第108話 錬金術で戦ってみた
「せいっ!」
ロバートさんの打ち込みを、身を捻ってかわす。
「それっ!」
反撃の斬撃を止められそうになって寸止め。
「なんのっ!」
「むっ!」
「せやっ!」
「おおっと!?」
「くっ!」
「このっ!」
打ち合わされる武器の音が庭に響く。
ロバートさんと一対一の模擬戦。そのままだとステータス差で勝負に成らないので、ちょっとひねりを加えた訓練である。
ロバートさんは木剣と盾、俺は盾無しで石英ガラスで作り重みを調整した模擬刀。
模擬刀のみで攻撃し、攻撃を当てた際、受けた際、このガラスの模擬刀が砕けたら俺の負けと言うルールだ。
強度が低いため攻撃するのも受けるのも力加減が難しい。
素早く動かすとどこかかすめただけで欠ける。ゆっくり動かすとそもそも当らないか防がれる。防がれても欠ける。
剣の技術はロバートさんの方が上、フェイントを織り交ぜた攻撃などかわせるわけも無く、ステータスでごり押し回避するしかない。
「ワタルさん、ステータス活かせないのに強すぎやしませんか?」
「いや、むしろロバートさんこそ。自分で提案してなんですけど、このルールだとキツイですよ」
3人で7回の模擬戦して一息入れる。なんとかイーブンで済んでい居る状態。
このルールで2対1をやると問答無用でぼこぼこにされることが分かったので、1対1で戦っているが、それでもキツイ。
「ワタルさんは、アインスで初めて戦った時より、型が良くなり技の切れも上がっているな。あの時はステータスで圧倒という戦い方だったが、今は技量も上がってきている」
一応毎日剣を振り、修練理解でトレーニングしている効果は出ているらしい。
「フェイントに引っかかったと思っても、きっちり防がれるんですよね。見切られてますか?」
「引っかかってますよ。DEXやAGIは効果を発揮していますから、力業で持ち直しているだけです」
ロバートさんのフェイントは、素人が見切れるようなものではない。
剣を振り出して10年以上に成るらしいから、そう簡単には追いつけない。
「逆に、ステータスが高ければ持ち直せるって事ですね。格上と戦うならそれを前提で更にひねらないといけないのか……」
「俺の場合、ステータスで負けるとどうしようもなくなるので、そこを何とかしないといけないですね」
封魔弾や他のスキルもあるが、それも避けられたり止められらりする可能性が高い。
ブギーマンとの戦いではレベルアップで覚えたブレイク系をうまく活用できたが、同じ手は2度は通じないだろう。魔王討伐を目指すなら、やはりスキル以外の技量向上も必要だな。
「そもそも格上と戦う機会がそうそうあるのがおかしいのだがな」
「そんなこと言っても、冒険者に成ってからそんなのばっかりですよ」
エリュマントス然り、ブギーマン然り。ギルドの言う1次職の適正レベルを考えるなら、凪の平原で戦ったゴブリン僧兵や、アリの巣穴で戦った魔術師も格上だろう。
「一度教会で浄化を受けたほうが良いのでは?」
「神様と直で話せる世界で、なんちゃって浄化を受けるメリットを感じませんね」
なんか憑いてるにしても魔術無効化で十分だ。
「そう言えば、錬金術師として戦うとどうなるのですか?」
ロバートさんは職業毎の戦い方の差に興味を持ったようだ。
「そうですね、錬金術師で覚える攻撃魔術は無属性に偏っていて、魔弾、魔矢、魔投槍、魔槍、長射魔弾の5種類。付与魔術師よりは戦いやすいですが、応用は効きづらいですね。なので、錬金術師のスキルで戦います。実際やってみたほうが早いですね」
庭に放り出してある資源箱から、鉄を5キロほど取り出して変成で棒状に伸ばす。
「軽く打ち合ってみましょうか」
「では失礼して」
数メートル先で木剣を構える。スキルの速度的にこちらから仕掛けるのには向かないので、ここは待ち。
「こちらから行きますよっ!」
ロバートさんの踏み込みに合わせて念動力を発動。狙うのは踏み出していない足。
「なっ!?」
姿勢が崩れ、力の乗っていない剣を棒で受ける。そのまま鍔まで棒を滑らせると、変成で腕に巻き付ける。
「なんと!?」
ロバートさんは咄嗟に振り払おうとするが、鉄棍はぐにゃりと伸びてさらに絡みつく。
その間に俺はバックステップで距離を取り、さらに変成を進める。
状況がマズイと気づいたのか、踏み込んで近づこうとするが、つながったままの鉄棍を抑えると体が止まる。
そうしている間に延びた鉄線は足まで絡みつき、ロバートさんの動きを封じた。
「人間や人型の魔物は、身体の可動範囲が分かりやすいですからね」
数秒秒で右手と両足の拘束が終わる。1次職のステータスではこれから脱出することは出来ない。
「あとは遠距離から魔術を打ち込むなり、なんなりですね」
「なんとトリッキーな」
変成は触れている対象の形状を思いのままに変えることができる。
組成が均一な金属は比較的変形しやすい。大体INT3桁、レベル40代前半の錬金術師の戦い方はこんな感じだ。
「念動力は打撃のような使い方では威力が弱い代わりに、視界内ならどこにでも思うがままに発生させられるのが強みです。人は重心とか手足の動きとかを阻害されるとうまく動けません。そこを狙って動きを封じて、封じている間に変成で更に拘束ですね」
ロバートさんのステータスを考えると、テレキネシスで顔面を殴打しても耐えてそのまま攻撃につなげてくるくらいはするだろう。人は2本脚で立っているのだから、そこを狙うのが良い。
逆にリネックさんは体勢の立て直しが早そうなので、急所を狙ってダメージを期待するのが良いかな。
錬金術師は束縛糸を覚えないから、拘束は物理素材でやる。
「……動けない」
「外しますよ。剣士のスキルを乗せれば、細い鉄なら切れるでしょうけど、スキルはモーションが限定されますから、こういう戦い方には弱いですね」
「1次職の魔術師の魔術なら防ぐ自身はあったのですが……かなり強直な職業ですね」
「そうでもないです。変成で物の形状を思い通りに変えるのはかなり集中力が必要なので、複数の敵がいれば難易度は跳ね上がります。また、こいつは見ての通り動きが遅いので、これで突き刺すみたいな事は出来ません」
普通の人間だったら、針状に伸ばした鉄線で刺すこともできるのだろうけど、VITが上がってくると難しい。
他者の魔力影響下ではスキル操作の難易度が跳ね上がる。俺のINTをフル活用しても、変成だけでロバートさんの防御を抜くのは多分無理だろう。STRをプラスして突き刺せば別だけど。
「あとは、こうして地面に触れて構造変化と変成を組み合わせると……」
少し先の地面が隆起して、槍のように鋭い岩が飛び出す。
「タリアの土壁や、2次職の石刺隆起に比べると形成速度が遅すぎて微妙ですが、質量があるので相手の動きに合わせればダメージが期待できます。ただ、見ての通り発動は遅めですね」
魔術師と違って、こちらは現象を手動コントロールだ。
一般的な錬金術師と魔術師を比較すると、錬金術の応用で1回攻撃する間に、魔術師は2回スキルを放つ。
「ワタルさんと話していると、剣士でよいのか悩みます」
「ステータスは剣士の方が優秀ですよ。こういうトリッキーな職は、ちゃんとした前衛が居て活躍できるんです。錬金術師がソロで戦おうとしたら、採算度外視で作ったマジックアイテムを椀飯振舞することに成ります」
この辺は付与魔術師とかわらない。
それに継続戦闘を考えるなら、基本職の方が有効なのだ。スキルだよりの今のような戦い方は、すぐにMPがきつくなる。
「魔物の種類をとにかく覚えて、相手が何をしてくるのか、理解しておくのが重要ですね。魔物は生産系職に近い性質のやつはほとんどいないようなので、錬金術師タイプと戦う事はほぼ無いでしょうけど。人間なら、とりあえず近づかないに限ります」
粉砕や変成での武器や防具の無力化も、加熱や冷却も人間相手には凶悪だ。これらのスキルは基本的に触れる事が条件に成るため、遠距離で戦うか、使われる隙を与えないほど攻めるかのどちらかだろう。
「せっかく付与魔術師のスキルがすべて定着したので、それと合わせて何か面白いことができないかと考えているんですけどね。まだ錬金術師のスキルの感覚が分かって居ないので、しばらくは実験ですよ」
一時付与は破損に強いけど、永続付与はどうだろう。
集合知に無い情報は自分で試してみないと分からない。
「そろそろ夕飯にしましょー」
それからしばらく、タリアが食事に呼びに来るまで鍛錬を続けたのだった。
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