい?ちょっとあんた!お客さんだよ!ほら、上がっておくれ」
グイっと手を引かれて奥へ連れ込まれる。
「某は少し売店を見ているのである!」
武器があるタリアとコゴロウが売り場に残り、アーニャ、バーバラさんと3人で併設された居間に通された。職人さんの休憩スペースかな。
「ユキミっちゃん、あたしたちの結婚式に来てくれたのよ。それ以来かしらねぇ」
女将さんの名前はソノ・ソウエンさんと言うらしい。
なんでも、ペローマの冒険者ギルドで働いていたところ、ここの旦那さんに口説かれて嫁入りしたらしい。おしゃべり好きな元気な女性だ。
「おう、いらっしゃい。注文かい?」
「あんた、ユキミっちゃんのお友達だってさ。手紙、預かってきてくれたって」
「紹介の方がメインですよ」
奥から出てきたのは30台後半位のドワーフの男性。あごひげやずんぐりむっくりした体系がとワーフっぽい。黒い髪を縛っているのは、東群島スタイルだな。
預かってきた手紙と紹介状を渡す。
「おお、ユキミツの紹介か。あいつ元気か?」
「ええ、お元気ですよ」
片腕再生したばかりなのだから、もう少し元気じゃなくても良いんじゃないかと思ってるくらい。
ソウエンさんは、ソノさんと二人渡した手紙に目を通す。
結構量があるのか、なかなかに長い。……なんて書いてあるんだろう。
「……あのやろうっ!……あんたら!ありがとうなっ!」
最後まで読み終えた彼は、唐突に俺の手を取って強く握りしめた。
そんな感激される覚えは無いのだけれど……治療の事も書いてあったのかな。
「あのバカ、最後にしれっと腕が治ったってっ!それは本題だろうにっ!……ああ、すまん。驚くよな」
「いえ。……腕の事、書かれていましたか?」
「ああ、あんたらが治してくれたからよろしくと。後は獣人の嬢ちゃんが凄い見込みが在るから、ぜひ力になってほしいって無っちゃ長々書いてあったぜ」
「あたしかよっ!」
性格が出てるなぁ。
「あんた、医療師なのかい?あいつの腕は後遺症に成ってて、再生治癒でも治らないはずだが」
「ええ、なのでちょっと荒っぽい治療をしました。今はリハビリ中のはずですよ」
「……そうか。また冒険者に戻ろうかと思っていると書いてあったが……無理はしねぇかな」
「さぁ……それはギルド長が止めてくれることを期待しましょう」
「そうだな。……顔を見に行きたいところだが、そうそう店も開けられねぇ。親父にどやされちまうからなぁ。いや、ありがとうな」
「いえ、偶然縁があっただけですから。それで、要件は手紙だけでなく、俺たちに会った武器の注文をご相談したくて伺ったんですが」
「おう、分かってる。うちで良ければ頑張らせてもらうぜ。2次職用の装備、既製品じゃなくてセミオーダー希望か?」
「ええ。出来ればステータスを見て、合うものをお願いしたいんですが」
「ああ。大丈夫だと思う。うちは3次職の装備を納めたこともあるしな。ちょっと見せてみ」
「誰から行く?」
「じゃあ、あたしから」
アーニャは今レベル1の騎士。盗賊の極めし者の補正が乗って居るから、ステータスは2次職中盤から後半に差し掛かっているはず。
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名前:アーニャ
職業:騎士
レベル:1
HP:630
MP:441
STR:157
VIT:101
INT:124
DEX:200
AGI:200
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「…………?…………???」
ステータスを見て、首を傾げ、目をこすり、もう一度見直す。
……まぁ、ね。
「……いや、いやいやいや……おかしいだろ」
おかしいのは何処かな。DEXとAGIが1次職の成長限界に引っかかって200で止まっておかしくなってる辺りとかかな。
「次は私ですね」
バーバラさんは錬金術師でステータスブートをしている。メインはINT補正だが、2次職のレベルが高い分さらにステータスが高い。
「…………俺は頭がおかしくなったか?」
「すいません、俺のステータスはさらにおかしいですよ」
「……いやいや、まて、なんだあんたら。侍でこのステータス?いや……レベルが……95!?」
「はい。最近、50レベル以上が存在することが明らかになったのは御存じですよね」
「ああそりゃぁ……いや、まて……ワタル・リターナー?……聞いたことあるな。どこか……最近じゃなくてちょっと前……」
「今は侍をやっていますが、もともとは付与魔術師でした」
「付与魔術師……付与魔術師、ワタル・リターナー……最初の一人か!」
「はい。ギルドでは極めし者と呼ばれていますが、それで間違いありません」
「こいつはたまげた!まさか、こんな有名人に会えるなんてな!」
「なんだい?有名人なのかい?」
「おまっ……曲がりなりにも元ギルド職員だろうが」
「あたしはもう鍛冶工房の女将さんだよ」
「……てやんでぇ。……するってーと、なんだ。そっちのお嬢さんたちのステータスが異常に高いのは」
「はい。彼女たちも50レベルを超えた1次職を持っていて、その補正です」
二人とも極めし者なのでなおの事。
「……そうか。すげぇな……踏み出す者と極めし者だっけか」
「そうです」
「……ああ、わかった。手紙にで大変かもしれないが相談に乗ってやってほしい、としれっと書いてあったのはこういう事か。これももっとちゃんと書けよあの野郎。わかるか馬鹿野郎」
「で、合うものをお願いしたいというのがですね」
「ああ、理解したぜ。……極めし者用の専用装備。ステータスから言って、3次職相当以上の力に耐えられる武器が欲しい。そういう事だろ?」
さて、ここで手に入れる事は可能だろうか。
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