5-1
生徒会室。
いま、あたしの横にはいつも通り本に目を向けている雲雀くんがいる。
それを横目でみてタイミングをはかる。
そして顔を近づけ…
ーバンッ
「いたっ」
頭を叩かれた。
しかも硬い本で。
「いたいよ!? 雲雀くん」
頭を手で抑えて雲雀くんを睨みつける。
だけどその本人は、全く気にしていない様子で本に目を向ける。
「承知の上だろ」
いや、タイミングをはかってもこうなることはわかってたけど。
「シュウ先輩。弟くんがキスさせてくれません」
違う机のイスに座っているシュウ先輩に振り返ると、助けを求めた。
「だったら俺がしてあげよっか? 」
「ほんとですか!? 」
ソファから乗り出すようにしたあたしを、クスッと笑うようにして
「 う そ 」
笑顔で返される。
…からかわれた
おとなしく諦めて、ソファの上でぐったりする。
そんなあたしに呆れている人が一人。
「バカバカしい」
横にいる雲雀くんが呟いた。
「っ…」
その言葉は嫌いだ。
あのときのことを思い出してしまった。
どのくらいの沈黙が続いただろうか。
シュウ先輩と雲雀くんは喋ろうとしないし…
この2人は家でも話をしてなさそうだ。
「そろそろ、帰る」
急に立ち上がったシュウ先輩。
シュウ先輩が帰るってことは…
「雲雀くんも帰るの? 」
雲雀くんをみるとやはりまだ読書をしていた。
「まだ、いい」
本に視線をむけられたまま答えられた。
シュウ先輩はそれを聞くとスタスタと出口に歩いていき、この生徒会室から出て行った。
「雲雀くんって、シュウ先輩とあまり話さないの? 」
シュウ先輩がこの生徒会室からでたのを確認すると、興味本位で聞いてみた。
「話す目的がないと話したりしない」
やはり、視線は本にむいたままに答えられる。
「目的って…。家ではどこかで鉢合わせしたりするよね。そのときも話したりしないの? 」
「そうなるな」
ページをめくる姿は、ちゃんとあたしの話を聞いているのか疑問になる。
「じゃあさ、シュウ先輩のこと、なんて呼んでるの? 」
「 … 」
聞いてみると、雲雀くんの本を読む動作がとまった。
「……呼んだことなんて…ない」
「え!? 」
思いっきり驚いた。
だって、ずっと一緒にいるのに一回も名前を呼んだことがないなんて、ありえないと思う。
「ほんとにほんと? 」
「 … 」
声にだしていないが、肯定したとわかる。
「兄さんって、呼んでみなよ」
「 … 」
「それがいやなら名前呼びでシュウとか」
「 … 」
なにも反応を見せない。
どうしてこんなにも兄のシュウ先輩と話さないのかな…。
それよりシュウ先輩を探すときとか…
考えていてもわからないときは本人に聞くしかない。
「シュウ先輩を探すときとか、人になんて聞くの? 」
雲雀くんをの横顔をただ見つめる。
「生徒会の会長、どこ? 」
「 …… 」
涼しい顔をして言った雲雀くんに、少し引いてしまう。
雲雀くんとシュウ先輩の話をした次の日の放課後。
「シュウ先輩。雲雀くんとはあまり話をしないんですね」
今は生徒会室でシュウ先輩と二人きり。
キスのほうも大事だけど、昨日からこれが気になっていた。
「まあ、そうだね」
「小さい頃からそうなんですか?雲雀くんがシュウ先輩の名前とか、一度も呼んだことがないって言ってたんですけど…」
あたしの質問に、シュウ先輩は考えるような顔をして視線を下げる。
雲雀くんだったらこんなに考えてくれないんだろうなあ、と思いながらもシュウ先輩の答えを待つ。
「雲雀は覚えてないと思うけど…」
シュウ先輩はつぶやきながらに顔を上げると、少し遠くをみるようにした。
「雲雀が小さい頃には『にいさん』って呼ばれてたし、一緒に遊んだりもしてた」
シュウ先輩は気づいてないのかな…自分の顔が緩んでいることに。
シュウ先輩。ほんとうは雲雀くんともっと仲良くしたいんじゃ…。
「シュウ先輩、また遊びましょうよ。子供の頃と同じように」
「いや、でも…」
「よし! じゃあなにかして遊ぼう!トランプとか鬼ごっこ、かくれんぼ! 」
勢いよく立ち上がってガッポーズをとる。
だって、シュウ先輩と雲雀くんの間のぎこちなさをなくしたい。
それに、雲雀くんがシュウ先輩のことを『にいさん』って呼ぶ姿をみてみたいし。




