4話
テレテレテ~レ~テ~レ~
父との逃亡を開始してから四日後のお昼過ぎ、心の中で悲しいリズムが自然と刻まれる。
そんな中、内心の悲しいリズムとは違い、俺は父さん愛用の軍馬で、父さんの前に固定された状態で王都に向かって延びる道を爆走している。
二人とも掴まったのか。
そもそも、なぜ馬車ではなく馬に騎乗して王都に向かっているのか。
それは脱走開始から三日目、昨日のお昼前の時のことである。
俺はいつも通り使用人たちの監視網を潜り抜けながら厨房を目指していた。
脱走開始してからというもの、結構本気で逃げ回っているおかげか隠密行動にかなり磨きがかかったような気がする。
今ならヴォル夫婦には30mまでなら気付かれずに近づけるかもしれない。
まあ、気付かれないようにというだけなら、完全隠蔽と気配掌握のコンボを使えば例え目の前でムーンウォークしても気付かれないんだが、それだと面白くないので普段は神速と完全隠蔽は使わないようにしている。
おっと、話がずれたな。
俺は厨房まで慣れた動きでたどり着き、扉周囲に人の気配が無いことを確認してから厨房に入った。
すると、厨房に足を踏み入れた瞬間に突風が吹き、一瞬で俺の小さな体は空中に舞い上がった。
数秒の浮遊感の後に俺の体は固い床ではなく柔らかな感触に受け止められる。
そして、俺の顔を覗き込みながら放たれた最終宣告。
「アレスちゃ~ん?ちょっとおいたがすぎますよ~?」
俺は忘れない。
母の笑顔の背後に見えた般若の如き幻影を...
そしてそれが初めて母に怒られた時であり、母の魔法を初めて見た瞬間でもあった。
それから父が捕まるまで十分とかからなかった。
母がメイド長のアリアさん一緒に屋敷から出ていく。
数十秒後に外で強風が吹き荒れ
2分後に雷が鳴り響き
5分後にはシーンと静まり
8分後にはボロボロになって気絶している父さんを抱えたロイさんとにこやかな笑みを浮かべた母さんたちが帰ってきた。
よし、母さんだけは絶対に怒らせないようにしよう。
その後は家族会議という名の説教が続き、2時間程度経った頃に改めて王都に行く話し合いが始まった。
しかし、父さんはあれだけ母さんに絞られたというのに尚も時間かかるし暇だから行きたくないと言い出した。
流石に母さんやヴォル夫婦も呆れて父さんを可哀想な子を見る目で見つめだしたので、その視線に耐えられなくなった父さんは名案だとでも言うかのように俺を指さし言い放った。
「そうだ!アレスも使用人たちの目を掻い潜れる程度にまで育っているのだし、馬に騎乗して行っても問題無いのではないのか!??」
いきなり何を言いだすのだろうかこの親父は、そもそも俺は馬の乗り方も知らないし何より絶対全力疾走で王都まで駆け抜ける気だろうこの脳筋野郎は!
という風に父さんにジト目を向けていると
「確かにそうでございますね。私共の子供たちの監視網を掻い潜るとなれば問題はないでしょう。」
なぜかアリアさんからの援護があったのだ!!
いやいや、冷静になろうぜアリアさん。
あまり変なこと言ってるとそのふさふさの尻尾をモッフモフしちゃうぞー!!
と虎視眈々とアリアさんの狼尻尾を狙い、じりじりと距離を詰める俺。
「私もアリアに賛成です。アレス様は普通よりかなり優れていると思いますのでむしろそのようにしたほうがよろしいかと。」
ロイさんまで!?
俺の周りに見方は存在しないのか!
「二人がそういうならそうなのかしら~?」
母さん頑張って!
母さんだけが最後の砦なんだよ!!
「ん~、心配だわ~?。でも、過保護になりすぎるとアレスちゃんのためにならないものね~。よしアレスちゃん頑張ってくるのよ~?」
その瞬間俺は悟った。
この場は四面楚歌なのだと...
その後、呆然としていた俺は大した抵抗もせず、なすが儘に王都に向けて出発したのだ。
今回王都に行くのは俺と父さん、それに護衛としてロイさんとヴォル夫婦の長男であるイルさんの合計四人だ。
本来はもう少し人数が多くなるのだが、父さんの馬車は嫌だというわがままとそもそも俺以外の三人がかなりの実力者なので護衛の必要性がほとんどないという事情もあり、少数精鋭で駆け抜けようということになり、四人のみとなっている。
馬車で行く際には村に泊まったりするのだが、今回は移動速度が馬車とは比べ物にならないため、基本大きな街を経由しながら王都に向かっていた。
その際、父さんは侯爵ということもあり、その領地の貴族が収める町の領主の館に泊まることになるので、貴族同士の付き合いに忙しい父さんに代わって、夜はロイさんの息子で執事でもあるイルさんと結構話して、その時に今まで放置s...ゲフン、調べれていなかったスキル自体について色んな事を教わった。
まず、スキルは体得している技術や備わっている能力のことであり、大まかに戦闘・職人・補助・種族・その他の五つに分類されるらしい。
また、スキルにはランクがあり、その認識は以下のようになっているという。
初級・半人前
中級・一人前
上級・達人
伝説・英雄
伝説が一番上かというと、これまで確認されている最高スキルが伝説級らしい。
ということは、本当に今まで存在していなかったのか、それとも持っているが隠していたかのどちらかだろう。おそらく後者だと俺は思うけど。
また、スキルは修行や訓練、経験などによって後天的に取得するが、三人に一人くらいは産まれた時から先天的に1、2個のスキルを取得していることがあるそうだ。
それもあって、後天的にスキルを取得する寸前である三歳から五歳までの間に一度は神殿で先天的スキルの有無を確認するらしい。
先天的スキルは最低でも中級であり、1個で優秀、2個で天才、三個あれば大天才らしい。
つまり、神級スキルを4個も取得している俺は超異常な存在というわけだ...ゼッタイバレチャダメナヤツヤン。
神殿に行く理由はそれだけではないらしく、神殿に所属している司祭以上の人物が行使できる信仰魔法の洗礼というものを受けることで、以後は自分で自由にスキルを確認できるようにするためにいくという目的もあるらしい。
俺がすでに確認できるようになっているのは月詠さんのおかげだ。ありがたや~ありがたや~!!
しかし、そのイルさんとの会話の中で俺の不安を煽るような部分があった。
神殿で受けることになる洗礼についてイルさんから教えてもらっている時のことだ。
「アレス様。神殿では先天的に所有しているスキルの確認だけでなく、洗礼という司祭以上が使える信仰魔法の一つを受けることで、それ以降個人で自由にスキルを確認できるようにする、という目的もあるのですよ。」
「こじんでって?」
「洗礼を受けると、スキルを確認したいと思ったり声に出すことで自分の所有するスキルが頭の中に思い浮かぶようになるのですよ。これが中々に便利でして、大まかな分類ごとだったり、ランクごとで確認できたりするのですよ。戦闘スキルだけや上級スキルだけといった具合に結構融通も利くので、この洗礼を受けることは常識ですね。」
「そうなんだ~...」
ん?ちょっと前に一度だけスキルを確認して発狂した時のことを思い返してみる。
...うん。俺はあの時神様に『貰った』スキルは、という感じでスキルを確認しようと思った。
そして頭の中に思い浮かんだのがあの4個の神級スキルだった。
ということはだ、もしかするとあれは神様に貰ったスキルのみを確認できたのであって、他に確認できていない先天的なスキルが存在するのでは?
また、この会話の前には他の兄や姉の先天的スキルのことも聞いており。
長男のエレンが伝説(その他)・上級(戦闘)・中級(補助)の3個。
次男のウルスが上級(戦闘)・上級(補助)の2個。
長女のソフィリアが上級(職人)・上級(職人)・中級(戦闘)の3個。
次女のシーラが上級(その他)・中級(職人)の2個。
三女のサシャが上級(戦闘)・上級(補助)・上級(その他)の3個。
ということだった。
...何この天才兄弟姉妹!!
先天的なスキル持ちがそんなに珍しくないとはいえ、半数以上が1個ということを考えると2個とか3個とかっていうのはもう天才だよ!!
なのに全員2個以上のスキルって何なの!
貴族だからか!?貴族だからなのか!?
しかも、エレンに至っては何伝説って!?もう怖いよ!?
という風に聞いた瞬間は脳内会議で暴動的なのがあったが、まあそれは置いておこう。
俺は、割り当てられた部屋で意味もなく、神様に貰ったスキル以外に先天スキルがない、という万が一の可能性に祈りを捧げながら、全スキルの確認と願った。
アレス・ディタイト。
【神級】
・神速(限定)
・完全隠蔽
・隠密マスター
・気配掌握
【伝説】
・異世界の御業
・異世界の暗器使い
【上級】
・刀の頂を求めし者
【ユニーク】
・劣化セシ緋龍ノ血ヲ継グ者
......ワーイッパーイ。
俺はスッと閉じていた眼を開け、ベッドに潜り込み、再度眼を閉じた。
さーて明日はいよいよ王都に着くから早く寝ないとね~。
フッ。お察しの通り現実逃避さ。