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「はあ…」
ソファのある場所までいき、背もたれにもたれかかり溜め息をつく。
今日はだめだ…調子が狂う。
なんて考えているとのんきな声がとぶ。
「咲夜ちゃん。来てたんだ」
一つ上の先輩。
岡本葵-おかもと あおい-先輩だ。
ドアを閉めて、あたしのほうへと歩いてくる。
この人はけっこう好き。
なんでかって?
相手から聞いてくれるから。
「今日も、キスしてあげよっか? 」
私と密着するようにソファに座ると、顔を覗くように見てくる。
もちろん私の答えは決まっている。
「してほしいです」
そう答えると、満足気な笑みをうかべてから肩に腕を回されて、その腕で引き寄せられるとともにキスをされる。
「何回、してほしいの? 」
いったん顔が離れると、至近距離で聞かれ迷わず答える。
「あと、5回…です」
「そう」と、また顔が近づいてくる。
1回…2回…3回…と顔を近づかせ、離れる動作をする。
そのとき、いつも思っていることがふと、口からでた。
「葵先輩って…軽いですよね」
その言葉で葵先輩が止まる。
そして、ニコッと笑う。
「そういう咲夜ちゃんも、軽いよね」
「 … 」
あたしが黙ると「それより…」と顔を近づけてくる。
残り2回をし終えると密着していた体が離れた。
「あれ? 雲雀くん。いつからそこに? 」
気づくと、向かいのソファに座って本を読んでいる……綺羅 雲雀-きら ひばり-くんの姿があった。
ゆっくりと顔を上げると
「さっき、だけど? 」
当然のように答えられた。
だからその〝さっき〟を聞いているんだけどなあ……あ、いいこと思いついた。
「雲雀くん、雲雀くん」
隣に葵先輩のいるソファから立ち上がって向かいのソファに向かう。
そんなあたしの行動なんかどうでもいいのか、いまだに視線は本にしか向いていない。
でも、ちょうどいい。
今日こそはキスしてみせる。
「 やめろ 」
「ひばあっ 」
ソファに座り、雲雀くんの顔に自分の顔を近づけようとしたら壁がでてきた。
その壁は雲雀くんが持っている本だ。
きれいに顔面にあたった。
「ちょっと、雲雀くん!もっと本を大切にしようって思わないわけ? 」
少しキレ気味に言うが、雲雀くんは涼しい顔をしている。
いつも本でガードされてしまうあたしにとっては、自分のことよりそのことが気になってしまった。
「別に、これ図書室のだし」
「なおさらでしょ! 」
自分のものじゃないから良いってことか。
なんという薄情者。
このやりとりに疲れてソファの背もたれに体重を預けた。
は~、とわかりやすい溜め息を吐く。
「なんで雲雀くんはさせてくれないのかなー」
わざとらしく聞くようにして雲雀くんを見ると、また本に視線を向けていた。
「どうせ、もう したんだろ」
視線は本に向いたまま、興味なさそうに答えられた。
「まあ、そうなんだけどさ」
雲雀くんに向けていた視線を天井に向ける。
自分のことだけど、雲雀くんと同じように興味なさそうに答えた。
ぼけーっと天井を見ているとあることを思い出した。
「そういえば、あのシュウ先輩がキスしてくれたんだよ」
雲雀くんを見ると、やはり本を読んでいる。
だが、なにを思ったのか本を閉じて無表情の顔をむけられた。
「それ、本当か? 」
「え…うん」
そう答えると雲雀くんは、じーっとあたしを見てから何事もなくまた本を読み始めようとする。
「雲雀くんって、まさかのブラコン? 」
「は? 」
シュウ先輩と雲雀くんは兄弟。
雲雀くん、あたしと同じ学年だからシュウ先輩とは2つ違い。
あたしの言ってることが、全然わからないとばかりに変な目で見られる。
「だって、シュウ先輩の話をされたときだけに反応したでしょ」
じっとあたしを見ていた視線がまた本へと向けられる。
「それは違うから。ただ、あの人がそんなことをするなんて思ってないだけ」
あの人って、シュウ先輩のことだよね。
なんで他人行儀?
すごく気になり、読書中の雲雀くんに聞くことにした。
「なんでシュウ先輩のこと、あの人呼ばわりするの? 」
「特に理由はない」
あっけなく返されてしまった。
だけど一瞬だけ、本のページをめくる手が止まっていた気がした。




