第202話 海岸線の魔物を狩った
「海だー!」
タリアとバーバラさんの衣替えから三日。
ミスイに戻った俺たち4人は、海の魔物を調査するため朝から浜に繰り出していた。
「別にこれまでもさんざん見て来たじゃない」
「砂浜に来るのは初めてだろう?」
もう冬になっているのでさすがに風は冷たいが、浜も水もめっちゃ綺麗でテンション上がる。
もっと暖かい時期なら泳ぎたいくらいなのだが、残念ながら魔物がはびこるこの世界に、海水浴的なレジャーは無い。水着も無い。と言うか、街中以外いつ魔物が襲ってくるか分からないので、レジャーと言う概念が無い。クソだね。
「砂地は足腰の鍛錬に良いと聞いたことが有りますが……」
「思った以上に歩きづらいな」
バーバラさんとアーニャは初めての砂浜に戸惑いを覚えているようだ。
気持ちは分かる。砂浜は近接冒険者に取っては鬼門。常に泥沼を掛けられているような状態だ。
ステータスが高くても、足場が悪ければ行動に支障が出る。見晴らし良く開けたビーチに人が居ないのは、ここがそれだけ危険だからでもある。
「タリアは違和感ないの?」
「私はここに入った時から、念動力で足場を固めてその上を歩いてるわよ」
「なるほど」
念動力のコストは、動かしたモノの質量に受ける。砂を固めるくらいならMPの消費はほぼ無く、巫女のスキルで性能の上がった念動力なら応答速度も問題無いのだろう。
俺ならどうするべきかな。念動力は使えるけどレスポンスが悪いし……変成で砂を固めるのと念動力を交互に使う事で代用できるかな?
まぁ、戦い方を考えるのも今日の目的だ。
「さて、それじゃあ始めようか。俺とバーバラさんは前衛。タリアとアーニャは後衛。タリアはアーニャのフォローをお願い。空と地中に気を付けて」
「任せておいて」
「無理せず頑張るぜ」
起点となるのは波打ち際から20メートルほどの地点。
ここに魔物寄せのアイテムを設置して、寄ってきた魔物をひたすら狩ることに成る。
「バーバラさん、足場が悪いので無理はしないでくださいね」
「……新調してもらった防具に見合う働きはして見せます」
今日は気合が入っている。
昨日の訓練を兼ねた模擬戦で、装備の性能はわかっているから、実はそう心配はしていない。
「さて、まずは……変成」
砂を変質させて高さ50センチくらいの台を作り、そこに予備の剣の一本を刺す。
エンチャントが掛けてある魔鉄合金の剣は、これだけで数千Gはする。さらに、最近使うことが少なくなった行軍の腕輪をひっかけて準備完了。
つぎに魔力探信を発動させて周囲の魔物を確認。やはり海の中にそれなりにいるな。
密度の高い海中ではサーチの範囲がかなり制限させるが、さすがに海岸から見える範囲なら海底までほぼ確認できる。
さらにビットを飛ばして、遠洋2キロ弱くらいまでの範囲にサーチを広げる。
魔力探信を使っていると魔物はさらに寄ってくる。既に見える範疇にいた魔物は動き出したな。
「海からはサハギン、陸からも少し獣が来そうですね。おっと、それより早い反応が」
「はい、見えました!行きます!」
まずはバーバラさんが飛び出していく。
飛び出してきたのはフライ・マンタと飛鉄砲魚が数匹。
フライ・マンタは名前の通り空中を泳ぐエイだ。小さい個体でも幅は2メートル以上、長さは3メートル以上。こいつは価値によって大きさが変わる。尾の先に鋭い毒針を持ち、空中を泳ぎながら体当たりと尻尾で攻撃をしてくる。
飛鉄砲魚は、水の衝撃弾を打ち込んでくる鉄砲魚の飛行する形態。体長は30センチから1メートル弱で流線型の体躯。トビウオのような羽で滑空しながら、体内に貯めた水を打ち出してくる。高速で飛行しながら、滑空だけじゃなくて上昇もするのでその動きを捕らえるのはなかなか難しい。
「空踊」
いちにの三で空中へ飛び上がると、さらにそこから空を蹴って接敵。
実を捻ってフライマンタの尾をかわすと、スキルを乗せた拳をその身に叩き込んだ。
弾かれた魔物の身体が宙を舞う。
しかし悠長にそれを見ている時間はなさそうだ。飛鉄砲魚の水撃が彼女を襲う。
「はっ!」
そのほどんどはステップで避け、避けきれないものは拳で弾き返すとともに、飛翔拳で一匹を仕留める。
さらにここでようやく落ちてきたフライマンタの尾を掴むと、そいつを飛鉄砲魚に向けて投げ飛ばした。
巻き込まれた魚とマンタがドロップに変わる。鮮やかだな。
この手の飛行系の魔物は、動きは早いがホバリングが出来ないので直線軌道になる。そこを攻略の糸口として、うまく立ち回れている。これならダメージを受けることも無いだろう。
つついてサハギン達が出てきたな。まだ距離があるので、投げ槍で攻撃してきているようだが、さすがに当たる速度ではない。しかしまぁ、ボケっと見ていてやる必要も無かろう。
「さて、それじゃあ俺も。アルタイルさん、お願いします」
収納空間から呼び出したアルタイルさんに、質量軽減を掛けてもらう。すでに作戦は説明済み。これで俺の体重は10キロ以下だ。
「我々は本当にいいのかね? 別にこんな直射日光の下で戦いたいわけでは無いのだが……」
「ええ、タリアの収納空間の中にでもいてください」
こんな腐敗の進みそうな環境で戦いたくは無いだろう。
「さて、フリスビ~」
収納空間から取り出したのは、直径40センチ強の木製フリスビー。半分玩具、半分トレーニングアイテムとして作ってみた者だが、今回はこれを使った戦い方をしてみよう。
「それ、飛んでけ!」
ステータスで強化されたパワーによって投擲されたフリスビーは、凄い勢いで海へ向かって飛んでいく。さて、どこまで飛ぶかな。
「それじゃ、行ってくる!」
「気を付けてね!」
「影渡り!」
その瞬間、海面上に落ちた高速で飛翔するフリスビーの影にワープする。
即座に収納空間から2メートル四方ほどの木板を取り出すと、それを海面に放り出して足場にする。この木版も質量軽減を掛けているので、かなりの浮力で海面に浮く。短時間なら問題ない。さらにさらに飛んでいくフリスビーを念動力で回収。さて、魔物はどこだ?
「海面近くに居るのは……そっちだな」
投擲、足場の収納、さらに影渡りによって目標の魔物の目の前まで飛び……
「魔投槍!」
転移と同時にスキルで攻撃、水没する前にもう一度影渡りで移動し、足場を出して着地。
魔物は倒せているので、念動力でドロップを拾う。おっと、封魔弾モドキか。
さて、投擲物の影にワープは可能だったな。これで海の上でも海面に落ちた影で高速移動スキルが使える。スキルでの攻撃で海面の相手も倒せる。
次は……ビット!
周囲の魔物に向けて8機のビットを飛ばすと、それによって落ちた影に飛ぼうとするが……。
「っ!今度は選択肢が少ないな」
飛行するビットの影の内、ワープできる影はその瞬間2つのみ。海面に立つ波によって影が薄くなり、スキル発動に必要な条件がそろわない。
そもそもビットは軽量化によって骨格を絞っているから、影が薄くワープには不向きだな。
最も近くに魔物が居る影に飛ぶと、今まさに飛び出してこようとしていたフライ・マンタに剣を突き刺す。
うぉっぷ、沈む!
魔物がドロップに変わったのを確認し、改修してから足場の上へ。
剣での攻撃は厳しいな。回収してスキル発動までに腰まで沈んだ。軽くなっていても、ほぼ意味がない。
身体が沈む前に海面を蹴って走るのは無理だな。浮力が足りねえ。
「さて、もういっちょ!」
またフリスビーの影にワープして、魔投槍を発動。
今度は5メートル程下にいる相手。これはダメージは与えられたようだが……倒せてはいない。
しかし水しぶきが凄いな。海面に当たった瞬間、衝撃波が解放されて海面がえぐれるように削れている。
……あ、これなら行けるか?
「敵はあっちか。深さは……10メートル近く。行けるかな?」
フリスビーを魔物の真上を通る様に投擲。魔力量から言って1000G未満の海獣か海洋哺乳類系の魔物。さて?
「魔槍!」
海面に向けて放った魔術が水流を巻き上げ、沈もうとする俺の身体を宙へ巻き上げる。
多重詠唱……。
「魔投槍!」
魔物の居る海中に向けて、魔投槍を連射。
えぐれた海面をさらに吹き飛ばしながら、10メートル下の魔物に向かってジャベリンが突き進む。放ったうち4発目が魔物を貫き、5発目が海底に突き刺さった!
「うぉっぷっ!」
魔物は倒せたが、水の流れがぐちゃぐちゃすぎてバランスが取れん!
慌ててシャドウトリップで足場へ戻る。
「はぁ……ふぅ……いまの戦い方はダメだな。MP消費が大きすぎる」
1匹倒すのにあんなにMP使っていられない。
「足場はうまく機能しているけど……っと、そうでもないか」
足場を蹴って宙へ。その瞬間、足場を真下から放たれた水撃が貫いた。
結構な大きさの木板が、あっという間にバラバラの板に変わる。
幸い、板はいくつも準備してあるけれど、やはりゆっくり休むのは無理だな。
「真下からの攻撃に対処しないと、やはり水上戦はキツイ」
さて、次はどうしたものか。
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