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「 ん… 」
また今日も、学校の保健室でキスをする。
もう、キスを終わらせようとする相手。
だけど今日はもっとしたかった。
たぶん、昨日の恐い人のせいだ。
「もっと…」
「どうしたの?なんかあった?」
求めると止められてしまうキス。
「なにかあったってあなたにはどうだって良いことでしょ」
そう言うと変な顔をする相手。
「あ、そう」
あなたにとってあたしは、こういう関係だけにすぎないんだから。
保健室のドアから出て行く相手。
ただ、あたしはキスをしていると落ち着くからしているだけ。
相手なんて誰だって良いんだ。
ベッドの上に座っていると、スカートのポケットの中で携帯がブルルッと揺れた。
お知らせを見るとメールだった。
送ってきた相手は…
吉田 陽斗
チャラそうな男だ。
メール内容は…
おれたちのこと覚えてないの?
だ。
意味がわからない。
なにかのおふざけ?
教室。
先生が何かを喋っているが、私の耳には届かない。
興味がないから。
「転校生を紹介する」
ここだけは聞こえた。
クラス中の人が「聞いてない」とうるさくざわめく。
「ね、咲夜。あの人たちじゃない」
「あの人たち…?」
後ろの席の美姫がコソコソと話してきた。
美姫、知っているのかな。
「入っていいぞ」
先生の言葉の合図で、教室のドアがガラッと開く。
…あの人たちだ。美姫、あの人たちだよ。
後ろを少し向くと美姫がほらね、と笑っていた。
また前を向く。
「今日からここの生徒になる、吉田…」
「吉田陽斗です。‘はる’を漢字で書くと太陽の陽って書くんだ。よろしくね」
あの人、先生の話を切ったよ。
先生、複雑そうな顔してるよ。
ついでに驚いてるし。
おもしろい以外のなにものでもない。
そのとなりは恐い人だ。
「 恭弥 」
なにも言わない恐い人に対して恐くないほうの人がその人の名前を呼ぶ。
…自分で言っといて状況が全く整理できていない。
ようするに自己紹介しろと言っているのだろう。
「桐生恭弥…よろしく」
恐いオーラ全開。
はあ…クラス中のみんなの目が輝いてるよ。騒ぎだしてるよ。
まあ、どちらも容姿が良いからね。
それで恐い人は、こんな性格でも女子たちにモテているんだろう…たぶん。
モテているなんて知らないし。
昨日、会ったばかりだし。
興味ないし、あったら笑えるし。
恐くない人のほうは、こんな性格でこんな容姿だから人気なのは当然だろうな。
あくまでただの第一印象での予測だけど。
「 … 」
こちらを見て、微笑んだ。
もちろん恐くない人のほうが。
恐い人が微笑んできたら…
「 ぷっ… 」
危ない、危ない。
想像してしまった。
想像できるなんてすごいな。
二人は自分の席を先生に教えられてその場へ移動する。
遠くだ。
良かった、良かった。
一時限目が終わった。
やはり、あの二人の周りには女子たちが集まっている。
奇跡的に席がとなりの二人だから。
仲良いねえ。
…てか、なんで美姫は知っていたんだろう。転校生がこの二人だって。
「ねえ、美姫」
後ろの席にいる美姫に聞いてみることにした。
「 なに? 」
「なんで転校生があの二人だって、知ってたの?」
美姫は一瞬、不思議そうな顔をした。
「なんでって、あの合コンの時に言ってたじゃん。この高校に転校してくるって」
「へえ、そうなんだ」
全然、全く耳に届いていなかった。
「そうなんだって…咲夜は、ほんと人の話し聞かないよね」
「 まあね 」
自慢げに言ったが、自慢になっていない事は知っている。
美姫には苦笑いされたし。
それより、一つ気になる事がある。
あの恐くないほうの人のメール内容だ。
おれたちのこと覚えてないの?
というメール。
どっかで会った記憶がない。
女子たちに囲まれていてあの二人があまり見えないが、じっと見た。
すると、少しの隙間から恐い人がすごく機嫌の悪そうにしている顔が見えた。
「 … 」
あの恐い人と、視線があってしまった。
すぐに視線は逸らされる。
それは問題ない。
あのメールも、問題ない…か。
毎日のめんどくさい授業がいったん終わり、お昼となった。
あたしは、いつも通りに食堂で食べる。
食堂へ向かおうと席を立とうとしたが、無理だった。
なぜかというと、あの二人が来たからだ。
「咲夜ちゃん。一緒にご飯、食べよう?」
なぜだ?
なぜ、あんな女子たちに囲まれていたのに今 ここにいる?
横にいる人が、やはり不機嫌そうで恐い。
「 なんで? 」
「なんでって、一緒に食べたいから」
笑顔で言う恐くないほうの人を変な目で見てやった。
すると、意味深な表情になる。
「やっぱり、覚えてないんだね」
これだ、これ。
今、一番不思議に思っていること。
「それって、どういう…」
「それは、一緒にご飯を食べる時で」
満面の笑みだ…。
仕方なく、そうすることにした。
「…は?幼なじみ…?」
言ってることがわかりません。
食堂に来た、あたしたち。
急に、『おれたちは幼なじみなの』とか言われた。
「えっと…冗談?」
冗談なら笑えない冗談だよ。
「冗談じゃないよ。ほんとに覚えてないの?それならそれで悲しいんだけど…」
覚えてない。
覚えてないよ。
そんな悲しそうな表情されても困る。
「じゃあ、写真とか見せれば信じるんじゃね?」
「あ、そっか」
さっきまで黙っていた恐い人が話に入ってきた。
少しびっくりした事は内緒だ。
「ほら、これ」
そう、恐くないほうの人の携帯から見せられた画像は…確かにあたし。
首もとに、今もあるペンダントをしている。
なんで?
今日は、こればかり言ってる気がする。
「保育園の時だからね。忘れていてもむりないよ」
「 だな 」
そうなんだ。
「なんで、この携帯の中に昔の写真があるの?」
「それは…って、覚えてないか」
ため息をした。
説明するの、めんどくさいのかな? それならそれで別に説明はいらない。
こんな昔のが、なんで携帯の中にあるのか不思議に思っただけだ。
まさか幼少期に携帯を持たされていたとか……。
「おれ、小さい時から携帯持たされてたんだ。だからその携帯でよく写真とってて。で、携帯を変える時にデータを…」
「もう、わかったよ。データの移行だよね」
「 そう 」
携帯の仕組みぐらい説明されなくても
わかっている。
じゃあ、もしかして…
「他の写真もあったりするの?」
「もちろん」
そう笑顔で答えて、携帯をいじった。
そして、渡された携帯の画面の中には写真の全部が載っていた。
「これ…全部…?」
「 ぜんぶ 」
笑顔で即答された。
これで…300枚以上はある。
いや、もっとかもしれない。
「 すごいね… 」
「 でしょ 」
得意気に返事をした彼。
携帯の中に映される画像を見ていると、なにかが思い出しそうになる。が…やっぱり思い出せない。
「それでも思い出さないの?」
いや、覚えてるほうがすごいと思うんだけど…。
幼なじみだとしても、関係ない。
「ごめん、思い出せない。もう教室に戻るね」
そう言って、立ち上がった。
陽斗がなにかを言っていたが立ち止まらずに教室に向かった。
そして、教室に入って自分の席へと座って少しだけ考える。
幼なじみと言ったらあたしの中では、相手を大事にしたいタイプが多いんだと思う。
あくまであたしの中で。




