閑話 反省会をしよう 前編
「反省会をしましょう」
邪教徒を取り逃した後、ケガ人の応急処置をした俺たちは、残された屋敷で休息を取っていた。
とりあえず死人はおらず、負傷者は多い者のみんな一命をとりとめている。重傷者も多いが、ほとんどは再生治癒で治せるだろう。
雨は強くなっており、いまから負傷者を連れて山を下りるのは現実的ではない。
無事だった者たちは休息のため、炊き出しの準備を始めている。俺たちはあくまで協力者なので、原形をとどめた小屋の一つを借りて、休息がてらの反省会を提案した。
「その前に、状況を整理させていただきたいのであるが」
参加者は俺を含めた渇望者たちのメンバーと、アケチ氏。それにここには居ないものの別働2部隊の隊長殿たちが念話にて参加中だ。
「もちろんです。まずは敵の招待ですが、戦闘中のやり取りから邪教徒であると判明しました」
アヴァランチ。一般的には邪教徒だったり、魔王信奉者だったりと呼ばれている人類の裏切り者。
主な活動内容は、魔物側への情報提供、拉致、誘拐、強盗、殺人、暗殺、国家転覆、貧民への食料医療支援、流民の誘致、奴隷解放など多岐にわたる。
彼らの中には二種類のタイプが居て、自らの欲望のために不老不死である魔人になることを目指す者、人間や特定の組織への復讐のため人類に仇成す者、のどちらかに分けられる。
「今回相対したのはおそらく前者、魔物に与することを選んだ奴らがメインでしょうね」
フォレス皇国にうらみのあるテロリストなら、痕跡が残る他国の商隊襲撃事件なんて中途半端なことしないだろう。
「私たちが村に突入した時、突然村の中で魔物に襲われたわ。一般職らしき男が呼び出していたみたいだったんだけど……」
「召喚持ちの魔人かな。そいつはどうなったの?」
「魔物を相手している間に消えてしまいました」
なるほど。魔人も避難の対象になるのだろう。
魔人に対しての知識はあまり情報が無い。魔物としての性質をごまかすのに大きなコストを使っているので、実戦闘能力は低めになることが多いらしい。それで一般職と間違えたか。
「取り逃がした原因が避難として、それでは追えぬのである。奴らの目的は何だったのであるか?」
「いつも通りの魔物強化だと思いますよ」
そもそもハオラン・リーの商隊が襲われたのはイレギュラーだと思う。
ウェインの情報はどこかから手に入れたのだろう。例えばミラージュからとか。あいつらは必要に応じて連携するからな。
もともとの目的は、フォレス皇国やダラディス皇国における勢力拡大だろうと推測する。
海の魔物の出現頻度が上がっているのには関与してるだろうか。なんにせよ、拠点を一つ潰せたのは意味があるだろう。
ミティス島の大きさを考えればダラディス側とあわせて、もう一つや二つあってもよさそうだけど。
「ワタルは逃亡先分かってるのか?」
「敵の死霊術師が、ウェインを返して欲しければクトニオスまで来いって言ってたからね」
「クトニオスとは?」
「東大陸にある、魔物に滅ぼされた王国の名前ですよ。ここからだと大陸の反対側ですね」
旧クトニオス王国はクロノスの南西にある、中央大陸側の海に面した国だった。
温暖な気候と南北を山に囲まれた領土を持ち、東大陸有数の国家であったが、中央大陸で発生した魔物の攻勢を受けて数百年前に滅亡している。
クトニオス王国の滅亡が、東大陸での金剛条約締結の礎となったのは間違いない。
「むぅ……」
アケチ氏は難しい顔をした。取り逃がした敵の捕獲を考えているのだろう。
「敵の正体と逃亡先はさておき、今回の戦いの反省に入りましょう」
事前に分かって居た敵の兵力は、死霊術師と精霊魔術士を始めとする30人ほどの一団。
タリアの観測で分かって居たのは戦闘職が多いであろうという事。それに村長に相当する人物が良そうなくらい。
「まず、包囲中に起こった敵の攻撃について教えてほしいのである!あれは死霊術のスキルであるか?」
「はい。アレはあらかじめ埋めて置いた死体を屍体操作で操って、足元から魔術を発動させたのだと思います」
屍体操作で捜査される前の死体なら、死者探査を使わなければ探索に引っかからない。
精霊魔術による自然偽装を行われたら、熟練の斥候であってもまず気が付かないだろう。
「ああいう使い方をしてくるって想定できなかったこと、MP消費を避けるため死者探査などの探索を最低限にしてしまったのも失敗ですね」
俺が先行してサーチしていれば防げたはずだ。
「すごい数の遺体だったけど……あんなに?」
「そうであるな。近隣の行方不明者の人数を考えても、あれほどの死体が出るとは思わなかったであるが……」
「それについても心当たりがあります。ちょっとお待ちを」
影渡りと影渡しを使って、亡骸のいくつかを小屋へと運んできた。既にステータスを確認済みだ。
「見てください。この3つの遺体は、屍体操作でステータスを開くとすべてロナルド・ヤマーダさんです」
40レベル越えの魔術師さん。ステータス表示はすべて一致する。
「……同姓同名……三つ子とかでしょうか?顔も似ているように思いますが」
「いや、もっといる」
「どういう事であるか?」
「義体構築を使って、1つの遺体から複数の遺体を再構築しているんですよ」
義体構築は、死体の失われた身体の一部を別の素材で代替するスキルだ。
素材コストはかかるが、腕一本あればそこから全身を再生することも不可能ではない。
そうやって一つの遺体を複数の遺体に増産している。
「髪の毛1本から分身を作るのは無理ですが、人体をある程度大きさの有るパーツに分割してそれぞれを再生させれば、同じ人物を複数作れます。スキルもステータスも引き継がれますから、量産は可能です」
この量産されたヤマーダさんに人格再填を使ったらどうなるのだろう。
興味はあるが、あまりやらないほうが良い気がする。
「……許されざる所業であるな」
「ええ、余り気持ち良いやり方ではありませんね。その後に出てきたゾンビたちも似たようなものです」
あれは死体再構築という30レベルで使えるようになるスキルだ。
義体構築と同じく、死体を別の何かで修復するスキルであるが、元に成った死体の性能を残したまま1つの死体として再構築できる。
複数の死体から1つの死体を作ることで、二人のスキルやステータスを有したキメラが作成可能になる。
一つの死体の使用量が2割を切るとうまくステータス参照できなくなるという話があるが、実際の所はどうだか。此方も一部のパーツを使うことで、同一人物を複製可能だ。
頭二つつけて人格再填したらどうなるかは、考えたくもない。
しかも他の生物の死体も組み合わせることが出来る。
牛だの猪だの、そのほかにも大型の獣のパーツが混ざっていたのはそのためだ。これが魔獣やドラゴンのような強力な生物のパーツを使われていると、並の2次職だと手が付けられない。
「今回の相手は、おそらく2次職の遺体をベースに、魔術師などの遺体を組み合わせたのでしょう。近接、遠距離、何でもできる怪物と化していたと思われます。どれだけ同一人物が分割されているかは考えたくないですね」
人格再填が神の奇跡なら、その前に覚える死体再構築は悪魔の所業だ。生理的に受け付けない使い方の性能が高い。
だから死霊術師は利用者が少ないんだよ。
「倒すとすればどうすればよいのだ?」
「ゾンビタイプなら頭蓋骨を砕けばいいので、頭を吹き飛ばすと良いです。骨しか無いような奴は頭蓋骨以外に、頸椎か仙骨を砕いても倒せます。もちろん、相手に素材があれば直してきますけど。なので術者を叩くのが一番早いです」
基本的には多重処理で捜査しているのだろうが、スキル発動にかかる一単位時間に1体の出来る行動回数は変わらない。倒れた死体に再構築スキルを使って、その後操作接続スキルを使うので、術者の時間2単位を消費できる。
「操作しているのは人ですから、どれだけ修練を積んでもスキル選択や対象取りに甘さは出ます。遠距離から弓兵などが術者を妨害しつつ、高速移動スキルを使える2次職で一気に押し切るのが理想ですかね」
「ワタル殿もそう言う戦い方をされるのが苦手か?」
「俺の場合、操作範囲が広いので弓兵や魔術師射程外から操れます。そもそも人格再填を使っているので、死体の操作に俺自身のコストは割いてません。スキル範囲外でもしばらく動くので、戦闘中くらいなら影響しませんね。これは相手が人格再填を使っていれば変わりません」
ただ、死後に自分の身体をキメラにされて身体を使いこなせるようなのはだいぶ奇人だからな。そう言うタイプは数を揃えられないだろう。
「キメラのステータスは分からぬか?」
「残念ながら、全部回収されちゃいましたからね」
「そうか。あやつらとの戦いでもかなりの負傷者が出た。聞いていたとはいえ、見たことも無い敵が防御を捨てて襲い掛かって来る対処は難しいものだな」
人間との戦い方とは違う。魔物との戦い方ともまた違う。出来ればやり合いたくない相手だ。
さて、キメラゾンビとの戦闘に関してはこんなもんかな。
「特に異論がなければ、魔人、その他の戦力に関する分析に移ろうと思いますが」
特に異論はないようだ。
戦闘描写中は省きまくった各種設定等はこんな感じでした。
本編に入れるのは冗長なので、閑話としての公開にしてみましたが、いかがでしたでしょう。
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