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Kiss*チュードク  作者: MIA
Kiss*チュードク
34/38

キス*チュードク2 5-3


決心したのに…。

「 なあ、咲夜。

なんでお前 そんなに逃げてんの? 」

あたしの前に立ちはだかるのはまえの

キスフレンド

というものだ。

「 こ、これはそういうゲームなの 」

ただいまあれから一週間ほど経ち。

二週間目の悪夢のゲームへと突入した。

生徒会室に向かおうとしたところ

教室の廊下で会ってしまったのだ。

この男に。

「 ふ~ん。 ゲームね…」

「 なに? 」

意味深な目で見てくるコイツ。

コイツの名前は確か…亮汰、だっけ。

「 それにしては本気じゃん 」

「 当たり前でしょ 」

亮汰はあたしに一歩一歩

近づいてくる。

それに合わせて亮汰が一歩近づいてくると一歩、後ろに下がっている。

この行動の繰り返しだ。

おかげで生徒会室からほど遠い場所まだ

来てしまった。

ここまで後ろから誰も来ないのが

キセキだろうけど。

ここまで来ないと

なんかおかしい気がする。

…まさかね

「 亮汰。 君さ、

もしかして脅したりしてないよね? 」

「ん~誰を~? 」

これ、脅したな。

この声質といい この楽しそうな笑みといい、絶対にそうだ。

「 やっぱ脅したんだね 」

ここまで後ろから誰も来ないのが

キセキだろうけど。

ここまで来ないと

なんかおかしい気がする。

…まさかね

「 亮汰。 君さ、

もしかして脅したりしてないよね? 」

「ん~誰を~? 」

これ、脅したな。

この声質といい この楽しそうな笑みといい、絶対にそうだ。

「 やっぱ脅したんだね 」

「あれ? バレちゃったか 」

残念そうに言ってるけど

顔が笑ってるよ。

「 脅したよ咲夜ちゃんの言うとおり 」

そんなのはわかってるって。

どうせ

「 お前らは外 見て来いよ。

って、言っただけだよ 」

……絶対ウソだ。

「その表情とその声のトーンで

言ってないよね? 」

あたしが知っている限り

亮汰は…

「もちろん。 悪魔のような笑みと

ドスの聞いた声で言ったよ。

そしたらみんなおもしろいほど

言う事聞いちゃうんだもん 」

ニコッとこの話と似つかわしくない

スマイルを浮かべた。

「 ところでさ…。

なんで亮汰

こんなゲームに参加してんの? 」

するとふと考えこむような表情に

なった。

亮汰が参加するとか

ありえないんだけど。

まさかのあたしとキスしたくて

じゃないよね?

「 なんでって、

そりゃ決まってるでしょ」

決まってんのか…

なにが決まっているのかは

さっぱりだが。

「 あ… 」

そのとき急にこっち来たかと思うと

手首を掴まれて逃げられない状況に

なってしまった。

「 咲夜とキスしたいから。

これなら咲夜も抵抗できないでしょ? 」

顔に息がかかるほどの至近距離で

言われる。

抵抗…つまり、嫌がれないということか。

ゲームのルール、もしかして

全部覚えてるのかな。

いま聞くタイミングがおかしいのは

わかってる。

だけど

「亮汰って、まさかゲームのルール

全部覚えてるとか? 」

やはり驚く表情をした。

この至近距離で聞くことはこれだから

そりゃそうだよね。

「 とうぜん 」

そうやって至近距離にあった顔が

後ろにさがる。

まだあたしの手首を掴んだまま。

できれば手首も離してほしい。

「 まず一つ目はその、

咲夜ちゃんは捕まったら

抵抗してはいけないこと 」

勝手に説明しだした。

人差し指をつきだすようにしている姿

は説明モードだ。

意図してなかったことだけど

これはいい時間かせぎになりそう。

「 二つ目、キスは相手のしたいように。

これは相手がされたいかしたいかで

決まるね 」

なんという理不尽なルールが

聞かされているのだろう。

いや、あたしが聞いたことなんだけどさ。

「 三つ目は単なるやる日だよ。

週一回にやるってこと。

これは生徒会長の気分で

やる日が決まるんだよ 」

理不尽すぎる…。

生徒会長、葵先輩か。

葵先輩の気分であたしのこの

地獄のようなゲームははじまって

しまうのか。

「 四つ目は制限時間 」

「 それは20分間だったよね 」

「 そうだよ 」

制限時間なんて葵先輩が勝手に

決めたそのとき、その場にいたから

嫌でも覚えている。

覚えていなければ

こんなゲーム、やってて精神が

もたないよ。

逃げることしかできないゲーム。

捕まったらあたしの避けてきたものが

抵抗できずにされてしまう。

あのハルとのキスで

最後にするって決心したから。

「 五つ目は、もし咲夜が

何人もの男に捕まったときの対策 」

全く聞き覚えのないルールだ。

そんなルールなんてあったけ?

「 ねえ、そんなルール

いつ決まったの? 」

「 いつと言われても最初から

決まってたよ 」

不思議そうな表情をされるってことは

…ただあたしが聞いていなかっただけか。

あたしが口挟んだところで

意味ないものへと変わる。

亮汰の話をちゃんと聞こうと口を閉じた。

「 で、その対策は

どこかに連れこんでくれた一人に

キスするんだよ 」

連れこむとかいい印象がない。

どこかってことは教室でも生徒会室でも

いいってことか。

「 全員になんてしなくていいんだからね。これだけはちゃんと覚えていて 」

これって…

「 亮汰。 心配してくれてる? 」


「 え? ん~そうなのかな… 」

あたしのいまの状況を知っていて

言ってくれたんだと思ったんだけど

気のせいだったらしい。

考えている表情をして

窓の外を眺めている。

「 心配って言うより

独占欲? 」

窓の外にやっていた顔をこちらにむけて

得意げに言った。

「 独占欲ねえ… 」

今度はあたしが窓の外を眺める。

どうしてそんな単語にいきついたのか

さっぱりだ。

複数の男にキスされなくなるだけのことで“独占欲”なんて単語がでるなんて

おかしいだろう。

「 だから抵抗せずにキスされてよ 」

ルールの話に聞き入っていて

手首を掴まれていたのを忘れていた。

ぐっと手首をひっぱられたと思った瞬間、視界には亮汰だけが映った。

「 りょ…亮汰 」

「 なに? 」

亮太の瞳があたしを真っ直ぐ捉える。

はやくしたいという気持ちが

伝わってくる。

その瞳の純粋さに震え静かに息をのむ。

「 あたし、

こういうことやめたんだよ? 」

「 知ってる 」

知ってるのにこんなことするの?

無表情であたしを見つめる亮汰は

なにを考えているのかわからない。

ただ、あたしにキスを求めているだけなのはわかる。

だけどやっぱり亮汰の考えが

わからないよ…。

確かめたい。

「 ほんとにするの? 」

弱々しく聞いてみるとわけがわからないというような表情をされる。

「 するために捕まえたんだけど 」

それはそうだけど

なんで亮汰がこんなこと…。

考えすぎて

顔がゆがんでいるかもしれない。

なのにそんなあたしを気にもせず

亮汰は顔を近づけてくる。

キスをするために。

「 まって… 」

あと数センチで唇が触れるというときに

あたしは待ったをかけた。

亮汰はそこで止まりなにかを考えているのか固まった。

そして素直に顔を離してくれた。

あたしをじっと見る瞳。

亮汰のその目は苦手だ。

正直すぎる目。

なにかを求めているときは

強く柔らかい瞳をしていて。

いまのように

わけがわからないというときは

問い詰めるような

強くて鋭い視線を放つ。

「 やっぱり…やめて 」

亮汰の心情を知りたくなくて

視線を違うほうにむけながらに言った。

やはり亮汰の瞳を見なくても

強い視線は感じる。

「 ずっと我慢させといて

それはないでしょ 」

そんなに我慢させた覚えはない。


声の音程はいままでどおり

落ち着いた感じで言われ、

なんて返せばいいのかわからない。

もうなにも逃げる手段もない。

諦めの言葉を心の中でつぶやく。

その間に亮汰の顔が近づいてくる。

目をつむろうとしたとき

「 なにやってんの? 」

学校内にはあたしと亮汰しかいないと思っていたのに一つの声が響いた。

その声で亮汰が止まった。

もう少しで唇が重なりそうになるとき

誰かがとめてくれた。

「 あれ? なんでまだここに

人がいんの? 」

あたしを背にその人を確認すると、機嫌が悪そうな声で放っている。

あたしは亮汰の背中を見る。

亮汰は二回もとめられてイラついているんだと思う。

だからこんなオーラがこわいんだ。

それにしても、だれ?

「 …雲雀くん 」

こわいオーラが放たれている亮汰の背中

から顔だけだすように覗いて見てみると

雲雀くんがいた。

雲雀くんがあたしに視線をむけ

目が合う。

だけど驚いた様子もなくあたしを

じっと見る。

なにを考えているのか

その瞳からは強い視線を感じる。

「 あーもしかして生徒会の人? 」

亮汰は覗くように顔をだしているあたしをみて、なにを思ったのか

また雲雀くんに顔をむけて言葉を発した。

「 そうだけど 」

いつもの無表情で亮汰を見る。

「 だからまだいたんだ 」

納得している様子の亮汰も雲雀くんを

見ている。

なんか…空気が重い。

「 あのさ、用がないなら

どっか行ってもらえるといいんだけど」

じっと見たまま動かない雲雀くんに

亮汰は少し困ったように言った。

「 … 」

その言葉を聞いて黙った雲雀くんは

亮汰を見直すように見てから視線を

はずすと、歩きだした。

( ほんとに行っちゃうの? )

一瞬目が合ったかと思うと

横を通り過ぎようとする。

歩いていくのを見ていると

「 あ 」

横を通り過ぎようとしたところで

急に声をあげて立ち止まった。

そんな雲雀くんを亮汰も不思議そうに

見る。

なんだ?…という目で。

「 忘れものした 」

「 忘れもの? 」

亮汰が反射的に雲雀くんの言葉を

繰り返す。

「 そう、忘れもの 」

亮汰に向けている言葉なのに

あたしを真っ直ぐ見る。

そして亮汰に掴まれていないほうの手を

掴まれた。

亮汰と違って手のひらを。

亮汰には手首を掴まれていて一方的だけど雲雀くんのは手のひらを包むように優しく握られる。

雲雀くんの手にあるのはあたしの手と

もう片方の手に持っている本だ。

“ 忘れもの ”

どこかで聞いた覚えがある。

まえ、シュウ先輩に『忘れものした』って言われて 亮汰みたいに

『忘れもの? 』って聞いた。

そこでキスされたんだ。

どうやらそのときの“忘れもの”は

“キス”だったらしい。

雲雀くんとシュウ先輩は

やっぱり兄弟だから似てるね。

雲雀くんもいまみたいに大胆なことして。

ただ手を握られているだけだけど

あの雲雀くんがしていることだから

大胆だと思ってしまう。

「 なに、してんの?

もしかして忘れものって 咲夜のこと?」

あたしの握られている手を見てから

雲雀くんを見て、問う。

イラついているものを隠そうとしている

ということが声から伝わる。

亮汰はわかりやすい。

微かにあたしの手首を握っている亮汰の力が強まった。

「 そうだけど? 」

雲雀くんがかっこよくみえる。

容姿がかっこいいのはみればわかる。

だけどあたしを守ってくれているようで。

“ なんか文句ある? ”

そんな風に聞こえてしまうのは

あたしの気のせいだろうか。

…単なる自惚れか。

「 俺が最初に捕まえたんだから

その手、離して 」

「 はあ…。 わるい 」

「 …! 」

雲雀くんが溜め息をついたあと

あたしの顔をよこぎったもの。

それは‘本’だった。

その本は綺麗に亮汰の顔面に当たり

バタッと床に落ちた。

亮汰に掴まれていた手がするっと離れる。

「 ほら、いまのうちに 」

「 え…。 …うん 」

顔面にあたって相当痛かったのか

顔をおさえながら「いって…」と呟いている亮汰。

そんな亮汰を気にしながら雲雀くんに

手を引かれて廊下を走った。

「 はあ… 」

雲雀くんに手を引かれて

つれてこられた場所は図書室だった。

さっきの出来事に疲れて

本棚の近くにあるイスに座り

突っ伏した。

「 雲雀くん。 ありがと 」

「 別に対したことはしていない 」

本を探しているのか雲雀くんの声は

後ろから聞こえる。

「 雲雀くん。 あと何分かな

このゲームが終わるの 」

自分で調べればいいことだが

いまのあたしにはそんな体力なんてない。

「 あと7分 」

ポケットから携帯を出したのか

正確なタイムを言ってくれた。

「 そっか、うん。 良かった 」

ここにいれば誰かが来る心配もなさそうだし、もし来たとしても雲雀くんがいるからね。

また本でバンッてやっつけてくれる。

…なんて思っちゃったりして。

「 …?

なに笑ってる? 」

「 雲雀くんに助けてもらって

嬉しいんだよ 」

知らずに笑っていたらしい。

ほんとうは雲雀くんが本を誰かに投げつけるのを想像して笑ってしまったんだが

そうとは言わず、なにも考えずに言葉が勝手にでたことを言った。

「 …そうか 」

「 雲雀くん。 雲雀くん 」

少し落ち着いてきて雲雀くんがなにをしているのか気になってきていた。

イスから立ち上がり本がずらーりと並ぶ

本棚を見ている雲雀くんに近づいた。

「 なに? 」

本棚にやっていた視線をあたしに

むけてきた。

そのことだけでも嬉しいと思うのは

あたしのテンションがおかしいからだ。

「 なにしてるの? 」

「 なにって、本を探したり見たりに

決まってる 」

当たり前のように言われた。

決まっているのか…。

それほど

ここに来ていたってことなのかな。

だったらあたしも来てみれば良かった。

図書室に来たことなんてあまりない。

「 じゃあ、なに探しているの? 」

今度は質問を変え、雲雀くんに聞く。

それしか雲雀くんと会話することなんてないんだよね。

「 ただ適当に目にはいったもの 」

それを言うとともに本棚から一冊の本を

取り出した。

その題名は

「 クラウド… 」

『 Cloud~クラウド~ 』

と書かれている本だった。

「クラウドって、確か… 」

日本語で

「 “ 空 ” だ 」

「 言おうとしてたのに 」

雲雀くんに先に言われてしまった。

「あれ? わかるんだ? 」

「な、ひどいな。

これぐらいわかるよ 」

英語が苦手なあたしでも

これぐらいのものはわかる。

そんなに英語が苦手だと

思われていたのか。

バカにされたのは嫌だけど

さっきまでの無表情な雲雀くんが笑ってくれたからいいことにする。

…からかうような笑いだけど

そこは、ね。

「 どんな話かな?

雲雀くん、読んだことある? 」

「 もちろん 」

雲雀くんの手元にある本を見ながらに

聞いてみたところ読んだことがあるみたいだ。

「 どんな話? 」

「 読んでみればわかる 」

雲雀くんに顔をむけて聞いたのに

答えなんか返ってこなかった。

「 あたし、小説は読まない派なんだよね」

小説は字ばかりで読みにくい。

読んでいて物語が頭にはいってこないし、ただ目が痛くなるだけのもの。

だからどんなものなのか聞ければいいだけのことなんだが

「 オレはネタバレしない派 」

一瞬『 派 』ってなに?

なんて思ってしまったけど、それ

あたしが最初に使っていたんだと気づく。

「 雲雀くんのイジワル… 」

「 意地悪でけっこう 」

ほんとに意地悪だ。

こんなに雲雀くんが趣味に本を読んでいるから

どんなものを読んでいるのか聞きたいなって思っただけなのに。

それに自分についてなにも話してくれないから、雲雀くんがわからないんだ。

その趣味についても触れさせてくれないのか。

そうやってあたしをからかうようにして

笑って……。

あれ?

そういえば雲雀くんってこんなに

ちょくちょく笑っていたっけ?

まだ柔らかい表情をしている雲雀くんを

じーっと見ると

「 なに? 」

雲雀くんはすぐに気づいた。

「 雲雀くんって、

けっこう笑うようになったよね 」

「 … 」

笑顔でそう言うと

雲雀くんは顔をゆがませた。

わけがわからないというように。

「 いいことだね 」

最初に見た雲雀くんの第一印象は

“ 本を読んでいる心のない人 ”

だったんだよね。

石像…は言い過ぎだから

少しだけ思ってしまったことは忘れよう。

「 そんな雲雀くんも好きってことで…

ギュッと 」

雲雀くんを抱きしめた。

なんかあたし、キスの次は

抱きしめる行為をしたくなったきた。

でもどうせ頭に本で叩かれて

激痛がはしって雲雀くんから離れる

というキスをしようとしていたときの

パターンと同じだろう。

そう思っていたけど

頭には激痛もなにも はしらず。

ましてや雲雀くんから抵抗されることも

ない。

そんな雲雀くんを不思議に思う。

思わずにはいられない。

「 本でバンッて頭叩かないの? 」

見上げるように見ると

雲雀くんはあたしを見ていたのか

すぐに目が合った。

「本は大切に、だろ? 」

雲雀くんがこんなこと言っているなんて

信じられない。

だっていままでだったら普通に頭

叩かれてたもん。

キスしようとしただけでバンッ。

顔 近づけただけでバンッ。

…どっちも同じ行動なんだけどね。

それに

「 あのとき亮汰の顔面に

本、ぶつけたよね? 」

その行動からして、本を大切にしているようにみえないんだけど。

あの痛そうな音…。

亮汰、大丈夫かな。

いまごろになって

すごく心配になってきた。

「 りょうた…?

ああ…あの人か 」

そうだよあの人だよ。

雲雀くんが躊躇〈ちゅうちょ〉せずにいきおいよく本を顔面にあてた人。

いま思い出したというような表情の雲雀くんに心の中で強くうったえた。

「 あれはちゃんと謝っただろ 」

‘謝った’って

いま、本の話してるよね。

「本に…?

いつ? 」

こんなこと聞いて

あたし、間違ってないよね。

本に謝ったなんておかしな話だし、雲雀くんのそんなところを見た覚えがない。

「 本をあの人の顔面にぶつけるまえ 」

本を、あの人に、ぶつける、まえ?

雲雀くんの言葉を区切りながら

思い出すように考えると

ふと、あのときのことを思い出した。

「 あれって…亮汰に謝ったわけじゃ

なかったんだ 」

あのとき、雲雀くんは溜め息をついてから

『 わるい 』

と謝っていたのは

「 本に謝ってたんだ 」

「ああ。

誰があんな人に謝るかって 」

一人で納得して心の中でつぶやいたつもりだったのに声にだしていた。

雲雀くんは遠くを見るように

あたしの後ろを見る。

『 今週はここまで 』

そこで葵先輩の2回目のゲーム終了の合図が構内放送で行われた。

『 朝比奈咲夜。 いまどこにいる? 』

その言葉とその声の音程に

背筋がゾッとする。

少しイラついている様子だけど

悲しそうな感じもする。

葵先輩…ほんと

なに考えてるのかわからない。

「 どうした? 」

「や、なんでもない」

雲雀くんに心配されるぐらい

あたしは変な顔をしていたらしい。

だから笑いながら雲雀くんの暖かい

胸元から名残惜しくも離れた。

だめだあたし。

葵先輩の悲しそうな声 聞いたら

捕まってもいいかな…なんて考えてしまっていた。

…いまはそんなこと どうでもいいか。

「 はやく帰ろ? 」

「 ねえ…雲雀くん 」

あたしはなにに乗っているんだろうか。

「 なに? 」

涼しい顔であたしを見る雲雀くんが

あたしの横にいる。

あのあと帰ろうと言ったあと

一緒に帰ることになったのは

いいとして

「 もしかして雲雀くんって

いつも車で送り迎え? 」

どうしてこんな広い車に

乗せられたんだろうか。

車に詳しくないからわからないけど黒くて大きな車のことをなんというのか…。

まあそんな名前なんてどうだっていい。

「オレだけじゃなくて

かい…、兄もだけど 」

言い直したところを聞くと

いま絶対『会長』って言いそうになっていたな。

『兄』じゃなくて『兄さん』って

よばせたかったんだけどなあ。

と、片隅において。

「雲雀くん。

車の中で本なんて読んでいて

大丈夫? 」

あたしの横にいても

生徒会室にいるときと同じく

本に視線をむけている。

車酔いしたりしないのか。

「 慣れてるから 」

「 あ…そうですか 」

これまた涼しげな顔をして

本を見続ける。

慣れっていうものは恐ろしいね。

「 そういえば雲雀くん。

あの本どうするの? 」

あの本。

亮汰の顔面にぶつけた本。

あのまま床に落ちたまま図書室に走って

逃げちゃったんだよね。

「 どうするって言われても

どうしようもない 」

少し考える素振りを見せたものの

冷静すぎる答えが返された。

「 まあ…そうなんだけどさ 」

これ以上 言っても雲雀くんに返される

言葉は1つぐらいしかないと

この答えでわかってしまった。

だって本に集中しすぎている。

「 今日はありがとうございました 」

守ってくれたうえに送ってもらって。

同い年に敬語は使わないあたしだけど

今回はほんと助かった。

だから心からのお礼。

「 どういたしまして 」

車の中に座っている雲雀くんにお礼を

言うと、返ってくるとは思っていなかった返事が返ってきた。

本を見ていたのに顔をこちらに

むけてくれたし。

そのちょっとした嬉しさに

笑みがこぼれる。

「 え~と… 」

運転してくれていたうえにドアを開けてくれた人を見て、困った。

この人の名前がわからないから。

「 私のことは‘渓’

とお呼びください 」

あたしの思っていることに気づいてくれた執事さんらしい人が胸元に綺麗に

腕をおく仕草をする。

ほんものの執事だ…。

つい、初めて目の前にした執事さんに

感激してしまった。

「 なに感激してる? 」

「え、あたし顔にでてた? 」

そう言いながら

両手で顔を隠すようにした。

「 でてた 」

雲雀くん、鋭すぎ。

本に視線をむけていたんじゃなかったのか。

「あの、渓さん? 」

「 はい? 」

さりげないスマイルがむけられる。

雲雀くんとは大違い…じゃなくて

「 今日はありがとうございました 」

雲雀くんにむけた言葉と

全く同じ言葉を言いながら頭を下げた。

「 いえ、どういたしまして 」

顔をあげて渓さんを見るとやっぱり

雲雀くんとは大違いな笑みが

むけられてしまった。

家の中に入って一番最初にすることは

ベッドにダイビング。

まずはあの初めて会って感激した執事さんのことを考えてみた。

なんという落ち着いた大人な人なんだろうと思ったけど

そんなに歳がいってなさそう。

だって全体的に若そうだった。

黒い髪で清潔であたしの執事の想像通り黒い服を着ていて

それがすごく似合っていた。

あと性格も良さそうだし、あたしの渓さんの第一印象は‘なにもかも完璧’だ。

たぶん二十代だと思う。

…カイと同じか。

カイは22歳だから。

…あと嫌でも考えてしまうのは

悪夢のゲーム

また一週間後に待っている。

葵先輩のやりたい日に行われるから

ハルが守ってくれるって言ってくれたんだけど今日は会えなかった。

できればちゃんとやる日を決めておいてほしい。

だったらハルと事前にどこに逃げるか作戦をたてられるし

もし一人で逃げなければいけないときは

心の準備ができる。

まえ葵先輩に聞いたんだ

『今週はいつやるんですか? 』

って、そしたら…

『 さあ、いつだろうね 』

楽しそうに微笑まれた。

葵先輩が決めることなんですけど!?

などとツッコミたかっだが

それはやめといた。

葵先輩に逆らっちゃ

ダメなんだ。

弱みを握られてるからね。

はー…もう寝る。

今日は疲れたし

考えすぎて疲れた。

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