第10話 覚えることを強制された
「てめぇにゃとりあえず、各魔術の基礎を覚えてもらう」
ギルドが管理する訓練場の一角、人気の無い射撃場に、半ば引きずられるように連れてこられた。
初心者でステータスの低い俺にあらがう術は無いが……この人魔術師系の割には筋力も高そうだな。
「ありがたい話だけど、MPがそんなに無いから魔力強化で良いんですけど」
「すぐに回復するだろ。さっさと始めるぞ」
いやまあ、確かにMPの回復速度は補正無しでも1分に1点だけどさ。
聖衝弾はMP消費5点。治癒は6点。魔力強化は8点。組み合わせにもよるけど、俺のMPだとあっという間に尽きる。
攻撃魔術の基礎である弾丸系の魔術は5点。これよりも少ない魔術は珍しいし、復唱の際にもMPを消費する。短時間でそんなには覚えられない。
「……お前、今日はどのくらい魔術を使った?」
「聖衝弾と治癒をあわせて10回以上で、数えてない」
「それだと今日の伸びしろはいっぱいか」
「……ステータスの1日成長上限まで知ってるのか」
この世界のステータスは修練によって伸びる。
けれどそれにはステータスに表示されない熟練度と呼ばれるパラメータがあるとされていて、それが1日で上がる上限量は決まっているとされている。
この上限量は能力が低いと小さくて、俺のステータスじゃ10回も魔術を使えば1日上限に達するはずだ。
まぁ、普段運動してない人がいきなりフルマラソン走っても成長しないのと同じだと思えばいい。過剰な努力は意味が無い。
「まあ、覚えるだけなら支障はない。まずは火属性、炎弾からだな」
「いや、魔力強化……」
「教えて逃げられたら教え損だ。それは最後に教えてやる」
……あ~、面倒なのに捕まったなぁ。
まあ、ただで教えてくれるならありがたいっちゃありがたい。
「とりあえずターゲットは……土人形」
バノッサさんが力ある言葉を発すると、少し先の地面が盛り上がるとともに形を変え、瞬く間に人間サイズの土人形が生まれる。
「まあ、あれでいいだろう。準備は良いか?」
「……やりゃ良いんでしょ」
何を考えているんだか知らないけど、とりあえず覚えるだけ覚えよう。使えないわけじゃない。
「偉大なる炎の神の力もて、紅の衝撃をここに刻まん!炎弾」
バノッサさんが手を掲げて詠唱を行うと、バレーボール大の火の玉が空に向かって打ちあがる。……でかいな。
「偉大なる炎の神の力もて、紅の衝撃をここに刻まん!炎弾」
身体の中の魔力が動く。この感じ、まだ慣れない。
これに成れて魔力操作のレベルが上がれば、自分の魔力で魔術が使えるようになるらしい。まだまだ先の話だろうけど。
「はい。復唱。適性があるなら数回で発動まで行くだろう」
実際、5回目で炎弾の発動に成功する。
発動した炎弾は小さく、威力も炎も彼が放ったのに比べると見劣りする。これはステータスの差だから仕方ない。
「よし、どんどん行くぞ」
「少し待たないと回復しないですけどね……」
MPが溜まるたびに復唱を休みなく繰り返す。
魔弾。
石弾。
凍結弾。
影衝弾。
治癒弾。
そのまま弾丸系と言われる基礎魔術を叩き込まれた。
魔弾、当たった対象に純粋な衝撃を加える。射程内なら同威力。
石弾、貫通力の高い弾丸。空気抵抗を受けるので近距離のほうが強い。
炎弾、衝撃とともに対象を延焼させる。衝撃の威力は魔弾より弱くなる。
凍結弾、衝撃とともに対象を冷却、凍結させる。衝撃の威力は魔弾より弱くなる。
影衝弾、衝撃とともに対象のMPを削る。衝撃の威力は魔弾より弱くなる。
治癒弾、当たった対象に治癒。一番ダメージの大きな部位を回復。治癒より遠距離に効果。
……ああ、日が暮れる。
MPがかつかつの所為で、1つ覚える度に10分は休憩しないといけない。
「……ほんとに滞りなく覚えていくな」
「そりゃまあ」
ステータスを確認すると
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魔術:神聖魔術Lv1,炎魔術Lv1,水魔術,Lv1、土魔術Lv1、暗黒魔術Lv1、無属性魔術Lv1
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見事に一覧が並んでいる。
「一般的なところだと、あとは風、それに雷か」
「……バノッサさん、いったい何の職業なんですか?」
魔術師でも普通ここまで多様に弾丸系を覚えることは無い。
神聖魔術の治癒弾、暗黒魔術の影衝弾は魔術師では覚えない。そして別の職から覚えたり、教えてもらったりするならもう少し使い勝手のいいものを覚える。
「ん?なんだ、聞かずに来たのか?俺は賢者、炎の賢者だ」
「……炎の賢者」
上級職もいいとこじゃねぇか。集合知の知識だと、魔術師系の上級職の1つが賢者で、属性賢者はさらにその上だ。属性賢者の上は賢者系の到達点である大賢者しか居ない。
属性賢者は10年前の知識だと数十人程度と言われていて、結構な人数が国の要職についている。
こんなところで魔術教室を開いているような職業じゃない。
その上の大賢者を目指すにしても不便な場所だ。
そもそも大賢者はこの世界に数人。所在が明らかなのは魔法王国ニンサルの軍司だけだ。転職条件がきついからこんな所で油を売っていてはなれないし、それは賢者なら知っているだろう。
「なんでこんな初心者御用達みたいな街にいるんですかね?」
「隠居だよ。文句は言わせねぇ」
……その年で隠居とか才能の無駄遣いもいい所だ。
「ほれ、MPは回復したか?雷魔術から雷撃弾、それに弾丸系よりはMPを使うが、風魔術から強風を覚えるぞ」
「……いい加減魔力強化を」
「各魔術の基礎を一通り覚えたらな」
結局、風と雷の2つに加え、重力魔術の軽量化、対魔魔術の魔術無効化、召喚魔術の小精霊召喚、付与魔術の防水、空間魔術の魔術師の目、はては使い道の薄い時魔術の想起まで覚えさせられた。
……普通だったらそんなに覚えても使いこなせない量だ。
何を考えているんだか。
各魔術の効果の説明は必要な時にでも。
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