第142話 機械人形、起動!
「~♪」
鼻歌交じりに収納空間から事前準備したアイテムを並べていく。さて、どれから使ってみようかな?
「色々作っていたのは知っていたけど、ほんとに色々あるのね」
「人形に見えるのもあるけど、よくわからねぇのも多いな」
「錬金術師のスキルを作って色々作ったからね。まずはこれかな」
地面に並べられたアイテムの中から、唯一人型のそれを指さす。
地球とこちらの知識を総動員して作成した魔鉄とチタンの合金製機械人形。直立時の高さは160センチほど。重量は100キロを超える。
動力は無いものの、関節構造は再現されており、簡単ながらピストン構造やギア構造も備えた、この世界では数少ない機械である。
変成を使ってもめっちゃ時間かかった。
「人形操作の操作は、さっきの土人形のようなものだけでなく、木組みのドールみたいなものも動かせる。と言うか、そっちの方が効率が良い。このスキルはレベルが上がると操作効率が上がるのだけど、基本は押す、引く、回転させるの3種類の動きがベースに成っていて、そこに近いほど操作がしやすいし効率が良い」
人をダメにするクッションを動かすより、自立するプラモデルを動かす方が楽なのだ。
「と言うわけで、人の形を真似て、かつ関節構造を再現することで、操作を効率化し発揮できる能力を出来る限り向上させたのがこの鋼鉄傀儡、鉄人1号フェイスレスさ。人形操作」
このスキルは魔力で作った糸を人形に伸ばして操作するイメージ。
錬金術師の念動力は薄い膜のようなもので対象を押したり、包んだりして動かすイメージだったが、こちらはさらにその膜から糸が伸びて繋がっている感が強く感じられる。
この糸のような回線が、人形の動きを自分にフィードバックする機能を果たしているのだろう。
膝を曲げ、肘を曲げ、身体を捻ってゆっくりと立ち上がる。
「ん、おおっと、二足歩行はさすがにぐらつくな」
ふらふらと視界が揺れる。クレイドールは膜で包んでその膜を動かす感じだったが、こっちはピストン操作で上手く動かさなきゃならない。背骨が可動しないから重心を取るのもなかなか難しい。
「……魔力の流れが不思議な感じ。スキルによる魔力が、どんどん変化しているわ。さっきの土人形とは別のスキル見たい」
「あたしには複雑に動いているくらいしか分からないけど……魔弾よりよっぽど複雑だな」
「マジで?ちょっとこれ操作しながら観測難しいんだけど」
慣れるまで気を抜くと倒れてしまいそうだ。
これが右手、こっちが左手、右足、左足、腰、首……お、安定した。スキルが隅々まで行き渡ると人形操作が人の身体のように行えるって言う情報だったが、全然別の人形でもやはり同じようになる。
スキルに人形の構造を把握して、操作者が扱いやすいよう最適化する術式が組み込まれているという見立ては正しそうだ。
「どうよ。黒鉄に輝くこのボディ。かっこよくない?」
「フルアーマーの騎士と何が違うのかはよくわからないわ」
むぅ。確かに外層は市販の鎧を張り付けただけだからな。手とか足とかの先は外骨格むき出しだけど。
名前通り顔は無く、ただしマウスカバーは在る状態。口の中はびっくりドッキリメカだ。
「土人形よりスムーズに動く。良いね。術が完成してしまえば、やはり発揮できる力はこっちの方が植えそうだ。適当に歩かせてみよう」
屈伸、 伸脚、腕を回してジャンプ。うん、情報通りすぐに慣れる。土人形も初見で動かせたし、この辺はスキルの良い所。
「その人形ってどの程度の距離操作できるの?」
「INT1につき1メートル。今の俺だと半径700メートルのサーチの範囲内は行ける。魔力消費も少ないよ。さっきの土人形は10秒で2くらい必要だったけど、こいつは30秒で1くらいに成ってる」
ちゃんと稼働機構を備えた人形を用意することで、MPの節約に成るのが人形遣いの良い所だ。
予備の剣を持たせて、そのまま人形を森の奥へと進めていく。さて、ちょっくら魔物を襲ってこよう。
「見えなくなっても平気なのか?」
「見えなくても平気だし、こっちは別の事も出来る。人形遣いは並行起動が基本だからね。俺が倍働けるのがこの職業の良い所」
自分の身体と、人形の身体を別々に操作できる感じ。
人形遣いはレベルが高くなると多重処理と言うスキルを覚えるのだが、これのおかげだ。自分の身体を操作するのと、人形の操作が別々の処理として同時に行える。
「……ワタルは病気なんじゃないかと思うわ」
「ひでぇ」
俺は魔王打倒のために、身を粉にして働いているだけなのに。
「こっちの、長いのとか蛇腹みたいなのは?」
「そっちはサポートアーム。まっすぐなのが蜘蛛の足、蛇腹な奴が蛸の足どっちも背負いって使う」
蛸の足に向かって人形操作を発動する。
こいつはランドセルの側面から、4本の蛇腹構造を持った足が生えている形状をしている。たこ足を操作して背中に背負うと、金属パーツが鎧にフィットして全身で足を背負ったら準備完了だ。
「この足の先は三又のアームに成っていて、こうして物を掴んだりもできる。軽量化しているから強度はそこまで高くないけど、まぁ普通の武器くらいはある。んで、構造的には……」
平べったい板のついたアームを操作すると勢いよく伸びて、近くの木に突き刺さる。さらにアームの先を回転させると、一抱え在りそうな木がガリガリと削れていく。
このアームは一番短いときは2メートルくらい、長く伸ばすと5メートルくらいに成る。太さは直径13センチだ。金属製で、細かい伸縮構造を繋げている自在関節だ。動力も伝達機構も組み込まなくていいので、実は構造は結構シンプル。
「さらにこんなこともできる」
削っている木にもう一つの腕を伸ばして掴むと、同時に仕込んだ魔術を発動。
炎槍が発動して幹を焼き尽くした。
「ぇぇ……」
「おっと。危ない危ない」
倒れてくる木をアームで支えて、ゆっくり地面に置く。パワーも十分あるな。俺のSTRでも支えられない重量でも、INTベースのスキルなら扱える。
「……ちょっと気持ち悪い。それ、人形なのか?」
「人形だよ。一応顔がある」
「顔が在ったら人形って雑過ぎない?」
「俺に言われても。構造的には人形と変わらないから操作もできる」
蜘蛛の足は3関節、3メートルの蜘蛛の足だ。こちらは強度を重視しており、先端には突き刺し可能な刃が付いている。
操作してみると分かるが、動きの瞬発力は蜘蛛の足の方が速く、自由度は蛸の足の方が高い。
背負ってはいるが、どちらも身体から離れた状態でも操作できる素敵兵器だ。
「ちょっと頭が痛くなってきたわ。毎日いそいそ何を作っているのかと思ってたけど……」
「こっちのいっぱいあるのはなんだ?」
「それはビットだね」
同じものが八つ。4つの大き目なプロペラの付いたマルチコプター対応。比較的構造がシンプル、かつ制作に成れたこともあって容易に量産で来た。使えなければ素材にも出せばいい精神だ。
「人形使いの基本はマルチタスク。付与魔術師には無かった発想だね。人形操作」
軽量化や耐久力向上をエンチャントしてあり、比較的軽い。金属は最低限だ。
4つの支柱に回転の力を加えると、ギアを通じて木製のプロペラが回転を始める。動かす部分が少ないから操作は簡単だけど、操作と動きがリンクしない。結構難しいな。
ギア構造によって主軸からの回転が高倍率に変換されてプロペラへと伝わる。秒間20回転に達した辺りで、ドローンがふわりと浮き上がる。
「すげぇ!飛んだ!」
「近づかないでね。回ってる羽根が結構危ない」
盾が発動するはずだけど、初心者なら指ぐらいは余裕で飛ぶ。
「浮遊の魔術を使ってるわけじゃ無くて」
「風を自分で起こして飛んでる。ゆけ!ビット!」
ゆけと言っても自分で操作するんだけどね。
羽根の回転数を操作して推進力に変える。いい感じ!ちょっとなれた!
視点をドローンに移して木々の合間を飛び回る。思ったより結構速度が出る。素晴らしい!
「人形操作!」
残っている7機にもリンクを繋ぐ。
自身の肉体と狩りに出してる鉄人1号、それにビット合わせて10体操作だけど行けるな。INT20で1体操作はコストが軽い。
ビットたちは周囲を自在に飛び回る。使えば使うだけ慣れる。神の作ったスキルは素晴らしい。
「このビットにはいくつかの魔術が仕込んである。タリアのサークレットと同じものだから、そこの木を見てて」
木に向かって飛んで行った6機のビットが周囲を取り囲むと同時に、魔弾を放つ。
六方から衝撃波を打ち込まれた木がしゃげて折れる。残り二機が遅れて魔弾を放つことで、倒れる木を吹き飛ばした。
「こんな感じで、半径700メートル範囲を自在に飛び回りながら魔術をバラまくわけだ」
念動力はモノは浮かせられるが、永続付与の発動トリガーを引けない。
ところが人形操作で回線を繋いだ対象は、それが可能。というか、人形を起点にしてスキルを使える。
触れないで封印付与の解除や、永続付与を発動の発動がついに出来るようになったのだ。人形限定だけど。
「……きっとやってることは凄いんだろうけど、あたしにはもう何が何だか」
「大丈夫よ。私もだから」
準備に時間はかかったが、錬金術師からの人形遣いは正解だな!これまで無理だったマルチタスクが出来るようになった。人形遣いは多重詠唱も覚えるし、この職業を見つけてよかった。
こんな感じで、作った人形モドキの操作を試している間にも、鉄人1号フェイスレスは寄ってきた魔物を切り捨てて、ドロップを収納空間に回収している。
使える手足が増えるってステキ!
錬金術師に成ってからいそいそ作っていた、どっかで見たことある兵器たちが日の目を浴びました。
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