第228話 盗賊と侍のレベル上げ
「へへへ、これであたしも文句なしの冒険者だな!」
盗賊に転職して喜ぶアーニャ。
元々立派な冒険者だと思うけど、ほほえましいので黙っておこう。
「今日はレベル上げでいいのか?」
「そうだね、一気に上げちゃおう」
一旦宿に戻って、問題が無いことをタリア達に報告。
朝飯を取った後、俺、アーニャ、コゴロウの3人がレベル上げ。タリアとバーバラさんは誕生会の準備をお願いした。
コゴロウは現在侍レベル91。後8レベルで極めし者だ。
俺も彼を隠れ蓑にする形で侍に転職した。
侍は剣、槍、弓、無手の知識とスキルを覚える、比較的フォーマルな近接前衛職だ。
似たような前衛の剣士は剣特化プラス盾ちょっと、と言った感じで剣を使ったスキルが多彩。侍はそこまででは無いが、剣と槍は共通スキルが多いため剣を持っても見劣りするほどでもない。
ステータス的にはDEXが上がりやすくVITが低い。剣士よりさらに軽装歩兵寄りと思えばよい。
……まぁ、侍は良いんだよ。
冒険者ギルドに行き、アーニャの登録を修正する。これでランク1の冒険者になった。
依頼を受ければランク2もすぐだろうが、ランク上げを行うかは、今後のスケジュール次第かな。
そのまま街を出て、近くの森に入る。浅い部分は他の冒険者が居るので、足元に注意しながら奥へ。
昨日の雨でまだぬかるんでいるところが多い。
「盗賊は斥候系の1次職で、特徴は盗むを始めとする、財宝系って言われる特殊スキルかな」
冒険家のタラゼドさんが使う財宝探査もこの財宝系スキル。
人間が後からつけた名前なので、かなり曖昧なくくりだからイメージで分かって居ればいい。
盗むは複数の核で構成された魔物の核の一部をかすめ取るスキル。かすめ取られた魔物は、価値が下がるため能力低下の永続デバフがかかる。複数のアイテムを取り込んでいる魔物には有効だ。
梱包箱はスキル範囲内で魔物が倒された時、ドロップ品が安全な“宝箱”に入る。宝箱の中は収納空間と同様の亜空間であり、この宝箱は物理的、魔術的な干渉ほぼ不可能であり、開けるまでドロップ品が破損されることが無くなる。火旋風などでドロップ毎焼き払った、なんてことが無くなるのだ。便利。
財宝発見は使用中、魔物の核になる価値あるモノが、その価値に応じて輝いて見えるアクティブスキル。財宝探査の視界内限定版。どの程度の価値をどのくらい光らせるかは、自身で調整が可能である。
宝箱は価値ある物を収納空間と同様の亜空間に収納し、魔物から隠す。現実空間では一抱えほどの宝箱に見える。魔物には感知されない。ただしこの宝箱は動かすことが出来ないので、中身を取り出すには開けてスキルを解くしかない。
強奪はスキル発動中魔物にダメージを与えた場合に、複数の核で構成された魔物の核の一部を梱包箱の宝箱として体外に排出させる。これは宝箱の宝箱と同等であるので、魔物に吸収されず、盗むと同様のデバフ効果がある。
遠距離攻撃でも可能だが、成功させるための要求DEXが盗むよりが高い。またダメージ量が多いほど、価値の高い物を宝箱化する
どれも中々に面白いスキルだし、ほかに使える職業無い物もあり、独自性が高い。
盗むや財宝発見は特に有用だし、もっと居てもよさそうなのだけど……素質がレアなのと、職業名が悪いね。
「そろそろ良いのではないか?」
「そうですね。まだちょっとサーチには引っかかって居るんですけど、数百メートルは離れてるし、こっちに向かってないから大丈夫かな」
少し開けた場所を見つけて、そこに陣取る。
まずは周囲の低木を除去して、ぬかるんだ足場を火旋風で焼いて乾燥。ちょっとしたら魔術無効化で打ち消し。とりあえずマシになったら、収納空間で穴を掘る。
……侍だと使えるスキルが少なくて厄介だわ。錬金術師や人形遣いも極めし者になるか。
「……豪快であるな」
「あたし、ワタルのこういう力業だけは難解見ても慣れない」
いいじゃないの力業。
集合知で分かる限り希少種の群生地と言うわけでもないし、ちょろっと開いて焼いたところで大した問題にはならないさ。
「さて、んじゃさっさとレベル上げちゃいますか」
とばりの杖と封魔弾を使ってのレベル上げ。まず俺が侍レベル50まで上げる。俺は1次職の成長限界を超えているとか言われて居るから、レベル上げてもボーナス以外ステータスが増えない。
これで飛翔斬や二段切りと言ったメジャーなスキルが使えるようになった。
「次はアーニャの番ね」
此方は1回づつ身体の動きを確認しながら上げる。
アーニャはエンチャントアイテムでステータスを強化して戦っていたから、いきなりステータスが増加してもそんなに違和感は覚えないと予想していたが。
「……アクセサリ使ってないのに、身体がちょっと軽いのは不思議な感じだけど、特に変な感じはしないな」
「やっぱりすぐに順応できるか」
「ここまで一気にステータスが伸びると、戸惑いそうなものであるのにな」
まぁ、そうならない様に育てたっちゃその通りなのよね。
3000G級を4回撃破したところで、限界を超えて51レベルまで上がってしまった。
戦闘職の50レベル到達は5回のはずだから、神様が名前を変えたスキルの効果が出ているな。獲得EXP増加は25%くらいは増えてるかな?
「違和感はない?」
「……大丈夫っぽい。……ていっ!……うん。魔操法技も舞踏魔技も問題無く使えるぜ。スキルポイントは全部MPで良いんだよな」
「うん。収納空間を覚えるためにも、まずはMPを固定で底上げしよう」
引き続き50以上のレベルを上げていく。
俺は75くらいでレベルの上りが悪くなった。おそらくステータスが高いので、制限に引っかかっているのだろう。
アーニャは85を超えてもガンガン上がる。コゴロウがあきれ顔だ。
「すげぇ、身体がめっちゃ軽い!」
その場でくるくると飛び跳ねる。もともと身軽なので、ステータスが上がってその動きにさらに切れが出ているな。
「……先日より恐ろしい勢いでアナウンスが流れているであるが、大丈夫であろうか?」
「ここまでやれば、逆にスルーされるでしょう」
国や街に入る際に名前をチェックされるが、あまりに聞いたことある名前が並びすぎていて誰も触れない。
まさか一つのパーティーが、レベルを荒稼ぎしてるとは思いもしないのだろう。
「それに、おそらくクロノスが結構追い上げてきているので大丈夫ですよ」
ここ2週間ほどでかなりの数のアナウンスが流れたが、バーバラさんがその中に同僚の名前を見つけた。
どうやらクロノスで封魔弾を使ったレベル上げが、踏み出す者の域にまで達したらしい。
兵士、弓兵、治癒師、魔術師、斥候、錬金術師などは、アナウンスの頻度が加速していた。
錬金術師はバーバラさんが89まで取っちゃったから、追いついて来るのはまだ先になるだろうけどね。
「さて、こっから先は普通に戦おうか。俺がタンク、二人が攻撃かな。アーニャ、MP消費は気を付けてね。これからは、最大回復までしばらくかかるようになるから」
「ああ、わかった!」
「コゴロウはうっかり重いの貰わないように注意」
「信用が無いであるな。分かって居るのである」
だってこのメンバーで一番AGIとDEX低いの君だもの。
3000Gのオーク精鋭剣士を召喚。
このクラスのオークはHPやVITが高いタンクタイプで、高速移動スキルを持たないから戦いやすい。
能力がスキル寄りに成っていればステータスが低くなり、高ステタイプならスキルが無い分戦い易く、召喚による誤差の影響が極力抑えられるのもメリットだ。事故が起きづらい。
雄たけびを上げて突っ込んでくるオークに束縛糸。それからMP吸収。
後は敵の攻撃を受け流しつつ、二人に攻撃させる。防御も受け流しを覚えたので安定だ。
「アーニャ、盗むを使ってみて」
「あいよ!」
攻撃の隙をついて、アーニャが魔物の身体に“手を突っ込む”。
「取れた!」
すり抜けた彼女の手の中には、きらりと光る金貨。
直後から魔物の動きは目に見えて鈍くなる。これはとばりの杖との相性がいいな。盗むで価値を下げると楽に戦える。
そのまま消費を抑えつつオークを仕留める。
倒したのはコゴロウ。レベルが上がったのはアーニャ。経験値分配はちゃんと行われているらしい。
「問題無いね」
「わかっていたことであるが、余裕であるな」
「あたしは逆に余裕過ぎて不安になるぜ」
「アーニャは後で数百Gくらいから戦ってみよう」
実戦でしか得られない経験もある。
「2体同時とかやってみます?」
「うむ。けれどまずは前衛1、フォロー2の形をやってからが良いと思うぞ」
「んじゃ、その形から行きますか」
若干戦い方を変えながら、レベル上げのため召喚を繰り返す。
予定の時間になるまでに、俺が侍82、アーニャが盗賊94、コゴロウが侍96レベルまで上げることが出来た。
後二、三日頑張れば、二人は極めし者まで行けそうだな。こう、素直な育成が出来るとワクワクしてくるね。
アーニャの次の職はどうしようかなぁ。
盗むは単独のコアしか持たない魔物、例えばタリアしかコアが無かったエリュマントスのような対象には効果がありません。また、何が盗み取れるかは使用者の技量に寄るため、どの程度のデバフ効果が発揮されるかは未知数になります。
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