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3話



 新年のお祭り騒ぎも終わり、春になってから10日。

 産まれてから三年が経過し、俺も三歳になっていた。

 俺は今盛大に混乱している。というか逃げ回っている。


 なぜこんなことになったんだ。どうして。

 いや、俺の情報収集が甘かったというのか。

 くっ、齢三歳にして自らの欠点を自覚することになろうとは。世の中の三歳児といえば、あーだこーだと明らかに意味のないことを繰り返しつつ、親に叱られ兄弟姉妹と喧嘩して泣き喚く。そんな生活をしているというのに。

 それに比べて今の俺のなんと過酷かつ困難な生活をしているというのだろう。




 事の発端は一昨日の晩御飯の時にまで遡る。

 その時の俺はいつも通りに専属メイドであるリスの獣人のリリーに食事の配膳などを危なっかしく行ってもらいながら普通に食事をしていた。

 え?普通は危なげなくじゃないのかって?あのな、リリーだぞ?そんなわけないじゃないか。

 それにあいつもかなり成長しているんだぞ!

 最近は1食につき1回しか料理をこぼさないようになったんだぞ!!

 ん?基準がおかしいって?そんなわけないじゃないかーはっはっは!!


 さて、そんなことは置いといて。

 いつも通りに食事をして、最後に出てくるデザートのフルーツを食べていた時だ。

 ちなみに食べていたのは俺が一番好きなピップルというリンゴの食感と見た目をした桃の味がする果物だ。

 そのピップルを満面の笑顔でほおばっていると、唐突に父さんが告げてきた。


「アレス。お前も三歳になったことだし王都に行こうと思う。」


 お?もしかして三歳になった記念に旅行として王都観光でもするのかな?


「りょこうですか?」


 多少舌っ足らずなのは勘弁してもらいたい。

 なにせ三歳なのだ。


「完全に違うというわけではないが、主な目的はスキルの確認だ。」


 ん?スキルの確認?

 なんでわざわざ王都に?別にこの町にも神殿はあるのに。


「王都自体は別に良いんだが、いかんせん道中が面倒だ。何が楽しくて馬車に1月も籠らなければいけないんだ。」


 そうなのだ。

 ディタイト家の領地は獣人国との国境沿いに二つある領地のうち王都から遠い田舎、キングオブ田舎なのだ。なので、王都まで行こうとすれば馬車で30日前後かかるのだ。


「そんなこと言っても~、ディタイト家は侯爵ですよ~?」


 へ?...え!?

 俺って侯爵家の三男坊だったの?

 かなり田舎に領地があるもんだからてっきり男爵とか子爵あたりだと思ってたよ!!


「ということはこくおうさまやえらいひとたちのまえでですか?」

「その通りだ。よく知っているな!流石セレスの血も引いてるだけあって賢いな!!」

「ええそうですね~うふふ~」


 マジかー!!??

 完全に油断してたよ!!

 町の神殿だと頭に流れ込んでくる情報を自己申告するだけだから楽だと思ってたけど大神殿だと結果が空中に投影されるっていうじゃないか!?

 くそー!どうしよう。行きたくないなー。

 ってあれ?さらっと父さんは脳筋ということが判明した気がするぞ?

 まあいいや。見た目から脳筋っぽかったしな。


「ぜったいにいかなきゃだめですか?」


 秘技!

 上目遣いで小首を傾げるのポーズ!!


「ええそうよ~義務ですからね~」


 ぐは!?

 まさか母さんからとどめを刺されるとは!


「お!?やっぱりアレスも行きたくないか。じゃあ俺も行かん!」


 あれ?これって父さんとの同盟成立?

 俺はおもむろに父さんの近くに行き手を差し出す。


「ぼくもいきたくないです!」


 すると父さんは俺の手を握ってきた。


「おう、俺も行きたくない!というわけで逃げるぞ!!」

「はい!」


 と言った瞬間父さんは俺の体を持ち上げ、肩車をしてそのまま食堂を飛び出していった。

 あまりの早業に他の家族全員含めほとんどの使用人がポカンとしたまま俺たちを見送った。


 あの、父さん。

 不意を突いて逃げるのは良いんだけど、自分の身長考えてくれないかな?

 俺何回か頭ぶつけそうになってるんだけど...





 というわけで今も絶賛逃走している最中なわけだが、父さんは食堂を出てすぐ俺を廊下の曲がり角に降ろし。


「屋敷の中からは出るなよ」


 とだけ告げて外に出ていった。

 その1分後に真っ黒な執事さんが怖い形相で追いかけて行ったけどね。


 俺は真っ先に自分の部屋に戻り、ロープと針金、毛布などを準備してから隠密マスターと気配掌握を半径30mで展開しながら逃げ回っている。


 その間の食料は料理長と仲がいいのでコッソリと食べさせてもらっている。

 今もちょうどお昼ご飯のために厨房を目指しているところだ。


 さすがに向こうも本気になったのか、執事やメイドがロープなり袋なりを片手に徘徊している姿を目撃するようになった。

 ちなみに父さんと執事長のロイさんはまだ帰ってこない。



 そんな物騒な使用人の監視網を潜り抜け、母さんなどは食堂で食事をしているであろう時間帯にようやく厨房に到達した。

 ドアを開けた先には配膳などの補助をしている料理人を除いた数名の人物しかいなかった。

 俺はその中の目当ての人物に近づいていく。


「おっ、アー坊。スゲーな、まだ逃げれてんだな。ちょっと待ってな飯準備するからよ!」


 この伯爵家の貴族相手でも気兼ねなく話しかけてくる人物が俺の目的の人物である料理長のボロさんだ。

 ボロさんは元々王都の有名店で働いていたんだが、中の良い父さんに誘われて家に来たらしい。

 父さんの貴族らしくないフランクな性格がボロさんと合ったらしいね。


「ありがとねボロさん!」

「ははは!ガキが気にすんじゃねーよ!」


 そう言いながら、サンドイッチを出してくれた。

 タレが染みた肉とレタスに似た野菜が挟まった俺の好きなサンドイッチだ。

 おそらくボロさんはツンデレというやつだな。


 さて、今日も逃げるかな。



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