7-1
保健室にいるあたし。
あともう一人、ここに休みにきているものがいる。
「恭弥のせいでこれまでの間、キスできませんでした」
ベッドに座って恭弥をまっすぐ見る。
「…なにが言いたい?
向かいのベッドで寝ている恭弥は、顔だけを向け怪訝そうに見た。
「だからキスして」
「やだ」
「なんで? 」
「お前となんてできるか」
布団をかぶりなおして本格的に寝ようとしている。
好きなやつとしかキスできないってやつか。
ハルといい恭弥といい、なんて意味のないものを貫き通そうとするのか。
「 恭弥 」
ベッドに手をつけて、恭弥の耳元で呼ぶ。
「ちょ、お前、耳元で呼ぶな」
「だって普通に呼んでも無視するだろうし」
恭弥を上から見ている態勢だ。
なんかいいかも。
まるであたしの手元にいるみたいな感覚。
「恭弥って、好きな人いるの? 」
「は? 」
「だってまえに『キスは好きなやつとするもんだろ』なんて言ってたんだから、いるんだよね? 」
差も当然かのように言う。
だってあんなこと言っといて、好きな人がいないなんて言ったら…、なんなんだよ、としか思わない。
恭弥、難しい顔してるけどまさか…ね。
「 いない 」
「な、なんですと? 」
「だから いない」
それであんなお説教みたいのをして、そしてあたしに悪影響をおよばせてそれでいないって…。
「はあー」
溜め息しかでない。
恭弥から離れて、もといたベッドに力をあずけるように座った。
「なんだよ? 」
恭弥はベッドからむくっと起き上がると、あたしに聞いてくる。
「なんでも」
不思議そうな顔をしている恭弥。
だけどあたしは答えない。
「 もしかして好きなやつがいてほしかったとか? 」
「うん」
そう答えると恭弥は、頭をかくようにして、はあ…と溜め息を吐いて
「…まえはいた」
小さく呟いた。
それは聞きとれるか とれないぐらいの声で。
「なんて言った? 」
「だから、好きなやつ、まえはいた」
「へえー」
興味心身な反応をすると、恭弥は気恥ずかしそうに下をむく。
それがわかるとやっぱり相手が気になるわけで…
「その好きな人って、誰? 」
「 ………… 」
「恭弥? 」
下を向いて黙ってしまった。
「恭弥ー? 」
恭弥のいるベッドの上にのって、顔を覗いた。
すると、恭弥の瞳がゆれた。
「なんだよ…」
「なんだよじゃないよ。恭弥の好きな人は誰?って聞いたんだけど」
また、考え込むように黙ってしまう。
だけど言わなければいけないこの空気に 決心した様子。
「朝比奈…咲夜…」
「なに? 」
フルネームで呼ばれ、少し不思議に思いながらも答えた。
だけど、あたしの返しに不満だったのか顔をしかめる。
「ちげーよ。好き‘だった’やつはお前」
顔の近くで指を差されて、より目になってしまう。
そういえば名前なんて呼ばれたのは初めてだな。
…いや、ちょっとまって
「あたしなの? なんで?だったらキス…」
「だから、好き‘だった’やつって言ってんだろ」
最後まで言わずにあたしの言おうとしたことがわかったのか、途中でとめられてしまった。
好きなやつにはキスするけど、好き‘だった’やつは例外だと…。
そんなのおかしいよ。
おかしいでしょ。
「それって、同じことじゃん」
「同じじゃない」
「 … 」
真面目な顔で、真っ直ぐ見るような瞳で、真面目に言っているという声質で…そんなこと言われたらなにも言えることがないじゃないか。
いじけるように顔を下に向ける。
そんなあたしを見た恭弥が、頭上で軽く笑った気がした。
だから顔をあげて抗議しようとした。
したけど…
「なに? キスするか? 」
ニヤッとした恭弥の顔が至近距離にあった。
なにかをたくらんでいるような表情。
だけど、あたしの答えは…
「 冗談だよ 」
「ちょっ、いま答えようと思ってたのに」
ぷっ…と、笑われて顔が離れていく。
肯定しようと思っていたのに…。
なんで、こうやって冗談 言うかな。
それと、バラすのは相手が答えたあとでしょ。 普通。
「もーいいもん」
「はっ、ちょ…」
からかわれたことに少し腹が立って、顔を勢いよく近づけた。
恭弥はよける術もなく、ただあたしにキスされる。
だけどすぐに離されて。
「お前…」
唇を拭うようにしながら、あのときと同ようにすごい恐いオーラを放たれながらに睨まれてる…。
けど、ここで恐がったとしてもただ恭弥がつけあがるだけ。
どうせまた胸ぐらを掴まれるだけだろうし、いくら恭弥だからといって女子には手をださないと思うから…大丈夫だろう。
「恭弥が わ…悪いんだよ…?だから…あたしは、キスしただけ…で、あって……」
大丈夫ではなかった。
じーっと睨まれながらに顔が近づけられて、逆にあたしは顔を離しながら恐い顔をしている恭弥に言った。
だけど離しているとこで距離はかわらない。
だって恭弥がそのぶん近づいてくるから。
「な、なに? 」
ついにあたしは恐くなって話しかける。




