2話 幼少期
さて、気を取り直して俺自身のことを話していくとしよう。
では改めて、俺はアレス・ディタイト、0歳だ!
俺はまだ季節を一巡していないため0歳児だ。
ちなみにこの世界は魔術によって時間の把握がされ、村などではない限り正確な時間が把握できる。
時間に関する技術が発達しているため、ある程度以上裕福であれば家に時計があり、大商人や貴族ともなれば携帯可能な小型の時計を持っているのが当たり前になっている。
そのため、時計だけでなく暦もあり、1年は12月、1月は30日、1日は24時間、1時間は60分、1分は60秒という風に区切られており、誕生日を祝う習慣もある。しかし、平民は基本的に冬が終わり新年度を迎え春になると年を年を重ねるという風にしており、新年のお祝いと誕生日を一緒に祝っているのだという。
裕福な家や貴族は正確に産まれた日に祝うらしいがな。
俺の容姿はおそらく母親似だろう。
おそらくと付くのは、髪の色は基本的に銀髪なのだが前髪の一部が赤髪になっており、完璧に母親にというわけではないようだ。
しかし、俺は断固として父親似であると認めない。前世が大柄だったので今回は細マッチョ程度になりたいのだ。そのため、これ以上赤い髪の部分が増えないようにと毎朝お願いしているのだ。誰にお願いしているのかは俺もよく分からん。
さて、お待ちかねというかすでに忘れかけているかもしれないが、月詠さんから貰ったスキルについてだ。(お前じゃないからな天照!)
俺は意識が覚醒してから数日後にステータスを確認したんだ。決して忘れてたわけじゃないぞ!現状をしっかり把握していただけだからな!間違えるなよ!
で、ステータスに関してだが。
これはある程度表示形式をいじれるらしく、俺は分かりやすいようにアレンジしている。
しかもステータスで表示されるのは保有しているスキルのみであり、ゲームなどである身体機能が数値化されたりはしないらしい。まあ現実だしな。
ちなみにステータスを自由に確認できるのは俺だけらしく、通常は神殿にあるオーブと呼ばれる水晶に魔力を流すことで情報が頭に流れ込んで把握できるらしい。
貴族は3~5歳の間に必ず確認しに行くらしい。しかも伯爵家以上になるとわざわざ王都まで行って王都にある大神殿で、王様とか宰相とかその他の大臣、王都に居る他の貴族がいる中で確認するらしいよ。かわいそうだねー、まあ俺は田舎貴族だから関係ないと思うけどねー。
そして、俺のスキルはというと。
【神級スキル】
・神速(限定)
・完全隠蔽
・隠密マスター
・気配掌握
というものだった。
は!?神級って明らかにヤバくね!!
と十数分、傍から見ればぐずっている状態、本人からしたら発狂状態だったわけだが。
冷静に考えたらどう見ても神様にお願いした結果得たであろうスキルなんだからそりゃあ神級だろうし、隠蔽とか隠密があるから何とかなるような気がする。
ただ、現状だとはっきり言って詳細が分からないものばかりだったので、詳しく分からないかなーと思ってたら説明とかで出来たんだよねー。
その説明を要約すると。
・神速(限定)
1日3回まで、息を止めている間1000倍に希釈された時間の中を行動することができる。
・完全隠蔽
自分に直接関係する事柄を完全に隠蔽することができる。また、多少変化を加えることもできる。(姿、声、スキル、性別、種族などなど)
・隠密マスター
まさに隠密の達人、やったね!忍者の鏡だよ!。
・気配掌握
森羅万象ありとあらゆる気配を察知することが出来、また自分の気配を操作することができる。
ということだった。
多分神様の中にある速い忍者のイメージに近づけるためには最低限この四つのスキルは必要だったのだろう。
まあそれは置いといてだ。
隠密マスターの説明完璧あのポンコツ野郎だろ!!
他の三つはまともな説明文なのに明らかに一つだけおかしいもんな!
大体なんだよ隠密の達人って、しかも後半に至ってはお前の感想だろうが!!?
ふう、ふう、おっと失礼。
また我を忘れてしまった。
しかし説明文を見る限り三つのスキルはかなり反則レベルのチートだということがうかがえる。
しかも、検証した結果。
神速は、音が聞き取れないというデメリットはあるが他のすべてがほぼ止まっているように感じるし。
完全隠蔽は、自分の体や衣服、直接触れているモノまでは隠蔽可能ということが分かった。また、変化可能な範囲だが、髪の色や肌の色、性別に体格まで変化できたし、なんと他の人物を模倣、いわゆるコピーすることもできたのだ!ハッキリ言おうこれって多少どころじゃないだろ!
気配掌握は、初めて使った時は1秒も使用していないというのに頭が割れるかと謂わんばかりの衝撃とともに気絶して三日間寝込んでしまった。
その時はおそらく最大範囲で使用したらしく、半径100kmの情報が一気に頭に流れ込んできた。
まあ、おかげで周辺の地理はバッチリだがな。
赤ん坊の適応力は凄まじく、10km程度であれば何ら問題なく展開することができるようになった。
まあ、今では使っても最大で直径50mにしているけど。
ちなみに今一番多用しているのは屈辱にもポンコツが授けたと思われる隠密マスターだ。
なんとこのスキル、音を立てずに行動できたり、人の視線や動きなどをもとに相手の意識の外にある場所が感覚的に分かったりするとんでもなく性能が良いスキルだったのだ。
このスキルを多用している理由は毎朝の日課になっている専属メイドとの鬼ごっこにおいて程よいスリルを持てるというだけなのだがな。
俺は反射的に身を屈め、玄関のある広間から二階に上がるための階段を登り切ったところの廊下から玄関の方を覗く。あ、ちなみに俺の部屋は二階にあるの屋敷を正面から見て左の方にあるのだ。
視線の先には四人の人物がいる。
二人は俺の両親で、もう二人はこの家の使用人たちのトップ2人、執事長とメイド長のヴォル夫婦だ。
隠密マスターのスキルを使用しているから分かるが、母以外の三人は本当に人間なのか疑わしくなってくるのだ。
人間に限らず生物であれば必ず意識の外である範囲というのは存在するのだが、この三人、特に執事長とメイド長の二人にはそれが見当たらない。おそらく完全に視覚外に居たとしても気付かれるだろう。
父は母と同じく意識の外となる場所があるのだが、何故か気付かれずに済むという確証が持てない。おそらく直感的に見破られるだろう。
しかし、どうして四人ともこんなところに集まっているのだろうか?
いつもなら両親は寝起きであるはずだ。
「それでは行ってくるが、俺が王都にいる間のことは任せたぞ。」
この渋い声が父親である。
「はい~気を付けてくださいね~?」
母さんは相変わらずポヤンとした話し方だな。
「お任せください奥様。この私が居りますので。」
ピシッと直角の礼をしながら答えたのは執事長だ。
本名は長ったらしいので、一部をとってロイって呼ばれている。
黒い耳と尻尾が執事服と合わさって抜群に決まっている。
「旦那様が留守の間は私がしっかりと奥様をサポートいたしますのでご安心ください。」
優雅にフワリと一礼しながら答えたのはロイさんの奥さんでもあるメイド長のアリアさんだ。
こちらもパッと見はロイさんと同じく黒い耳と尻尾かと思いきや、近くで確認してみると光沢のある藍色なのだ。
その後も数度言葉を交わしてから父さんは玄関を出ていく。
ロイさんも再度一礼して父さんのあとに付いていくかと思いきや、頭を上げ終わった後にこちらに視線を送ってきた。
やば!気付かれてたのか!目が完璧にあったもんな。
よし!逃げようと思い方向転換して来た道を戻ろうとすると急に視線が高くなる。
「また逃げ出されたのですねアレス様。全く、リリ―は何をしているのでしょうか。」
近くでアリアさんの声がする、どうやらガッチリと確保されたらしい。
こっちはスキルまで使ってたのに全然気づかなかったんですけどー。
「あらあら~。アレスちゃんは朝から元気いっぱいね~。えらいえらい~」
よしよしと口で言いながらアリアさんから俺を受け取り頭を撫でてくる母さん。
いや、流石に精神年齢が高校生程度の男にちゃん付けは止めてほしいんだが。
俺が抗議の視線を向けていると
「どうしたの~?ん~あ!もしかしてお腹空いた~?ちょっと待っててね~」
と言いながらおもむろに片手で服をまくりだす母さん。
いや、あの、ちょ!......
その後のことは黙秘権を行使する。
仕方ないとはいえ未だに全く慣れない。
そもそも色々おかしいのだ、両親の年齢はそれほど離れていないと聞いているのだが、倒産はすでに30代半ばの外見なのに対し、母さんはどう考えても20歳にしか見えない。
どうなっているのだろうか?
そんな分かりそうにない疑問に頭を悩ませていると廊下の奥の方からトタトタと軽い足音が聞こえてくる。
おっと、この足音は。
「あー!見つけましたよアレス様!」
そう言い放つ頭に葉っぱを付け尻尾に枝の刺し、メイド服のエプロン部分に土を付けたいかにも外に居ましたよという姿で現れたリスの獣人。
そう、この頭のねじが抜けきっているとしか思えない人物が俺の専属メイドのリリーだ。
大体俺の部屋から外に出るためには玄関を通るか窓から降りるしかないのだが、この駄メイドは0歳児が窓から降りたとでも思ったのだろうか?
全く、あのポンコツ天照といい勝負だぞ。
あそこまで酷くはないがな。
俺はアリアさんから怒られているリリーを見ながらそんなことを考えていた。