8-1
「もう…いなくなっちゃうんだ」
「そうだね」
時が過ぎるのは早いものだ。
生徒会室、ソファに座っているあたし。
あたしが呟いたことに隣に座っている葵先輩が、相づちをいれてくれた。
「早すぎですよね。シュウ先輩がいなくなっちゃうなんて」
「まあ、仕方ないよ。三年生だからね」
シュウ先輩は今月、卒業してしまう。
「でも…」
せっかく仲が良くなったのになあ。
「会えなくなるわけでもないし。そんなに悲しまなくても俺が…」
「そっか、そうですよね。会えなくなるわけじゃないんだ」
なんだ、考えすぎていた。
いざとなったら雲雀くんに頼めばいいんだし、いつでも会えるのか。
「 やだ 」
「あたし まだなにも言ってないよ!? 」
読者中の雲雀くんをなんとなく見ていると、急に顔を上げて言われた。
「どうせ、会長にあわせろとか言うつもりだろ」
う…。当たりだ。
ていうか雲雀くんまだ、シュウ先輩のことをちゃんとしたもので呼んでないんだ。
「雲雀くん。『にいさん』でしょ」
「…関係ない」
「関係あるよ。だってあのとき作戦たてて鬼……」
あたしが途中で話を止めると、雲雀くんにじっと見られる。
あぶない、あぶない。
いまバラしてしまうところだった。
「な、なんでもないよ」
これは笑ってごまかすしかない。
するとごまかせたのか、雲雀くんは本に集中した。
ふ~…と心の中で溜め息を吐いて。
「じゃあさ、シュウ先輩を送る会やろうよ」
「そんな子供染みたこと誰がやるか」
あたしの良い意見に反対しやがった野郎は、ソファにどかっと座っている恭弥だ。
「全然 子供染みてないと思うけど」
いつもあたしがやられているように、じっと睨むように見る。
「子供染みてる。それって小学生がやるもんだろ」
「中学生でも普通にやったもん」
ちゃんと答えたのに「あっそ」と軽く答えられた。
「て、ことで決まり」
「勝手に決めんな。てか、陽斗、お前は良いのかよ? 」
恭弥がハルに視線を向ける。
だが、ハルはなにも反応をしめさない。
そんなハルに恭弥は複雑な顔をすると、あたしにその顔をむけてくる。
なにか、口を動かしている。
よーく見てみると。
《 お ま え が わ る い 》
は?
口パクで言ってきた恭弥。
その意味はわかるけど、なんで恭弥が知ってるの?
ハルとは、あの保健室で喋った以来ちゃんと喋った記憶がない。
少しハルがぼけーっとしてるときがあって、あたしが悪いのかなとか思ったりもしていた。
だけどあのときのことは恭弥に話してないのにな。
わかるものなのかな。
《 な に し ろ と ? 》
《 な に か い え 》
なにか言えときたか…。
仕方ない。
「 ハル 」
「 … 」
なにも反応なし。
恭弥のほうを見ると、どうやら反応するまで声かけろと言っている。
はは…と笑ってしまう。
もうこれはああするしかない。
「 ハル 」
ハルの座っているソファまで近づいて、しゃがむ。
そして顔を覗き込むように見ると、ハルは驚いたように目を見開いた。
「な…なに? 」
「シュウ先輩を送る会、どう思う? 」
「え、…良いんじゃない」
最初はなにを言っているのかわからないという表情をしたが、視線をそらしながら良い返事をくれた。
「うん。じゃあ決まりだね」
立ち上がりながらに言うと、自分のソファに戻る。
「つーか、送る会って言ってもなにすんだよ? 」
「 … 」
ソファに座ったと同時に痛いところをつかれた。
「そ、それはいまから考えるよ」
「言っとくけど、あと一ヶ月もないぞ」
「…知ってるよ」
うーん…と考えはじめる。
だけどなにもいい案がないわけだが。
「ケーキとかは? 」
「学校ではダメだ」
読書中の雲雀くんに反対される。
せっかく考えた案なのに。
それなら
「じゃあ、誰かの家で」
「それいいじゃん」
葵先輩が賛成してくれた。
だけど
「おれ、反対」
「俺も」
「 却下 」
上から、ハル、恭弥、雲雀くんに否定された。
「良いと思うのは俺だけか」
葵先輩だけが良いと思ってくれたのに、みんなの全否定に小さく呟いた。
「 5分経過 」
「じゃあ、みんなも考えてよ」
なにもいい案が思い浮かばないよ。
「言い出したのはお前だ。そのくらい自分で考えろ」
それなのに恭弥は冷たく突き放す。
なんでよ。
薄情者。
「じゃあ…お礼の手紙」
恭弥、絶対に『小学生か』って言うなあ。
「それこそ小学生か」
ほら、やっぱり。
「おれ、あまり愁先輩のこと知らない」
「 …却下 」
ハルは仕方ないか。
雲雀くんも…仕方ないか。
手紙なんて改まって恥ずかしいから書きたくないもんね。
「 10分経過 」
聞き覚えのあるものが聞こえる。
「 ………。雲雀くん、聞いてもいいかな? 」
「なに? 」
片手に本、もう片手に携帯を持っている雲雀くんは不思議そうにあたしを見る。
「なんで時間なんて気にしてるの? 」
5分経過って呟いていたときはスルーしたけど…
まさか雲雀くんが受け狙いとかじゃないよね…。
「あんたがどのくらいの時間を使っていい案がでるのか はかってる」
「なんだ~良かった」
てっきり本当に受け狙いかと思ってた。
全然、おもしろくないものだから対応にどうしようかと悩むところだった。
……て、ちょっとまって
「それって、どういう意味? 」
「そのままの意味」
これは…バカにされてるのか。
こうなったら意地でもみんなが賛成してくれるものを考えるぞ。
「30分経過。もう考えても無駄だ」
「 ………… 」
うるさいぞ。
お前らがいけないんだろ。
あたしの出した案を全拒否するから。
「大丈夫か? 」
大丈夫なわけがない。
こっちは30分間も考えつづけているんだから。
雲雀くんのことを、ぼけーっと見る。
ぼけーっと。
ぼけーっと…
「雲雀くん! いいこと思いついた」
「なに? 」
「雲雀くんがシュウ先輩のことを『にいさん』って呼んでよ」
「 ……やだ。そんなの言っても意味ない」
雲雀くんがいやなら仕方ないか……。
「いいや…。 諦めた。みんなに賛成してもらうのは無理そうだから、もう一人でやる」
これが一番だ。
みんなでシュウ先輩の卒業を祝おうとしたのが間違いだった。
「なにするの? 」
「秘密です」
葵先輩に聞かれて、笑顔で答えた。
実は、なにも決まってなんかいない。
シュウ先輩に直接、聞けばいいか欲しいものとか。
なにも思いつかないし、それがいいか。
この夜はシュウ先輩のことを考えながらに寝た。
シュウ先輩は、なにが欲しいのかな。




