第七話 エレクトリカルパレード
まずは自身の安全確保のためにコノザマ通信販売をポチリます。
T・A・M・S<タクティカルアーマードマッスルスーツ>を一着注文。
これは軍事用のボディスーツで対弾対刃対圧対衝撃対熱対冷対放射線以下略の各種防御と最大25万馬力の出力を誇る実戦用の軍事装備なのである。暗視、光学迷彩、対光学迷彩、ECM、ECCM、自動医療装置、自己修復機能を標準装備し、オプションパーツを付ける事で空中機動や各種レーダーの搭載、肩や背中などのハードポイントに搭載したビームやレーザー、実弾兵器との思考リンクも可能なスペシャルかつベーシックなパッケージシステムなのだ。
ただし、ダンボールに入って送られてくる点は変わらない。
『様式美です』
大きなダンボールをビリビリと破いて、なかのプチプチを潰してちょっとだけ楽しむ。
11歳児用にカスタマイズされたため総出力が14万馬力に落ちたものの、黒カマキリさんを握力のみでグシャリとする程度には楽勝になったこの私。いざとなれば先生の害獣駆除サービスもありますから気は楽なものです。
「さて、まずはエルフさんを助けるついでの威力偵察と参りましょうか。アルブレヒトさん、デニスさん、行きますよ」
戦闘力が14万に上がった私に敵は無いのです。とは言え、形だけでも護衛を連れて行くとします。
<剣>の一級加護を持つアルブレヒトくんにとって、鋼鉄の塊はバターの塊と変わりないそうなので頼もしい戦力になることでしょう。
そして<植物>の加護を持つデニスは戦闘向きではないけれど、森林全てが彼の味方をしてくれるはずです。
さらに強引に連れ出した南バーゼル砦の司令官は剣にマナを練りこむ魔剣術と火の魔法の使い手だそうです。どれほど役に立つか解らないので彼だけはむしろ護衛対象として考えておこう。
さて、愛馬ケルヒャ号に跨りエルフの陣中へ、殴りこみだ!!
黒カマキリの鶴翼陣、への字の陣形が○に変わりつつあるところ、先生が衛星からのピンポイント射撃で適度に侵攻を遅らせてくれています。
アニメ的なレーザーは目に見えるものですが、実際のレーザーはか目に見えることなく、超高温の不可視の赤外線に貫かれて足並みを乱される黒カマキリ達。
混乱するカマキリ達の背中に、先行するアルブレヒトくんの剣から一陣の風が吹くと、一刀の元に十のカマキリが切断されて骸をさらす。
一刀十殺!!
あれ? アルブレヒト君が二千回素振りすれば勝てる戦いなんじゃない、これ?
「王子! 敵は群蟲世界の超硬甲殻型両腕刀剣類です。並みの攻撃ではその硬さのために無効化されます! お気をつけください!!」
その御堅い黒カマキリを触れることなく軽々と複数斬り伏せた、並みじゃない攻撃力の持ち主がそう語っても説得力がありませぬよ。下手をすればT・A・M・Sですら切り裂かれかねないな。これは注意が必要だ。
あと、超硬甲殻型両腕刀剣類と言う正式な名前が長いので黒カマキリさんに統一したいところです。
「目的は敵陣突破、エルフとの合流及び避難誘導にある! デニス、足元の草木を絡めさせて遅滞戦術を図れ!! アルブレヒトはそのまま中央を切り裂け! 司令官殿は! えーと、適当に、火は使わない方向で?」
レオ兄さまも人間兵器でしたが、アルブレヒト君もなかなかのリーサルウェポン。
頼もしいです。兄貴って呼んで良いですか?
やがて敵陣を突破する我等四人。
なぜか我等の突き進む道行きには未知の攻撃で死亡したカマキリさんがいっぱいで一切襲われませんでしたが、物凄い幸運ですね。
エルフさん達が頑張ってくれたのでしょう。
「エルフの諸君! 遠からんものは音に聞け! 近くば寄って目にも見よ!! 我はグローセ王国第三王子カール・グスタフ・フォン・グローセである!! 此度は卿等の危機にあり救援に駆けつけた。 敵勢力は森林を伐採しつつ包囲陣を形成しつつあり、貴方がたは現在既に半包囲の状態にある。 足場となる木が無ければ樹上の有利も消えうせるであろう!! よって、即座に攻撃を中止し、その全速力をもって南バーゼル砦へ避難されたし!! 砦には現在、組織的抵抗のための陣地が用意されている。ここで無為に命を散らすな!! 転進し、反撃のために砦に合流されよ!! 北へ逃げよ!! 全速力で!!」
先生のサービスを利用して、全てのエルフに声が届くよう戦域一杯に拡声してもらいました。
問題は、ドイツ語、通じたかな?
こういうものは勢いが大事なものでして、ノリノリで熱弁すればノリに乗っちゃう人が居て、乗っちゃう人を見るとついていっちゃう人が居て、一人ぼっちは寂しいからやっぱり自分もとついていくものです。
どうやらドイツ語は通じたらしく、こうなれば女も子供も器用なことに樹上を跳ねる様に駆け抜けていくエルフさん達。
上を見上げれば、樹上生活なのにそのスカート丈は無いんじゃないかな、うひひ。という役得も得つつ我等も砦へ向かいます。
エルフを囲もうとしていたカマキリさんたちはやはり謎のレーザーによるご臨終を向かえ、一切の被害無く砦への避難は済んだのでした。
……エルフさんの説得のために司令官殿を連れてきたんだけどなぁ。
さて、我々四人が敵陣突破と避難誘導を行っている間に南北のバーゼル砦で突貫工事が行われておりました。
具体的には砦から砦まで続く中空の橋の建造。<加護>の力ってチートですね。
さらにライン川沿いに<館>の加護を使った最硬度の館の壁だけを建設。
この使用方法はロッテンマイヤーさんのプライドをひどく傷つけた模様で後の土下座が必須となりました。
もともと砦には五千人を収容できるだけのスペースは無いため、一時的にライン川に氷の橋を建造。
水の<魔法>と冷却の<加護>のコラボレーション。
多くのエルフさんには川沿いの壁上に弓を持って構えてもらい、それでも余った方々は北の砦のさらに後方に待機していただきました。
そうして作戦は最終段階に、森に火を放って見晴らしをよくします。
「司令官殿、炎を撒き散らし木を焼いてくれたまえ! なに、ちょっとした嫌がらせだよ!!」
「はっ、了解しました!! 王子!!」
うん、僕、他国の王子なんだけどね。もう完全に家臣のノリですな。ノリって怖いね。
作戦があまりに順調に行っているためか、駄目駄目おっぱい王子を見る目が歴戦の将軍を見る目に変化してまいりました。
とても良い傾向です。
さぁどんどん俺を見直しなさい、アルブレヒトくん。
司令官殿の撒いた炎が類焼を呼び、ちょうどよく炎の壁が形成されカマキリさんたちを焼き焦がし二の足を踏ませます。
一つの火種が大火事に、煙草のポイ捨てには気をつけないといけませんな。
何故か司令官殿の火の魔法とは全く関係ないところからも火の手が挙がり、炎が一列の壁を形作っていた件については気にしないことにしましょう。
敵中突破の往路と復路を駆け抜けて南バーゼル砦に掛け戻る我等四人。
それを見届けて歓声を上げるエルフや兵士達。
だがしかし、未だ戦闘が終わりを迎えてないことを忘れてはいけない。
やがて炎の壁を踏破して黒カマキリ達の絨毯が溢れ出すと歓声の声が悲観の声に変わりだしました。
だが、ここはまだ死地ではないと俺は檄を飛ばす。
「諦めるな兵士たちよ!! まずはこの南の砦に引き付けるのだ!! 蟲どもの体は重くラインの川は超えられぬ故、ここでまず時を稼ぐのだ!!」
俺の鼓舞の声に従って兵士達が弓を射掛ける。
矢での攻撃に効果は無かったのだが、火の魔法や投石、<加護>を用いた質量攻撃はそれなりの効果を与える。
中空に館を生み出し物理的に敵を押しつぶす、そんな戦闘方法があったのですねロッテンマイヤーさん。
だが、敵の数は二万を超えて、ライン川の向こう北バーゼル砦から眺める戦場は黒一色の絶望の一言でしかなかっただろう。 しかしそれでも我等は諦めない。
それから<ハウスキーピング>の加護で砦の壁を強化出来るとは思いませんでした。
どういう出鱈目なのか砦の防御は硬度を増して、それなりに長持ちしてくれました。
メイドコンビには後でご褒美をあげないとね。
それでも奮闘虚しく夕暮れ時を迎えたころには砦の外壁が物理的な限界を向かえて崩落の時を迎えたのだった。
だがしかし、その時にはもう我々は南から北へ、中空の橋を渡り終えて居たのですよ。あばよ、とっつぁん!
こうして黒い絨毯を川向こうに集め、川のこちら側には観客を集め、夕暮れ時という最高の時間を整えた。
さぁ、俺の一大ショーを魅せてやろうではないか!!
うごうごと蠢き川の手前で立ち止まる黒い絨毯たち、蟲と人間、ライン川を挟み睨みあう両陣営。
自らの重量から川に入れば溺れ死ぬと解っているのだろう。
仲間の屍を橋にして川を渡ってくるかと思ったが、その度胸は無い模様。
だがしかし、その小ざかしい知恵と臆病が貴様等の死を招くのだよ。
南の砦を無視してライン川を渡ろうとしていたら計画が失敗するところだったので、ありがとう黒カマキリさん。
夕暮れ時、薄暗く、イルミネーションが映える時間がやってまいりました!!
カモン! デウスエクスマキーナ!! goo先生!!
『私は常にユーザーさまの傍に居ますが?』
おう、なんとも連れないお返事。
では、打ち合わせ通りにお願いしやがりますね?
『了解しました』
さぁ、舞台を始めよう。
北バーゼル砦の最上階、さらにその屋根の上に昇り立つ俺。
バーゼル砦名物、灼熱の虹色エレクトリカルパレードの開催だ!!
「我が<加護>はおっぱいなり!! されど、おっぱいと馬鹿にしたもうな!! 自らの力を信じ、自らの加護を信じる時、それは光り輝く加護の恩寵として現れるのだっ!!!」
意味不明だけれどこれで良いのです!!
戦場は勢いとノリなのです!!
なぜか俺の演説が戦域全体に響き渡る不思議も、この戦場の空気の中では誰も気付かないものなのです!!
「我は<加護>の力を持ち、我が眼前の敵を打ち砕き、灰燼へと滅しつくす者なり!! 我が<加護>を見よ!! 我が<加護>の権能を見よ!! そして、我が<加護>の力を心に焼きつけよ!!」
さぁ、出番ですよ先生!!
「ニップルレィッザァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
和名:ちくビーム。
七色のイルミネーションが俺の乳首を中心に迸り、その一本一本が黒カマキリに降り注ぐ。
そしてそれに同期した衛星からのレーザー照射が黒カマキリを丁寧に貫いていく。
俺の乳首を根元に生まれる虹色のイルミネーションシャワーが黒い絨毯に降り注ぐたびにカマキリ達が絶命する。
マップ上に表示された赤い点が、一秒ごとに数を減らしていく。
イルミネーションシャワーがそのレインボーの流れを止めたとき、黒カマキリ達の命も全て止まっていた。
その信じられない光景に、その美しい光のレインボーシャワーに、川向こうの死骸の山に、絶句した人々たち。
我が乳首から演出されたエレクトリカルパレードに全ての人間、全てのエルフ達が魅入っていた。
「こ、これが特級の<加護>の力……あまりに、あまりに強く、美しい……」
アルブレヒト君がやっとのことで洩らした感想がこれでした。
そして、兵士達、司令官、エルフ、館の仲間達、誰も彼もが絶句し、やがて俺を振り返る。
その見つめる瞳は伝説の英雄を見る憧憬の瞳をしていたのだった。
Q:やりすぎという言葉を僕は知らないのかな?
A:存じ上げております御免なさい。
単騎で二万からの超硬甲殻型両腕刀剣類こと黒カマキリさんを滅ぼすことは伝説級の偉業だった御様子。
アルブレヒト君も一振りで十体殺したんだから二千回振れば良いだけじゃないと尋ねたところ、あの剣は十度も振れば倒れてしまうとのこと。<加護>といってもMP的な何かをガリガリと削るのだそうです。
ロッテンマイヤーさんも、あのあと三日ほど寝込んでいました。
メイドコンビも倒れていたので、済まぬことをいたいしました。
ますます土下座しなければなりませぬ。
だって、本当はあんな苦労しなくても全滅させられたんだから。
という良心が私を苛むので宴会に逃げることにしました。
さて、調子に乗って祝勝会などを開いていた私ども、周囲の砦や城塞都市に救援を求めていたことをうっかり忘れておりました。
装備を整え駆けつけた援軍の皆様方の前で、祝い酒に溺れております。11歳児が。
時折、自分の身分と年齢を忘れがちになるのが困り者ですね。
黒カマキリの甲殻は様々な武具などの材料となるそうで城塞都市の方々が二万体を全て運んで行きました。
幻想世界でもそれなりの価格がつく材料なのだそうだですが、始末をつけたのは俺と言うことで向こうも文句の口出しようもなく、逆に自国の兵を保護されたことに感謝しなければいけない立場。
国境線を越えることを渋々ながらに認められました。
腐臭を漂わされても困りますし、さっさと持っていって貰うに限ります。
森のエルフさん達の協力で死骸のお片づけを始め、全てが解決するころには二ヶ月が経過しておりました。
戦争は、戦後処理の方が面倒くさいものなのね。
エルフさん達のなかから、どうかこの娘をあなたの嫁に……と言った話題もなく、寂しく王都への帰路につきます。
あぁ、エルフさん達は背中から抱き締めて俺の国の言葉を囁きたいほどの美貌の持ち主たちばかりなのに、今、11歳であるこの身が憎い。
ちなみにエルフさん達はしばらくの間、ライン川の北、グローセ王国領内の森に留まりたいとのことなので、王子特権で願いのとおりにしておきました。
エルフさん達の時間感覚での「しばらく」が百年なのか千年なのかは知りませんが。
南バーゼル砦の兵達もなぜか北バーゼル砦に駐屯し、そのうち一緒に南バーゼル砦を再建するのだそうで実に仲の良いことです。
いったい、国境線とは何なのだろうかと俺は疑問を浮かべるばかりでした。
さて、往路は二人のイケメン兄さまの期待値に打ちのめされた道行きでしたが、帰路は英雄としての凱旋です。
堂々と、胸を張って、街へ入って良いのです! そのために僕は頑張ったのですから!!
街の門をくぐる、そして挙がる群集からの歓声の声!
「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあああ、あ、あぁ??」
黄金の獅子、レオンハルト兄さまは、その金の髪に雄々しい肉体を持ち合わせた輝けるイケメンさまで御座いました。
月影の聖弓、ジークフリート兄さまは、銀の髪に夜の月を思わせる憂いを帯びた憂愁のイケメンさまで御座いました。
戦争の英雄、カール俺様は、のっぺりとした凹凸の少ないへらべったい顔の残念さまで御座いました。
黄色い声が疑問符を付けて尻すぼみに。
期待のハードルが高すぎるとこうなるよね!!
豪華包装のクリスマスプレゼントの中身がカンロ飴一粒だったら残念だよね!!
フレンドリィファイア!! フレンドリィファイア!! イズントゥ!!(友好的な射撃? じゃねぇよ!)
女性陣の意気消沈に乗せられて、男性陣もどう反応すればよいのか困って口ごもる始末。
け、結局、顔なのですね……。
僕の、努力は、無駄だったのですね……。
「なぁ、フルヘルム」
「駄目です」
最後まで言わせてくれるくらい良いじゃない……。
さらに何の嫌がらせか、往路と帰路は別の道、別の街を通るという素晴らしい経路設定。
期待値が上昇した結果、それだけ失望も大きく、僕の心はドナドナで。
喉元過ぎれば熱さを忘れ、美人は三日で飽き、英雄は一週間で忘れられるもののようです。
小隊のなかでやっかいな荷物に成り下がった僕は荷馬車で揺られながら王都へ帰るのでした。
「荷馬車がゆ~れ~る~……くすん」