表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
226/475

第221話 敗戦処理の結果

「お久しぶりですね、アケチ殿」


ひと月弱前、共に邪教徒(アヴァランチ)と戦ったイケメン侍は、喜びと安堵が混じった表情でこちらに駆け寄ってきた。

彼の名はダイゴロウ・アケチ。フォレス皇国の同心、主に人間通しのいさかいや街中の警備を担当する騎士である。

さわやか系の細身イケメンに、無駄に野太く貫禄のある声を持つ、しゃべらなけれいい男、なタイプの人物である。口を開くと違和感がすごい。


「ワタル殿!お久しぶりでございます!いやぁ、こうしてお会いできてよかった!某も邪教徒討伐のパーティーにぜひ加えていただきたい」


開口一番、アケチ氏はそうまくしたてた。……いや、別に討伐まではするつもりは無いんだけど。


「とりあえず座ったら?」


「おお、タリア殿。これはかたじけないのである」


探さなきゃいけない人が向こうからやって来てくれたのは話が早くてありがたいが……。


「とりあえず、どうしてライリーに?船は運航してませんよね」


魔物活性化のあおりを受けて、ライリーとフォレス間も運行する船は無くなっていたはずだ。

クラーケン、シーサーペント撃破はこの数日の出来事。復旧した船でフォレスからここに来たのだとすると日数が合わない。


「某、海戦も心得がありますので、タダ働きで良いと無理を言って、とラーファの軍艦に乗せてもらったのである!調査航海で行先が、このライリーだと分かっておりましたゆえ!」


「もしかして、昨日のシーサーペント討伐の時に近くまで来ていた船ですか?」


「その通りである。ずいぶんと活躍されたようで、さすがであるな!」


「やれることをしただけですよ。それより、なんでライリーまで?」


「先ほど申した通り、邪教徒の討伐のため、某も仲間に加えていただきたい!」


ああ、やっぱりそっち系の話なのか。


「別にあたしたちは討伐するつもりは無いよな?」


「なに!?誠かっ?」


「ええ。目的はウェインの確保なので、それさえできればあいつらと事を構える気は無いです。めんどくさい」


衝突するのはほぼ確定だが、どうせ殲滅するのは不可能なのだし深入りをするつもりはない。

火の粉がかかるようなら、多少振り払うだけだ。


「むぅ……しかし、それならばその童と共に、姫の救助もご助力願えないであろうか!」


「……姫?だれ?」


「貴殿らが話しておられた、サラサと言う少女である。本名はサラサ・アサミ。スサト内親王の娘に当たられるおかたである」


スサト内親王……現フォレスの帝の娘!?って事は、フォレス天皇の孫って事か。


「スサト内親王は帝と平民の側室の間に生まれた子。帝には後継ぎが多くおられたため、幼いころに母と共に宮廷を出て、その後武家の一つであるアサミ家に嫁入りし、生まれた長女がサラサ姫である。操ら寄りにもよって帝の血族をかどわかしおった!」


アケチ氏は拳を握りしめて熱弁する。

なるほど。タリアの報告で、邪教徒の前線要因にしては浮くなと思ったけど、フォレスで勧誘したいいとこのお嬢様だったか。


「そのお姫様を連れ戻したいと。……アケチ殿、お一人でですか?」


同心は治安維持兵、つまり帝が信心を集めるのに直結する職だ。この人それなりの役職なハズなのに、なんで一人で。

それに、宮廷を出た平民系の内親王の娘ってフォレス的には民間人扱いだろ。集合知によるとアサミ家は小さな武家だし、国家公務員であるアケチ氏が一人で追っかける理由には成らない。


「……ええ……それは……」


……目が良く泳ぐ。これは何かあったな?


「邪教徒の逃亡先がクトニオスであることはお伝えしたと思います。仮にブラフだったとしても良いのですが、どちらにせよ一人でどうこう出来るようなことではないのでは?」


「いえ……だからこそこうしてご助力をお願いに……」


「俺たちの立ち位置は微妙でしょう?クロノス王特使ですよ。フォレス皇国として助力を仰ぐのは政治的判断が重い」


俺に大きな権限があるわけじゃ無いけど、俺に助力をこうのは王国に助力をこうのと同じ意味がある。

俺を助ける分には恩が売れて良いが、逆は立場と力関係的にわりかしまずいはずだ。


「……それは……その通りであるが……」


「にもかかわらず、一人で俺を訪ねてきたって事は、相応の理由があるはずですよね。何があったんですか?」


サラサと言う少女の確保を命じられたのだとしたら、アケチ氏が一人で動いているのはおかしい。

目的は俺に渡りをつける事……ではないはず。そもそも他国の関係者に帝の親族が邪教徒になったなどと知られたくないはずだ。理由はなんだ……。


「……実は……サラサ姫の件から、邪教徒を取り逃がしたことが明るみに出て、責任を取るため腹を切れと命じられるところだったのである」


邪教徒の拠点壊滅、逃亡者以外はすべて殲滅と言う形で事を抑めようとしていたところ、そのサラサと言う少女の身元から帝の関係者の可能性が浮上し、一気に確認が厳しくなったらしい。

拠点壊滅は事実ながら、相手方の主犯は誰一人打ち取れておらず、おまけにその内親王の娘も攫われたとあっては、責任を取らぬわけには行かぬと。


「……それはご愁傷様です」


「スサト様がとりなしてくださり島流し、となるところ……アサミ家から秘密裏に、娘を探し出して連れ戻せと依頼がありまして……成せば家の復興にも助力を頂けると、そう持ち掛けられたのである」


アサミ家とアケチ家にそれほど大きな力の差はない。

今回の件でアケチ家は責任を取らされて降格。アサミ家は被害者という形になっているため、汚名返上の機会を与えるという名目で、アケチ氏に命を出したらしい。


「素直に拠点は潰したが一味は取り逃がしたと報告すべきであった。それでも責任は取らされたであろうが今よりマシである。家督を継いだばかりの兄上に向ける顔が無い」


「あ~……煙にまけませんでしたか。そいつは申し訳ない」


あの戦いは勝負に勝って試合に負けた状態だった。

ケガ人は全員感知させたし、戦果として量産された首も持って行かせたからごまかせるかと思ったが……

あの少女が帝の関係者なら完敗だろう。


「しかし、つじつま合わせの話に乗ったのは某の不徳!恨み言を言うつもりはございませぬ!ワタル殿もこのまま引き下がるつもりは無いのでしょう?なにとぞ、某も仲間に加えていただきたい!」


なるほど。ん~……加えて問題無いかな。立場的にはバーバラさんより軽い。

身元も分かって居るし、目的も明確だ。魔王討伐の力になるかは分からないが、少なくとも邪教徒に対抗する戦力にはなるだろう。


「今の俺たちじゃ邪教徒への対抗はすぐには難しいので、時間のかかる旅になりますよ」


アーニャとも話したが、何かしらのブレイクスルーが無い限りウェイン救出は1年ほど先、彼が成人する直前になるだろう。と言うか、そこをタイムリミットにして準備をすることになる。

さっさと魔王を倒せればいいんだが、今の調子じゃ残念ながらそう簡単には行きそうにない。


「承知の上。たとえ十年かかろうとも成し得る所存」


……俺はそんなに時間かけるつもりないよ。


「皆はどう思う?」


「私はワタルの決定に従うわよ」


「あたしは良いと思うぜ。目的は同じだし、変わるようならその時考えればいいだろ」


「私は口を挟む立場にありません。一応、国には報告したほうが良いと思いますが、それくらいです」


特に異論はないらしい。


「了解。んじゃまぁ、旅は道連れ。うちのやり方で良ければ一緒に行きましょうか」


「おお、恩に着るのである!」


こうして、大陸を目指す一向にフォレスの武者ダイゴロウ・アケチが加わったのであった。

貴方のブクマ、評価、感想が励みになります。

下の☆☆☆☆☆をポチポチっと★★★★★に色変えて貰えるともれなく歓喜します。

応援よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ