5話
俺は考えることを止めない。
例え、爆走する軍馬の上であっても、走る馬の上で下を向いているから酔っているとしても。
昔の人は言った。
人間は考える葦である、と。
誰だったけ?
アウなんとかピテクスだっけ?
それとも、クロなんとかニョンだっけ?
まあ、俺の無知は置いとくとして。
なぜ俺が今必死になって考えているかというと、昨日現実逃避して後回しにしていた先天スキルについてだ。
正直先天スキルがあること自体は嬉しい。
が、しかし!もしこれがバレでもしたら確実に変なことに巻き込まれるだろう。
だが、実際バレなくするだけならば完全隠蔽のスキルを使えば余裕なのだ。
では何を悩んでいるのかというと、どのスキルを隠蔽せずにおくのかということだ!!
え!?全部隠蔽すれば良いだろって?
バカ言うなよ~兄ちゃん姉ちゃん達が全員先天スキル持ちだったのに俺だけゼロってなんか...ね?
それに、分かってる先天スキルが有るとそのスキルはコソコソしなくても良くなるだろ?
だから、どのスキルを隠蔽しないようにするかってことなんだけど。
まず、それぞれのスキルの効果を確認しよう。
神級の4個は前に確認しているから除くと。
【伝説】
・異世界の格闘術
元の世界に存在し、体得していた格闘術を十全に使いこなせる。
・異世界の暗器使い
元の世界に存在し、把握している暗器を魔力で形作り、使いこなせる。
【上級】
・剣の頂を求めし者
あらゆる武器の中で、剣を極めれる素質を持つ。
【ユニーク】
・劣化セシ緋龍ノ血ヲ継グ者
魔力を消費することで、緋龍の力を7割程度発揮できる。
...うん。
説明の感じでいくと、最後の二つしか無くね?
だって、神級はもはや論外だろ?
それに、伝説の二つも異世界ってある時点でアウトじゃん!?
いや、分かってたけどね!?説明見る前から分かってたんだけどね!?
もっとも、消去法で残った二つのうちユニークのように関してはイエローカードだからね?
一発レッドとまではいかないけど、かなりグレーだよ!?
そういえば、血ヲ継グ者ってことは血筋で取得しているスキルってことだろうか?
ちょっと後で父さんに聞いてみようかな?
と、俺がいつまでも考えに没頭していると、小高い丘を登り切った段階で父さんの方から声がかけられた。
「おいアレス見ろ!王都が見えたぞ!!」
声に反応して顔を上げ、周りを見渡した。
正面より若干右の方、今軍馬に乗って爆走している道の続く先に広大な建物群を高い城壁で囲った今まで見てきた街の何倍もの広さのものがあった。
まだ目算で10km前後は離れているというのにこれだけ大きく感じるということは、実際はもうそれはそれは大きいのだろう。
正直この世界の建築技術ナメテマシタハ...王都デカすぎだろ!?
しかも、結構な高さの城壁のはずだが、それよりも更に高い建物が三つほど見える。
他の二つよりも4割ほど高い、白を基調とした赤い屋根の屋根建物は、いかにも〖城です!!〗って主張している。あれが王城だろう。
同じくらいの大きさの残り二つのうち、片方は全体が白い材質の物で出来ており、こちらも〖神殿です!!〗という主張をしているので、あれが今回の目的地である大神殿だろう。ちなみに、この世界の神殿は前世でいう大聖堂のような見た目なので、建物も上の方はかなりツンツン頭だ。
最後の一つは、長方形に円錐をくっ付けたような鉛筆型の赤レンガの建物で、正直これだけは何なのか分からない。
「アレス、あの赤い屋根の建物が王城、真っ白の建物は大神殿、赤いレンガの建物は王立図書館だな。そして、王城と王立図書館の間に王都の3割程度の敷地を占めるこの王国唯一の国立学園があるぞ。俺と母さん、エレン、ウルスも通っていたし、今はソフィリアとシーラが通っているな。」
そうか、赤鉛筆は図書館か~。
って、え!?
学園王都の3割もあんの!?
王都が半径10kmくらいあるのにそのうちの三割って広すぎだろ!!!
前世では地図があったら迷うことは無かったが...これはさすがに120%迷うぞ!?
絶対一人で行動しないように心掛けておこう。
「なんでそんなにおおきいの?」
「んー。1学年で約6,000人の4年だから大体24,000人ぐらいの生徒がいる。つまり、2万人以上学生がいるから広い敷地がいるんだ。教職員や警備だけでも2,000人くらい居るらしいしな。」
24,000人!?
前世の人口をベースに考えれば別に変ではないが、この世界の人口で考えてみると、中規模の街と同等程度の人数である。
確か前に聞いたタイトの街の人口が大体50,000人だったから、その半分が全員同年代かよ!?
あ、ちなみにタイトの街ってのは俺が住んでる街な。
「な、なぜそんなに多いのですか?」
「それはな、家柄や貧富に関係なく、試験に合格すれば入学しすることができるからだ。もちろんお金がかかったりするが、その金額は家柄や貧富に比例して家柄が良くて裕福な者ほど多くのお金を払うことになってる。まあ、何故かは知らんがそうすることで優秀な奴が多くなるんだと。後の詳しいことはイルやセレスに聞け。俺は理解できんかった!!ははははは!」
「そ、そうなんですか。」
脳筋の父さんではここら辺が限界なのか。
まあ、なんとなく理解できたから良いか。
貧富に関係なく試験内容の結果で合否を判定することで、貧しくても才能がある者を埋もれさせないようにするためだろう。
優秀な原石である者を磨くことは将来的に自国のためになる可能性が高いからな。
そんなことを話している間に王都の目の前まで到達していた。
左側には王都に入るための長蛇の列があり、こちらに気付いた人は全員頭を下げる。
一般の人は門の左三割程の範囲で検査を受けてから街などに出入りすることになる、貴族は右三割程の範囲で本人確認を行うことですぐさま入ることができるのだ。
また、門の中央は緊急事態の早馬などに備えて常に開けておかなければならないらしい。
「ディタイト家当主、オルガ・ディタイト侯爵一行の者です。今回は三男のアレス・ディタイト様の洗礼の儀を行うために来ました。」
門の前に常駐している警護の兵士三人のうち、一番手前に居た人にサッと近寄ったイルさんが告げる。
するとイルさんが兵士が1人、門の内側の城壁に沿って作られた建物の中に入っていった。
「はっ!申し訳ありませんございませんが、貴族章を確認させて頂けますでしょうか?」
警備の兵士が言った貴族章とは、貴族の身分を証明する家紋が刻まれた銀色のメダルで、特殊な術式がかかっているため、登録された持ち主から10m以上離れた状態が5分超経つと自壊するようになっている。
作るためにはかなり面倒な手続きをした上で王都にまで来なければいけないらしい。
父さんから貴族章を受け取ったイルさんは再び兵士のもとに向かい、貴族章を確認させる。
兵士は首から下げている金色の板を手に取り、ディタイト家の貴族章を板に開いたくぼみにはめ込む。
数秒ほどそのままにしてから貴族章を取り外し、イルさんに手渡す。
「確認が取れました!」
確認が終わり、イルさんが貴族章を父さんに返却すると同時に先ほど建物の中に駆けていった兵士が上官と思われるゴツイ兵士と一緒に戻ってくる。
「お久しぶりですなーオルガ様!!軍を辞められてからは初めてですかな?」
「お!?ゴドルじゃないか!お前今は警備兵をしているのか?」
どうやら父さんの知り合いの様だ。
ゴドルと呼ばれた兵士は、茶髪のツンツン頭の強面マッチョだ。腰には1mほどのロングソードを差し、背中にはツーハンデッドソードと呼称される2m弱の幅広の大剣を背負っている。
穏和そうな笑みを浮かべているが、気の弱いものだと卒倒し押すな外見と迫力である。
「実は4年ほど前の春に妻が3人目を出産しまして、その際もう戦場に行かないで欲しいと懇願されてですな。それで一昨年に東西南北の門の警備隊長として移動してきたわけです。」
「ははは!相変わらず尻に敷かれているな。しかし四年前ってことは今三歳ぐらいか、じゃあ将来はアレスと同級生になるな。」
「ということは、そちらの坊ちゃんがそのアレス様ですかい?」
この強面の子供か~と想像していると急に俺の方をゴドルが向いた。
...やめてやーそんな顔だと睨んでいるようにしか見えないよ~?
「そうだ。今日はアレスの洗礼などを行うために来たのだ。アレス、こいつはゴドルと言ってな。俺が騎士団に居たころの部下だ。顔は怖いが悪い奴じゃないからな、何かあったらこいつを頼ればいい。」
「わかりました!あれすといいます。なにかあったらよろしくおねがいしますね?」
「合点承知ですぜ!!いやー随分しっかりしてますね。さすが『風姫』の息子さんだ。」
「おい!そこは俺じゃないのか?」
「オルガ様は俺と一緒で頭はそんな良くないでしょうが!」
「これは痛いところを突かれたな!」
「「あっはっはっはっは!!」」
二人で一頻り笑いあった後、俺と父さん、それにロイさんとイルさんの四人で王都にある別邸にやってきた。
この別邸は父さんが王都に居たころに住んでいたもので、今は一番上のエレン兄さんが住んでいる。
別邸につくと門番に招き入れられて門をくぐった。
別邸は王城の近くに広がっている貴族区の中でも王城に近いところにあり、敷地も建物の大きさも他の貴族より断然上だったりする。
乗ってきた馬を寄ってきた馬の世話係に預け、俺たちは玄関を開けた。
来る日にちを伝えてなかったこともあり、掃除をしていたのであろう執事やメイドの面々が驚愕の表情を浮かべていた。
俺はイルさんに促されるままに宛がわれた部屋に行き、荷物の整理と入浴や着替えを済ませてからイルさんの入れた紅茶を飲んでいた。
ちなみに父さんとロイさんは国王様に王都に来た旨と俺の洗礼の件を伝えに王城に向かったらしい。
夕方、そろそろ夕食の時間ということでイルさんに案内され俺は食堂にやってきた。
食事が運ばれてくるのを待つ間果実水を飲んでいると扉が勢いよく開け放たれた。
「年始依頼だなアレス!お前が来ていると父上から聞いたので帰り際にちょっと行ってホーンブルを一頭狩ってきたぞ!!」
入ってきたのは若干汗をかいた様子のエレン兄さんだ。
エレン兄さんは父さんの血を色濃く継いでおり、若干というか結構な割合で脳が筋肉で出来ている。
「ホーンブルをですか?」
「そうだぞ!結構な大物がだったから明日の晩餐を楽しみにしておけよ!あっはっは!!」
エレン兄さんは何でもないように言っていたが、ホーンブルというのは普段は草を食べている平和でのんびりした牛の魔物なのだが、襲われたりした仲間の悲鳴を聞くと狂暴化し、1mほどもある角でその対象を刺し殺すまで暴れまわるという性質を持っている。
そのため、ホーンブルを狩るには声が出せないように喉を潰すか一撃で倒すことが必要になる。
しかし、ホーンブルは殺気などの敵意に敏感で、殺気を感じるとすぐに逃げ出す。なので、一頭だけ仕留めるためにはランクB以上の一流冒険者程度の実力が必要なため、高級肉として市場には出回っている。
ちなみに冒険者ランクBというのは、オーガを単独撃破可能な化け物1歩手前の存在らしい。
「それじゃあ俺も着替えて飯にするか!あっはっは!!」
エルク兄さんの笑い声が響く中俺は父さんの血が濃くなくて良かったと心の底から思った。