第164話 オーバーサウザンツ
「ビットっ!再装填!」
残った5機の内、まともに飛べる4つビットを操って、消えゆく生命反応に治癒弾を放つ。
くそっ!やられた!高INTの俺の盾でも防げない物理系効果力の魔術!
展開した壁はほとんどが破壊され、巻き込まれたビット3つが粉砕された。そして何より、生命探査から消えた光は十や二十ではきかない。
相手の魔術の直撃範囲は直径100メートルほど。
範囲内に居たのは近接職の2~3割、それに鉄牙猪を始めとした魔物。
味方を巻き込むことを躊躇せず、人の多い所に向かって上級魔術を打ち込んできやがった。
「バーバラさん!怪我人の救助を!」
こうしている間にも命の光が消えていく。
回復が間に合わない。致命傷、ギリギリ生きているだけの人は治癒弾じゃ助けられない。治療するなら、目の前の魔物どもが邪魔だ。
『敵指揮官だ!2次、3次職の者がかかれ!1次職はけが人の救助を!』
砂塵立ち込める戦場で、止まっているものなど居ない。痛かろうが辛かろうが、皆即座に次に行動を映している。
まだ助かる命に向かって飛ぶビットが横目に、新たに能われた魔物たちを捕らえる。
高速移動が可能な数人の兵が、敵めがけて切りかかっていくところだった。
「うっとおしいな」
赤銅の肌の男の口がそう動いたのが見えた。
その動きは素早いの一言。
インファイター系の戦いを得意とするのだろう。切りかかる剣士の斬撃をはじき、槍使いの突きを避けると二人合わせて蹴り飛ばす。
その間に蝙蝠羽根の男が、魔術で他の数人の動きを止めていた。
位置取りが悪かったか。しかし、そのまま魔物どもに自由にさせるいわれはない。
「影の帳は厚き障壁となる!影の壁!」
魔物たちを巻き込むようにMPダメージの入る影の壁を発動。蝙蝠羽根が発動した魔術を防ぎつつ、相手のMPを削る作戦。
当然相手は悠長に範囲内に居る訳も無く……っ!こっちに!
「魔術師は後衛たと思ったがな」
100メートル近い距離が一瞬で詰まる。高速移動!エリュマントスが使っていた縮地と同系統のスキルだ。
「死ね」
オーガの魔物が拳を振り上げるのが見える。
っ!避ける?見えてはいる。避けられるかは五分五分……違う!奴は魔術師と言った!侮っている!ならやることは一つ!
収納空間!多重詠唱!切れ味強化!
振り上げた状態で取り出した【雷縛のバスタードソード】に、今できる最大、七十ニ重ねの切れ味強化を発動する。
「お前が死ねっ!」
「ぬっ!?」
オーガの拳が胴に突き刺さるとほぼ同時に、剣は袈裟懸けに振り押され……。
「げふっ!」
「ぐあっ!?」
俺が吹き飛ばされると同時に、相手に片腕が宙を舞った。
くそっ!一撃で仕留められなかった!
多重処理によってコントロールされたビットを通じて、冷静に自分を見ている人格が、即座に治癒弾を発動させてHPを回復。一回転して飛び起きる。
「キサマァァァッ!ナニヲシタァァァァァァ!」
「キサマを殺シタァ!略奪するは生命の右手!生命吸収!」
雷縛のバスターソードの効果で縫い止められたオーガに向かって、生命吸収を放つと同時に前へ飛ぶ。
吹き飛ばされた距離は10メートル以上。高速移動スキルが使えない俺にとって、この距離は遠い。瞬間移動系統のスキルが欲しい。
無詠唱で発動できるスキルは限られている。この距離で使えるのは錬金術師の攻撃魔術。
「多重詠唱!魔投槍!」
高威力中射程の魔素で形作られた槍が三発、魔物に向かって射出される。
「何をやっておられるのです」
ジャベリンが敵に突き刺さろうという瞬間、陰から湧き出てきた蝙蝠羽根の男が障壁を展開してそれを防ぐ。もう来やがったか!
「フェイスゥレスゥ!!」
収納空間からフェイスレスを召喚。破損した1台のビットは、装備を収納空間に収納するためメルカバ―が見える位置に飛ばしていた。
「これは!?がっ!」
飛び出したフェイスレスが蝙蝠羽根の男を殴り飛ばす。そのままさらに加速して相手を掴むと、STRの任せて地面にたたきつけた。
「蛸の足っ!」
ほぼ同時に装着された蛸の足の足が、きりもみ回転しながらオーガへと襲い掛かる。
「ナメルアナァッ!」
伸びてくる職種の一つを、何かのスキルが乗った拳が捕らえて粉砕する。
だが一本が相手を取らえ、高速回転でダメージを与えながら雷槍を発動させて確実に相手のHPを削っていく。
それと同時に残った二本の蛸足が地面を蹴って加速する。もう剣が届く範囲。エンチャントの効果は消えていない。
「しにさらせぇぇぇっ!」
「ヒッ!?」
まっすぐ頭部めがけて振り下ろされる剣。その瞬間、確かにオーガ司令は恐怖を感じた。
振るった剣はわずかに相手の角を切り落として地面に突き刺さった。
咄嗟にスキルを発動し、高速移動で距離を取ったのだ。
「ちっ!」
攻めきれなかった。腕を切り落とし、生命吸収とランスでのダメージもを与えたが、それでも倒し切るには足らない。
「バカな!俺が引いた!?この俺が!?」
「ついでにこの世からも引けばいいのになっ!」
高速移動のスキルを使われると、迎撃はともかく追撃は難しい。一気に倒してしまいたかったが……。
次の手を考えているさなか、フェイスレスが爆発と共に吹き飛ばされる。
蝙蝠男を捕まえてタコ殴りにしていたのがが、どうやら自爆覚悟で爆発系の魔術を使われたようだ。
「トサカにキマシタヨォッ!キサマはすぐさまコロスっ!」
うっとおしいな。
外見の情報から、オーガの方がディアボロス、蝙蝠男の方がカマソッツ。どちらも一万級と推定される、クロノス南部で破壊活動を行っている魔物だろう。
四魔将の次点組。中でも、侵略より破壊に重点を置くくそ共だ。二体まとめてこの場で始末してしまいたい。
二体同時にヒット&アウェイで攻められると辛い。何とかして一対一で戦いたい処なんだが……。
「よくぞ!助太刀させていただく!八重斬!」
「こっちもだ!戦斧旋風ッ!」
二体の視線がこちらに収集した瞬間、高速移動系スキルで戦場に飛び込んできた二つの影が高威力スキルを叩き込んだ。
「我が名はイッシン!南東より流る剣豪なり!」
「俺はグランド!狂乱戦士!神殿送りにされた仲間の恨み、撃たせてもらう!」
防衛部隊に参加していた3次職の冒険者たちか!
「俺はワタル・リターナー!人類最初の極めし者にして死霊術師!消えた命の代償はその身で払わせるっ!」
さぁ、即席パーティーで第二ラウンドだ。
多重詠唱で同時発動させられる魔術の回数には制限があり、その基準は規定INTとか必要INTとか呼ばれる、威力を規定値出すのに必要なINTで総INTを割った回数、に成ります。
初心者スキルやほぼエンチャント専用の切れ味強化の規定INTは10固定であり、現在のワタルの素のINTはおおむね720ほどです。
死霊術師になったことと、普段のトレーニングによってエリュマントス戦から100近く上がってます。合わせてMPなども上がっています。
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