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Kiss*チュードク  作者: MIA
Kiss*チュードク
35/38

キス*チュードク2 5-4


朝起きて憂鬱〈ゆううつ〉になりながらも教室に来た。

まだ今日は昨日から一日しか経ってないから

悪夢のゲームが初まる危険はない。

だけど憂鬱なんだ。

だって昨日の亮汰のことが頭に残って…

「 ほら、忘れもの 」

「 え? 」

頭にポンッとなにかをあてられた。

その犯人はいま

まさに考えていた人。

亮汰だった。

「 亮汰…。 なんでここに? 」

違うクラスの亮汰はあたしの教室に

来ることはない。

なのに

「 だからこれだって 」

そう自分の顔の横に見せてきたのは

あの本だった。

雲雀くんが亮汰の顔に投げつけた本。

「 昨日の、大丈夫? 」

あれは綺麗に顔面にあたっていた。

それに亮汰も痛そうにしてた。

「 あれ すげー痛かった 」

やっぱそうか。

顔がゆがんでいることから

それほど痛かったということがわかる。

「 だからこうして咲夜にこれを渡しに

きたんだよ 」

差し出される本。

「 もうあんな痛い目にあいたくないし」

雲雀くんが怖くて渡しに行けないって

ことか。

どこかを遠い目で見ている亮汰の横顔が

悲しそうにみえる。

「 ごめんね… 」

あたしがやったわけではないけど

これはあたしがいけないんだと思う。

雲雀くんは助けてくれただけなんだから、助けてほしいと思ってしまったあたしが悪い。

抵抗してはいけないというゲームのルールにも反したし…。

「 ほんと 」

あたし だめだ。

「 じゃあさ、許してあげる代わりに

俺のいうこと一つ聞いて 」

知らずに視線を下にむけていたものを

亮汰にやると

さっきまでの表情はどこにいったのか

イキイキとした顔が視界に映る。

手は人差し指をたてて

あたしとの距離が少し縮まれている。

「 言うこと…なに? 」

「 キスはダメみたいだから

デート一回 」

「デート、一回? 」

どうしよう。

亮汰の言っていることがわからない。

キスではなかったことは良かったけど

わからないよ。

デートって、デートだよね。

でもデートってさ彼氏 彼女が

行くものじゃないの?

デート…デート…デート…

「 どう? 」

考えている間にも答えをせかされる。

「 いい、かな…? 」

「 やった 」

語尾がおかしくなっていることに気づいていないのか

亮汰は素直に喜んでいる。

「 決定だね。

あとで‘やっぱりなかったことにして’

なんて言われても俺、聞かないから 」

強引だなあ。

と思いつつもかわいいなあっと思ってしまう。

亮汰は素直すぎるところが良い。

「 わかった 」

なにも悪い気がしないまま

笑って答えた。

亮汰も笑って微笑み合う。

「 そろそろ行くね 」

教室を出て行った亮汰を見送った。

あの亮汰が自分の欲をとめるなんて

微笑ましいというかなんというか。

ともかくあたしをキスするだけの相手と

思っていないから

こうやって普通に喋っているんだよね。

なんかそういうのっていいな。

『 デートは俺がしたいときでいい? 』

学校から家に帰ってきて

あのあと話たことを思い出している。

デートはいつでもいいって言った。

『 だったらこのゲームが

落ち着いたときでもいいかな? 』

もちろんと答えた。

だけどこのゲームは

いつ落ち着くのかあたしにもわからない。

どうしたら葵先輩はこのゲームを

やめてくれようとしてくれるのか。

「 はあ… 」

もう溜め息しかでない。

『 それじゃあゲーム開始 』

葵先輩の声が学校中に響く。

今日で3週間目。

つまり3回目のゲーム。

今日はどこに逃げ込むか…。

図書室か生徒会室

どっちがいいかと

この1週間考えていた。

保健室はあのときのことがあって

見つかる可能性が高いから除外だ。

…図書室かな。

また雲雀くんがいるかもしれないし。

「 やっとみつけた 」

あたしのまえに立ちはだかるもの。

生徒会のみんなの中で一番

不良っぽいやつだ。

「 なんで…? 」

「 そりゃ、

ゲームに参加してるからだろ」

得意げに言う恭弥は笑っている。

安全な図書室に行こうとしたのに

恭弥のせいで台無しだ。

「 どいてよ 」

「 いやだ 」

恭弥の横を通ろうと右に一歩踏み出すと

あたしが通るまえに恭弥が邪魔してきて

今度は左に一歩踏み出すと

また恭弥がそれを邪魔する。

「 どいて 」

「 いやだ 」

この繰り返しだ。

これは後ろにさがるしかない。

後ろに一歩さがる

「 … 」

ニ歩…三歩…

「 近づいてこないでよ 」

後ろにさがるたび、

さっきとは逆に

後ろにさがったぶんだけ迫ってくる。

「 なんで? 」

「 なんでって… 」

こんな返しがくるとは思わなかった。

恭弥の足元を見て考えてみるが

恭弥に言えることはない。

あのときのことが蘇ってくる。

保健室で押し倒されて

強引にキスされたときのことが。

恭弥、変わった。

どんな心変わりしたのか知らないけど

変わりすぎだよ…。

「 恭弥、まえはそんなんじゃなかった」

「 まえはどんな感じだったんだよ 」

じっと見つめると見つめ返される。

確かめるような、そんな表情だ。

わかってないの…?

自分がすごく変わったってこと。

「まえはなんでもかんでも

拒否ってたのに。

いまは逆に求めてる 」

どうしてこうも人は変わるんだろう。

恭弥を見るとそんなことまで

考えてしまう。

「 … 」

‘ なんで? ’

そう聞こうとしたけどやめた。

恭弥の様子がおかしい。

「そんなの

いまはどうだっていいだろ」

どうだってよくない。

これが一番重要な部分だと思う。

恭弥が言葉につまりながら言ったものに

肯定なんてできない。

「 だから近づいてこないでよ 」

「だから言ってんだろ。

いやだって 」

話をしている間にも

後ろにさがって さがって…

なのに恭弥との距離は変わらない。

いや、さっきより恭弥との距離が

縮まっているかもしれない。

恭弥の足元を見ているから

恭弥がどんな表情をしているのかわからない。

「 …? 」

後ろにさがっていると

背中にポンッとなにかがあたった。

後ろの正体は見ていないからわからないけど、恭弥の顔を見ると恐い表情をしている。

恐る恐る振り返ってみると

「 亮汰 」

あたしを見下ろす亮汰の姿があった。

「 咲夜。

無事そうで良かった 」

ニコッと笑う。

その表情に心が癒される。

だけど

この状況ってやばいんじゃ……。

前には恭弥がいて

後ろには亮汰がいて

挟まれ、てる?

「ソイツ、だれ? 」

そんなあたしの心情も知らずに

恭弥が質問してきた。

恭弥の顔を見ると強い視線が

亮汰にむけられている。

まるで睨みつけているような…

って、これは睨みつけているのか。

恭弥たちには亮汰のこと

話すことなんてなかったし

クラスも違うから知らないのは

当然なんだけど…

知っても意味なんてないのにな。

「 伊吹亮汰 」

亮汰について紹介することなんて

名前ぐらいしかない。

あとは…恭弥が知らなくても

いいことだ。

廊下の端を意味なく見る。

恭弥がどんなことを思っているのかなんてそんなことはどうだっていい。

いまはこのゲームが終わるまで

逃げ続けるだけ。

「 … 」

その場が静かになる。

あたしは間違った

紹介の仕方をしたのかな。

そりゃあ紹介が名前だけで終わるなんて、そんなことあったらあたしも

黙っちゃうかもしれないけど。

恭弥が聞いたから答えただけなのに、

聞いた本人が黙っているってだめでしょ。

なにか喋ってよ。

「 もと キスフレンドって

やつだよ 」

「え、ちょ…亮汰 」

後ろにいた亮汰に突然抱きしめられたかと思えば顔をあたしの肩にのせて

恭弥に言わなくてもいいことを言われた。

亮汰…余計なことを

って

「 離れてよ 」

「 ん~? やだ 」

ニコーっと満面な笑みをうかべられた。

恭弥がいるまえでよくこんなこと…

「 … 」

ふと恭弥が視線に映った。

……こわいっ

いつも恐い顔をしているけど

いまはいつにも増して恐い表情だ。

「 亮汰、離れてよ 」

「 やーだ 」

いい加減離れろって。

恭弥の顔、見えてないの?

亮汰の自由勝手な行動に

恭弥の存在すら忘れてしまっているんじゃないかと思ってしまう。

ぎゅーっとお腹に回っている手に

力が込められる。

こんなところでラブラブモードを

出されても困る。

なぜここで…。

てか、亮汰とラブラブしている覚えはないけど。

恭弥をちらっと見てみるとやはり

恐い顔をしていて

すごく、すごく恭弥からイラついている

オーラが見えるんだが

「 亮汰。

まじ離して 」

これ以上はほんとやばい。

恭弥がキレてしまいそう。

キレられる理由は心当たりがある。

だってこれまで毎日、恭弥が近づいてくるだけで避けていたから。

なのに亮汰からこうされて抵抗していないなんておかしいもんね。

あたしは抵抗しているつもりだけど

亮汰がびくともしないから

恭弥からはあたしが亮汰を受け入れていると見られているはず。

「 あとね、咲夜とデ… 」

懲りずにまだ言おうとしているもんだから亮汰の口を手でふさいでやった。

「 亮汰。 それ以上言ったら

なかったことにするよ。

あと、離して 」

そう言うと静かに離してくれた。

最初のうちは笑って言っていたけど

あとのところは無表情で

亮汰を睨みつけたのが訊いたんだろう。

「 ま、そういうことだから

あたしはこれで 」

亮汰の腕から脱出して、ふー…と軽く息をはいたあと

さりげなくこの場を立ち去ろうとした。

「 まだ用が済んでねーんだけど 」

だけどこの場からさりげなく立ち去るのは失敗に終わった。

恭弥の呼び止める声で。

恐ろしい声の低さで。

「 恭弥…イラついてる? 」

背中を向けた体を、くるっと反転させて

から恭弥をたずねるように見た。

じっとあたしを見つめる…ではなく

睨みつける恭弥の目が恐い。

「 イラついていなきゃ

こんな風には ならねえだろ 」

…左様でございますか。

口にだして返す言葉なんて見つからない。

どうやったらこの恭弥の

機嫌をなおすことができるのか

考えただけでも無理だとわかる。

無理なら仕方ない。

いまは恭弥の機嫌を良くするとか

そんなことを考えている暇ではないんだ。

「 あのさ、恭弥。

お願いだからこのゲームから逃れるために協力してよ 」

いまの恭弥に言っても、イラついているのをさらにイラつかせることはわかっている。

だけどこんな悠長〈ゆうちょう〉に

しているなんて今更になって

ダメじゃんって思った。

大抵の男子たちを亮汰が外にやったと

思うけど、一番会ったら

こわい人が絶対この教室内にいる。

…葵先輩

「 恭弥…イラついてる? 」

背中を向けた体を、くるっと反転させて

から恭弥をたずねるように見た。

じっとあたしを見つめる…ではなく

睨みつける恭弥の目が恐い。

「 イラついていなきゃ

こんな風には ならねえだろ 」

…左様でございますか。

口にだして返す言葉なんて見つからない。

どうやったらこの恭弥の

機嫌をなおすことができるのか

考えただけでも無理だとわかる。

無理なら仕方ない。

いまは恭弥の機嫌を良くするとか

そんなことを考えている暇ではないんだ。

「 あのさ、恭弥。

お願いだからこのゲームから逃れるために協力してよ 」

いまの恭弥に言っても、イラついているのをさらにイラつかせることはわかっている。

だけどこんな悠長〈ゆうちょう〉に

しているなんて今更になって

ダメじゃんって思った。

大抵の男子たちを亮汰が外にやったと

思うけど、一番会ったら

こわい人が絶対この教室内にいる。

…葵先輩

「 恭弥以上にこわい人がいるの。

だからさあ… 」

‘ 協力してよ ’

‘ 助けてよ ’

強い気持ちを持ちながら

恭弥の顔を見れずに廊下を見る。

「 俺には関係ない 」

いい答えを待っていたのに

強く冷たく言い放たれた。

この気持ちはどこへやればいいんだ。

…そういえば、こういうこと

誰かに言ったような気がする。

‘ 関係ない ’

恭弥と違ってあたしは

相手に言った言葉だった。

けっこう傷つく言葉なんだね。

関係ない…って。

『俺には関係ない』なんて言ってるけど関係あると思うんだけど。

だって、あたしが亮汰に抱きしめられているところを見ただけでイラついているんだもん。

もし葵先輩に捕まったりしたら……

こんなこと、考えるのはやめよう。

「だったらいいや。

行くところがあるからついてこないでね」

行くところは生徒会室。

図書室に向かおうとしていたけど

図書室は恭弥の横を通り過ぎないと

いけないから。

恭弥はたぶん通らせてくれない。

と、言っても遠まわりすれば

行けるけど、その間に葵先輩とか

他の人に見つかる確率が高くなる。

だからここからだと生徒会室が近いから

生徒会室に向かうことにした。

「 は? ちょっと待てよ 」

背をむけて歩きだすと後ろにいる

恭弥から呼び止められる。

そんなの聞かずにあたしは走り出そうとする。

聞いたところでいいことなんてないことは知っている。

「 はいはい、そういうのは見苦しい

って言うんだよ 」

走り出す直前に亮汰の声が聞こえた。

恭弥を止めてくれているんだとわかる。

( ありがとう…亮汰 )

あのときと違って守ってくれた。

あの約束をしたからかな。

生徒会室に向かって走り続ける。

生徒会室のドアが見える。

止まらずに走ってきた足を止めず

バンッと勢いよくそのドアを開けた。

「 あ… 」

息を切らして中に入ると

誰もいないと思っていたのに一人、

ソファに座っている人と目があった。

「 … 」

あたしを見て驚いているような表情

をされるけど、なにも喋らない。

目を少し見開いているだけ。

だからあたしもなにを喋るわけでもなく

ただ相手の目を見つめるだけ

…でわなかった。

「 りぃくんっ 」

ソファに座っているりぃくんに近づき、なにも前置きなくいきなり抱きついた。

あれから全くちゃんと喋っていなかった。

あの保健室で喋った以来だ。

そのこともあってか

りぃくんが愛〈いと〉おしい。

このゲームの疲れで感傷的になっているだけかもしれないけど。

まさかここでりぃくんに会えるとは

思ってもみなかった。

だからすごく嬉しいし

りぃくんの腕の中にいると落ち着く。

まえからこれを当たり前に

やってきたからかな。

「 咲夜先輩…どうしてここに…? 」

りぃくんの腕の中の暖かさに浸っていると、頭上から弱々しい声が聞こえる。

りぃくんの胸元に押し付けている顔を

上げるとそこには

弱々しい声にふさわしい顔をしていた。

「 どうしてって… 」

その複雑そうな顔に少し困る。

来てはいけなかったの?

来てほしくなかった?

その気持ちが一瞬にして頭にうかんだ。

そんな気持ちを追い払って、りぃくんの

質問に素直に答えることにした。

「 逃げてきた 」

恭弥から。

誰から逃げてきたとは言わずにただ一言

だけ笑いながらに言うと、りぃくんは

ますます複雑そうな顔になる。

なにが言いたいのかそれだけじゃ

わからないよ。

はずされている視線を気にせず

りぃくんの瞳を見つめる。

「 そのゲームに

もし僕が参加していたら… 」

あたしの視線に気づいたのか

仕方なさそうに口が開かれ、困ったような視線をむけられた。

「 どうするの? 」

知らないうちに腰に腕がまわっている。

…これはやばい状況なのか。

りぃくんの顔は無表情で

なにを思っているのか探〈さぐ〉れない。

「冗談…だよね? 」

確かめるようにりぃくんを見ても

やはり無表情。

冗談であってほしいのに

冗談じゃないような空気が漂っている。

「 逃げないでよ、先輩 」

危ないと思って離れようとしたけど、

りぃくんの腕によってそれは止められた。

ぎゅっと力が強まった腕。

これはやばい状況みたいだ。

りぃくんの表情からはなにを考えているかわからない。

りぃくんの瞳からはなにも気持ちが伝わらない。

まるでなにも考えていないようで。

…こわい。

りぃくんの表情からはなにを考えているかわからない。

りぃくんの瞳からはなにも気持ちが伝わらない。

まるでなにも考えていないようで。

…こわい。

「 ぷっ 」

「 …? りぃ…くん? 」

一大事だと思っていたのに

急に吹き出したりぃくん。

楽しそうにしている表情が

目に映る。

さっきまでの無表情なりぃくんからは

考えられないほどの柔らかい笑みだ。

笑っているりぃくんを見て

あることに気がついた。

「 もしかして

だました? 」

そう聞くとすぐに笑いはおさまる。

だけど表情は柔らかいまま微笑んだ顔で

あたしを見ている。

その笑みからあたしは

肯定とみなした。

「ほんとうはしようとしたけど

先輩に嫌いになられたらいやだし」

苦笑いするりぃくんの言ったことが

なにについて話しているのか

すぐわかった。

あのときのことが原因だ。

保健室でりぃくんがキスしたいって

言い出してきて

だけどあたしが拒否して

そしたら…あんなことしてきたから

『 これ以上やったら嫌いになっちゃう』

なんて言って。

小さなことだけどあの反応からして

りぃくんは気にしているんじゃないかと

ずっと思ってた。

「 あのときのことは

ごめんね 」

謝りたかったんだ。

あの日から普通に会話したこと

なかったから。

りぃくんは

やっぱり気にしていたらしい。

「 …? 」

あたしの言っていることがわからないのか不思議そうな顔をする。

「 なんで咲夜先輩が謝るの? 」

「 なんでって… 」

りぃくんは

謝ってほしいわけじゃなかったんだ。

頭の片隅でりぃくんは謝ってほしいんじゃないかと思っていた。

「 嫌いになるなんてうそなの。

あのとき勝手にでた言葉だったんだ 」

身を守るために反射的にでた言葉。

「じゃあしようかな 」

確かめるように微かに笑みをうかべて

じっと見られる。

これはキスのことだろう。

その視線にたえきれずに視線をはずす。

「え、と

いまはこうするだけにして。

少し落ち着きたいから 」

今日で3週間目でこのゲームがはじまることにもう心の準備ができるようになっているけど

疲れることに変わりはない。

「じゃあしようかな 」

確かめるように微かに笑みをうかべて

じっと見られる。

これはキスのことだろう。

その視線にたえきれずに視線をはずす。

「え、と

いまはこうするだけにして。

少し落ち着きたいから 」

今日で3週間目でこのゲームがはじまることにもう心の準備ができるようになっているけど

疲れることに変わりはない。

「うん、わかった。

“いまは” ね」

少しの間はずしていた視線をりぃくんにやると微笑んでそう言った。

その笑顔に安心してりぃくんに体を預けるように胸元に顔を押しつける。

「 りぃくん、ドキドキしてる? 」

ドキドキと速い胸の鼓動。

顔を押しつけるようにして胸元に

耳をあてているとそれがわかった。

「 してるね。

咲夜先輩に触れてるから」

「そっか… 」

急に眠気に襲われる。

りぃくんの心臓の鼓動を聞くと

それはさらに大きくなる。

人の鼓動を聞いていると落ち着く。

あたしは暗闇に落ちていった___…。

「 ありがとう。

りぃくん 」

家の前の玄関でお礼を言う。

あたりはもう暗い。

「どういたしまして」

家まで送ってくれたりぃくんは

嬉しそうに微笑む。

りぃくんは、ゲームが終わったあとすぐにあたしを起こそうとしなかったらしい。

理由は『 咲夜先輩の寝顔をずっと見ていたかったから 』だと言っていた。

窓から見える空が暗くなってきたのを見て、そこであたしを起こしたとも言っていた。

りぃくんのおかげでぐっすり眠れたけど、こんなに寝てしまったんだから夜がちゃんと寝れなそうだ。

「じゃ… 」

その場に立ったまま

りぃくんは帰ろうとしない。

あたしが家に入るのを待ってくれているのか、そう思いりぃくんに背を向けて歩きだそうとしたら

手を握られ引きとめられた。

「…りぃくん? 」

りぃくんを見ると、あたしの手をぎゅっと握ったまま一点を見つめた。

握っている手を見つめていたりぃくんの

視線があたしに向けられる。

「 … 」

こんなときでもりぃくんのことがかわいと思ってしまうのはいけないことなんだろうか。

だって、りぃくんがあたしより低いんだもん。

つまり身長が低いということ。

いつもはあたしより背の高いりぃくん。

だけどいまはあたしが階段に一段乗っているせいであたしより低くなっている。

あたしより背が高いっていても

少しの差だからかな。

「 してもいい? 」

「え? 」

急に顔が近づかれて息がかかるぐらいのところで聞かれた。

聞かれたと同時にりぃくんの手にさらにまたぎゅっと握られる。

その手に意識を向けていると、求めるような目で見つめられていることに気づき

少しの動揺。

「 …なにを? 」

なにをしようとしているのかは知っている。

生徒会室で『 しようかな 』と言われたとき『いまは落ち着きたいから』

やめてと断ったら素直にりぃくんは了解してくれたんだ。

確かあのときは『 “いまは” 』を強調されていた気がする。

もうすでにあたしは落ち着いている。

りぃくんも知っているんだろう。

りぃくんの目の前で寝ている姿を見せていたんだから。

…もしかしてそれが目的であたしをすぐに起こさないでぐっすり眠らせていたとか…。

さすがにそれはないよね。

あたしの寝顔を見ていたかったというりぃくんの言葉に偽りはないだろう。

「さっきできなかったこと」

あたしの手を握っている右手とは逆の手で頬を包まれるように触れられる。

距離をとるには握られている手を離してもらわなければならない。

手を振りほどこうとしても

それは無理。

少しの抵抗にしかならない。

「あ…のね、あたしはそういうことはやめて…」

「知ってる」

動揺して視線を泳がしながら口だけでも抵抗をしようとするが、言い終えるまえにすぐ返されてしまう。

もう大丈夫だと思っていたのに。

安心していたのに。

どうしてそんなことをしてこようとするのか。

あたしは…そういうことをしていたけど

それは単なる落ち着くってだけでしてきたことで、りぃくんは違うと思う。

キス中毒…でもなさそうだし。

「するよ。

咲夜先輩 」

どうして…

ぎゅっと目をつぶった。

いまのあたしにできる行動はそれしかないんだ。

「…え? 」

あたしの予想していなかったことがおこり、つぶっていた目をすぐに開けた。

目を開くとそこには笑っているりぃくんの姿が見える。

唇が離れるとともに握られていた手も離されていて、りぃくんとの距離はもといた場所に戻っていて。

「いまのって… 」

「 キスだよ 」

いまのはキスというの…?

りぃくんの唇が触れたものはあたしの唇ではなくて、少しずれたところの頬だった。

頬に唇をあてられたのは初めてだ。

だからいまのがキスというものだと理解するのに少し時間がかかった。

「咲夜先輩。

いまのなら、これからもしていいとか

ないかな? 」

「え、と… 」

いまのって、頬、だよね?

「冗談だよ。

咲夜先輩が嫌がることはしたくないから」

あたしがすぐに答えを出さないことに勘違いさせてしまったみたいだ。

「それは… 」

「じゃ、咲夜先輩。

さようなら」

笑顔で言われたと思ったらりぃくんは背を向けて歩いていってしまった。

だけど呼び止めることもできず、ましてや追いかけることもできずただ…

キスをされた頬を手で触れていた。

家の中に入ってすぐにベッドに座り

バタッと横に倒れる。

さっき思ったんだ。

どうしてこうも自分の気持ちを言おうとしているのにりぃくんの言う言葉とかぶってしまうんだろうって。

そしたらわかってしまったことがある。

りぃくんはわざとあたしの言葉を遮〈さえぎ〉っていたんだって。

傷つきたくなくて。

傷つくのが怖くて。

あたしが言うことがりぃくんにはわかっいたんだ。

ううん…違う。

わかっていると思い込んでいただけだよ

りぃくん。

あたし、あのとき断ろうとしていなかったんだよ。

頬ならいいかなって

思ってたんだよ。

なのにりぃくんは早とちりしすぎだよ。

やっぱりあたしが優柔不断なのがいけないんだ。

だからこうやってりぃくん…りぃくんたちを揺らがしてしまうんだ。

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