第211話 技術について検証してみた 後編
タリアに続いて、次はバーバラさんのターン。アーニャは活躍の場があまりなかったので、今回は最後にお披露目会となるだろう。
バーバラさんのスキルキャンセルも二人は知らないから、実質的にはお披露目会だけど。
「私が試していたのは、スキルキャンセルと言われる技術です。そもそも格闘家のスキルを知らないと思うので、そこから説明しますね」
そう言うと彼女は見えやすい、こちらに真横を見せる位置に陣取る。
「まず、霞正拳。これは相手に拳の幻影を見せてフェイントとし、防御を崩すスキルです」
スキルを発動すると、バーバラさんが低めの正拳突きを放ったように見えた。
しかし次の瞬間、初手とは違う高め、人で言うなら顔面に向かって突きが放たれていた。
「このように、防御を崩す技ですが、初手が幻影、続いて放てるのが正拳突きと言う制限があります。動きの決まっている近接職のスキルは、普通に使っていると発動した時点で次の手は限られます」
剣士の代表的なスキルの一つ、十文字切りなどだと、必ず縦斬りから入って、2手目は横斬りになる。これは1打目が防御されても2打目に続くというメリットがあるが、実は行動が制限されているというデメリットも存在する。
「そこで使うのがスキルキャンセルです。1つ目のスキル発動中に、2つ目のスキルを発動させることで、この制限を無効化します」
バーバラさんが霞正拳を放ち、まっすぐに幻が放たれた瞬間、土人形の足元が吹き飛ぶ。
次の瞬間には、ソバット気味の回し後ろ蹴りが頭部の位置に突き刺さっていた。
「霞正拳からの二段蹴り。俗に霞二段呼ばれている技術です。これが出来るようになるのに、2つのスキルを覚えてから1年以上かかりました。実戦でまともに成功させられたのは、今回が初めてです」
「面白いわね」
「魔術には応用が難しいけど、動作の決まったアクティブスキルには有効な技術だよね」
もっとも、今のところこの技術が価値を発揮するスキルを持っているのはバーバラさんしかいないのだが。
「今回挑戦してみてうまく行かなかったのは、疾風脚から、中級スキル流星脚です。流星脚は中級スキルで、今はまだ発声する必要があります。疾風脚はこんな感じです」
バーバラさんは少し離れた所から地面を蹴って飛び蹴りを放つと、1発目が当たった所で反対の足で2発目、身体を捻って3発目を打ち込んで地面に降り立つ。
「……いま凄い不可解な動きをしたように見えたぞ」
「泥人形が微動だにしないのに、反発もせず次に行ったからね」
格ゲーの必殺技を見ているような動きをする。
「三打目を流星脚に置き換えたいのですが、うまく行きませんでした。ちなみにこんな技です。流星脚」
その場で飛び上がると、スキルを発動。バーバラさんは1回転してから若干斜め下、ほぼ90度真横に向かって足を延ばしたまま飛び蹴りを放つ。
横に向かってスライドして蹴るのが流星脚の特徴だ。
「……腑に落ちない」
「こうしてみると、スキルって曲芸の類ね」
「なんでそんな珍獣を見るような視線をこっちに向けるんですかっ!」
……物理法則を無視した動きをしてるからな。
ゲームでは見慣れた光景なのだが、実際に目にすると違和感は凄い。物理法則はそういう風に動けるようにできてはいないはずなのだが。
「まぁ、一部のスキルが人体の不思議レベルでありえない状態になるのは周知の事実だし、推進力無しで横に飛ぶくらいはね。実際にスキルキャンセルをする際はどんな感じなの?」
「発生が必要なので、疾風脚に入ると同時に発生を始めます。流星……脚!」
1,2の3と言った感じで、3発目を放つと同時にスキルを放とうとするが、うまく行かなかったようでそのまま着地。中級スキルの発動タイミングが難しい感じか。
「スキルキャンセルが3種も出来れば騎士団で小隊長になれます。中級スキルを混ぜるのも難しいですし、まだまだ訓練が必要ですね」
近接職はレベルが上がれば中級スキルの無詠唱化が出来る。それが出来れば多少は楽になるだろう。
「……しかし、疾風脚は3発目が当たったらあとは反発して着地なんだな。それなら、3発目が終わってから流星脚で良いんじゃないか?」
「……どういうことです?」
「飛び蹴りってこんな感じになるじゃん」
泥人形に向けて飛び上がると、突き出す形で蹴りを放つ。
対象を蹴るのは、地面を蹴るのとそう変わらない。蹴った反動を使って一回転し着地する。
「一回転したところで流星脚を発動させれば4発目になるんじゃない?」
ステータスが高いのでこれ位の動きは出来る。
スキルキャンセルとはちょっと違うが、疾風脚の3発目の吹き飛ばし効果は弱いようだし、無防備な落下をさらすくらいならそのままスキルを発動させたい。
「なるほど。やってみます!」
再度土人形に向かってスキルを発動する。
「……流星……脚!」
3発目の蹴りが決まった後、流星脚が発動して泥人形を吹き飛ばした。
初級魔術の土人形では、中級スキルには耐えられなかったか。
「……できちゃいました。いいですねこれ」
「飛び蹴り系のスキルは隙があるから、うまく繋げば軽減できるかもね。いろいろ組み合わせを考えてみて」
とりあえず、スキルキャンセルに対してスキルコンボとでも名付けておこう。
集合知で調べてみると、スキル発動後の体勢から次のスキルにつなげるという技術もあるらしい。
ある意味当然なので、体系化されていないようだ。後で調べておこう。
「それじゃあ、最後はあたしだな」
アーニャがやろうとしていたのは、俺と同じくモーションに合わせて魔術を使う方法。
ただし、彼女の場合はスキルでは無くて手動魔術である。
「ワタルには見せたけど、まずは魔弾拳」
ターゲットを巻き藁に変えて、アーニャは腰を落として拳を突き出す。
その拳が当たった瞬間、バンッ!っと炸裂音がして支柱に撒かれた藁の一部がちぎれて舞う。
おお、結構な威力が出ている。
「……凄いですね。何が起こったのか、私の魔力感知では分かりませんでした」
「同じくよ。アーニャのステータスを知ってなかったら、ステータスの高い人が殴ったようにしか見えない」
今のはMP10の魔弾を拳に載せて殴ったようだ。
魔力感知では、発動してもその魔力の動きを捕らえることが出来ない。俺が魔弾を拳に乗せた場合、スキルを使ったのはバレバレなのだ。
だがアーニャの技なら分からない。通常攻撃だと思って受ければ、簡単に吹き飛ばされるだろう。
「へへ。中々だろ。魔弾拳って名前を付けたオリジナルの業だせ」
手動魔術を発動できるようになってから1ヵ月弱。訓練を始めてからだと3ヶ月ほどになるか。ほとんど前例がない中、ここまで出来るようになるとは末恐ろしいな。
集合知にある手動魔術の情報は、未成年のころからトレーニングに励んでいたものが使えるようになるのでは、と言うくらいの物だった。
「それじゃあ、もう一つ。こっちはワタルにも見せてない新技だぜ」
「……ん?」
アーニャは巻き藁に向かうと、腰に差しているショートソードを抜いた。
あまり使うことは無いが、切れ味強化と耐久力向上が付与されたシンプルな一品だ。
「……ふぅ……はっ!」
巻き藁に向かって短剣を突き立てる。
ステータスを強化していないアーニャの力では、エンチャントがあっても切っ先数センチが刺さる位で……。
そう思った瞬間、バンッ!と炸裂音がして巻き藁の支柱が砕けて吹き飛んだ。
「え……なにそれ?」
そんな現象知らないんだけど。タリアとバーバラさんも目を丸くしている。
「へへ!すげぇだろ。まだ2回に1回くらいしか成功しないんだけどな。突き刺さった切っ先から魔弾を放ってるんだ。中にだけ魔術が発動すると、こう、逃げるところが無いって言うか、全部が壊れる力に変わる見たいで、こんな感じになるんだぜ」
俺が教えた言葉を使って、アーニャは自分の技術を丁寧に説明してくれる。
なるほど、やってることは分かった。そして俺が居やりたかった斬撃から魔弾を放つのと似たようなことを、彼女が出来ていることも理解した。
……やばいな。教える内容を全く自重してなかったら、勝手に殺意の高い技術を生み出し始めてる。
「相手取りやすい魔物が居たら、魔物の体内でも発動するか試してみようと思ってたんだけどな」
人も、魔物も、身体の中に直接破壊の力を発動させることは出来ない。
生命活動を阻害するような変化は、無意識に拒絶して、その拒絶が魔術やスキルの発動を阻害するからだと考えられている。
しかしこの技は、周囲を肉体に覆われていても短剣の切っ先から魔術を発動させる技術だ。もしかしたら行けるかもしれない。……魔物で行けたら、多分人間でも行けるな。
「恐ろしいわね。……将来有望って事にしておこうかしら」
「……私ももっと頑張らなきゃなりませんね」
しかし技術の恐ろしさとに対して、ぶんぶんと尻尾を振ってほめてと暗にアピールするアーニャの可愛さよ。
「よしよし、すごいな」
タリアの精霊魔術に続いて、アーニャも予想の斜め上を行くようになってきたか。
成人して職に着いたら、ステータスだけじゃあっという間に追い抜かれるかもしれない。
気を抜かず精進しようと、心に誓うのだった。
バーバラさんのスキルキャンセルやコンボは、格ゲーだと思ってください。
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