3-2
家に帰ってきて、猫を触る。
喉元を撫でてあげるとゴロゴロと喉を鳴らす。
いま、一番落ち着くものだ。
『おれは覚えてるから』
小さい頃から今まで好きだったなんてありえるの?
『写真を毎日のように見てたから、気持ちが変わらなかったんだと思う』
写真好きな吉田陽斗。
一途だね。
モテるというのに一人の女子だけを好きのままなんて、時間がもったいない。
もっと恋愛しようよ。
…あたしが言えることじゃないんだけどね
朝、昨日のことは気にしなくてもいいって言われたから、気にしていない。
『ただ、おれが好きってことを伝えたかったから』
変な男の子だね。
放課後。
生徒会室に来るとそこには2人いた。
驚いたのがあの恐い人、桐生恭弥がいること。
あんなにも嫌そうにしていたのに…
考えながらいつものソファへと向かう。
その場所には葵先輩がいる。
そこに座ると、やはりあの言葉が言われるだろう。
でも、この状況であれはしづらい。
だって向かいのソファには恐い人がいるんだもん。
「咲夜ちゃん。今日も、する? 」
やっぱりきた。
あたしはう~ん、と迷っているふりをする。
今の言葉は恐い人に聞こえているよね…
なんのことかわかるかな。
「今日は…いいです」
笑いながら答えると葵先輩の目が一瞬、見開くのが見えた。
だけどすぐ、いつもの表情に戻り「 そう 」と答えた。
「 … 」
「 … 」
恐い人と二人きりになってしまった。
葵先輩はあのあとすぐに「帰るね」と言って帰った。
…今更思うが、みんな自由すぎる。
なにもやる事がないから、ここにいなくてもいいと思うけど…さ、なんか寂しいな。
じゃなくて、いま考えることはそんなことじゃない。
この沈黙な空気をどうするかだ。
なんか、ないかな。話題とか…
それともあたしも帰っちゃおうかな。
「お前って…」
帰ろうか迷っていると、なんとあの恐い人から声をかけられた。
なんなのかと、あとに続く言葉をまつ。
「俺に無理やりしたこと、いつもやってんの? 」
「は? 」
それはどういうことだ?
俺に無理やりしたこと?
それって…
あ、思いだした。
たぶんそれはあのときのことを言ってるんだろう。
「そうって、言ったら? 」
「ほんとにバカなやつだな」
普通にひどいことを言うなあ。
「なんでバカなの? 」
納得いかずに聞く。
するとなにも考える素振りも見せずに
口を開く。
「お前もバカだけど、お前を相手にするやつもバカだ」
バカ、バカってうるさい。
恐い人の話は続く。
「だってそういうのって、フツーは好きなやつとするもんだろ」
……え?
いまこの人、なんて言った?
「いま好きなやつって言った? 」
聞き間違いかと聞いてみると、恐い人はさらに恐い顔をする。
「そうだけど? なに? なんか文句ある? 」
「文句なんてないよ。だけど恐い人からそんな言葉がでるなんて思ってなかったからさ」
顔を緩めながらに言う。
なんというか…微笑ましい。
恐い人はあたしが恐い人と言ったことになにも言わないで、黙ってしまっている。
だからあたしから話題をだす。
「もしかして好きな人がいるとか? 」
だってそういうこと言ってるんだもん。
だけど話ははぐらかされて
「そういうお前は、いるのかよ? 」
聞かれてから少し考える。
だが、そういうことを考えたことがなかったあたしは、考えることがない。
「 いない 」
そう率直に答えると「ふ~ん」と軽く受け流された気がした。
けど…
「寂しいやつだな」
「なっ…。だったら恐い人も寂しい人でしょ? 」
だけど違うらしい。
首を横にふった。
「俺がお前のこと寂しいやつって言ってるのは、ああいうことして寂しさを紛らわしてるんだなと推測したから」
「…っ」
正解だ。
息がつまるような感覚がする。
なんでそんなこと…
「なに黙ってんだよ? 」
無神経に聞いてくる。
まるで『正解だろ? 』と聞かれているかのよう。
この人は、相手を不快な気持ちにさせていることをわかっていないのか。
「正解だよ。だからなに?そういうのっていけないことなのかな」
「別にいけないとは言ってないだろ」
知ってるよ。ただそういう風に聞こえてしまっただけ。
あと、なんか疑問が溢れてくる。
さっきまではなにも思いつかなかったのに。
「あとさ、キスは好きな人とするって言うけど、その好きな人が一番ってわけでもないでしょ。どうせ、何年かしたら違う人を好きになるんでしょ?
だったら同じだよ。あたしとなんら変わりない」
早口言葉で言いたいことを言うあたしを、ずっと見ている恐い人。
だけど、どんな表情をしているのかわからない。
冷静に判断できなくなっている。
言い終えたあと、少し沈黙を過ぎると落ち着いてきた。
「 おれ… 」
「…もう、帰るね」
なにか言おうとしていたけど、それをさえぎるように立ち上がって出口に歩きだす。
もうこれ以上聞きたくない…
あたしだって、なんでこんな自分なんだろうって思うときだってある。
まえは健全だった。
こんな自分になった原因は知ってるけど…
キスされただけでこんな自分になるのかと不思議に思う。
変な感じだ。
なにか忘れてしまっている気がするんだ。
ドアに手をかけてガチャっと開けると同時に、目の前に誰かが立っていることに気づく。
「あ、咲夜ちゃん」
顔をあげると、吉田陽斗がいた。
今の、聞いていたの?
そう思いながらも、ここから早く立ち去りたいあたしは「どいて」と言う。
そうすると素直にどかれる。
「ごめんね」と言われて。
どいてもらうと早歩きで廊下を歩く。
早く、早く、この学校からでたい。
早く、いつも通りの自分に戻りたい。
さっきの表情からは聞いていたということがわかった。
本当に学校生活を崩されそうだ。
いや、崩されつつある…か。




