キス*チュードク2 5-2
弱み…あげちゃった…
いや、握られちゃったよ。
カイのせいだよ。
もう、カイを恨んでやる。
まあ…あたしも悪いとは思ってるよ。
カイの頼みにのったのはあたしだし。
あー…もうやだ。
それからだいぶ日にちが経ち
これは悪夢のゲームが始まる
まえのこと。
『なんか全然やることねー 』
恭弥がソファであくびをかきながら
言ったことが原因だった。
『 じゃあさ、楽しいゲームでもする?』
笑顔で言う葵先輩はいつも通りで
その“楽しいゲーム”に興味が湧いた
あたしはそのゲームにのることにした。
『 いいですね。
ところでその“楽しいゲーム”って
なんですか? 』
「なんでこんなこと
やらなきゃいけないの!? 」
いま、あたしは学校中の生徒から
逃げている。
それも男どもから。
なぜ男どもなのか…
はあ…葵先輩めっ…!
回想。
『 えー、生徒会で話合った結果
ゲームをすることになりました 』
急に校内放送で葵先輩の声が
聞こえたかと思うと
あの生徒会で勝手に決められそうになっていたものが
いま、勝手に決められそうなのだ。
『 このゲームは放課後に行います。
参加するかは君たち次第 』
あたしは呆然と聞くしかなかった。
まさかね…なんて思いながら。
『 生徒会の朝比奈咲夜。
知らない人はいないよね 』
このあとに信じられないことを
聞いてしまった。
『 放課後、その朝比奈咲夜が逃げます。
それを捕まえることができた君には… 』
手汗が半端なかった。
ただ葵先輩の声がでているところを
見ていた。
『咲夜ちゃんからのキスが待っています』
ありえない、ありえない、ありえない!!
なんでこんなことが
勝手に決められて
それで勝手に追いかけられて
捕まえられたらキスしてあげるという
勝手なルールをつけられて
そしたら逃げるしかないじゃん!!
まあ…週一なのは助かったけど……
勝手に校内放送されてしまうまえの、
生徒会での話。
『 葵先輩、それってどういうこと
ですか!? 』
理解不能な“楽しいゲーム”の内容。
『どういうことってそのままだよ。
咲夜ちゃんが捕まったら
その人にキスしてあげるんだよ 』
なぜこんな楽しそうに言えるのか。
あたしの心配も少しはしてほしい。
『 そんなの嫌ですよ! 』
口で抵抗したのは間違いだと
思い知った3秒まえ。
葵先輩はニコッと笑って
『 俺、生徒会長だよ 』
1秒まえ。
生徒会長だからってやっていいことと
悪いことが……
『 あのこと
言っちゃってもいいのかな?』
あるのに。
『 そんなに心配しなくても大丈夫だよ。
これをやるのは週一だから 』
「 葵先輩の卑怯者! 」
“あのこと”とは
まえに弱味を握られてしまったものだ。
あたしがカイの家に入ったということ。
〝それをみんなに
言いふらされたくなかったら
ずべこべ言わず
逃げていればいいんだよ〟
悪魔に見えていた葵先輩からは
こう言っているような気がした。
「もー、みんなもちゃんと
止めてくれれば良かったのに… 」
まあ…止めてくれたと言えば
止めてくれていたけど……。
『それはダメですよ。葵先輩 』
『 なんで? 』
ハルが守ってくれる
そう期待の目を向けていた。
『咲夜ちゃんがやりたくないって言うなら
それはしてはいけないことだと思います。
ましてや咲夜ちゃんはそういうことを
やめたんですから 』
本当に騎士のように守ってくれる
ハルにキュンっときた。
だけど
『 じゃあ、それは
咲夜ちゃんが“いい”って言ったら
してもいいってことかな? 』
危ない…
そう思いハルを見たら複雑そうな
顔をしていた。
『まあ、それはそうですけど… 』
ハル…あたしを見捨てた。
ハルはそんな気持ちがなかったとしても
あたしを見捨てた。
『 て、ことで
どうかな咲夜ちゃん 』
有り無しを言わせてくれない表情。
肯定しかできなくなる条件があって
あたしはその“楽しいゲーム”に
参加するしかなかった。
ハル。 あなたは騎士のようだったよ。
だけど……
『 ねえ…恭弥… 』
『それ、結構おもしろそうじゃん 』
助けを求めた恭弥には
完全に見捨てられ
『 りぃ…くん 』
『 僕、興味ない 』
りぃくんは感情のない言葉であたしを見捨てたうえに、
あたしを完全に視界にいれてくれようと
しなかった。
『 ひ…雲雀くん… 』
『 ……まあ…楽しんで 』
…って
なんでよ!!
雲雀くんも読書しながら
興味なさそうに。
もーなんでよ!!
この薄情者たちめ…。
あー…まじどうしよう。
逃げるって言っても囲まれたりしたら
終わりだし。
少しだけ窓から外を覗くと
下には男子たちがいる。
もう終わりだ。
このゲームが始まった時点で
もう終わったんだ。
そうか
そこでポンっと思い出した。
あそこなら誰も来ないはず。
ふうー…やっぱりここには
誰も来ないよね。
保健室に入ってベッドに座る。
さっき、けっこう危なかった。
男子二人に追いかけられて。
まじ怖かった。
なぜこうも男子どもは
自分に正直なんだろうね。
いま思ったけど
もう少し自分に嘘ついてほしいな…。
そうしたらあんなに全力で
追いかけられなかったはず……
ーバタッ
「やっぱり、ここにいたね。
咲夜ちゃん 」
…なんだけど…な…?
ふうー…やっぱりここには
誰も来ないよね。
保健室に入ってベッドに座る。
さっき、けっこう危なかった。
男子二人に追いかけられて。
まじ怖かった。
なぜこうも男子どもは
自分に正直なんだろうね。
いま思ったけど
もう少し自分に嘘ついてほしいな…。
そうしたらあんなに全力で
追いかけられなかったはず……
ーバタッ
「やっぱり、ここにいたね。
咲夜ちゃん 」
…なんだけど…な…?
ゲーム始まって早々
捕まりました…。
下を向いていたから葵先輩の存在に
気づかなかった。
視界に誰かの足が見えたときには
もう…こんな状態。
これで何回目だろうか。
押し倒されたのは。
あたしの視界には葵先輩と
その後ろにある天井しかない。
「 咲夜ちゃん。
つかまえたっ 」
「はは…捕まりました…… 」
葵先輩の嬉しそうな笑みに
から笑いしかできない。
「 咲夜ちゃん。
このゲームのルール通り キス貰うけど
してくれるのか、それともされるのか
どっちがいい? 」
どっちもいいわけがない。
そんなもの聞かないでくれ。
聞かれて、なんて答えればいいのか
わからない。
てか、それよりどっちがいいのだろうか。
裁判で例えると
どっちが軽い罪なのか。
…どっも同じか。
どっちも重い罪か…。
「 どっちも、嫌だって
言ったら…? 」
確かめるように聞くと
葵先輩は
「それはダメだよ」
ニコッと笑った。
この笑みに背筋がゾッとする。
だからそういうことは聞かないでよ。
あたしは否定しかしないから。
「 じゃあ、俺からするね 」
あたしが答えた意味がなくなった。
近づいてくる葵先輩の顔を見る。
もうこれは抵抗しないで
諦めたほうがいい…。
その目を瞑った。
「 はあ…なんでかな
また君? 」
すると葵先輩が溜め息をして
めんどくさそうに言葉を発した。
なに…?
目を開くとそこには
「 咲夜ちゃんと約束したので 」
ハルの姿が…。
「 ハル… 」
名前を呼ぶとこちらを見て
微笑んでくれた。
まるで
〝大丈夫だよ〟
と言ってくれているようだ。
ハルはあたしの騎士だ…
そして天使だ。
肩に手をおかれていた葵先輩は
仕方なさそうにあたしの上から退いた。
自由になった体を起こすと
葵先輩とハルが睨みあっているような
光景が目に映る。
「 なに? 咲夜ちゃんとの約束って? 」
「 葵先輩みたいな人から
守る約束ですよ 」
天使と…悪魔だ…。
…あ、なんかいま
この場に合わないような疑問が
浮かんじゃった。
「 あの…制限時間って
ないんですか? 」
「 … 」
「 … 」
「 … 」
シーンとなってしまった。
思ったとおり、いま
こんな質問をしてはいけなかったんだ。
「 そういえば決めてなかったね 」
葵先輩が口を開いた。
そこが一番大事な部分だと
思うんだけど…。
他のルールなんかより
これが一番だよ。
制限時間がなかったら
いつまでやるんだって話だ。
あー…なんでこんなことに
早く気づけなかったんだ。
こんな自分を恨む。
「 これからは30分間で
いいんじゃない? 」
いや、良くないよ。
長いよ。
「 それは長すぎると思います 」
ハル…!
もう、好きだ。
その言葉に 葵先輩は
う~ん…と考えはじめた。
そんなにも考えることでも
ない気がするが。
そんなに考えるなら
「じゅ、10分間! 」
「それ短い」
即、却下ですか…。
これはいい流れだと思ったのに。
それに10分間でも長いから
5分間って言うつもりだったのに…
これでも長いとは。
「 20分間にしとく 」
…
「 葵先輩。 あたしの意見は… 」
「 却下 」
葵先輩。 いつもより強引な気が…。
「 はあー 」
葵先輩がいなくなった保健室で
ぼうだいな溜め息を吐きながら
ベッドにうつ伏せになった。
「もう、やだよ… 」
こんなのおかしいよ。
だからまえにも心の中で言ったけど
こういうことは
健全になろうとしていなかったときに
してほしかった。
「 咲夜ちゃん…。 大丈夫? 」
「だいじょばない… 」
全然大丈夫じゃないよ。
今日だけでこんなにどっと疲れるなんて…
これからこれが週一で行わられるんだ。
あたしの体力
持つのかな…。
『 このゲームに参加のみんな。
今週はここまで 』
葵先輩の声だ。
校内放送をしに行ったのか…。
『来週からは制限時間が20分間。
まあ、がんばって 』
最後はあたしあてに言った言葉
のようだ。
応援するくらいなら…
こんなことしないでよ。
もう、やだよ。
泣けてくる。
どう考えても理不尽だよ。
あたしが生徒会だからいけないのか…。
「 ハルー… 」
ベッドにうつ伏せになりながら
ハルがまだここにいるかわからないけど
力なく呼んでみた。
「 なに? 」
返事が返ってきた。
まだいてくれてるんだ。
「 好きだよ 」
ほんとうにハルには助けられた。
ハルだけがあたしを心配してくれている。
他の4人なんて…心配どころか
興味も示さない。
葵先輩はあんなだし
雲雀くんは読書にしか興味ないし
りぃくんは、あのときから
そっけないし
恭弥…そういえば恭弥はやる気あったんだよね。
どこにいるんだろう。
ともかく
あたしにはハルしかいないんだ。
ハルのお説教。
まえはうるさいだけだったけど
いま思うとすごく嬉しくなる。
あたしを気にしてくれていて
一回
ハルとはぎこちなくなっちゃったけど
自然と仲直りしていた。
ハルといると心が暖まる。
そんなハルが好きだな。
「 ハル。 ありがとうね。
今日も守ってくれて……
ハル? 」
ベッドから起き上がるようにして
ハルを見ると様子がおかしかった。
固まっていて、
まるで心ここに在らず…だ。
「 ハル 」
「 …! 」
名前を呼んだ瞬間
ハルの体が少しびくつき
瞳がゆれた。
やっとどこからか戻ってきた。
「ハル。 どうしたの?
考えごと? 」
なにがあったんだろう。
あたしにはわからない。
「 …え、いや、えとさ 」
噛みすぎてるよハル。
なにかに動揺しているような感じだ。
「 咲夜ちゃん…
いま、好きって… 」
少し落ち着きを取り戻し、
なぜか視線を下に向けた。
「 …? 」
不思議に思いながらハルを見ていると
小さく溜め息をついたのがわかる。
「ごめん。 けっこうおれって
勘違いしやすいタイプなのかも」
照れ笑いしながら言われた言葉。
その言葉の意味がわからない。
なぜ自分のタイプを語る。
「 なんで誤るの? 」
「え… 」
困った顔をさせてしまった。
そして一歩あたしへ近づいてくる。
また一歩…一歩。
あたしの目の前まで来たハルの表情からはなにも読み取れない。
なにを考えているのか。
ハルを見上げていると
ポンっと頭に手をおかれて
「 …? 」
ハルの表情が見えなくなった。
「 さっきの言葉…。
もう一度言って…? 」
さっきの、言葉?
「さっきの言葉って… 」
ハルの顔を見ようとするのに
頭にのっている手が
そうさせてくれない。
「スキだよって。
言って? 」
ハル…?
なんでそんな言葉…言わせたいの?
もしかして聞きたいとか?
「 好き…だよ? 」
いちよう言ってみた。
ハルの意図が読めない。
おかげで語尾がおかしくなって
しまった。
「 …もう一回 」
「 好きだよ 」
「 もう一回 」
「 …ハル 」
ハルがわからないよ。
こんなこと言わせたいなんて。
ハルの表情を見るために
頭にのせられている手を両手でどかそうとその手に触れた。
するとハルのその手が
びくっと震えたのがわかった。
だけどそれを気にせずに
どかそうとすれば
軽々とその手はどかせた。
そしてハルの表情を見ると
「 ハル…顔、赤いよ? 」
真っ赤だった。
「 見られないようにしといたのに… 」
さっき、あたしの頭の上にのせていた手で自分の顔を隠すようにしている。
見られないように…って
頭にのせていた手で?
「 大丈夫? 」
「…だいじょばない 」
これって、さっきのあたしたちの
会話じゃん。
いつもと違うハル。
「 どうしたの? 」
そう聞けば答えが返ってくるかと
思った。
「 ず…るい 」
「 え? 」
声がかすれていて
ちゃんと聞き取れない。
「 咲夜ちゃんは
ずるいよ 」
「ハル…? 」
いきなりぎゅっと抱きしめてきた。
顔は首元におかれていて
肩に手をまわされて
ぎゅっと…。
今日はわけがわかないことばかりだ。
「 おれさ
やっぱり咲夜ちゃんのことが
好きみたい 」
それは聞いたよ。
ハルの悲しそうな声は
すぐ耳に届く。
「 でもその好きは咲夜ちゃんと
違くてさ 」
なにが、言いたいの?
「 ハル… 」
抱きしめられている腕に
そっと触れようとした。
「 こうやって
一緒にいられれば
それだけで良いかなって思ってた 」
それはハルの言葉によって
さえぎられた。
「でも… 」
無理やり明るい声をだしていたのは
わかる。
けど、いまの声は
自分の気持ちを隠そうとしていない。
だからそれを聞くために
あたしは口を挟まない。
「いまは咲夜ちゃんに触れたいって思ってこうやって抱きしめちゃってる… 」
ハル…。
ハルのほんとうの気持ちは
そんな風に自分を抑えているんだね。
「 なんかおれ
だめだね 」
照れ笑いのような
自分を責めているような
そんなハルの声。
「 そんなことないよ。
ハルはだめなんかじゃない 」
あたしは首を横にふった。
そのことにハルが
驚いていることは伝わる。
だけどいまはただ、
自分の気持ちを伝えるだけだ。
「 ハルは純粋すぎるんだよ 」
そう純粋すぎる。
小さいときからあたしをずっと好きなんて純粋すぎるにもほどがある。
それなのにあたしにはなにも
求めてこないで。
逆にあたしからキスを求めたときは
好きな子と軽々できない
って…
ハル すごすぎるよ。
「 それにあたし…
こんな風に触れられるの
好きだよ 」
笑いながらハルの顔を見ると
やっぱり驚いているような表情を
していた。
「 咲夜ちゃん… 」
ハルの手に力が込められる。
「 じゃあ…もし
キスしたいって、言ったら…? 」
控えめな声。
〝 キミはどうする? 〟
そう聞かれているようだ。
ハルがそんなこと言ってくるなんて
思わなかった。
「 いいよ 」
「 え? 」
明らかに驚いている表情と声。
ほんとうにこういうとこは
かわいい。
「していいよ、って
言う 」
ハルは気づいてないかもしれないけど
暗い顔、してた。
だから心から笑った。
そうしなきゃハルに伝わらないから。
「でも… 」
その続きはわかるよ。
だからそんな申し訳なさそうな顔
しないで。
「ハルになら、いいかな。
…なんて 」
思っちゃうんだ。
これはいまだけの気持ちだと思う。
だからハル
いまのうちだよ
キスできるのは。
「ほんとうにしていいの? 」
信じきれていないハルの表情。
「いいんだよ」
なんでだろう。
ハルがかわいくみえてしまう。
「でも…」
そうやって無意識に
あたしを抱きしめている腕に力をなくして離れようとするハル。
だけど
その腕をまわして
離れさせないようにする。
それからは
自分からキスして
瞑った目を開けてみると
びっくりしているハルの表情がみえた。
やっぱりかわいく思えてしまう。
なんか前の自分に戻っちゃったみたい。
「これを初めてで
最後の日にすればいいんだよ」
背中に腕をまわしたまま
至近距離で
ハルを甘い道へと連れ込もうとする。
ハルは一体
なんて答えるのか
難しく考えている様子のハルが
あたしの目に映る。
泳ぐ目。
だけどその目が
決心したかのようにあたしを捉えた。
「その言葉に甘えて
ほんとにしちゃうよ? 」
確かめるように聞かれる。
なんか
前のあたしが戻ってきて
焦らされている気分になる。
「今日はハルの好きなように
していいんだよ」
その言葉を言った瞬間
ハルの目は揺らいだ。
そしてハルの中で
なにかがはずれたように
いきなりキスしてきた。
「 んっ… 」
予想していなかった行動に
変な声がでてしまう。
ハルの行動はあたしの予想を
はるかにこえている。
初めから深く、深く
キスされる。
バタッ…
そのまま後ろに体を倒した。
ハルが強引すぎる…。
あたしに抵抗する力なんてないから
ハルの思うがままになる。
抵抗しようとしても
あたし自身がそれを止めてる。
抵抗する力なんてない。
頭がボーっとして力がでないから。
「咲夜ちゃん…」
ずっとふさがっていた唇が
ようやく離された。
「はあ…はあ…」
息が荒くなるあたしたち。
深く、深く。
「 咲夜ちゃん 」
ハルがあたしを呼ぶ。
目をつむっているあたしには
ハルの声だけが聞こえている。
「 咲夜ちゃん。
好きだよ 」
そこでハルの行動が止まり
静かになる。
いきなり静かになった違和感と
じっと見られているような視線が伝わり
目を開けた。
「 咲夜ちゃんも…
ウソでいいから言って 」
そこで初めて見た
ハルの求めるような表情と
瞳。
ああ…これはあたしに向けられているものなんだ。
そう思うと
嬉しい気持ちが湧き上がった。
あのハルが自分の気持ちに素直に
動いているんだ。
あたしがそうさせているんだ。
そう思ってしまう。
今日だけなら
ハルの望み
なんだって叶えてあげる。
叶えさせてあげたい。
これは
ハルが相手だから思う気持ちなんだ。
「好きだよ。
ハル…んっ」
それだけを言うと
すぐに唇をふさがれた。
違う。
ハルの場合
唇を合わせてきた
のほうがあっている表現かもしれない。
指の間に指をいれられ
絡まれて。
ぎゅっと握りしめられる。
それは大切そうに。
もっと求めるかのように。
ハルは優しくキスしてくれて。
こんなふわふわ浮いているような
心地いいキスは初めてだ。
ハルがあたしを求めてくれたのも
初めて。
強く求めているのに
優しいキス。
ハルはこういうときでも
優しいんだね。
「 … 」
「 … 」
静かに唇を離され、
ハルの体も離れていく。
なごりおしい…
そんな風に思ってしまうのは
いけないことだとわかってるけど
つい、求めたくなる。
もうハルとのキスはこれが
初めてで最後だから。
あたしから離れたあと、ベッドからも
おりた。
「ごめん。理性
壊れそうだった…」
あたしを見下ろしながら
照れ臭そうに笑う。
もういっそ壊れてしまえば良かったのに
そう思うのは罪?
なんかあたしがおかしい。
あたしであってあたしではない。
そんなフワフワした感じ。
「おれの心拍数すごいんだけど。
聞いてみる? 」
胸に手をあてて
うかがうように聞いてくる姿は
あたしを苦しめる。
そんなにドキドキしてるなら
なんでもうやめてしまったの?
もっと続けてくれれば良かったのに…。
そう心の中にしまいながら
うん、と小さく答えてベッドから立ち上がると
服を掴んでハルの心臓に耳をあてた。
ハルの鼓動が伝わる。
うるさくあたしの耳に響いたのは
あたしがそうさせたものなのか
信じれないほどのものだった。
「 ほんとだ… 」
「 ね? 」
ハルの鼓動の大きさに驚きながらも
普通に答えた。
するとハルは照れ笑いもせずに
微笑ましそうにあたしを見る。
なんか、こっちのほうが恥ずかしい。
あたしを見つめているその裏では
なにを思っているのか
いまのあたしにはわからない。
「 あたしも…
心臓の音、やばいよ 」
そこでハッとする。
つい、口をすべらせてしまった。
この恥ずかしさから逃げたいがために
言ったことだが…。
「 聞いてもいい? 」
逆効果になりそうな予感。
その問いにさっきと同じく
うん、と頷くと
ハルはなにも抵抗することなく
あたしの胸元に耳をあててきた。
そんなハルのストレートな行動に
ドキッとした。
だって、普通
女子の胸元に顔を近づけてくるなんて
どう考えても抵抗力があるでしょ。
なのにハルはなんなく
近づけてきた。
ハルは純粋すぎるから
そういうことは気にしないのか…。
意外にハルと居ると
心臓の鳴りがおさまらないかも。
あたしがハルの鼓動を聞くときは
ハルの身長が高くてそのままの態勢で
耳をあてるだけですんだが
あたしの場合
ハルは身長を低くしてあたしの
胸元に耳をあててくる。
この態勢にもドキドキする。
「ほんとだ。
もしかしたらおれの心臓より
心拍数速いかも」
あたしの胸元から離れて
至近距離で冗談のように笑われる。
だけどそれは当たってると思う。
「そうかもね」
自分でもわかるんだ
この心臓の音が半端ないことに。
「 もう帰ろっか 」
微笑みあってから
ひと段落ついたところで
ハルがあたしの聞きたくない言葉を言った。
外をみればもうオレンジ色に
染まって綺麗。
そんな光が流れてくるように外から
入ってきて床を照らしている。
帰ろうとするハル。
だけどそれを止める。
服の袖を掴んで。
帰ろうとするハルを捕まえた。
まだ、帰りたくないんだ…。
まだ…したいよ……。
こんな風に思ってしまうなんて
葵先輩たちを拒んどいて
あたし、最低だよ…。
「 咲夜ちゃん? 」
名前を呼ばれる。
だけど返事しないで
ただ、あたしが掴んでいるハルの
袖口をじっと見続ける。
ハルがあたしを不思議そうに見ている
のはその声でわかる。
ハル。
あなたには伝わらない…?
あたしのいまの気持ち。
もうハルは満足しちゃってるの?
自分のおさえられないこの気持ちに
なにがなんだかわからなくなってくる。
「ハル…これが最後だから
もう少しだけしよう? 」
これは自分の願望。
ハルはあたしの言葉を聞くと
最初は驚いたように瞳が少し開かれて
その瞳はキスし初めのときのように
揺らいだ。
だけどその表情は柔らかいものに
なっていき…
「 うん 」
小さく答えが返されたと同時に
肩に手をおかれてキスされた。
立ったままのキス。
こんなこと言ってハルは聞き入れてくれないかと思ってたあたしは
驚いて目を見開いた。
だけどすぐに瞳を閉じた。
ハルにキスされると
落ち着く。
これはあたしがキス中毒者だからじゃなくて、なんか心から暖まるんだ。
それにキス中毒はなおってきている。
これまでずっと拒否し続けてきたんだ。
だからハルとのキスも
これが最後なんだ。
これで最後にするんだ。
そう、心の中で決心した。




