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第八話 対岸の火事

 お披露目という名の晒し者の旅を終え、王都に戻った俺を待っていたのは群蟲種の侵攻に対する軍事会議でした。

 11歳児を軍事会議に出席させるなよと思いながらも、二万の大軍勢を打ち破った功績を考えれば当然のことでした。

 年齢に関わらず、使えるものは使う。

 年齢に関わらず、使えない奴は切る。

 じつに無情で冷酷な世界で御座います。

 僕は今、繰り返された友好的射撃のため傷心中だというのに。



 一匹見つけたなら三十匹は居ると思えがスローガンの黒い悪魔Gのごとく、こちらの世界にも似たような言葉がありました。

 一匹見つけたなら百万匹は居ると思えが群蟲種のスローガンで御座いました。

 どうやって人間種や幻想種の世界の中央部までバレずに行軍してきたのか不思議でしたが、この世界の人口密度の低さと言う一点を考えれば不思議でも何でもありませんでした。

 そしてアルプスの山々は人を拒むが蟲は拒まない。

 もともと、現地の生き物を捕食して兵站を必要としない黒い絨毯たちです。

 さらには、全体を通して一個の意思を持つ知的生命体であることは彼等のスニーキングミッションを容易くクリアさせたのでしょう。

 アルプス山脈の北からライン川の南の領域を先生のマップで覗いて見れば、二百万を超える黒カマキリさんが戦争こと捕食の時を待ち望んでおりました。長雨で増水傾向にあるライン川は犠牲なしに渡れないようなので、当面はライン川の向こうになるグローセ王国に攻め入る気は無い模様。

 ただ、ライン川の南方、旧スイス圏を治める西ハープスブルク王家の国土は美味しくペロリンチョされるご予定のようで、その鎌を研いでおりました。

 ちなみに既に幾十を数える都市や街、それに村々が陥落しているようです。

 リヒテンシュタインやチューリッヒと言った懐かしの都市や地方が滅ぼされたと知ることには一抹の寂寥感がありました。

 音も無く静かに包囲し、一人たりとも逃さない、狩猟者の高度な連携活動のために、滅ぼされたこと自身が世の中には未だ知られて無かった模様。

 なむあみなむあみ。

 ちなみにgoo先生が数えた結果、二百六十六万以下略の大戦力だそうです。

 黒カマキリの二万ぽっちを滅ぼして良い気になっていた自分が恥ずかしいですなぁ。



 そんな絶望的な数の黒カマキリに対する我が父王君の回答は一つ。

「しばらくは対岸の火事として見守るとしよう」

 なんとも無慈悲で合理的な回答でした。

 西ハープスブルク王家とは不可侵条約が結ばれているとは言え、助けに入る義理は一切ありません。

 じつに王族らしい判断で御座います。

 他国民のために自国民に死ねと言う為政者が居たならば、斬首どころか荒縄で吊るすべきでしょう。

 ちなみに斬首が栄誉ある貴族用、荒縄が平民用のお友達です。

 害虫の処理は幻想世界の人間種の王国である西ハープスブルク王家に頑張ってもらい、それでも足りず、飛び火してくるようなら属国となることを条件に助け舟を出す。これが父王君の決断でした。

 冷酷非情かつ素敵な判断で御座いますね。


 レオンハルト兄さまの必殺剣技・太陽戦刃剣は旧世界最大の核融合爆弾ツァーリボンバに指向性を持たせた如きチートな破壊力を持ちます。

 ジークフリート兄さまの必滅射術・影牙月天射は影で作られた一本の矢が十万の矢となり空を黒く染めた後に十万の命を等しく貫き滅するエコロジーな技です。

 実際、この兄様のどちらか一人でも居れば黒カマキリさんたちを駆逐できる試算なのです。

 なので、安心して対岸の火事として見ていられ、他人の不幸でお茶が美味しいです。

 ちなみに、この必殺技の命名はジーク兄さまによって行われました。

 うん、やっぱりジーク兄はその気がある模様。

 これが英雄譚ならば自らやその部下が傷つくことを厭わない自己犠牲の精神のもとに隣国の敵性種族を討伐。

 隣国からの大感謝を受け英雄として語り継がれるところですが、為政というものは実に冷酷なものでした。

 だからこそ、ライン川を越えてエルフや南バーゼルの人々を助けた俺の行動は美談、英雄譚として謡われるのですが、謡われるほどになぜか顔面偏差値によるアップダウン効果の幅が大きくなり、僕の心を荒ませるのです。

 農村ですら失望されるなんて……。

 もう滅べばいいんじゃない? この世界。


 それに西ハープスブルク王家に勝算が無い訳でも御座いません。

 西ハープスブルク王国はフランク帝国に忠誠を誓う属国の一つですので、宗主国であるフランク帝国に泣きつけば十分に生存は可能でしょう。それだけの軍事力をフランク帝国は持っていますから。

 そして敵の正体も把握出来ているのですから、あとはそれに応じた装備と戦術で望むだけのことです。

 旧世界のスイスは永世中立国として自主独立の道を歩みましたが、幻想世界ではハープスブルク王朝からの独立を勝ち取れなかったようですね。

 似ていながら色々と違う世界の歴史は中々に興味深いものがありました。

 あぁ、他人の不幸でお茶が美味しい。


「父上! すでにリヒテンシュタインやチューリッヒの城塞都市、囲いも持たぬ街々、そして多くの農村などが蟲の群れに蹂躙されていると言うのに黙っていると言うのですか!! 何故、我が王国は動かぬのですか!!」

 あぁ、生き様が英雄のレオンハルト兄様が義憤を漲らせております。

 他国、他世界のものとはいえ人間が見殺しにされることに憤りを感じてらっしゃるご様子。

 このままレオンハルト兄様が王座に着いたなら正義のために自国民を殺すライオンハートな戦争国家になりそうで怖いです。

「レオンハルトよ、要請もなく他国の領土へ軍を進めたならばそれは侵略行為と呼ばれても致し方の無い行動であるぞ? さらに、我がグローセ王国と西ハープスブルク王国の間には不可侵条約が結ばれているのだ。レオン、条約破りを行えと進言をするつもりか? 余を失望させるでない」

 さすが父王君、さらりとかわしました。

 属国のことは宗主国に任せるに限ります。

 黒カマキリさんの発見から二ヶ月、援軍のための軍団を編成し、送りだすにも十分な時間があったことでしょう。

 わざわざ我々が痛い目を見る必要は無いのです。

「だが、しかし……」

 ギリギリと歯を食いしばるその姿もカッコイイのはイケメンだからですね。

 あぁ、イケメン補正。イケメン補正。なんとも憎いイケメン補正。

 レオ兄様が悪いわけではありませんが、今だけはそのそイケメンが憎いです。


「父王君、ルイーゼ姉さま達を中心とした<加護>によるライン川沿いの防御壁の敷設は済んだのでしょうか?」

 祝勝会に浮かれていたとはいえ、戦後処理の二ヶ月を棒に振っていたわけではありません。

 ちゃんとライン川沿いに硬い防壁の建造と、それに付随した結界の作成、特にコンスタンツの街の守りを重点的に施すようにと手紙を送っておいたのでした。

 goo先生のリアルタイムマップと敵性生命体へのマーキングと移動のベクトルを眺めた上での戦略指針です。

 黒カマキリ本隊の二百万はリヒテンシュタイン、チューリッヒを落として行軍速度を緩めました。

 次の侵攻地こと餌場を探るために送られた斥候部隊の一部があの二万の群れだったのでしょう。

 全体の方角としては餌の多そうな西へ西へと向かっていますので、このまま人口の多い南西方面に向かい、産業の中心であるベルン、そして王都ジュネーブを順調に陥落させて西ハープスブルク王家領全土を食い破り、そのままフランク帝国に突き進むことになるのでしょう。

 しかし、この情報を開示できないのが実にもどかしい。

 なぜ、<加護>がおっぱいなのか。

「うむ、ライン川に沿った防御壁の構築に防護結界の付与も済んでおる。あとは川沿いに監視を配置しすぎて蟲の注意を惹き過ぎないようにというカールの進言通りに少数の監視部隊もつけた。超硬甲殻型両腕刀剣類に適応できる<加護>を持った兵のみを抽出した即応打撃部隊の準備も完了しておる」

 結界はカマキリさん用に、壁は人間さん用に。

 持つものを持たず渡河してきた難民と言うものは、この国にとっては賊になるだけの人たちです。

 川の向こうに壁が見えていれば、渡河をしようと言う気も起きないでしょう。

 どうぞ、ライン川沿いにフランク帝国を目指してください。

「それは重畳。これでグローセ王国領は安全ですね」

 にっこり笑い父王君と頷きあう。

 二百万の黒カマキリがライン川を渡ろうと試みても、防壁と結界と三級以上の射手の弓矢を持ってすれば両兄さまに頼らずとも一方的に撃ち殺せる試算です。

 二万の死骸の甲殻から作られた矢が彼等自身に牙を剥きますから倍率はドンと。

 鉄の矢で鋼鉄の壁は貫けませんが、鋼鉄の矢ならば鋼鉄の壁を貫けます。

 さらには矢に鍛冶職の<加護>が掛けられ、射手もまた<加護>を持つなら、一匹と言わず五匹でも六匹、更なる数でも貫くでしょう。それでも足りないのなら、精鋭揃いの即応打撃部隊に叩かせるのみです。

 すでに二ヶ月の準備期間の間にグローセ王国の勝利は確保済みなのでした。

 戦争は、始まる前に終らせておくものです。

 あぁ、他人の不幸でお茶が美味しい。

 歓迎するよカマキリさん。こちらは無傷で皆殺しにする用意ができているのだから。



 しかしそれでも納得しない御仁が一人。

「カール! お前はグローセの民だけが無事ならばそれで良いと言うのか!?」

 父王君とのやりとりに、レオンハルト兄さまが予想通りの激昂をみせました。

「ではお兄様は他国の民のためにグローセの民に死ねとおっしゃるのですか?」

 レオンハルト兄様と荒縄とを仲良しにはしたくありません。

 諦めるならさっさと諦めて欲しいものです。

「そうか……そうだな。カール、お前が正しい……」

 ようやく諦めてくれましたか。

「では、グローセの民を傷つけることなく、そして不可侵条約も破ることなく、その上で西ハープスブルク王国の民を助けたい。智恵を貸してくれ!!」

 ……………………………………………ふぇあっっ!?

 なんとういう無茶振り。自由すぎですぞレオンハルト兄様。

「頼む、カール。武骨な俺にはその手段は解らないが、お前なら解るんじゃないのか? 頼む、力を貸してくれ!!」

 あの優秀極まりない兄が、愚かな弟を頼るなんて……いや、優秀極まりないからこそ自分に不足するものを素直に頼ってくれるのか。

 あぁ、性格までイケメンなのか、忌々しい兄貴さまめ。愛い奴だ。

 しかたがない……いつまでも腐っていないで、そろそろ本気で行きますか!!

「グローセ王国領内の守りは通常の兵力のみで十分でしょう。ですから、私とレオンハルト兄様、そしてジークフリート兄様はコンスタンツより西ハープスブルク王国領内へ入り西へ向かいます。コンスタンツにはルイーゼ姉さまとシャルロットを置き確実な退路を確保。そして我々は親善大使として西ハープスブルク王都ジュネーブを目指します。あくまで親善大使として、ですよ?」

 シャルロットはその<加護>の権能を未だコントロール出来ていないために「兄断ち」という苦行を強いられているのだった。

 どうしてそうなったかと言えば、俺が傍に居るといっさい勉強にならなかったからだ。

 そしてそれは「妹断ち」という俺に対する苦行でもあり……父王君が憎い!!

 そうなるように仕向けたルイーゼ巨乳姉さまは憎めないので、父王君だけが憎い!!

 くそっ、この戦争を利用してなんとかシャルロットの地位を向上させて妹成分を補給せねば! 補給せねば!!

「……親善大使、だと?」

 レオ兄さまの声に理性を取り戻す。

 あぁ、いかん、会議の真っ最中でした。

「えぇ、群蟲種の大群が進行中だからと言って他国に親善大使を送ってはいけないという決まりは無いでしょう? 幸いこちらには保護したエルフ、ならびに南バーゼル砦の兵士達の処遇について相談しなければならないこともありますから使者を出す名目があります。さらに現在、西ハープスブルク王国領内には超硬甲殻型……面倒くさいですね、黒カマキリの脅威もありますから、それなりの兵数を連れ立って親善大使を送ることも許されるでしょう。侵略行為と受けとられないだけの数ですから、三百人ほどになりますが、全てを二級以上の<加護>持ちで揃え、レオンハルト兄様とジークフリート兄様が共にあれば百万、二百万程度の数の蟲、十分に相手を出来ますでしょう?」

 正確にはレオ兄さま一人で二百万の黒カマキリを殺せそうなものなのだが、それをすると地形と季候が変わってしまうと言う副次的効果があるので、あえて足手まといを着けないと厄介なのだ、この兄は。


「なるほど。父上、ちょっと親善に行って参りますのでご許可いただけますか?」

 この兄、ちょっと隣の家に遊びに行く感覚でサラリと言いよった。

「理屈は通っているが、カール。問題は無いのか?」

「問題は無いでしょう。長期的に見て東西のハープスブルク王家の力関係が大きく傾くのはグローセ王国にとって悪い影響があるでしょう。それから父王君の言葉に返すようですが、西ハープスブルクが当家を宗主国として宗旨替えを行うようであれば現在の宗主国であるフランク帝国との間にいらない軋轢を生むことになると思われます。ですので、親善の贈り物として黒カマキリの死体を百万ほど送りつけてやるくらいがちょうど良いところだと思います。そうしないと、まぁ……レオンハルト兄様が納得しないでしょうし」

 北にはライン川沿いの防御壁が、西からは西ハープスブルク軍および宗主国フランク帝国軍との混成軍が、そして東からは人間核兵器レオンハルト兄様とジークフリート兄様が追い立てるのだ。

 黒カマキリさんに恨みはないのだが、これも生存競争だと思って諦めて貰おうじゃないか。

 あぁ、他人、いや他カマキリの不幸でお茶が美味しい。



 では、出陣前に父王君から適当な親書を受け取りましょう。

 親書の内容はこうです。

「前略 お元気ですか? 私は元気です。 草々」

 実に簡潔で素晴らしい文章だと思います。

 文字の量よりも込められた心こそが人に感動を生み出すのです。

 その親書を前に、私の目からは感動で涙がちょちょぎれでした。

 さて、そんな戯言はさておき出発しましょうか。

 レオ兄さまの性格から、もうこうなることは解っていたので出国の用意は整っております。

 ここでもし理詰めでレオ兄さまを押し留めたなら、今度はジーク兄さまがこっそりと出国して謎の矢傷に貫かれた黒カマキリさんが量産される図が想像に難くありません。

 英雄病かなにかなのですかお二人は。

 まったく、王族の勤めを忘れてナチュラルに国益を忘れるのだから困ったものです。

 俺は愛馬ケルヒャ号に、お目付け役のアルブレヒト君や館の面々が馬に乗りこむだけで出発の用意が整います。

 本命の物資等はコンスタンツで拾えるように手配済みですから身軽な行軍です。

 あと、何故か小隊を構成していた30名の戦闘要員に50名の輜重隊の皆様方が私直属の部隊兵の顔をして共に馬に跨っていることが不思議でなりません。君等、僕の家臣団ではないはずなのですが?

 細かいことはさておき、早く行動するとしましょう。レオ兄さまが焦れて切れる前に。

「まずはコンスタンツに、そこに300名の随伴兵が用意されていますから合流しましょう」

「おう、まずはコンスタンツだな! いくぞっ!」

 その一言とともにレオ兄さまが愛馬ティチノを全速で駆る。兄者! 全力出しちゃらめぇぇぇぇ!!

 いや早いって、ケルヒャ号はともかく館の面々が着いてこれないってその速さじゃ!!

 と、思ったところ、何故か軽々とついてくる館の仲間達。

 え? なにこれ。<戦>の特級加護ってこういうこと?

 馬が、馬らしくない速度で走っているのですが?

 いったい、いったい時速何kmでているのですか!?

『時速142kmになります』

 それ馬の速度じゃないよ! これが本物の特級加護の力か!!

 さらに勇気が湧いてきてこの速度でも全く怖くないよ!!

 ブレイブハートがバーニングしちゃってるよ!!

 我が小隊の面々も闘争本能に火が着いたようで目に炎を宿しております。

 料理人のロニーさんに執事のハインツ老、庭師のデニスに至るまで。あなたがた戦闘能力ないはずでしょ!?

 結果、ミュンヘン→コンスタンツ間を西南西に、220kmを一時間半で踏破してしまいました。

 この調子で走ったならば、もう一時間半で黒カマキリの本隊に辿り着いてしまいます。

 なんと言うチート加護、わたくし、レオ兄さまの人外っぷりを甘く見ておりました。

 どうやらこの兄様、日帰りで黒カマキリを蹴散らして帰ってくるつもりだったおつもり。

 あぁ、認識があまりにも違いました。

 なんちゃって特級の俺基準で考えた私が愚かで御座いました。



 さて、コンスタンツと言えば国境線を兼ねた城塞都市、そこに颯爽と現れる黄金の髪を持つ輝ける獅子の王子!!

 大スターの突然のゲリラ出現に民衆の、特に女性達が黄色い声をキャーキャーと喚き散らします。

 ところで、みなさんは蒸発現象という言葉を知っていますか?

 車のヘッドライトと歩行者の位置関係によって、歩行者が見えなくなってしまう危険な現象です。

 さぁ、身の程知らず、いや身の程を知り尽くした私はライトの影に隠れるとしましょう。

 私、のっぺりーの男爵は未だに街恐怖症なのですよ。


 そんなこんなでコンスタンツの永代貴族の城塞の一角を借りて作戦会議の始まりです。

 さすがは国境周辺の都市、広域の地図もあり会議が進めやすくて助かります。

 先にコンスタンツに入っていたルイーゼ十六歳巨乳姉さまとジークフリート厨二兄さま、そして我が愛しの、

「にぃぃぃぃぃぃぃぃィぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんんんんんんっっっっ!!!」

「ごふぁっ!!」

 およそ半年振りとなるシャルロットの人間弾頭はT・A・M・S<タクティカルアーマードマッスルスーツ>の防御装甲を軽く貫き、そのベアハッグでアバラがポキポキと快音を立てながら折れていきます。だが我が友T・A・M・Sも負けじと自動医療装置を作動!! 折れては繋ぎ、折れては繋ぎ、T・A・M・Sよ俺の命を繋ぐのは君だけだ頑張れ!! もの凄く痛いけれども!! 泣きたい!! いや、もう泣いてる!! にぃちゃんもう泣いてるから!!

「にーちゃんも泣くほど嬉しかったんだね!? シャルロットも会えなくて寂しかったんだよ! シャルロットも泣いて良い? 泣いていいよね?」

 ベアなハッグがさらに強まる。この細腕に14万馬力の出力が負けるだとっ!? シャルロットの<加護>に筋力を増強する<加護>は無かったはずだ!? いや、<愛>か、<愛>の加護が全てを可能としているのか!? <愛>は地球を救うものなぁぁぁぁぁぁっ!!

「にーちゃん、にーちゃん、にーちゃん、にーちゃん、にーちゃん、にーちゃん、にーーーーーーちゃぁぁぁぁぁん!!!」

 シャルロットの愛が高まるほどに、にぃちゃんの命の灯火が消えかけようとしております。

 愛が、人を殺してしまう、そんなこともあるのですね……。

「シャルロット、いい加減にしておかないとカールが死んでしまいますわよ?」

 ルイーゼ巨乳姉さま、フォローがかなり遅いです。

 T・A・M・Sが無ければ普通に死んでしまっておりますよ?

 いや、ルイーゼ巨乳姉さまは<生命>の特級加護の持ち主、ちょっと上半身と下半身が別れたくらならどうにでもできるのでは? 恐るべし特級加護。

 さて、五人の兄弟姉妹が久しく一堂に集まったこの会議室。

 懐かしの空気、俺が10歳を迎える前のあの暖かな空気が戻ってきたように思います。

 約一名、シャルロットの愛が重く、とても重くなりつつはありますが。

 愛は地球より重いのです。

「で、では、作戦……会議を、始め、ましょう……」


 俺の命が尽きる前に。

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